感染症学雑誌
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75 巻, 5 号
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  • 疫学的考察
    小川 基彦, 萩原 敏且, 岸本 寿男, 志賀 定祠, 吉田 芳哉, 古屋 由美子, 海保 郁夫, 伊藤 忠彦, 根本 治育, 山本 徳栄, ...
    2001 年 75 巻 5 号 p. 353-358
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    ツツガムシ病の全国の発生状況について, 1998年に実施した調査票をもとに解析を行った. 1998年の患者は416人で, 24の都道府県で発生し, 過去3年間とほぼ同数であった. 患者には性差は認められず, 51歳以上の割合が723%と高かった. また, 患者の32.0%および1a5%が農作業および森林作業に従事しており, 高い割合を占めた. 患者の発生は, 九州地方で全体の56.2%を占め, 続いて関東地方の20.7%, 東北・北陸地方の19.0%となり, これらの地方だけで全国の959%の発生があった.また, 月別にみると, 東北, 北陸地方では4~6月と10~12月の両方に発生がみられ, 九州, 関東などそれ以外の地域では10~12月に発生が多くみられ, 地方ごとの流行時期が示された. さらに, 九州地方における流行株を患者血清の抗体価から推測した結果, 新しい血清型のKawasaki, Kuroki株がこの順に多く大部分を占め, 地域差は認められなかった. また, この地方では標準株 (Kato, Karp, Gilliam株) ではなく, 新しい血清型を使用しないと診断できない患者が24人認められた. この結果から, 他の地域でも流行株の調査および診断に使用する株を検討する必要が示唆された. 今回初めてツツガムシ病のわが国における全体像が明らかになり, 今後の発生予測, 適切な診断と治療および予防を行うにあたり極めて重要な情報が得られた.
  • 臨床所見
    小川 基彦, 萩原 敏且, 岸本 寿男, 志賀 定祠, 吉田 芳哉, 古屋 由美子, 海保 郁夫, 伊藤 忠彦, 根本 治育, 山本 徳栄, ...
    2001 年 75 巻 5 号 p. 359-364
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    1998年にツツガムシ病と診断された患者416人の臨床所見について解析を行った. 主要3徴候である刺し口, 発熱, 発疹は, それぞれ86.5%, 97.7%, 92.3%の患者に, またCRP, GOT, GPT, LDH上昇が, それぞれ957%, 84.8%, 777%, 90.7%に認められた. これらの所見はほとんどの患者に認められ, 診断に有用であることが示された. また汎血管内凝固症候群が21人に認められ, 命を脅かす疾病であることがうかがわれた. リンパ節腫脹は49.7%の患者に認められ, そのうち74.6%は局所にのみ腫脹が認められた.さらに, 腫脹した部位が刺し口の近傍に認められる傾向があった. また, 大部分の刺し口は痂皮状で, 腹部や下半身 (特に下肢) などに認められた. 一方, 刺し口, 発疹が, それぞれ13.5%, 77%の患者には認められず, 風邪などと誤診されやすいことも示唆された. また, 血清診断で陰性であった患者においては, 主要3徴候は約半数に, 刺し口は約70%の患者に認められた.したがって, 現在の血清診断法では診断できないツツガムシ病が存在する可能性が推察された.今回の解析によって全国レベルでの臨床医学的側面があきらかとなり, 今後の診断および治療に役立つものと考えられる. 一方で, 臨床所見だけからは診断が難しいケースが明らかとなり, 血清診断法の改良の必要性も示唆された.
  • 岩崎 博道, 矢野 貴彦, 金子 栄, 江木 素子, 高田 伸弘, 上田 孝典
    2001 年 75 巻 5 号 p. 365-370
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    広島県西部において, 1990年からの10年間に63例のツツガムシ病が発生し, 多くは太田川中流域に集中していたが (55例, 87.3%), うち30例 (47.6%) は広島市安佐北区にみられた. 臨床像では, 3主徴として, 刺し口 (84.6%), 発疹 (97.6%), およびリンパ節腫脹 (88.9%) をみた.また, 38.1%が肝機能障害を合併し, 末梢血塗抹標本を検討できた例では, 90.9%に異型リンパ球が確認された. 発症時期の明らかな全61例において, 902% (55例) が, 9~12月の発症であった. 一方, 太田川中流域におけるツツガムシの採集で, タテツツガムシの生息が確認できた. また, 安佐北区に発症した1例においては, 同ツツガムシ親和性のKawasaki型優位の抗体価の上昇を確認した.以上から, 広島県におけるツツガムシ病の臨床像は, 従来の報告と比較して, 大きな相違はみなかったが, この地域でのツツガムシ病はタテツツガムシ媒介性であることが強く示唆された.
  • 出口 松夫, 山下 順香, 鍵田 正智, 浅利 誠志, 柳原 武彦
    2001 年 75 巻 5 号 p. 371-381
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    一般的なHIV感染の血清学的診断はHIV抗体スクリーニング検査と確認検査によって実施されている. 現在, 確認検査は主にWestern blot (WB) 法によって行われているが, 鋭敏度や特異度が十分でない. 最近, Chiron社によって開発された新しいHIV-1/HIV-2抗体検出用試薬はStrip immunoblot assay (SIA) を測定原理とし, 4種類のリコンビナント抗原と1種類の合成ペプチド抗原が固相されている. 我々はこのSIA法とWB法との比較測定を行うことにより, SIA法の血清学的診断法としての有内性を検討した.
    スクリーニング検査が陰性のHIV非感染者におけるSIA法, WB-1法, WB-2法およびWB1/2同時測定時の陰性率 (特異度) は97.5%, 80.0%, 87.5%および70.0%であった. また, スクリーニング検査が陽性のHIV非感染者における各測定法の陰性率 (特異度) は97.5%, 72.5%, 85.5%および62.5%であった.一方, スクリーニング検査が陽性のHIV-1感染者におけるSIA法およびWB-1法の陽性率 (鋭敏度) は97.5%および75.0%であった.また, スクリーニング検査が陽性のHIV-2感染者におけるSIA法とWB-2法の陽性率 (鋭敏度) は100%および92.3%であった. さらに, 抗体セロコンバージョン期 (感染初期) において経時的に採取された3症例を用いて, SIA法とWB-1法の陽性時期を比較したところ, SIA法はWB-1法に比して早期に陽性化した.
    以上の結果より, SIA法は特異的および鋭敏性に優れ確認検査法として有用性が高いと思われた.
  • 有働 武三
    2001 年 75 巻 5 号 p. 382-389
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    本学病院における臨床由来MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) に高頻度に検出される35.5kbのプラスミド (pCL4) の性状およびその機能につき遺伝学的手法による解析を試みた.本プラスミドは菌株によってコードされる耐性遺伝子に多少の相違を認めるが, いずれもGentamicin, Tobramycin, Kanamycin, Amikacin, Astromicin, そして低レベルながらArbekacin耐性に関与する, いわゆる多剤耐性-とくにMultiple-Aminoglycoside (MAG) 耐性-プラスミドとしての共通性状を有する. 接合実験によれば, かなり高い頻度 (>10-6CFU) での本プラスミドの伝達を予想させるMAG耐性株が得られ, これらの菌株 (Transconjugant) につきプラスミドをスクリーニングするとプラスミド保有株と非保有株がほぼ半数ずつ存在することがわかった. プラスミド保有株は43℃で培養することによりMAG耐性を保ったままプラスミドが脱落する現象がみられた. 一方, 精製プラスミドを用いた電気穿孔法による形質転換では, 得られたMAG耐性株 (Transformant) 数株のほとんどはプラスミド保有株であったが, Transconlugantsと同様43℃培養によるプラスミド除去処理によりMAG耐性を維持したプラスミドの脱落を認めた. 以上の結果は本プラスミドpCL4が伝達能を有し, またプラスミド上のMAG耐性遺伝子はトランスポゾンとしての機能単位にコードされていることを示し, 本多剤耐性遺伝子の施設内MRSAへの広範な拡散を予想しうるものであった.
  • 品川 長夫, 真下 啓二, 野口 昌良, 玉舎 輝彦, 保田 仁介, 岩井 重富, 横山 隆, 竹山 廣光, 藤井 修照
    2001 年 75 巻 5 号 p. 390-397
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    産婦人科医を対象としたアンケート調査 (回答率: 67.5%) の結果, 術後感染予防については以下のようなコンセンサスが得られていると考えられた. すなわち, 感染予防薬の選択基準は,(1) 手術時に汚染すると予想される細菌 (ブドウ球菌属, 大腸菌, Bacteroides fragilis group) に対して抗菌力を有する薬剤を選ぶ,(2) 汚染菌の発育阻止可能な濃度が目的部位で達成される薬剤を選ぶ,(3) 重篤な副作用が考えられる薬剤であってはならない,(4) 術後感染症の治療薬として新しい薬剤は残しておく, などであった. また, 術後感染が疑われる場合には, 早期治療として予防薬を中止し, 予防薬とは交差耐性を持たない薬剤に変更するのが原則であった. 使用される予防薬は, 無菌手術ではcefazolin (CEZ) の頻度が最も高く, 継いでcefotiam (CTM), cefmetazde (CMZ) が, 汚染の程度が軽度と考えられる準無菌手術ではCTM, CEZ, CMZの順で, 汚染が高度と考えられる準無菌手術ではflomoxef (FMOX), CTMやその他のセフェム薬の順で選ばれた.
  • 品川 長夫, 真下 啓二, 岩井 重富, 横山 隆, 竹山 廣光, 藤井 修照
    2001 年 75 巻 5 号 p. 398-405
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    整形外科医を対象とした術後感染予防アンケート調査 (回答率: 54.9%) の結果, 以下の事項については強く認識されていた. すなわち, 感染予防薬の選択基準は,(1) 手術時に汚染すると予想される細菌 (ブドウ球菌属, 連鎖球菌属) に対して抗菌力を有する薬剤を選ぶ,(2) 汚染菌の発育阻止可能な濃度が目的部位で達成される薬剤を選ぶ,(3) 重篤な副作用が考えられる薬剤であってはならない,(4) 常在菌叢など生体環境を乱さない薬剤を選ぶ,(5) 代表的な予防薬はペニシリン薬や第1~2世代セフェム薬である, などであった.薬剤の投与方法については, 通常常用量を点滴静注で投与すること, 初回投与は術前の30分以内に投与開始し, 手術中を通し, 有効血中濃度を保つことの重要性が認識されていた.さらに術後感染が疑われる場合には, 早期治療にとして予防薬を中止し, 予防薬とは交差耐性を持たない薬剤に変更するという原則が強く認識されていた.使用される予防薬は, 無菌手術 (異物の留置に関係なく) や骨折などの緊急手術 (汚染手術) でcefazolin (CEZ) の頻度が最も高く, 次いでcefotiam (CTM), flomoxef (FMOX) の順で選ばれていた.
  • 常岡 英弘, 尾内 一信, 長岡 宏美, 石田 千鶴, 飯野 英親, 村上 京子, 辻野 久美子, 梅田 昭子, 塚原 正人
    2001 年 75 巻 5 号 p. 406-410
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    猫ひっかき病 (CSD) 患者8例, C. pneumoniae呼吸器感染症患者13例および急性Q熱患者12例の各血清を対象に, 間接蛍光抗体 (IFA) 法によるBartonella henselae, Chlamydia pneumoniaeおよびCoxiella burnetiiの交差反応について検討した.
    C. pneumoniae感染症患者およびQ熱患者の血清についてB. henselae抗体価を測定したところ, C. pneumoniae感染症患者ではIgG・IgM抗体陽性例は認めなかったが, Q熱患者では3例 (3/10) がIgG抗体陽性 (3例: 64倍) であったこの3例はC. burnetii抗体吸収操作によりC. burnetii抗体は陰性化したが, B. henselae抗体価は変化しなかった. 一方, CSD患者血清についてC. burnetiiおよびC. pneumoniaeの抗体価を測定したところ, C. burnetii IgG・IgM抗体価はいずれも陰性であった. しかしC. pneumoniaeIgG抗体価は3例 (3/8) の陽性例 (2例: 256倍, 1例132倍) を認め, B. henselae抗体吸収操作後はB. henselae, C. pneumoniaeの両抗体価は有意に減少した.
    以上よりB. henselae抗体価測定において, C. pneumoniaeおよびC. burnetiiとの交差反応は認めず, C. burnetii抗体価測定でもB. henselaeとの交差反応は認めない.しかしC. pneumoniae抗体価測定では一部にB. henselaeとの交差反応が示唆された.
  • 加地 正英, 津留 俊臣, 大泉 耕太郎
    2001 年 75 巻 5 号 p. 411-415
    発行日: 2001/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    60歳以上の高齢神経疾患患者105例にインフルエンザワクチンを接種し血清の赤血球凝集抑制 (Hemagglutination Inhibition: HI) 価の推移と副作用を検討した. HI価に関しては, インフルエンザワクチンの1回接種でも, 十分な抗体上昇が見られた. またコントロール群 (非神経疾患および健康成人) 134例のHI価と比べても同程度の上昇が認められた. しかし両群ともに前年ワクチンを接種していた症例がありA香港型 (H3N2) に対して約70%が接種前にすでに128倍以上のHI価を有しており, また昨年のインフルエンザA (H3N2) 流行に際して感染していた可能性も推測されるが, いずれにしてもこの様な高いHI価の症例では接種後にHI価の上昇がみられない例があった.
    一方局所の副作用 (発赤・腫脹など) の頻度はコントロール群の被接種者と変わらず, その程度はむしろコントロール群より軽度である傾向がみられた. また発熱等の全身的な副作用は今回検討した症例は高齢神経疾患群にはみられず, コントロール群で1名に38℃の発熱が認められたが, 翌日には軽快した. その他重篤な副作用はいずれの群においても認められなかった.
    接種者の一部については流行期間中, 感染の有無を調査したところ, 高齢神経疾患患者21例中6例にHI価の上昇が認められたが, インフルエンザ症状を呈した症例はなかった.
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