下痢原性の大腸菌 (
Escherichia coli) の同定は腸管毒素産生性, 腸管細胞侵入性, 血清型別によって非病原性菌と区別される. しかしながら, 血清型別された菌株は下痢原性大腸菌と決定することにほとんど役立たない. 近年, 腸管上皮細胞への付着株が腸管病原性であるという多くの信頼できる論文がある.
本研究では, EHEC, ETEC, EIEC, EPEC, 非EPECに区別した下痢原性株と非下痢原性の各カテゴリー
E. coliの1, 748株について付着因子の遺伝子に関係する
eaeA, aggR, bfpAとEASTIの
astAをPCR法によって調べた. 試験株にはいろいろな保有パターンが認められ, EHEC, EPEC, 非EPEC株の大多数は
eaeAあるいは
aggRを保有していた. EHECでは
eaeA単独保有が最も高率な型で, この型は血清型O157, O26, O111, O103, O119でみられた.EPECと非EPECは
eaeAあるいは
aggRに
astAを保有するものとしないものがみられた. ヒト由来のEPEC, 508株のうち137株 (270%) は
aggRを保有し, 74株 (14.6%) は
eaeAを保有していたが, ヒト以外の91株では
aggRと
eaeAはそれぞれ2株 (22%) と11株 (12.1%) に認められた. またヒト由来の非EPEC, 266株のうち16株 (6.0%) は
aggRを保有し, 58株 (21.8%) は
eaeAを持っていた. 一方, ヒト以外由来の316株中22株 (7.0%) は
eaeAを保有したが
aggR保有株はなかった. EIEC, 13株とETEC, 218株の検査ではETECの6株だけが
eaeAか
aggRのどちらかを持っていた.
astA遺伝子は全カテゴリー株にみられ, ETECで最も多くみられた.
bfpA遺伝子はヒトの下痢患者から分離した血清型O157: H45により多く認められたが, この菌株はEPEC血清型ではない.
下痢症を起こす
E. coli株の識別法がないため, 多くの検査室では同定ができない. 著者らは
E. coli株の付着性因子の遺伝子を検出するにはPCR法が簡単で迅速な方法であることを確認した. これらの結果からわれわれは付着性因子, 腸管毒素産生性, 侵入性に関連したPCR法を用いた鑑別法を示し, それを用いることは下痢原性
E. coliの同定に合理的であり, 有用な方法であることを確信する.
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