VTEC感染症の感染源や感染経路の解明の一環として, 1986年から1997年の12年間にVTEC感染症から高頻度に分離されているO157, O111およびO26の3血清型に該当したヒト下痢症由来50株と乳牛由来32株の計82株を用い, パルスフィールドゲル電気泳動法 (PFGE) により電気泳動を行い, 得られたDNA泳動像をもとに遺伝子レベルで解析後, 系統樹を作製し類似度89≦で分類し, 分子疫学的検討を行った成績は以下の通りである.
1) PFGE法によるDNAの電気泳動パターンによって, 0157では49株の内, 34株 (69.4%) が1~9群に, O111では18株の内, 15株 (83.3%) が1~3群に, O26では15株の内, 12株 (80%) が1~3群にそれぞれ分かれた. その分かれた中で, O157の8群, O111の2および3群, O26の3群に該当した群はそれぞれ人下痢症と乳牛の両由来株が含まれていたが, 他の群はどちらか一方の単独群であった.
2) 地域別において, O157では6群と9群に横浜と愛媛の人下痢症由来株が, 8群に横浜の人下痢症由来株と徳島の乳牛由来株がそれぞれ同一群に該当した. O111では3群に愛媛の人下痢症由来株と北海道の乳牛由来株が同一群に該当した. O26では3群に愛媛の人下痢症由来株, 相模原および北海道の乳牛由来株が同一群に該当した.
以上のことから, 人下痢症由来と乳牛由来の両株が同一群に低率ではあるが認められることから, 乳牛がヒトの腸管感染症の感染源として密接に関わりのあることが裏付けされた. しかし, PFGE法による群識別はDNAの電気泳動パターンが多様化し分類が難しいことから, 今後はPFGE法にファージ型別, リボタイピングやRAPD-PCR等を組合せて検討を行うと共に患者由来株および動物由来株を増やしさらに検討する必要がある.
抄録全体を表示