感染症学雑誌
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76 巻, 3 号
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  • 勝川 千尋, 田丸 亜貴, 森川 嘉郎
    2002 年 76 巻 3 号 p. 155-160
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    今回われわれは大阪市内で患者からLancefieldのA群抗原を保有するStreptococcus dysgalactiae subsp. equisimilisを分離した. ヒトの病巣から分離され血液寒天培地上でβ溶血を示し, グラム陽性球菌, カタラーゼ陰性でLancefieldのA群抗原を保有するレンサ球菌をStreptococcus pyogenesとするのは最も標準的な同定法であるが, 分離菌はこの同定法ではS. pyogenesと判別が不可能であった. またS. pyogems感染症の迅速診断法も検査材料中のA群多糖体抗原を検出する方法が用いられていることから両者の判別はできなかった. 近年わが国では, G群抗原を保有するS. dysgalactiae subsp. eguisimilis による劇症型溶血性レンサ球菌感染症が多数報告されるようになり, 今後A群S. dysgalactiae subsp. equisimilisが重症の感染症を引き起こす可能性も否定できない. このためS. pyogemsとの鑑別は非常に重要であり, レンサ球菌の検査を実施する場合には, A群S. dysgalactiae subsp. eguisimilisの存在を念頭に置き, 群別試験結果はその菌の性状の一つとして考え, PYR試験等の生化学的性状を確認して同定を行う必要があると考える.
  • 松井 珠乃, 高橋 央, 大山 卓昭, 田中 毅, 加來 浩器, 小坂 健, 千々和 勝巳, 岩城 詩子, 岡部 信彦
    2002 年 76 巻 3 号 p. 161-166
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    2000年7月にG8サミットが福岡・宮崎市で開催された際, 報告施設を設定し, 急性感染症が疑われる全ての症例を, 出血性・皮膚病変症候群, 呼吸器症候群, 胃腸炎症候群, 神経症候群, および非特異的症候群の5群に分類して集計した. サミット前後各1週間 (第27, 28週) の各症候群の報告数を, 感染症サーベイランスの全数および定数把握対象疾患の関連疾病群の報告数に対する比で表し, 第27週比の第28週比に対する比を算出して, その変動性を検討した. 福岡市の変動比は, 平均±標準偏差=0.99±0.291, 95%信頼区間0.71~1.28, 宮崎市は, 平均±標準偏差=1.19±0.298, 95%信頼区間0.93~1.45と算出され, 共に変動性は低いことが分かった. 宮崎市では複数の症状を有する症例は, 重複報告を許したが, 1症例1症候報告の福岡方式の方が解析は容易であった. 呼吸器感染症の動向は, 感染症サーベイランスでは成人症例が報告対象疾患に少ないため, 症候群サーベイランスの方が検出良好であった. 重大イベント (high-profile event) における症候群サーベイランスは動向を迅速に集計でき, 少ないコストと人力で実施でき, 実効性があると評価された. しかし, 報告集計の基線が観測期間の前後に充分ないと的確な判定が出来ないことや, 報告定点の数や種類に配慮が必要であることが分かった.
  • 塚本 定三, 山崎 伸二, 牧野 壮一, 朝倉 宏, 竹田 美文
    2002 年 76 巻 3 号 p. 167-173
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    ヒトへのSTEC感染を明らかにするために, ヒトおよびいろいろな動物由来STECについて血清型, 産生する志賀毒素型および付着因子を調べた. ヒト由来で最も多い血清型はO157: H7で, 続いてO26: H11であり, その他, O91: H21, O103: H2, O111: NM, O121: H19などであった. また, eae遺伝子は93株のうち79株が持っており, O157: H7についてはすべてeae遺伝子陽性であった. ウシから分離されるSTECも157: H7, O26: H11が多く, その他ヒトから検出されたものと同じ血清型も分離され, eae遺伝子は87株のうち44株持っていた.ヒトおよびウシ由来O157: H7 (NMを含む) はstx1, stx2, stx2c, stx1+stx2, stx1+stx2c, stx2+stx2cの6種類の志賀毒素型遺伝子の一つを持っており, それらの検出頻度はヒトとウシの由来株で類似していた. ヒツジ由来株も一部でヒト由来株と同じ血清型がみられ, それらはeae遺伝子を持っていた. シカ由来株については8株のうち7株がヒトからはあまり検出されないstx2d遺伝子を持つもので, eae遺伝子はすべての株で検出されなかった. ブタ由来株については25株のうち15株はヒトからは検出されないO139: H1で, その志賀毒素型はstx2eであった. このことから, ヒトへのSTECの感染源はウシ, ヒツジであり, シカ, ブタからヒトへのSTECの移行は可能性が少ないと思われた.
  • 藤木 玲, 川山 智隆, 力丸 徹, 大泉 耕太郎
    2002 年 76 巻 3 号 p. 174-179
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    Streptococcus milleri group (SMG) 呼吸器感染症の臨床的特徴を明らかにする目的で1997年から2000年に当院を受診したSMG急性呼吸器感染症15例を対象とした. その内訳は肺炎, 肺化膿症, 膿胸および急性気管支炎がそれぞれ7例, 2例, 3例および3例であった. 自験例の平均年齢は578歳 (16~87歳) で, 15例中12例が男性であった. 15例中13例 (8a7%) に感染症に影響を及ぼす中等度から重症の基礎疾患があり, 慢性呼吸器疾患 (20.0%), 食道または胃の手術の既往 (26.7%), 中枢神経障害 (13.3%), アルコール常用者 (60.0%), 肝炎および膵炎 (33.3%), 糖尿病 (13.3%) および悪性疾患 (6.7%) が含まれた.検出されたSMGは, S. constellatus, S. anginosus およびS. intermedius がそれぞれ8例, 6例および1例であった. 複合菌感染が15例中5例にみられた. 死亡例は1例で, 食道癌の手術歴があるSMG院内肺炎例であった. 治療として, 外科的処置がなされた例はなく, ドレナージ, 抗菌剤ではカルバペネム系薬剤を中心とした併用化学療法が有用で, 15例中14例 (933%) が治癒した.今回検出されたSMG臨床分離株ではpenicillin Gで33.3%, ampicillinで53.3%, cefmetazoleで80.0%に中間感受性および耐性株が存在した. 近年, 中等度以上の基礎疾患を有する患者においてSMGによる急性呼吸器感染症は増加傾向にあり, SMG臨床分離株に耐性化が認められるようになってきていると思われる.
  • 寺田 喜平, 新妻 隆広, 荻田 聡子, 片岡 直樹
    2002 年 76 巻 3 号 p. 180-184
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    日本では数年毎に麻疹流行がみられ, 推定年間10~20万人が感染し, 50~100人が死亡している. 世界保健機構がポリオに続き麻疹根絶計画を, 日本小児科医会も2005年麻疹根絶を目標に啓発活動を開始した. 我々は20年間における倉敷市の麻疹流行動向とワクチン接種状況から問題点を検討し, 継続的にワクチン接種を高める方法を考えたので報告する. 岡山県の麻疹流行は, 以前は全国に比べ数倍以上高く, その頃麻疹ワクチンの年間接種数は出生数6000名に対し約2,000~3, 00名しかなかった. 予防接種法改正後接種数は4,000名以上となり, その後麻疹流行の程度は軽減した. しかし, 15歳以上の麻疹入院患者の割合は20年間に4%から24%に増加した. 一過性の啓発活動とならないようにシステム作りを考慮した. 以上の結果より啓発活動を行い, 1歳児のワクチン接種率を上げるだけでなく, 入園や入学前に感染歴やワクチン接種歴のない対象者を調査し, ワクチン接種を勧奨すること, その後保護者に接種証明書を求めることにした. また保護者の便宜のために乳児健診時希望者にワクチン接種することにし, 来年度から実施することになった. 明確な目標を決めて2年後に再評価を行い, さらに麻疹根絶戦略を改善する予定である.
  • 沖本 二郎, 本多 宣裕, 浅岡 直子, 藤田 和恵, 大場 秀夫, 中村 淳一, 副島 林造
    2002 年 76 巻 3 号 p. 185-187
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    血清β-グロブリン分画が12%以上を示す場合, 細菌性肺炎 (以下, 肺炎と略す) を否定できるか否かを検討した. 1995年から2000年までに37℃ 以上の発熱と胸部X線上の浸潤影を呈し, βブリン分画が12%以上の症例を14例を経験した. その内訳は, 薬剤性肺炎5例, BOOP (Bronchiolitis Obliterans with Organizing Pneumonia) 5例, 好酸球性肺炎2例, 肺癌 (腺癌) 1例, 皮膚筋炎に伴う間質性肺炎1例で, 肺炎例は認めなかった. 以上より, 発熱を伴う浸潤影も, β-グロブリン分画が12%以上の場合は肺炎を否定できることが示唆された.
  • 小橋 吉博, 沖本 二郎, 松島 敏春
    2002 年 76 巻 3 号 p. 188-194
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    高齢者肺癌患者に併発した肺炎を閉塞性および非閉塞性に分類して, 臨床的特徴を検討した.65歳以上の高齢者肺癌併発肺炎205例は閉塞性64例に対し, 非閉塞性141例でいずれも男性が大半を占めていた. 組織型は, 閉塞性が扁平上皮癌に好発していたが, 非閉塞性は高齢者肺癌全体の組織型別の比率とほぼ同様であった. 全身状態は, 栄養状態も含めて閉塞性で保たれていたのに対して, 非閉塞性では有意に低下していた. 喀痰分離菌は, 閉塞性で分離率が低かったのに対し, 非閉塞性では分離率が高く, Pseudomonas aemginosa, Klebsiella pneumoniaeといったグラム陰性桿菌, MRSAを含むStaphylococcus aureu5が高率に検出されていた. 治療法に関しては, 大半の症例に対して抗菌薬が投与され, いずれも単剤ではカルバペネム系, 併用もカルバペネム系を軸とした併用療法が最も多く行われていたが, 有効率は閉塞性50%, 非閉塞性26%といずれも低率で, 死亡率は閉塞性が11%に対し, 非閉塞性は61%と著明に予後不良であった.
    今回の検討から, 高齢者肺癌に併発した閉塞性肺炎への治療は適切に行えば予後に影響しなかったのに対し, 非閉塞性肺炎には原因菌の決定を含めて, 今後さらに病態の把握をするとともに基礎疾患や患者の全身状態に対する治療も重要であることが示唆された.
  • 中江 孝, 平山 文博, 橋本 元範
    2002 年 76 巻 3 号 p. 195-202
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    静注用ヒト免疫グロブリン (human immnoglobulin, 以下IVIG) 製剤は, 多種多様な抗原に対する抗体を含んでおり, 重症感染症や自己免疫疾患などの治療薬として使用されている. しかし, それぞれの疾患において, どのような抗体が関与しているかについての作用機序はよくわかっていない. Toxic Shock Syndrome Toxin-1 (TSST-1) はstaphylococcus aureusが産生する毒素であり, スーパー抗原としてT細胞を活性化することにより, 炎症性サイトカインの産生を介して, Toxic shock syndrome (TSS) を引き起こすと考えられる. 我々は, IVIG製剤からTSST-1をリガンドとして抗TSST-1抗体をアフィニティ精製し, TSSに対する抑制作用を検討した.
    TSST.1産生性のメチシリン耐性S.aureus株 (MRSA 1945) をICR系マウスの皮下に接種した膿瘍モデルにおいて, 2週間にわたり膿瘍中及び血液中にTSST-1産生が持続した. 本モデルに, 抗TSST-1抗体を静脈内投与することにより, 血液中のTSST-1量は用量依存的に低下した. 次に, 致死性の実験的ウサギTSSモデルでは, ヒト免疫グロブリン製剤から分離した抗TSST-1抗体を投与した場合の効果について検証を行った. NZW系ウサギに抗TSST-1抗体と直後にTSST-1 (1μg/kg), 4時間後にLPS (10μg/kg) をそれぞれ静脈内に投与した. 対照としたヒト血清アルブミン投与群の生存率は0% (0/5) であったのに対して, 抗TSST-1抗体 (1mg/kg) を投与した場合は80% (4/5) であり, TSST-1の中和作用による救命効果が認められた. 以上のことから, IVIG製剤はTSST-1中和抗体を含み, MRSA感染症におけるTSS発症を抑制する可能性が考えられる.
  • 非血友病/HIV-1感染者との比較
    高野 操, 木下 節子, 高橋 秀人, 幸田 幸直, 岡 慎一
    2002 年 76 巻 3 号 p. 203-211
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    本研究は, 血友病/HIV-1感染者の長期的な予後と, 多剤併用療法に対する臨床効果を明らかにする目的で, 1990年から1993年時点に, 無症候期であった血友病/HIV-1感染者69人と, 非血友病/HIV-1感染者29人を対象に, 比較検討を行った.
    1990年-2000年までのCD4数の変化は, 両群に有意差を認めず, 観察開始からAIDSを死因とした生存時間にも, 両群に有意差を認めなかった. しかし, 血友病/HIV-1感染者におけるAIDS以外の死因として, 出血, 肝硬変・肝癌による死亡が特徴的にみられた.
    1997年以降の生存者は98人中55人 (血友病39人, 非血友病16人) で, そのうち多剤併用療法を導入した患者は, 血友病/HIV-1感染者28人, 非血友病/HIV-1感染者12人であった. SQVを除く初回多剤併用療法で, HIV-1RNA量を検出限界以下 (<400copies/m1) に抑制できた患者の割合は, 有意差を認めなかったが, 服薬継続期間は, 血友病/HIV-1感染者平均84週, 非血友病/HIV-1感染者平均51週で, 血友病/HIV-1感染者の方が有意に服薬継続期間が長かった (p<0.05). 一方, 多剤併用療法開始から, 2000年7月までの薬剤変更・中断歴を調べると, 血友病/HIV-1感染者の場合, 既に3回以上の変更が行われている患者が35.7%と, 非血友病/HIV-1感染者16.7%に比べ多い傾向を示した. このことから, 血友病/HIV-1感染者の間では, 頻回な治療変更を余儀なくされている患者群のある可能性が示唆された.
  • 佐藤 哲史, 大石 和徳, 渡辺 貴和雄, 永武 毅
    2002 年 76 巻 3 号 p. 212-215
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    A 48-year-old female with bronchiectasis after pulmonary tuberculosis was admitted to our hospital because of bloody sputum and multiple cavity formation in the right lung. Chest X-ray & CT films revealed diffuse nodular shadows and cavity formation with a thick wall.Nocardia asteroideswas isolated from the stum but no other pathogenic bacteria was isolated. Administration of sulfamethoxazole-trimethoprim is not effective. The results of an MIC test for antimicrobial agents led to treatment with sparfloxacin and the clinical symptoms and cavity formations in the rigth lung improved. Nocardia asteroides máy cause exacerbation of bronchiectasis.
  • 高山 直秀, 高山 道子
    2002 年 76 巻 3 号 p. 216-219
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    Four cases of the Ramsay Hunt syndrome were admitted to our hospital during the two years from February 1997 to January 1999. Though one of the 4 patients had been immunized with varicella vaccine, the causative virus was not a vaccine strain but a wild-type strain. These patients were not suffering from underlying diseases. Because the number of pediatric zoster patient without underlying diseases who visited our clinic between 1981 and 1999 was 35 cases, the Ramsay Hunt syndrome turned out not to be extremely rare even among children having no underlying diseases. The prognosis of the Ramsay Hunt syndrome is assumed to be good if the treatment begins at the early stage. To begin the treatment at the early stage, it is necessary to confirm the diagnosis with virological examinations.
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