感染症学雑誌
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82 巻, 3 号
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  • 野口 昌幸, 木脇 圭一
    2008 年 82 巻 3 号 p. 161-167
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    PI3K-AKTシグナル伝達系は細胞外からの様々な刺激により膜リン脂質を介して活性化される細胞内シグナル伝達系で, PTEN, LKB1, TSC1/2などのがん抑制遺伝子ならびにPI3K, AKT, FOXA, TCL1eIF4Eなどの原がん遺伝子の制御をし, これらの遺伝子群の変異や活性化はヒトの様々な悪性腫瘍の原因となることが知られている. 最近ウイルス感染をはじめとする感染症において細胞内にあるこのPI3K-AKT活性シグナル伝達系をウイルスあるいは感染病原体がたくみに利用し, 細胞死 (Apoptosis), 感染の遷延化 (latent infection), 腫瘍化 (malignant transformation) さらには結核菌における多剤耐性の成立などに関与していることが注目されている.我々はヒトT細胞リンパ芽球性白血病の原因遺伝子であるTCL1が細胞内のアポトーシス制御の要のセリンスレオニンキナーゼAKTの活性化補助因子であることを示した.このTCL1遺伝子は, HIVウイルス感染症, EBウイルス感染症などのウイルス感染症において其の活性が上昇し, AKTの活性化を介してこれらウイルス感染症の病態の発現や修飾に関与している.感染症におけるPI3K-AKTシグナル伝達系の働きを明らかにすることにより新たな薬剤耐性菌問題などの難治性感染症に対する新しい治療への道標を与える可能性がある.
  • 吉野 学, 安中 敏光, 小島 禎, 池戸 正成
    2008 年 82 巻 3 号 p. 168-176
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    マイコプラズマ肺炎の起因菌Mycoplasma pneumoniaeのゲノム内に存在する反復配列SDC1を標的としたLAMPプライマーを設計し, 臨床検体からの診断法の確立を目的として, 特異性および感度に関する検討を行った.設計したM. pneumoniae用LAMPは65℃の等温条件下で, 試験したすべてのM. pneumoniaeに対し, 60分以内に迅速かつ特異的な増幅反応を示した.相同性の高いM. genitaliumをはじめ, 他のMycoplasma属菌や細菌性肺炎起因菌との交差性もないことを確認した.最少検出感度は6コピーであり, 対照としたふたつのnested PCRと同等あるいはそれ以上の高い検出感度を示した. 喀痰など臨床患者検体から抽出したDNAサンプルを用いてPCRとの相関性を検討したところ, 判定結果は完全に一致した (204例中24例陽性). LAMP法は反応から検出までを閉鎖系の中で迅速かつ簡易に遂行できるため, 適切な治療判断を必要とされる臨床現場において極めて有用な診断法であると考えられた.
  • 武田 良淳, 根本 健二, 松本 歩美, 佐藤 晶論, 橋本 浩一, 細矢 光亮
    2008 年 82 巻 3 号 p. 177-181
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    2004年3月から9月までの7カ月間に福島県県南地区においてエコーウイルス30型 (E-30) による無菌性髄膜炎が流行した. E-30髄膜炎と診断した54症例について臨床的検討を行ったところ, 年齢は4歳から14歳で平均が7.3歳, 男女比が2.2: 1と男児に多く認められた. 発熱, 頭痛, 悪心・嘔吐の主要症状が80%以上にみられ, 髄液細胞数は平均104/μLで, 細胞分画は61%で多核球優位であった. これらの臨床像は1997年に福島県県中地区で流行したE-30による髄膜炎の流行と大きな差はみられなかった. VP4領域の塩基配列に基づく系統解析で, 2004年の流行株は1997年の分離株と異なるクラスターを形成しており, 2004年の流行には系統の異なるE-30の出現が関与していた.
  • 金山 明子, 藤原 恵利子, 雑賀 威, 小林 寅〓, 尾上 泰彦
    2008 年 82 巻 3 号 p. 182-186
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    性感染症を疑い川崎市の診療所を受診した男性422名, 女性53名より採取した尿検体について, SDA法であるBDプローブテックETを用いChlamydia tmchomatisおよびNeisseria gonorrhoeaeの検出を行った.その結果, SDA法および対照として用いたPCR法による結果はC. trachomatisの検出において98.1%, N. gonorrhoeae検出では99.4%と, 両菌種に対して高い一致率であった.PCR法を基準とした場合のSDA法による検出感度, 特異度はC. trachomatis検出において90.6%, 99.3%, N. gonorrhoeaeで98.7%, 100%であり, これらの結果に男女差は認められなかった.SDA法とPCR法による結果が乖離した例はC. trachomatis検出で9例, N. gonorrhoeaeでは1例認められたが, SDA法の再測定でPCR法による結果に一致する傾向が認められた.男性尿道分泌物の培養においてN. gonorrhoeaeが陰性であった症例においても尿検体を用いたSDA法にて陽性を示した.
    以上のことから, 尿検体からのC. trachomatisおよびN. gonorrhoeae検出においてSDA法であるBDプローブテックETはPCR法と同等な性能を有していることが確認できた.
  • 砂川 慶介, 生方 公子, 千葉 菜穂子, 長谷川 恵子, 野々山 勝人, 岩田 敏, 秋田 博伸, 佐藤 吉壮
    2008 年 82 巻 3 号 p. 187-197
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    2005年1月から2006年12月迄の2年間に96施設から小児細菌性髄膜炎246症例 (男児138, 女児108) が報告された.
    年齢別では28日以下が25例, 1カ月~12カ月が114例, 1歳以上は107例であった.原因菌はH.influenzaeが136例と最も多く, 次いでS.pneumoniae 48例, streptococcus agalactiae (GBS) 19例, Escherichia coli6例の順で, GBS, E.coliは低年齢での発症が多く, H.influenzaeは多くは4カ月~5歳に分布していた.S.pneumoniaeは3カ月~12歳に分布していた.H.influenzae, S.pneumoniaeともに耐性化が進み, H.influenzaeは2003年に70.4%, S.pneumoniaeは2004年に83.0%と耐性株が高い割合を占めていたが, 今回の調査では, H.influenzaeは2005年65.2%, 2006年59.3%, S.pneumoniaeは2005年71%, 2006年69.3%と若干減少の方向を示した.
    細菌性髄膜炎の初期治療に使用した抗菌薬の種類は, 4カ月未満では, 従来の標準的治療法とされているAmpicillin+セフェムならびにカルバペネム+β-lactamの2剤を併用した症例が多く, H.influenzaeS.pneumoniaeが原因細菌として多くなる4カ月以降に関しては, 耐性菌を考慮したカルバペネム+セフェムの併用が増加し, ampicillin+セフェムをはるかに上回る使用頻度であった.
  • 臨床検査会社のIgM抗体検査データの解析
    伴 文彦, 増井 幸雄, 井上 栄
    2008 年 82 巻 3 号 p. 198-204
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    2007年4~6月, 麻疹が東京圏で青年層に流行した.我々は, 患者発生状況を臨床検査会社での病原診断データから見ようと, 東京圏での麻疹特異血清IgM抗体陽性結果を集計した.2000年1月から2007年6月までの月別検査陽性数を15歳以上群と15歳未満群との2群に分け, それぞれを感染症発生動向調査の基幹 (病院) 定点あたりの成人麻疹患者報告数と小児科定点あたりの麻疹患者報告数と比較した.検査陽性数の経時変動パターンは, 対応する年齢群の週別患者数の推移とよく似ていた.2007年4~6月の15歳以上群の陽性数は他の年に比べて突出していた.その時期の陽性数を年齢別に見ると, 特に青年層 (18~30歳) で多く, 18歳にピークがあった. 15歳以上群の陽性数は男性が多く, 女性の141倍であった.重症患者の割合を推測するために, 検査依頼書に「入院」と記載のある陽性検体の数を調べたところ, 15歳以上群で22%, 15歳未満群で11%であり, 18歳から30代前半にかけて入院が多かった.
  • 大門 康志, 田中 香お里, 渡邉 邦友
    2008 年 82 巻 3 号 p. 205-212
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    フットボール型の形態が特徴的なClostridium clostridioforme groupは, 欧米では臨床上重要なClostndium の菌群の一つとされている. しかしながら本邦では, この菌群に対する認識が欧米に比べて極めて低い. 今回, この菌群の本邦での感染症材料からの分離状況および薬剤感受性を検討した.
    当院において2004年11月から2006年9月までの23カ月間に, 48症例の感染症からフットボール型の細胞形態を持つClostndium60株を分離した. その内訳は, 一次感染症 19例 (39.6%), 術後二次感染29例 (60.4%) であった.一次感染症の臨床診断の内訳は褥瘡感染7例, 腹膜炎, 腹腔内膿瘍, 敗血症が各2例, 子宮留膿腫, バルトリン腺膿瘍, フルニエ壊疽, 肛門周囲膿瘍が各1例, その他2例であった.術後感染の内訳は, 創部感染 16例, 腹膜炎6例, 皮下膿瘍4例, 腹腔内膿瘍2例, 膿胸 1例であった. これらの感染症の治療前のCRPは, 10mg/dL以上が30例 (62.5%), 白血球数は12,000/μL以上が26例 (54.2%) であった.先行投与されていた抗菌薬は, cefotiam11例, cefozopran7例などであった. 治療に使用された抗菌薬は, imipenem/cilastatin27例 (56.3%) などであった.分離された60株は, 形態的特徴終末代謝産物分析および16S ribosomal RNA遺伝子配列に基づいて, Clostridium hathewayi (26.7%), Clostridium clostndioforme (16.7%), Clostndium bolteae (18.3%), Clostridium citroniae (10%), clostridium aldenense (8.3%), Clostndium symbiosum (20.0%) と同定された. 分離菌の薬剤感受性については, C.hathewayi, C.clostndio -formeでcefotaximeに耐性を示す株が多くみられた (56.2%および30.0%). また, C.bolteaeC.clostridioformeにはペニシリン系薬に高い耐性を示す株がみられ, 特にC.bolteaeではampicillinとpiperacilinの MIC90は, いずれも>128μg/mLであった.
  • 長尾 由実子, 川口 巧, 井出 達也, 佐田 通夫
    2008 年 82 巻 3 号 p. 213-219
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    C型肝炎ウイルス (HCV) もしくはB型肝炎ウイルス (HBV) 感染を認識し, 慢性肝疾患を治療する目的で久留米大学病院消化器病センターを受診した患者を対象に, 歯科医療機関を受診した際に肝疾患の病歴を申告しているかどうかの有無を調査した.2006年10月24日から2007年4月24日までに209名の患者が調査に参加した.そのうち, 感染者であることをいつも申告する患者の割合は59.8% (125名), 申告することもあるが, しないこともある患者の割合は12.0% (25名), 申告しない患者の割合は28.2% (59名) であった.申告しない最大の理由は, 「基礎疾患の有無を質問されなかったから」 (71.2%) であった.「歯科医院で嫌がられるかもしれないから」という理由や (11.9%), 「肝疾患の罹患を知られたくなかったから」という隠蔽理由は10.2%であり, これらの理由を挙げる割合は, 女性よりも男性の方が多かった.
    以上の結果から, 肝臓専門医は肝疾患患者が歯科治療に際し, どのように対処すればよいかなどの助言を行うべきだと考えられる.さらに何よりも重要なのは, 歯科医療の安全を確保して感染を防止するために, 歯科医療従事者が全患者にスタンダードプレコーションを実施することであり, また, 歯科医による院内感染対策を奨励し, 援助するために国が適切な措置を講じることが望まれる.
  • 堀川 健太郎, 工藤 博徳, 石原 園子, 宮川 寿一, 川口 辰哉, 満屋 裕明
    2008 年 82 巻 3 号 p. 220-223
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    Aspergillosis of the bone is rare and resistant to treatment. We report a case of Aspergillus infection of the masticator space including mandibular bone in a diabetic adult. After extraction of a posterior tooth, the patient began to suffer from facial pain. The pain worsened in spite of antibiotic treatment. The results of serum tests and biopsy showed an invasive aspergillosis of the left masticator space including the mandibular bone six months after the onset. Although invasive aspergillosis can be fatal, the infection in our case responded to itraconazole treatment. Even in diabetes mellitus, invasive aspergillosis may occur after surgical interventions such as tooth extraction.
  • 北元 憲利, 森川 茂, 西條 政幸, 加藤 陽二, 田中 智之
    2008 年 82 巻 3 号 p. 224-225
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
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