感染症学雑誌
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86 巻, 1 号
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原著
  • 押谷 洋平, 石川 智之, 村田 健, 青柳 佳樹, 矢部 恭代, 青島 正大
    原稿種別: 原著
    2012 年 86 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2012/01/20
    公開日: 2013/01/07
    ジャーナル フリー
      適切な感染症診療を行う上で血液培養は非常に有用な検査であるが,本邦における血液培養件数は諸外国と比較し非常に少なく,複数セット採血実施率が低いことが問題とされている.当院では 2007 年 6 月に Infection Control Team(以下 ICT)を設立し,血液培養 2 セット以上の採血の推奨,ICT ラウンドなどを通じ血液培養陽性例への診療介入を行っている.
      Coagulase negative Staphylococci (CNS) は血液培養から検出される頻度が多く,臨床的意義の判定が困難なことが多い.2007 年 8 月~2008 年 7 月(I 期),2008 年 8 月~2009 年 7 月(II 期),2009 年 8 月~2010年 2 月(III 期)を対象期間とし,ICT の継続的な介入が,血液培養の提出件数,複数セット提出率,血液培養陽性 CNS の治療判断に対してどのような影響を及ぼしたかについて後方視的に検討を行った.感染,感染疑い例と判定した例について,①無治療,②感受性判明後にも感受性を有さない抗菌薬が継続使用されている,③感受性不明だが一般的にグラム陽性球菌によるCRBSI を想定した場合に使用されない抗菌薬が使用されている例を不適切と定義し,血液培養結果を受け,担当医がどのように解釈し治療を行っているかについても評価を試みた.血液培養提出件数は I 期からIII 期にかけて月平均 11.3 件増加し,複数セット採血が行われた頻度は I 期平均 67%,II 期 79%,III 期 89% と各期間を通じ有意に増加傾向を示し(p<0.001),これに伴い判定不能例が I 期 27% からIII 期 6% へと有意に減少した(p=0.017).感染,感染疑い例では,中心静脈カテーテル挿入歴を有する例が 92%(45/49)と大多数を占めていた.不適切と判定した例は I 期85%(11/13),II 期 56%(14/25),III 期 45%(5/11)と,I 期からIII 期にかけて有意に減少を認めた(p=0.043).ICT による継続的な介入により,血液培養提出件数および複数セット提出率の上昇と判定不能例が減少し,適切な治療判断が行われているケースの増加につながったと考えられた.引き続き ICT の活動を通じて感染症診療の質の向上を推進していく必要があると考えられた.
  • 松原 康策, 仁紙 宏之, 岩田 あや, 内田 佳子, 山本 剛, 常 彬, 和田 昭仁
    原稿種別: 原著
    2012 年 86 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2012/01/20
    公開日: 2013/01/15
    ジャーナル フリー
     わが国の小児期侵襲性肺炎球菌感染症 (invasive pneumococcal disease,IPD) の季節変動とそれに関連する因子を明らかにするために,地域中核病院小児科で IPD 患者を後方視的に検討した.対象は,1994 年7 月から2011 年 6 月までの 17 年間に西神戸医療センター小児科で IPD と診断された 15 歳以下の 72 例 (2回の反復例を3 例に認め,患者数は 69 症例) である.疾患内訳は occult bacteremia 48 例,肺炎10 例,髄膜炎10 例,眼周囲蜂窩織炎3 例,乳突洞炎1 例であった.IPD の関連因子として,1) 月齢,2) 同胞数,3) 未就学の同胞数,4) IPD 発症時の本人の保育園・幼稚園の通園の有無,5) 未就学の同胞がいる場合にその同胞の通園の有無の 5 因子を,カルテ記載または電話問診で調査した.季節変動の結果は,4~5 月 (n=21) と 11~12 月 (n=20) の二峰性のピークを形成し 7~9 月 (n=8) の夏季に最も少なかった.4~5 月の 21 例はその他の月に発症した 51 例と比較して,本人の通園している割合 (4~5 月群vs その他の月に発症群,12/21[57.1%]vs 12/51[23.5%];odds ratio,4.3;95% confidence interval,1.5~12.8;p=0.006) においても,また,本人,かつ/または,同胞が通園している割合 (17/21[80.9%]vs 27/51[52.9%];odds ratio,3.8;95% confidence interval,1.1~12.8;p=0.027) においても有意に高かった.しかし,発症月齢 (中央値:14 カ月 vs 15 カ月),同胞数 (0 人[9 例],1 人[11 例],2 人[1 例]vs 0 人[21 例],1 人[27 例],2 人[2 例]),未就学同胞数は 2 群間に相違を認めなかった.一方,11~12 月の第 2 峰群とその他の月群においては上記 5 因子に有意な相違を認めなかった.
     以上から,わが国の小児期 IPD は二峰性の季節変動を示し,4~5 月のピークは通園者が有意に多いことが判明した.4 月からの集団保育への参加が肺炎球菌の保菌率の上昇をもたらし,4~5 月の小児期 IPD のピークを形成する重要な要因のひとつと推測された.
  • 長谷川 真紀
    原稿種別: 原著
    2012 年 86 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2012/01/20
    公開日: 2013/01/15
    ジャーナル フリー
     我々が経験した influenza (H1N1)2009 による入院肺炎例について,合併症の有無によって 2 グループに層別し,その臨床的特徴を後方視的に解析することを目的とした.
     2009 年 8 月から翌年 3 月までの間に,日本大学医学部付属練馬光が丘病院小児総合診療科を受診し,迅速診断キットあるいは real-time RT PCR によって influenza (H1N1) 2009 感染と診断された 1,777 名のうちの入院をした 121 例 (6.8%) を対象とした.各症例の入院から退院までの詳細を,病歴から調査した.
     Influenza (H1N1) 2009 入院例のうち呼吸器症状による例が 72 名を占め,56 例 (78%) は,胸部X 線所見によって肺炎と診断した.平均年齢は 6.9 歳,気管支喘息の既往は 35.7% であった.発症から3 日以内での入院が 80.4% を占めた.42 例 (75%) が入院時に呼吸窮迫を認め,酸素投与を必要とした.第 3 病日までに入院した症例では,血液検査において明らかな好中球増加とリンパ球減少を認めた.98.2% に 5 日間の抗ウイルス薬を投与した.
     肺炎例のうち,14 例は縦隔気腫や広範囲の無気肺等の重篤な呼吸器合併症を来していた(合併症群).これらの例は,非合併症群 (n=42) に比べて入院時の酸素飽和度が低いこと,非特異的 IgE 値が高値であることに有意差が認められた.また,合併症群では有意にイソプロテレノールが使用され,かつ入院期間が長かった.最終的に全例が後遺症なく軽快退院した.
     合併症群と非合併症群の比較から,特に非特異的 IgE 値が高値を示す児は,下気道や肺胞における IgE を介した好酸球性の過剰反応により,低酸素血症を伴う呼吸器合併症をきたしやすいといえる.
     そして上述した influenza (H1N1) 2009 肺炎例に対する後方視的解析から,日本の皆保険制度下における次のような医療環境,すなわち,i) 発症から短時間での受診,ii) 迅速診断キットによる早期診断,iii) 入院後の全身管理,iv) 抗ウイルス薬と続発感染症予防の抗菌薬の使用が,良好なアウトカムに寄与していると結論できた.
症例
  • スケドスポリウム症を合併したMDS
    西尾 久明, 内海 貴彦, 中村 由紀子, 鈴木 孝世, 亀井 克彦, 齋藤 崇
    原稿種別: 症例
    2012 年 86 巻 1 号 p. 22-26
    発行日: 2012/01/20
    公開日: 2013/01/15
    ジャーナル フリー
    We report a case of fungemia caused by Scedosporium prolificans, an emerging pathogen. An 83-year-old man with myelodysplastic syndrome (MDS) and agranulocytosis was admitted for pneumonia in January 2009. He was treated with meropenem, minocycline, and γ-globulin for pneumonia and G-CSF and platelet transfusion for MDS. Although he recovered from pneumonia as neutrophil count increased, intermittent fever continued.
    On hospital day 17, blood culture yielded fungal colonies indicating S. prolificans. Voriconazole was started immediately, but the manʼs general condition deteriorated with cerebral infarction and he died of cerebral hemorrhage on hospital day 65.
    Attention must therefore be paid to the increasing scedosporiosis incidence in Japan.
  • 横田 恭子, 古川 恵一
    原稿種別: 症例
    2012 年 86 巻 1 号 p. 27-30
    発行日: 2012/01/20
    公開日: 2013/01/15
    ジャーナル フリー
    A 47-year-old Chinese woman with no significant medical history admitted for sudden-onset seizures and transient right homonymous hemianopsia had moved from China to Japan 4 years previously. Contrast brain computed tomography (CT) showed multiple calcified nodular lesions with surrounding edema, one in the left parietal lobe being likely responsible for her visual symptoms. After admission, two painful intramuscular nodular lesions were found in her left lower limb. Histopathologically biopsy specimens from these lesions were not diagnostic. Serum antibody testing (ELISA) for Taenia solium, however, was positive, yielding a diagnosis of (neuro) cysticercosis. The woman responded well to albendazole and prednisolone treatment. In the two years since discharge, she has not developed any new symptoms or seizure recurrence. With increasing global travel, clinicians must thus consider the possibility of neurocysticercosis in cases of nodular brain lesions in subjects from areas where Taenia solium remains endemic.
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