感染症学雑誌
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89 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
平成25年度北里柴三郎記念学術奨励賞 受賞記念論文
  • 小川 栄一
    2015 年 89 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    C 型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus : HCV)に感染すると高率に慢性化し,肝硬変や肝癌の大きなリスク要因となるが,代謝異常を引き起こす全身性疾患としても知られている.特に,インスリン抵抗性による糖代謝異常は,インターフェロンによる抗ウイルス効果にも大きな影響を与える.日本人に多いHCV genotype 1 型・高ウイルス量症例における,ペグインターフェロンα・リバビリン療法による持続的ウイルス血症消失(sustained virological response : SVR)率は40~50%程度であるが,インスリン抵抗性の指標であるHomeostasis Model Assessment of Insulin Resistance(HOMA-IR)とインターフェロン反応性に影響を与える宿主側のinterleukin 28B(IL28B)近傍の1 遺伝子多型(rs8099917)を組み合わせることで,精度の高い治療効果予測モデルを構築することが可能となった.近年は直接作用型抗ウイルス剤の開発も進み,80~90%の症例でSVR が得られる時代となったが,HOMA-IR は特に難治群において,ウイルス学的効果予測に有用であることが明らかとなった.近い将来,ほぼ全てのHCV 感染患者に対してSVR 獲得が可能となるが,糖代謝異常の存在は肝病態の進展や肝発癌のリスクと考えられるため,SVR 後も肥満是正など,適切な生活習慣の管理指導も重要である.
原著
  • 久保田 寛顕, 奥野 ルミ, 畠山 薫, 貞升 健志, 日台 裕子, 藤田 明, 甲斐 明美
    2015 年 89 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    急性骨髄性白血病患者の血液から,やや桿状をしたグラム陰性球菌が分離された.本分離株は,16S rRNA 領域のシーケンス解析において,Neisseria elongata との配列類似性が高かったものの,同菌種は病原体としては稀な種である.そこで,判定への信頼性を高めるために,さらに4 領域(argFrhorecAglnA)を加えたMultilocus Sequencing Analysis を行った結果,N. elongata であるとの確証を得た. しかし,MLSA の結果からでは,現在までに報告されているN. elongata の3亜種(N. elongata subsp. elongataN. elongata subsp. glycolyticaN. elongata subsp. nitroreducens)を判別するには至らなかった.これら 3 亜種を分類するために決め手となるのは,3 つの生化学的性状(カタラーゼ反応性,硝酸塩還元性,グルコース分解による酸産生)である.これらの性状について調べたところ,N. elongata subsp. elongata であることを支持する結果が得られた.以上のことから,当該患者から分離された菌はN. elongata subsp. elongata であると判断された.
  • 鈴木 裕, 瀬戸 順次, 板垣 勉, 青木 敏也, 安孫子 千恵子, 松嵜 葉子
    2015 年 89 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    山形県で2004 年から2013 年の10 年間に分離されたMycoplasma pneumoniae 358 株を対象として,マクロライド系抗菌薬(以下,マクロライド)耐性遺伝子変異およびp1 遺伝子型解析を実施した. その結果,M. pneumoniae にマクロライド耐性をもたらす23S リボゾーマルRNA(以下,rRNA)ドメインVの点変異を6種類検出した(A2063G 変異81 株,A2063T 変異43 株,A2063C 変異1 株,A2064C 変異1 株,C2617G 変異4 株およびC2617A 変異1 株).変異株は2008 年以前には2 株のみであったが,2009 年はA2063T 変異を多く検出し,2010 年以降はA2063G 変異が増加した.2009 年以降の年間の変異検出率は20.4%(2011 年)から76.4%(2009 年)の間で推移した. また,本県で分離されたM. pneumoniae p1 遺伝子型は,1型(278株)および3種類の2型亜種(2a 型〈10 株〉,2b 型〈5 株〉および2c 型〈65 株〉)に分けられた.2012 年以前は1 型菌が多く,年間の1 型菌の割合は85.2%(2004 年)から100%(2008 年,2009 年)で推移したが,2012 年以降2 型菌亜種の割合が増加し(2012 年;26.5%,2013 年;66.1%),本県において流行の主流を成すM. pneumoniae p1 遺伝子型が1 型から2 型亜種に置き換わっている可能性が示された. さらに,2012 年以降に本県で分離されたM. pneumoniae のうち,p1 遺伝子1 型菌は高率にマクロライド耐性遺伝子変異を保有していた(2012 年;65.1%,2013 年;95.2%)のに対して,2 型菌亜種からは遺伝子変異が検出されず,本県では2 型菌亜種のマクロライド耐性遺伝子変異の獲得が進んでいないことが示唆された.
  • 中村 裕樹, 川野原 弘和, 亀井 美和子
    2015 年 89 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    目的:水痘患者数を正確かつ迅速に把握することは,ワクチン定期接種や天然痘によるバイオテロ対策等において重要である.薬局サーベイランスは,インフルエンザや水痘等の治療薬の処方せん枚数から各疾患の患者数を推定し,都道府県,年齢群毎の推定患者数をリアルタイムに公開している.しかし,水痘患者数推定の正確性については,他に同様の正確な推定が存在しなかったため,これまで正確な検証が行われてこなかった.本稿では,全国の全医科電子レセプトの情報(NDB)を用いて薬局サーベイランスによる水痘患者数推定の評価を行い,その推定の調整を検討した. 方法:2010 年4 月から2013 年3 月までを期間として月毎の患者数を用いた.NDB での患者数と薬局サーベイランスによる推定患者数から乖離率を計算した.また,期間全体を通しての比較から薬局サーベイランスによる推定患者数の調整を行った.さらに,より細密な調整を行うために月毎の調整も行った. 結果:NDB での患者数と薬局サーベイランスによる推定患者数の,全期間通しての乖離率は48.00%であった.期間全体を通しての調整によって乖離率は11.49%となり改善したが,特定の月で大きな乖離がみられた.月毎の調整によって乖離率は4.33%となり大幅に改善したが,特定の月での大きな乖離はみられなかった. 結論:薬局サーベイランスによる水痘患者数推定において,NDB での水痘患者数に対する過大推定の程度は月毎に異なるため,月毎に調整を行うことで,両者の乖離率が大幅に改善した.薬局サーベイランスから日々公開されている全国の水痘の推定患者数に対して,NDB のデータを用いて計算した月毎の調整率で調整を行うことで,薬局サーベイランスの迅速性にNDB の正確性を組み合わせた情報が公開でき,公衆衛生の向上に貢献できると考えられる.
  • 齋藤 綾子, 住田 裕子, 箕原 豊, 藤田 伸二, 矢崎 茂義, 北村 美悳, 河合 茂彦, 鎌田 一美, 太田 嘉, 山田 三紀子, 松 ...
    2015 年 89 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    横浜市では「子宮頸がん等ワクチン緊急促進事業」として2011 年2 月にHib ワクチンの公費接種が開始された.Hib ワクチン接種がHib 保菌に与える効果をみるために,磯子区内の12 の保育園で2012 年春(6~ 7 月)と秋(10~11 月)の2 回,保育園児鼻咽頭Hib 保菌調査を行った.この期間,保育園児全体のHib ワクチン接種率に殆ど変化は無かったが,Hib 保菌率は春8.8%から秋1.6%へ有意に低下した.保育園毎の保菌率は,春0~18.4%,秋0~4.9%であった.保育園毎のHib ワクチン無接種児の割合とHib 保菌率の間に相関関係は無かった.保菌率の低下は地域全体のワクチン接種による免疫効果を反映しているものと推測された.
  • 窪村 亜希子, 小嶋 由香, 岡部 信彦
    2015 年 89 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    2012 年4 月から2013 年12 月までに川崎市健康安全研究所に搬入された1,029 名の検便検体を対象にeae 及びaggR 遺伝子を指標にPCR 法によるスクリーニングを実施し,腸管病原性大腸菌(EPEC)を30 株と腸管凝集性大腸菌(EAggEC)を32 株分離同定した. 分離された30 株のEPEC と32 株のEAggEC のうち,EPEC は9 株,EAggEC は8 株のみ市販の大腸菌O 免疫血清により血清型別が可能であり,多くの株においてO 血清型別不能となった.しかし,O 血清型別不能であったEPEC,EAggEC において複数の同じH 抗原型が認められたことから,それぞれが同じO 血清型である可能性が示唆された. HEp-2 細胞による細胞付着性試験においてはEPEC で2 株(6.6%)のみ付着が認められたのに対し,EAggEC においては16 株(50.0%)で付着が認められたことから,EPEC とEAggEC は同様の分離率を示したものの,病原性を有する割合には差があることが考えられた.
  • 加藤 玲, 松下 秀, 下島 優香子, 石塚 理恵, 貞升 健志, 甲斐 明美
    2015 年 89 巻 1 号 p. 46-52
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    国内産鶏肉から1992~2012 年の21 年間に検出されたサルモネラ属菌について,その血清型と薬剤耐性の面から検討を加えた.検査に供した生鶏肉は,東京都多摩地区で市販されていたもので,原産地は全国各地である. 検討した1,576 検体中469 件からサルモネラ属菌が検出された.2 年括りで見た検出率は10.1%~46.3%,全期間では29.8%であった. 469 件から検出された477 菌株は,型別不能の2 株を除き22 種の血清型に分類された.血清型Infanti(312s 株)が最も高頻度で,次いでII O4:b:[e,n,x](II Sofia)(71 株),Hadar(20 株),Typhimurium(20 株),Manhattan(12 株),Schwarzengrund(9 株),Agona(7 株),その他15 種血清型(24 株)であった. 12 種薬剤に対する薬剤感受性試験の結果,477 株中429 株(89.9%)が耐性株で,そのうち387 株は多剤耐性であった.薬剤別耐性頻度は高い順にSM(81.8%),TC(77.8%),KM(45.5%),ST(33.3%),NA (11.3%),ABPC(9.6%),CP(2.9%),FOM(0.6%),CTX(0.6%),CAZ(0.2%)で,NFLX およびIPM 耐性株は検出されなかった. CTX 耐性3 株とCAZ 耐性1 株はESBL 産生株で,CTX-M 型ESBL 産生株である前者の遺伝子グループはCTX-M-2 group(2 株)およびCTX-M-9 group(1 株)に分類されたが,後者の1 株が保有する遺伝子の種類は不明であった.
症例
  • 松尾 裕央, 小坂 恭子, 岩田 健太郎, 大路 剛
    2015 年 89 巻 1 号 p. 53-55
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    We report herein on a case of community-acquired necrotizing soft tissue infection caused by Serratia marcescens. The patient had been treated with prednisolone, tocilizumab and tacrolimus for rheumatoid arthritis. Since Gram staining of the tissue revealed Gram negative rod bacteria, ceftriaxone and clindamycin were administered as empiric therapy. Tissue culture revealed S. marcescens. Ceftriaxone was continued according to the antibiotic sensitivity. She underwent debridement of necrotic tissue and continued ceftriaxone for 17days. She recovered and was discharged after skin grafting.
  • 髙倉 晃, 上遠野 健, 原田 真也, 井川 聡, 片桐 真人, 矢那瀬 信雄, 益田 典幸
    2015 年 89 巻 1 号 p. 56-61
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    Pseudomonas aeruginosa is a significant causative bacterium in hospital-acquired pneumonia and nursing and healthcare-associated pneumonia, but it seems to be rare in community-acquired pneumonia (CAP). We report two cases of severe CAP due to P. aeruginosa. Case 1 : A 52-year-old man was referred to our hospital for chest and back pain. He was being treated for diabetes mellitus and had a long history of smoking. Chest images showed consolidation in the right upper lobe. Soon after hospitalization, he developed sepsis shock and died seven hours later. Case 2 : A 73-year-old man with a history of heavy smoking was referred to our hospital for right chest pain. Chest images showed right upper lobe pneumonia. Although wide-spectrum antimicrobial agents were administrated, he died ten hours after admission. In both cases, there was a rapid progression to death, despite administration of a broad spectrum of antibiotics and treatment for sepsis. In cases of CAP involving the right upper lobe, the possibility of bacteremia and rapid progress should be considered.
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