ヒト肝組織においてactin線維, Ca
++-ATPaseの局在について超微形態学的観察を行った. 対象は, 大腸癌 (4例), 胃癌 (1例) の肝転移に対する切除肝非癌部 (健常部) の肝組織を用いCa
++-ATPaseの局在の観察はAndoのone step法の変法によりCa
++pump-ATPaseの局在はヒト赤血球膜由来のCa
++pump-ATPaseに対する特異抗体を用いて検討した. 肝組織内actin線維の局在は, Odaらの分離毛細胆管法により観察した. 多くの毛細胆管において管腔は微絨毛でほぼ満たされ, 一部に管腔の拡張と微絨毛の短小化の所見がみられた. Ca
++-ATPase活性は主に管腔側形質膜上に認められた. 分離毛細胆管では特に毛細胆管周囲に密なネットワークを形成し, 毛細胆管膜細胞質側内面への結合が証明された. 一方毛細胆管周囲のCa
++の動態に関与すると考えられるCa
++-ATPaseは毛細胆管管腔側膜上, 毛細胆管管腔側膜内に存在した.
収縮蛋白であるactin線維が骨格筋や平滑筋細胞のみならず非筋細胞 (non muscle cell) 内にも存在することが証明されて以来
1~3), すでに種々の生物学的機能, 特に上皮系細胞においては分泌ないしは排泄機構の動的過程に深く関与していることが明らかにされてきた
4). 肝細胞もその例外でなく, actin線維が肝細胞形質膜直下に証明され
5~7), 免疫電顕的に肝細胞におけるアクチンの局在を毛細胆管微絨毛, 毛細胆管周囲に証明した
8). 特に毛細胆管周囲に密なネットワークを形成し毛細胆管膜の細胞質側内面に結合して裏打ち構造をなし, さらにはmyosinもactinとほぼ同様の分布を示し, actinと共存することが報告された
9, 10). このような毛細胆管周囲のactomyosinはCa
++をmediatorとするCa
++-calmodulin-actomysin系によって制御され, このactin線維を基盤とする毛細胆管の蠕動様収縮運動が胆汁流を引き起こす機械的因子として重視されている
11~13). しかし, ヒト生検肝組織における毛細胆管周囲のactin線維については肝内胆汁うっ滞時の超微形態学的検討がなされているに過ぎない
14, 15). また, 毛細胆管周囲のactinの局在を免疫電顕的検討も一部報告されているのみである
16). 一方, 非筋細胞内actin系を調節する細胞質内遊離Ca
++濃度 [Ca
++] iは細胞外Ca
++濃度に比べはるかに低く保たれ, その恒常性は形質膜Ca
++pump-ATPaseによるCa
++の細胞内外から細胞外の汲み出しに依存していることが最近明らかにされた
17). そこで本研究では, ヒト生検肝組織におけるヒト切除肝組織および分離毛細胆管を用いて毛細胆管のactin線維と毛細胆管膜およびCa
++-ATPase活性, Ca
++-pumpATPaseとの関係について免疫組織化学, 電顕細胞化学並びに免疫電顕学的に解析した.
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