肝臓
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58 巻, 9 号
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原著
  • 大掛 馨太, 生田 真一, 相原 司, 覚野 綾子, 脇 英彦, 松林 謙治, 中島 隆善, 山中 若樹
    2017 年 58 巻 9 号 p. 478-485
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    Monopolar型装置を用いたラジオ波焼灼療法(M-RFA)に経皮的エタノール注入療法(PEI)を併用すると凝固領域が拡大するとの報告があるが,Bipolar型装置を用いたラジオ波焼灼療法(B-RFA)にPEIを併用し焼灼不良となった症例を経験した.そこで,豚摘出肝を用いてRFA実験を行い,PEI併用の有無別に凝固体積や電気伝導性,肝の組織学的変化を分析した.その結果,M-RFA,B-RFAともにPEI併用下では通電中に組織抵抗(IMP)が大幅に低下し,電気導電性の亢進と発熱効率の低下が起こることが確認された.通常,B-RFAの通電終了のタイミングは,M-RFAとは異なりIMPの上昇ではなく総エネルギー投与量で規定されている.このためPEI併用B-RFAでは,発熱効率が低下しIMPが上昇しないうちに焼灼完了とみなされ不完全焼灼のリスクが高まることが示唆された.この知見からPEI併用B-RFAの通電終了のタイミングをIMPが初期値を凌駕する時点と改め臨床例に適用したところ焼灼不良は改善されたので報告する.

  • 須見 遼子, 福田 和人, 入潮 佳子, 服部 美千代, 澤井 良之, 小来田 幸世, 井倉 技, 山口 典高, 松本 康史, 中原 征則, ...
    2017 年 58 巻 9 号 p. 486-493
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    掻痒症は慢性肝疾患患者の約3割に合併することが報告されており,患者のQOLに大きく関与する.今回慢性肝疾患症例504例を対象として掻痒症に関するアンケート調査を実施し,患者背景因子と掻痒症合併率・掻痒の程度との関連について検討した.また,慢性肝疾患患者の掻痒症に対してナルフラフィン塩酸塩を投薬された20症例を対象とし,その奏効率を検討した.調査対象症例504例の掻痒合併率は30.8%であった.掻痒合併に寄与する因子についての多変量解析では,肝硬変と女性が有意な独立因子であった.肝硬変症例においては,Child-Pugh gradeの進行に伴い掻痒合併率は有意に上昇し,掻痒の強い症例の割合も増加した.ナルフラフィン塩酸塩の奏効率は75%(15/20)と高く,その適切な使用により掻痒症を有する慢性肝疾患患者のQOL改善が期待できると考えられた.

症例報告
  • 留野 渉, 新倉 利啓, 奥寺 康司, 小川 祐二, 本多 靖, 結束 貴臣, 今城 健人, 米田 正人, 桐越 博之, 山中 正二, 大橋 ...
    2017 年 58 巻 9 号 p. 494-503
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は48歳の男性.C型慢性肝炎に対し肝庇護療法を行い経過観察中に急激に腹水貯留,下腿浮腫,多発するリンパ節腫脹が出現し紹介受診となった.リンパ節生検の結果から多中心性キャッスルマン病と診断した.ステロイド投与により症状改善を認め,低アルブミン血症や血小板減少も改善を認めた.腹水の減少後に施行した肝生検で新犬山分類A1F2相当であり肝線維化の急激な進行は否定的であった.ステロイドは投与量を漸減し治療開始から約2年7カ月で投与を終了した.キャッスルマン病に対する治療終了から約2年後に,C型慢性肝炎に対して経口抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals:DAAs)の投与を行い,ウイルス学的著効を得た.C型慢性肝炎の経過中に急激に腹水貯留,浮腫,リンパ節腫脹を認めた場合にはキャッスルマン病等のリンパ増殖性疾患も鑑別に挙げる必要性を強く認識させられた啓発的な症例であった.

  • 野下 祥太郎, 吉岡 航, 窪津 祥仁, 村山 賢一郎, 秋山 巧, 高橋 宏和, 安西 慶三, 江口 有一郎
    2017 年 58 巻 9 号 p. 504-509
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は43歳女性.2009年にアルコール性肝障害を指摘されていたが,その後も飲酒を継続し,病院受診や治療はしていなかった.2016年5月に腹部膨満感,呼吸苦,嘔吐,下痢を主訴に救急搬送され,当科に入院した.来院時左手背の熱感と発赤,腫脹を認めており,受診4日前に飼い猫に左前腕を噛まれていたことを聴取した.蜂窩織炎など細菌感染症の可能性を考え,抗生剤投与を開始した.来院時に採取した血液培養と腹水培養でPasteurella multocidaが検出され,同菌による菌血症及び腹膜炎と診断した.

  • 菊池 香織, 高島 英隆, 森 敬弘, 横溝 千尋, 池田 京平, 小木曽 聖, 福田 亘, 上島 浩一, 伊藤 正, 富岡 秀夫, 山下 ...
    2017 年 58 巻 9 号 p. 510-518
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    81歳女性.2015年9月にC型肝硬変症を背景に肝細胞癌初発.多発再発に対して治療中,2016年8月,胆囊に接したS5表面に,胆囊動脈の分枝から栄養される径20 mmの再発を認めた.TACE(transcatheter arterial chemoembolization)を試みたが,胆囊動脈から分岐する栄養血管を選択できず,Lip-TAI(lipiodol-transcatheter arterial infusion chemotherapy)施行,1カ月後,同部位の肝細胞癌破裂にて救急受診となった.TAE(transcatheter arterial embolization)は施行困難で切除も希望されなかったため,エタノール注入による止血を試みた.第1,2病日に,経皮的エタノール注入施行,第3病日のdynamic CTでは,腫瘍右側の早期濃染は残存しており,同部位はエタノール貯留が困難と考えた.そのため,ドップラーエコー下に栄養血管を21 G PEITニードルで穿刺,血液逆流を確認後,エタノールを血管内注入した.注入後,血液逆流の消失,ドップラーエコーで血流消失を確認,dynamic CTにて腫瘍濃染の消失を確認した.本症例は,肝細胞癌破裂に対して血管内へのエタノール注入にて止血した初の報告である.

  • 福富 啓祐, 阪森 亮太郞, 古田 訓丸, 重川 稔, 山田 涼子, 小玉 尚宏, 疋田 隼人, 藥師神 崇行, 巽 智秀, 本間 圭一郎, ...
    2017 年 58 巻 9 号 p. 519-527
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は58歳男性.12歳時にWilson病と診断された.19歳時に当科紹介となり,以後40年以上にわたりペニシラミンの投与を継続しながら経過観察していた.腹部造影CTならびにMRIで肝S4ならびにS8に結節を認め,肝腫瘍生検を施行した.S8結節からの生検で中分化型肝細胞癌と診断した.背景肝組織には軽度の線維化を認めたが,肝硬変には至っていないと考えられた.また,肝実質に銅ならびに鉄の蓄積を認めた.肝細胞癌に対して経カテーテル的肝動脈化学塞栓術ならびにラジオ波焼灼療法を施行した.Wilson病における肝発癌は稀とされているが,非線維化進展例からの肝発癌報告は特に少ない.Wilson病における肝への鉄の蓄積と発癌との関連について,文献的考察を加えて報告する.

  • 品川 陽子, 上村 顕也, 酒井 規裕, 熊木 大輔, 小川 光平, 安住 里英, 冨永 顕太郎, 坂牧 僚, 五十嵐 聡, 林 和直, 山 ...
    2017 年 58 巻 9 号 p. 528-535
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    Trousseau症候群は,Trousseauによって1865年に報告された,悪性腫瘍に合併する血栓症である.その脳卒中症状は,重篤な神経症状を呈し,直接的に生命予後に関与しうる傍悪性腫瘍症候群の一つとして認識されている.今回,胆管細胞癌に脳卒中症状を呈するTrousseau症候群を合併し死亡した2例を経験したので報告する.症例1は90歳,男性,症例2は58歳,女性でいずれの症例も生活習慣病の危険因子を有し,40 mm前後の肝腫瘍で初診,各種画像検査,胆汁細胞診,組織診にて胆管細胞癌の診断となった.経過中,腫瘍の急激な増大,胆道出血を合併し,本症候群を発症しやすい状況であった.担癌患者では,病態が急速に進行する場合,凝固線溶系の異常値などに留意し,抗凝固療法の開始を含む対応が本症候群の発症を予防し,原病に対する治療介入の機会を増やしうる方法論であると考え,報告する.

短報
  • 杉本 勝俊, 森安 史典, 大城 久, 吉益 悠, 竹内 啓人, 笠井 美孝, 古市 好宏, 小林 功幸, 中村 郁夫, 糸井 隆夫
    2017 年 58 巻 9 号 p. 536-539
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    To investigate the value of shear wave (SW) speed (m/s) and dispersion slope ([m/s]/kHz), which is related to viscosity obtained by a prototype ultrasound elastography system in rat livers with various degrees of inflammation and fibrosis. SW speed was significantly higher in the fibrosis model rats (G3) than in the inflammation model rats (G1). Dispersion slope was significantly higher in the inflammation model rats (G2) than in the fibrosis model rats (G4). These results indicate that SW speed is more effective than dispersion slope in assessing the degree of fibrosis and also suggest that dispersion slope is more effective than SW speed in assessing the degree of inflammation. Dispersion slope measurements may provide additional pathophysiological insights into liver tissue.

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