肝臓
Online ISSN : 1881-3593
Print ISSN : 0451-4203
ISSN-L : 0451-4203
59 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 橋本 悦子, 谷合 麻紀子
    2018 年 59 巻 2 号 p. 83-91
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー

    NASHの名称は,アルコール性肝障害以外の脂肪肝は脂肪肝炎に進行しないという誤った概念を否定するために,1980年Ludwigによって命名された.しかし,脂肪性肝障害を飲酒量で分界したことにより,多くの矛盾が生じ疾患概念が混乱した.NASHの病理診断基準にも問題がある.他の慢性肝疾患に倣って,線維化と活動性でNASHを診断してきたが,活動性を病的意義の異なる脂肪変性と壊死炎症性変化(肝細胞の風船様変性と炎症性細胞浸潤)とを合わせて評価することには違和感を覚える.SAFスコアーは,脂肪変性,活動性,線維化から構成され,活動性の診断から脂肪変性を除外したことに意義がある.また,NAFLDの予後はNASHと診断されるか否かではなく線維化重症度によって規定されること,NAFLからNASHへの進行が稀でないことなどから,両者は異なる疾患ではなく,異なる病期を見ているとの考えが主流となり,NASH診断の意義が問われている.国民病となったNAFLDの病態解明と新分類の作成が喫緊の課題である.

  • 常山 幸一
    2018 年 59 巻 2 号 p. 92-101
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー

    メタボリックシンドローム(MS)を背景に発症する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は,肝硬変~肝細胞癌(HCC)に進展する難治性疾患であり,病態解明と治療法の開発が急がれている.現在NASHモデル動物として,レプチン欠損マウス(ob/obマウス)などの単一遺伝子変異・改変動物や,メチオニン-コリン欠乏食など特殊な飼料で誘発されるモデル動物,あるいはストレプトゾトシン投与後に高脂肪食で飼育するSTAMマウスなど種々の方法で作成されたモデル動物が用いられている.これらのモデル動物はいずれもMSやNASHの病態の一面を反映しており,病態解析に大きく寄与していることは疑いないが,それぞれにヒトのNASHとは異なる面も併せ持っている.ヒトのNASHは個人差が大きい多様な背景因子を有する疾患であり,その病態を完全に模倣するモデル動物の作成は不可能なことから,目的に応じてそれぞれに長所・短所がある病態モデル動物を使い分ける必要があると考えられる.本稿では,遺伝子改変操作や特定の栄養素が欠損した飼料を用いず,少ない介入によって作成され,病理組織学的にもヒトのMS,NASH,HCCに類似した所見を示す新しいMS関連肝疾患モデル動物を紹介する.ヒトNASH患者の背景病変や臨床経過は多様であり,個々の症例により病態の重篤度や治療歴も異なることから,病態解析や治療法の開発には,目的に応じた動物モデルをうまく使い分け,それらの知見を集積することが必要である.

原著
  • 巽 康彰, 加藤 文子, 加藤 宏一, 林 久男
    2018 年 59 巻 2 号 p. 102-106
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー

    体内に取り込まれた銅は,肝臓で利用され,残余は胆道に排泄される.この調節機構の破綻は銅毒性から肝硬変になる.ATP7Bの同定はウイルソン病の概念を一新した.約1世紀前,SAK Wilsonの報告した肝硬変を持つ神経障害は変異ATP7Bによる古典型である.その原型はIH Scheinberg & I Sternliebの提唱した重症肝型であるが,我々は重症肝型の症例で難病と認定されなかった事例を経験した.本研究では,本邦におけるウイルソン病難病認定基準の問題点を検討した.

    我々の施設に本病として登録された58例を対象とした.51例はATP7B解析単独で診断・難病認定基準に達した.6例も臨床所見の追加から,古典型の本病と判定された.肝硬変代償不全期の1例は,尿中銅排泄が増加し,肝に銅顆粒が染色された.正セルロプラスミン(セ)血症と正常ATP7Bを持つ本病の重症肝型として除銅治療を行い救命し得た.しかし,難病には低得点のため認定されなかった.

    本病の重症肝型には診断・難病認定項目が少ない.非侵襲的な正セ血症と正常ATP7Bの組み合わせは,重症肝型の肝不全にも対応した基準になりうる.

症例報告
  • 高田 佳子, 岡村 利之, 稲邑 克久, 河合 博志, 柴田 哲志
    2018 年 59 巻 2 号 p. 107-116
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー

    症例は66歳の男性.2011年に住民検診で血小板減少を指摘され当院を受診し,B型肝硬変と診断され核酸アナログによる治療を開始した.2013年6月には肝S8に肝細胞癌(HCC)を指摘され,計4回のラジオ波焼灼療法(RFA)を施行したが2015年6月に再発を認め,RFAでの病変制御は困難と判断した.再発病変に対して陽子線治療を行い,治療終了時には腫瘍は退縮していたが,治療終了後6カ月で照射野内に再発し,2回目の陽子線治療を行った.治療終了時には腫瘍は退縮し,治療終了後13カ月の時点で再発を認めず病変のコントロールは良好である.2回の陽子線治療中,治療後とも重篤な合併症なく経過した.HCCに対して複数回の陽子線照射を行った報告は少なく,現時点では重篤な晩期合併症はないものの,今後も注意深い経過観察が必要である.

  • 若林 俊一, 山崎 智生, 城下 智, 黒住 昌弘, 杉浦 亜弓, 藤森 尚之, 柴田 壮一郎, 市川 雪, 森田 進, 小松 通治, 梅村 ...
    2018 年 59 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代の男性.特記すべき既往歴はなく,飲酒歴もなかった.X-1年5月より腰痛を自覚していたが改善がなく,X年3月に整形外科にて施行した腰部MRIにて左腸骨に腫瘍性病変を認めた.同部位の骨腫瘍生検では肝細胞癌の骨転移と考えられ,当科を受診した.造影CTでは,肝両葉に多発する腫瘤性病変と,左腸骨には動脈早期相で濃染を呈する転移性病変を認め,多発肝細胞癌・腸骨転移と診断した.骨転移巣への放射線照射の後,肝内最大病変と左腸骨病変に対して肝動脈化学塞栓術(TACE)を施行した.7月よりsorafenib 400 mg/日を開始し,8月と12月に肝内残存・再発病変に対してTACEを追加した.その後,sorafenib 200 mg/日の内服を継続し,4年間以上寛解状態を維持している.肝細胞癌骨転移例の予後は一般に不良であるが,集学的治療を行うことにより長期生存を得られる可能性があると考えられた.

  • 金子 淳一, 松下 雅広, 長澤 真帆, 渡邉 晋也, 金山 広和, 磯野 忠大, 橘 充弘, 寺本 祐記, 小林 良正
    2018 年 59 巻 2 号 p. 125-132
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー

    肝原発扁平上皮癌の1剖検例を経験したので報告する.症例は59歳男性.発熱,心窩部を主訴に受診した.肝胆道系酵素,炎症反応の上昇を認め,肝右葉から肝門部にかけて8 cmの腫瘤性病変を認め,総胆管を閉塞していた.緊急でERCPを施行し,胆道ドレナージを行った.総胆管閉塞部からの擦過細胞診と胆汁細胞診で扁平上皮癌を認めた.また,腫瘍は十二指腸と横行結腸へ浸潤しており,腫瘍結腸瘻を形成していた.以上より,肝内胆管癌,肝門部・十二指腸・横行結腸浸潤と診断した.腫瘍が広く浸潤しているため根治手術は困難であり,人工肛門造設,消化管バイパス,胆道ステント留置後に全身化学療法を施行した.治療効果は乏しく,受診から約4カ月で永眠された.剖検を施行し,腫瘍の成分はすべて扁平上皮癌であり,肝原発扁平上皮癌と診断した.

  • 松枝 真由, 詫間 義隆, 岩堂 昭太, 植松 周二, 岡本 良一, 荒木 康之, 守都 敏晃
    2018 年 59 巻 2 号 p. 133-141
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー

    症例は53歳,男性.腹部膨満感,体重増加,両下腿浮腫を主訴に精査入院.画像検査では肝右葉の約15 cmの巨大な境界不明瞭で内部不均一な腫瘤をはじめ,肝全体に1~2 cm大の無数の腫瘍が認められ,これにより肝臓は腫大していた.他にも腹部大動脈周囲リンパ節転移,腹膜播種,および多発骨転移を認めた.第5病日に超音波ガイド下肝腫瘍生検を施行し,病理組織学的に小細胞癌と診断した.

    画像的所見から肝内病変が肺を含めた他の病変に比べ明らかに大きいこと,および上部消化管で悪性所見がないことを考慮し肝臓を原発とする小細胞癌と診断した.その後,急激に全身状態が悪化し,第20病日に死亡した.小細胞癌は肺原発がほとんどであり,肺外小細胞癌は全体の2.5-4%である.肝原発はさらに頻度が低くきわめて希な疾患であり,予後不良と報告されている.さらなる症例の蓄積により病態解明につながることを期待して報告した.

短報
  • 南 知宏, 南 康範, 千品 寛和, 有住 忠晃, 田北 雅弘, 矢田 典久, 萩原 智, 依田 広, 上嶋 一臣, 西田 直生志, 工藤 ...
    2018 年 59 巻 2 号 p. 142-144
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー

    For the technical success of radiofrequency ablation (RFA), the tumor and a sufficient ablative margin must be included in the ablative area. However, the safety margin cannot be evaluated accurately on ultrasound (US) during and immediately after RFA because the strong acoustic scattering due to ablation often obscures the tumor. US-US overlay fusion is a new image fusion technology showing preoperative and postoperative US images side-by-side synchronously. The overlays can demonstrate an ablative hyperechoic zone including the colorized tumor. Therefore, US-US overlay fusion can visualize the ablative margin and predict the early response of treatment assessment with high accuracy. US-US overlay fusion guidance can contribute to obtaining sufficient margins to RFA therapy. We call this "precision RFA".

feedback
Top