第20回全国原発性肝癌追跡調査においては,544施設から2008年1月1日から2009年12月31日までの2年間の21,075例の新規症例と40,769例の追跡症例が集計された.追跡症例の有効回答率は90.4%であった.うち解析に使用可能であった症例の有効回答率は56.2%であった.基礎統計は,第20回新規登録症例を対象として死因,既往歴,臨床診断,画像診断,治療法別の各因子,病理診断,再発,剖検についてまとめた.第19回調査と比較し,肝細胞癌における臨床診断時の高齢化,女性の増加,非B非C肝癌の増加,腫瘍径の縮小の傾向が,治療においては局所療法におけるラジオ波焼灼療法の増加が認められた.1998年から2009年まで新規登録症例の中で最終予後が生存または死亡となった症例(不明を除く)について肝細胞癌,肝内胆管癌,混合型肝癌の治療法別,背景因子別累積生存率を算出した.肝細胞癌については腫瘍個数,腫瘍径,肝障害度,Child-Pugh分類を組み合わせることにより背景因子を揃えて,治療法別(肝切除,局所療法,肝動脈塞栓療法(TACE))の累積生存率を算出し,また,1978年から2009年までの新規登録症例を4期に分け,累積生存率を算出した.新規登録症例数は経時的に増加し,肝細胞癌の予後の改善が著しいことが明らかとなった.本追跡調査が原発性肝癌の研究および診療の進歩に役立つことを期待する.
症例は56歳男性.B型肝硬変とアルコール性肝障害で当科通院中.2017年7月のEOB-MRIにて肝S4に多血性腫瘍を認められ入院.採血検査では,肝硬変による肝トランスアミナーゼ上昇,血小板減少を認めたが,腫瘍マーカーは陰性であった.EOB-MRIでは,腫瘍は10 mm大で早期相で不均一な高信号,肝細胞相で低信号,拡散強調画像で高信号を呈した.肝細胞癌(HCC)Stage1と診断し,腹腔鏡下肝部分切除術を施行した.術後16カ月経過し再発は認めていない.病理学的に腫瘍は高分化型HCC,中分化型HCC,HCCと肝内胆管癌の移行部,高-中分化型肝内胆管癌の4領域で構成される混合型肝癌であった.本症例は小型の段階で,HCCの一部が胆管細胞癌へ脱分化又は形質転換した非常に初期の混合型肝癌と考えられた.
2系統の門脈大循環シャントを一期的に閉塞することで症状が改善した肝性脳症の1例を報告する.症例は56歳の男性.膵頭部癌による閉塞性黄疸で初診し,その際肝硬変と,脾腎,腸間膜下大静脈,腸間膜右腎シャントが認められた.Child-Pugh 10点 C gradeと肝予備能は低く,膵癌の根治手術を断念した.その後徐々に肝性脳症が出現し,意識障害のため入院を反復して内科治療抵抗性と判断した.3系統のシャントのうち,脾腎,腸間膜下大静脈シャントに対して一期的にバルーン下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)を施行し,その後は脳症顕性化を認めず,術前Child-Pugh 12点から術後7-8点へ改善した.本例では肝性脳症が本人の尊厳と家族の生活を著しく損ねており,また膵癌の病勢も比較的落ち着いていたため,治療適応とした.内科治療に抵抗性の肝性脳症に対して,BRTOが有効な治療法の一つになると考えられた.