当院で2006年4月から2018年6月の間に肝生検で原発性胆汁性胆管炎(PBC)と診断し,国際自己免疫性肝炎(AIH)グループの簡易版診断基準によりAIHの診断基準を満たした肝炎型PBC 20症例を後ろ向きに解析した.ウルソデオキシコール酸(UDCA),プレドニゾロン(PSL)の治療効果および効果予測因子について検討したところ,UDCA(単剤又はベザフィブラートとの併用)で初期治療を行った20例中12例(60%)で奏効が得られ,治療前のAST,ALT,ALP,IgG高値がUDCA不応の有意な予測因子であった.UDCA不応であった8例中7例にPSLが投与され,全例で治療効果が得られた.PSL減量に伴う再燃はみられなかった.
肝炎型PBCでは半数以上でUDCAが奏効したが,不応例ではPSL投与が有効であった.PSLが必要とされる症例の特徴を示唆する知見も得られ,今後の検証が望まれる.
肝硬変(LC)は多様な免疫異常を呈し,リンパ球減少が特徴となる.
近年,LCの免疫不全と惹起される感染症・炎症はcirrhosis-associated immune dysfunction(CAID)と呼ばれ,肝病態の悪化との関連から注目されている.我々はLCの総リンパ球数(total lymphocyte counts,以下TLC)を調査し,さらにTLCと白血球の好中球分画を基にCAIDのステージ分類を作成した.LCでは早期からTLCが減少し,多変量解析で白血球数,脾腫,肝細胞癌,好中球増多がTLC減少に寄与する因子であった.またTLCはLCの独立した予後因子となり,CAID分類はLCの生存率を有意に層別化し得た.LCの免疫不全は炎症の誘因としてCAIDによる肝病態悪化に寄与する可能性があり,hemogramによるCAID分類の有用性が示された.
症例は67歳女性.2019年1月より微熱と体重減少で前医を受診した.血液検査で炎症反応上昇と肝機能障害,腹部超音波で肝右葉を占める腫瘤を認め,精査目的に当院紹介受診となった.造影CTでは,肝右葉に径10 cm大の腫瘤を認め,動脈優位相で腫瘤内の充実性部分は造影効果を呈し,漸増性であった.内部には造影効果のない囊胞状構造が認められた.PET-CTでは腫瘤部に集積亢進を認めた.以上より,肝膿瘍が考慮されるも,非典型的であり,確定診断目的で針生検を行った.結果,泡沫状の組織球を含む炎症細胞浸潤を認めた.臨床像と合わせ,黄色肉芽腫性腫瘤と判断された.黄色肉芽腫性腫瘤は,特徴的な画像所見が得られにくく,悪性腫瘍との鑑別に苦慮し,外科的な切除が選択されることが多い.今回,針生検診断により不要な肝切除を回避することが可能であった.
症例は59歳,男性.非小細胞肺癌(cStageIVB)に対する一次治療としてペムブロリズマブを投与し,2コース目終了時に著明な黄疸と肝障害を認めた.ウイルス性肝炎や自己免疫性肝炎などは否定的で,肝生検ではinterface hepatitisのほか門脈域内にCD8優位なリンパ球と軽度の形質細胞浸潤を認め,ペムブロリズマブによる免疫関連有害事象(irAE)と診断した.プレドニゾロン不応であったため,ミコフェノール酸モフェチルを併用したところ,肝障害は軽快した.その後,肺癌に対する三次治療としてアテゾリズマブを開始したが,投与後8日に再び肝障害を認めた.肝生検ではペムブロリズマブ投与時と同様の所見を認め,アテゾリズマブによるirAEと診断した.今回,異なる2種類の免疫チェックポイント阻害薬のそれぞれで免疫関連肝障害を呈した1例を経験したので報告する.
症例は68歳,男性.心筋梗塞後通院中に傾眠傾向を認め,高アンモニア血症及び頭部MRI所見から肝性脳症による意識障害と診断され精査目的に当院紹介となった.アンモニア高値(176 μg/dL)を認めたが,背景肝疾患や代謝性疾患を認めなかった.腹部エコーにて左門脈分枝の拡張を認め門脈肝静脈シャントを疑い,造影CTにて肝内シャントのみであったため経皮的門脈造影を予定した.門脈造影で,門脈左枝の瘤化したシャントを認め,金属コイルを用い経皮経肝塞栓術(percutaneous transhepatic obliteration;PTO)を施行した.治療後,アンモニアは直ちに正常値化(42 μg/dL)し,ラクチトール水和物を中止後もアンモニアの上昇を認めなかった.肝臓に基礎疾患を認めず急性発症した肝性脳症に対して肝内門脈肝静脈シャントと診断しPTOが奏効した症例を経験したので報告する.
症例は72歳女性.C型肝硬変を背景とする肝細胞癌,多発肺転移,右副腎転移に対してレンバチニブ8 mgで治療した.治療6週目のCTでは,SDと判断しレンバチニブ8 mgを継続した.治療10週目に有害事象によりレンバチニブを1週間休薬し,4 mgに減量して再開した.治療12週目のCTでは,PDと判断しレンバチニブを中止した.その2日後に突然の右季肋部痛と背部痛を訴え,右副腎転移巣破裂による後腹膜出血と診断し,緊急血管造影で右下横隔膜動脈を塞栓し止血を得た.後方視的に見直すと,治療6週目のCTでは,右副腎転移巣の造影効果が低下したが,腫瘍の一部は尾側に増大し,周囲に拡張した血管を認めた.治療12週目のCTでは,辺縁の腫瘍は増大し,尾側の腫瘍内に出血を認めていた.レンバチニブ治療中にHCC副腎転移から出血をきたした報告はこれまでになく,腫瘍内出血を経て後腹膜出血を来した興味深い症例のため報告する.
症例は59歳,女性.腹腔内腫瘤の精査・加療目的で入院となった.腹部ダイナミックCT像上にて肝外側区域背側から膵上縁におよぶ,動脈相で辺縁が不均一に濃染し,門脈相でwash outを呈する90 mm大の腫瘤を認めた.AFPおよびPIVKA-IIの上昇もあり,尾状葉原発肝外突出型肝細胞癌と診断し開腹したところ,腫瘤は肝と線維性癒合のみであったが,総肝動脈が腫瘤を貫いており,同部位を遺残する摘出術を施行した.病理学的に低分化型異所性肝細胞癌と診断した.遺残部位の増大に対しレンバチニブメシル酸塩(レンバチニブ)を導入し,開始2カ月間の画像検査で部分奏効と判定したものの,開始後3カ月には腫瘍が増大したため進行(PD)と判断し,Best supportive careに移行した.レンバチニブ開始後132日で癌死した.進行異所性肝細胞癌に対してレンバチニブを投与した報告はなく,貴重な症例と考えられた.
症例は24歳,ベトナム人女性.来日から2カ月経過した頃,発熱・右季肋部痛を自覚し,当院受診となった.血液検査にて,肝胆道系酵素の軽度上昇と白血球増多を認め,そのうち好酸球が67.4%と著明な増多を認めた.腹部造影CT検査では,肝外側区の表面から肝実質内に連続する管状,多結節状の囊胞性病変の多発を認めた.好酸球優位の白血球増多より,何らかの寄生虫感染症が考えられ,虫卵検査を行ったが,糞便からは虫卵は認められなかった.しかし,抗寄生虫抗体スクリーニング検査の結果にて,肝蛭抗原に対する陽性反応が極めて強く,臨床経過と併せて肝蛭症の診断に至った.プラジカンテル(praziquantel;PZQ)内服開始となり,腹痛及び血液検査所見は改善したが,画像所見では,自覚症状や血液検査所見とは乖離する肝・肝外病変の増大を認めた.肝蛭症の治癒を知る上で非常に興味深い症例と考えられたので,報告する.