大規模診療データベースを用いて,肝硬変入院患者を対象に本邦での腹水の合併頻度および腹水合併時の利尿薬治療の実態を調査した.2011年から2018年に肝硬変で入院した67,698名の患者中,50.9%で腹水を合併し,アルコール性肝硬変での合併が高かった(60.1%).スピロノラクトンとフロセミドの併用は,2013年から2018年で減少する一方,両薬剤に,トルバプタンが併用される機会は増加する傾向であった.また,トルバプタンはより重症な患者に処方されており,トルバプタン併用時のフロセミドの処方用量は,2013年以降,≤20 mgで経時的に増加したが,>40 mgでは減少した.本研究の結果,約半数の肝硬変入院患者で腹水を合併し,中でもアルコール性肝硬変に多いため,改めて禁酒・減酒の啓発が重要であることが示唆された.また,本邦で推奨される利尿薬選定に沿った腹水治療の実態であることが明らかになった.
10年前に軽度の肝胆道系酵素値の異常を指摘されるも,その後医療機関受診がなかった72歳の男性が肝硬変による肝不全疑いで入院した.AMA-M2抗体陽性とIgM高値より原発性胆汁性胆管炎が肝硬変の原因と考えられた.保存的療法にて肝不全はやや改善したが,入院時血清よりIgA-HEV抗体とHEV RNAが検出されたことから,肝硬変にHEV感染を合併し肝不全に進展したものと診断された.HEV RNAはその後血中から消失したが,併存していた肝細胞癌が破裂し死亡した.死亡までの約2カ月半の間,IgM-HEV抗体価は陽性下限値付近で推移し,またIgGとIgAのHEV抗体価もほとんど変動なく推移した.本症例は本邦でもE型肝炎が肝硬変の増悪要因となり得ることを示した貴重な症例である.今後類似症例を積み重ね,肝硬変症例ではHEV抗体の応答が非定型的な推移を示すのか,注意深く観察することが推奨される.
症例は61歳,男性.2年前に他院でアルコール性肝硬変と診断されていたが専門医療機関は受診せず.その後,難治性腹水が生じ,腹水コントロール目的で当院を紹介.入院管理での保存的治療により腹水は消失,さらに退院後も断酒の状態を維持できたため肝機能は改善した.しかし,断酒4カ月頃より飲酒を再開,徐々に肝予備能の低下と腹水が増加した.断酒目的で専門医療機関の受診を勧めたが本人は拒否,代案として飲酒量低減薬を提案したところ同意が得られナルメフェンによる治療を開始した.開始後,徐々に飲酒量は減少,治療開始2カ月後には断酒の状態となり腹水の消失と肝予備能の改善が得られた.アルコール依存症の治療は断酒の達成とその継続を目標にするが,すぐに断酒できない場合は飲酒量を減らすことから始めることの一つの手段である.本症例ではナルメフェンを開始したことで飲酒量低減から断酒へと繋ぐことができた.