重症アルコール性肝炎は,アルコール性肝疾患の中で非常に重篤でacute-on-chronic liver failure(ACLF)/急性肝不全の病態を呈する.日本でのACLFの全国調査により37.2%の症例が重症アルコール性肝炎であることが明らかにされたが,重症アルコール性肝炎は移植以外の治療では一カ月以内の死亡は30-50%に達する予後不良な疾患である.アルコール性肝疾患に対する肝移植では従来一定の断酒期間が肝移植リストの条件とされてきたが,最近の報告で欧米を中心に断酒期間に制限されない早期肝移植の有効性が明らかとなってきた.断酒期間にとらわれず社会的・精神的背景や家族サポートを精神科・ソーシャルワーカーを含めて評価することで適切な症例選択が可能となることが報告されており,本邦でも重症アルコール性肝炎に対する肝移植の適応基準の検討が必要と考えられる.
第60回日本肝臓学会総会において,田中靖人会長のご支援により若手医師参加型の特別企画を実施する機会を得たのでここに報告する.第1部は講演形式で行い,工藤正俊先生は「知的エンゲル係数」をゼロにし,集中できる時間を作ることの重要性を説いた.海道利実先生は時間管理とプレゼン技術向上の方法を示し,川口巧先生はメディカルスタッフとの連携の重要性を強調した.黒田英克先生は放射線治療の普及を目指し,小玉尚宏先生は研究を楽しむ意義を強調した.伊藤隆徳先生は多施設共同研究のコツを共有し,武藤芳美先生,野上麻子先生,阿部珠美先生,鶴岡未央先生らは肝臓学会の活性化や若手医師の教育についての提案を行った.第2部では,10のラウンドテーブルで第一部演者,ファシリテーター,若手医師が交流し,意見を交換する場を設け,セッションは盛況に終わった.本報告を通じて,今後の日本肝臓学会の更なる発展を期待する.
非専門医科の肝炎ウイルス検査陽性者の院内紹介促進のため,電子カルテのアラートシステムが広く導入されているが,いまだに専門医科への受診に繋がらない陽性者は存在する.当院では,2020年6月から肝炎医療コーディネーター(肝Co)が非専門医科のHCV抗体陽性者リストを作成,専門医がHCV抗体中~高力価陽性で当科通院中でない,または受診歴のない症例のカルテを確認し,明確な理由がなく紹介されない症例(要紹介例)があれば,主治医に個別勧奨した.非専門医科の陽性者のうち要紹介例は2022年に約10%まで減少し,要紹介例での紹介率は個別勧奨後に約20%上昇した.また,陽性者は減少傾向だが,要紹介例での直接作用型抗ウイルス薬(DAA)導入者は一定の割合を占めている.DAAの普及により非専門医科の陽性者のうち治療対象となりうる症例は減少しており,今後は肝Coと専門医が連携し,効率的に個別勧奨を行うべきである.
症例はアルコール性肝硬変の60歳代男性.20XX-1年10月から禁酒を行っていたが,20XX年6月より飲酒量が増加し,Child-Pugh class Cの非代償性肝硬変となった.さらに,倦怠感から日常生活が困難となり,肝硬変の管理とリハビリテーション治療目的に20XX年8月に当院入院となった.入院中,1エクササイズ相当(3 METs×20分)のリハビリテーション治療を実施した.運動実施率は98.3%(15/16日)であった.その結果,6分間歩行テストは250 mから442 mに改善し,Liver Frailty Indexも3.85(pre-frail)から2.86(robust)に改善した.運動に伴う肝予備能低下や転倒は認めなかった.本症例の経過から,Child-Pugh class Cの非代償性肝硬変患者でも,患者の状態や身体機能に応じてリハビリテーション治療を検討すべきであると考えられる.
症例は20代の女性で,心窩部痛を認めたため前医を受診した.多発肝内結石と診断され当科に紹介となった.既往に総胆管結石と胆囊結石症があった.家族歴に父が肝内結石症に対し肝切除,父方の叔母が20代で胆囊摘出術があった.内視鏡下に採石を試みたが困難であった.遺伝子解析にてABCB4遺伝子変異が確認され,Low Phospholipid Associated Cholelithiasis(LPAC)と診断した.外科的切除も考慮したが,若年発症で結石が肝両葉にわたり,肝の萎縮がなく,肝切除後の再発のリスクも考慮しウルソデオキシコール酸の内服加療を行なった.内服開始後約2年8カ月が経過したが,肝内結石は残存するものの胆管炎症状・肝萎縮はみられない.LPACは若年より繰り返し胆石症を発症する稀な遺伝性疾患であるが,若年発症で家族歴のある胆石症の場合には本症を鑑別疾患に挙げる必要がある.