関西病虫害研究会報
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57 巻
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総説
  • 田中 寛, 保田 淑郎, 柴尾 学
    2015 年 57 巻 p. 1-9
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    関西国際空港において1994~97年に一期島(生息可能面積 143 ha),2007年に二期島(同 139 ha)でトノサマバッタが大発生し,群生相に特有の黒色とオレンジ色の2色の幼虫が認められた。調査は主にライントランゼクトおよびコドラート法により,管理はMEP 乳剤の散布により行った。1994~97年の推定生息個体数の最大値は1,338万個体で,天敵糸状菌Entomophthora grylli の発生とともに1997年に大発生が終息した。2007年の推定生息個体数の最大値は3,884万個体で,同じくE. grylli の発生とともに2007年7月に大発生が終息した。大発生の原因は,埋め立てにより出現した天敵不在の生物環境下に移入した成虫が数世代激しく増殖したことにあると考えられる。トノサマバッタの群生相集団は一期島,二期島とも島の北西部に偏在する傾向が認められ,この原因は6~9月の南ないし南西の風によるものと考えられる。関西国際空港においてトノサマバッタの生活史は主として年2化であり,卵だけでなく成虫,幼虫についても越冬が確認された。2007年の大発生時には効率的な調査および管理のための基本戦略を設定した。すなわち,①迅速な調査,②結果の地図化による全体把握,③高密度地点から低密度地点へと順に行う防除,④次回調査による防除効果の的確な評価(=①),⑤「①~③」の繰り返し,⑥天敵保護を目的とした低密度地点における薬剤散布の抑制,の6点とした。この戦略にしたがってMEP 乳剤により防除したところ,2007年6月9~11日に3,884万であった推定生息個体数は6月19日に14万に急減した。以上の結果,一期島,二期島におけるトノサマバッタの大発生は適切に管理され,航空機の運航に支障はなかった。
原著論文
  • 紙崎 啓昌, 荒川 征夫, 稲垣 公治
    2015 年 57 巻 p. 11-18
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    生育後期のイネに各種の菌核病を引き起こす赤色菌核病菌,紋枯病菌,灰色菌核病菌,褐色菌核病菌,および球状菌核病菌の5菌種を用いて,CO2 およびO2 の各種濃度が,これら病原菌の生育,菌核形成および菌核発芽に及ぼす影響を調べた。最初に,5菌種いずれも各5菌株を用いて,CO2/O2 濃度が0.1/20%区と 5/5%区の2区で菌生育率[対照区(CO2/O2 濃度が0.03/20%)における菌生育量[mm]に対する割合(%)]をみたところ,各菌種とも種内で大きな差異が見られなかった。また,CO2 濃度を0.03-15%の範囲内で4区,O2 濃度を 1-20%の範囲内で4区において,5菌種の菌生育をみたところ,CO2 濃度15%区で22-53%,O2 濃度1%区で28-47%の割合で菌生育率が低下した。CO2 およびO2 の菌生育への影響は5菌種中では紋枯病菌が最も受けやすく,球状菌核病菌と褐色菌核病菌,とくに球状菌核病菌は最も影響を受けにくいことが明らかとなった。菌核形成に関して紋枯病菌と褐色菌核病菌を用いて調査した結果,CO2 濃度 5%区では対照区に対する減少率が42-95%,15%区では57-100%(非形成)であり,さらに菌生育不良を引き起こすCO2 /O2 濃度(5/5%)に紋枯病菌および褐色菌核病菌菌核を60日間置いた場合でも,菌核発芽率は対照区と同様に86-99%と高率であった。これらの調査結果は,水田土壌中における各種菌核病菌の進展や,その後の水田内における病気の広がりを理解するのに有効であると考えられる。
  • 岩本 豊, 西口 真嗣, 小川 宗和
    2015 年 57 巻 p. 19-23
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    Coniothyrium minitans 製剤の効果的な利用法の確立を目的として,各種処理条件の検討を行った。その結果,処理濃度は現行の実用の半量でも十分な防除効果が得られることが確認された。また,処理時期としては定植前に処理するよりは,前作作物の鋤込み時に散布処理することによって防除効果は向上した。さらに,散布ムラを無くすために単位面積あたり投下薬液量を増加させると安定した効果が得られた。以上の結果から,現行の処理方法を更に検討することによって安定した防除効果が得られる可能性が示唆された。
  • Yoshihiko Hirayama, Shunsuke Asano, Masaharu Kubota, Motoaki Tojo, Sat ...
    2015 年 57 巻 p. 25-29
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    An ethanol-spray treatment was evaluated as a practical method for forecasting strawberry anthracnose caused by Glomerella cingulata in Nara Prefecture, Japan. Evaluations were conducted on latent infections of the pathogen to determine the disease occurrence in commercial strawberry nurseries from 2010 to 2014. The latent infection was highest in early July and corresponded highly to disease occurrence throughout the experiments. The results showed that the ethanol-spray treatment was a reliable and useful method for forecasting anthracnose in strawberry nurseries.
  • Qingzhi Li, Lu Chen, Yue Yu, Yiwen Wang, Pinkuan Zhu, Ling Xu, Teruo N ...
    2015 年 57 巻 p. 31-35
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    Imported kiwifruit affected by soft rot on Shanghai fruit market was selected for pathogen isolation and identification. The pathogenicity of different strains was compared. Morphological detection was combined with molecular tools to identify the main pathogenic strains as well as their biological characteristics. The results showed that Phomopsis was the main pathogen causing soft rot, and Phomopsis vaccinii (P. vaccinii) had the highest pathogenicity. Soft rot in kiwifruit caused by P. vaccinii was effectively inhibited under 5°C. This article is a first report of the pathogens causing soft rot in kiwifruit in Chinese market. Valuable experimental evidence is provided for the study on the pathogens carried by kiwifruit imported from New Zealand and on the occurrence of soft rot on the market.
  • 西本 浩之, 藤田 智美, 田中 利治, 加藤 晋朗
    2015 年 57 巻 p. 37-48
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    日本に侵入したミナミアオカメムシの卵寄生蜂Trissolcus basalis(Wollaston)(TB)と土着のTrissolcus mitsukurii(Ashmead)(TM)の寄生習性を比較し,2種の競合影響について考察した。被寄生卵の黒色度から判断すると幼虫期間はTM の方が短い。しかし羽化までの日数はTB の方が約1日短かった。2種間で共寄生が起こった場合,蛹化までの発育が早いTM 幼虫の方が生存競争に勝ち残る個体が多いと考えられる。TM 雌成虫は極めて強い攻撃性を示し,同種間で競争的闘争をするため産卵行動に集中できず,産卵に必要以上の時間を要した。対照的にTB は同種または他種に対してもほとんど攻撃性を示さず,短時間で寄生を終了させた。ミナミアオカメムシ1卵塊に同時にTB とTM を寄生させた時,羽化個体の大部分はTM であるが,TB の割合は各種1雌個体では5.8%,TB 2雌個体とTM 1雌個体では23.4%で,TB は少ないながら確実に寄生することができた。蜂蜜と水を十分に与えた条件では,産卵未経験のTB 雌個体の寿命は90日,TM 雌個体は60日で,産卵経験有りの雌個体では,TB が48日,TM が23日となった。産卵の有無にかかわらずTB の方がTM より寿命が長かった。TB の生涯寄生産卵数は258で,羽化した雌個体の割合(雌/(雄+雌))は0.48であった。一方,TM の生涯寄生産卵数は125,雌個体の割合は0.77で,明らかに性比は雌に偏っていた。湿度20~30%の乾燥条件でTB は21%の個体が正常に羽化することができたが,TM は乾燥条件ではまったく羽化できなかった。TB はTM との共寄生において不利である。しかし,これらの結果はTB が乾燥時に対応できる高い能力を持ち,寄主の相対密度が高く寄主卵塊が多く存在する時,より速く産卵を完了し,長寿命で産卵数が多いTB の方が多くの子孫を残すことを示唆している。
  • 河野 勝行, 飯田 博之, 北村 登史雄, 武田 光能
    2015 年 57 巻 p. 49-56
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    被覆作物を利用してキャベツを栽培すると害虫による被害が軽減されることが知られており,その理由の一つとしてゴミムシ類などの地表徘徊性捕食性天敵の個体数が増加することが考えられている。しかしながら,ゴミムシ類の個体数の増加が被覆作物の存在そのものによって引き起こされるのか,キャベツや被覆作物に発生するゴミムシ類の餌となる害虫の個体数の増加を通して起こるのかは明らかになっていない。そこで,被覆作物を利用してキャベツを栽培したときに,選択性殺虫剤を撒布してチョウ目幼虫を除去した場合に地表徘徊性捕食性天敵の個体数に与える影響を,落し穴トラップを使用して調査した。春作においてはオオアトボシアオゴミムシが最も多く,次いでセアカヒラタゴミムシが多かった。両種はいずれも無撒布区で有意に個体数が多かった。これは,撒布区では餌不足により個体数が少なかったと考えられた。秋作においてはオオハサミムシがもっとも多かったが,撒布区と無撒布区の間で個体数に有意な差は認められなかった。これは,秋作では無撒布区においてもチョウ目幼虫の個体数が多くなかったことも一つの理由と考えられた。
  • 小澤 朗人, 内山 徹
    2015 年 57 巻 p. 57-61
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    静岡県の茶園においてチャトゲコナジラミの捕食性天敵であるクロツヤテントウの発生消長を予察灯と黄色粘着トラップを用いて2013年と2014年の2年間調査した。クロツヤテントウの成虫は予察灯に頻繁に誘殺され,予察灯によるモニタリングが可能であった。また,黄色粘着トラップにも誘殺されたが,1枚当たりの総捕獲数は予察灯よりは少なかった。予察灯による1日最多誘殺数は2013年が191頭,2014年は14頭,黄色粘着トラップの1枚1日当たりの最多捕獲数は2013年が0.2~1.0頭,2014年は0.2~0.8頭であった。予察灯,黄色粘着トラップともに,6月と8月にピークを持つ年間2山型の消長パターンを示した。茶園における本種の年間発生世代数は2世代と推定された。
  • 望月 雅俊, 𡈽田 聡
    2015 年 57 巻 p. 63-67
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    ブドウではチャノキイロアザミウマが重要害虫であり,減農薬に向けて光反射シートの株元へのマルチによる被害軽減効果が期待される。そこで反射光を得られる垣根仕立て栽培で光反射シートをマルチした場合の果実における被害軽減効果を2008年,2009年に調査した。チャノキイロによる被害が顕著な緑色系品種ネオマスカットについて,新梢生育の開始期4月からの株元への光反射シートをマルチにより,マルチ区での果実の被害程度指数は無処理区よりも少なくなり,殺虫剤カルタップを3回散布した場合の値をやや上回る程度であった。またマルチ区の新梢におけるアザミウマ密度は無処理区に比較して少なく推移し,マルチ区ではアザミウマの発生が抑えられていた。また土着天敵であるコウズケカブリダニはマルチ区でも無処理区と同等に発生していた。このことから垣根仕立て栽培ブドウへの光反射シートのマルチにはチャノキイロの被害抑制効果があり,ブドウの減農薬栽培への活用が今後期待される。
  • 城塚 可奈子, 浜崎 健児, 山中 聡, 柴尾 学, 岡田 清嗣
    2015 年 57 巻 p. 69-72
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    アザミウマ類は多くの農作物に被害を及ぼす害虫である。多くの種が各種薬剤に対して抵抗性を発達させており,防除対策として天敵などの防除資材が検討されている。メタリジウム粒剤はアザミウマ類に対する昆虫病原性糸状菌製剤である。ほ場では様々な病害虫に対する薬剤散布が前提となるため,それらの薬剤がメタリジウム菌に及ぼす影響を菌叢伸長により評価した。その結果,殺菌剤ではトリフルミゾールとベノミル,殺虫剤ではMEP の悪影響が大きかった。メタリジウム粒剤使用時には,これらの薬剤の使用を控えることが望ましいと考えられる。
  • 西野 実, 鈴木 賢, 竹内 雅己, 田中 正彦, 大仲 桂太
    2015 年 57 巻 p. 73-76
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2015/09/01
    ジャーナル フリー
    三重県南伊勢町のかんきつ園において黄色LED 照明による果実吸蛾類の被害抑制効果の実証試験を行った。試験は2011年と2012年に実施し,2011年には 0.6 W の黄色LED 光源を19個,2012年には 4.3 W の黄色LED 光源を5個設置して試験区内を照明した。その結果,2011年,2012年ともに黄色LED 照明により最大照度 1 lux 以上の照度が確保できた樹では,果実吸蛾類による被害果の発生を抑制できた。それぞれの光源の年間コストと電気料金の合計は同程度であったが,栽培管理作業の障害になりにくい点から,設置数が少なくて済む 4.3 W 黄色LED 光の方が有効と考えられた。
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