一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
(一社)日本家政学会第55回大会
選択された号の論文の389件中51~100を表示しています
  • 多賀谷 久子, 上谷 真由
    p. 87
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    [目的] 超音波による洗浄では、キャビテーション、音圧、粒子加速度、直進流などが汚れ除去に重要な役割を果たすといわれているが、衣類の洗浄に関する基礎的研究はあまりなされていない。本研究では、環境負荷低減のための超音波洗浄に関する基礎的知見を得るため、水の脱気による超音波洗浄力の強化を行い、布の洗浄用に試作した低周波(28kHz)の超音波洗浄装置1)を用いて、洗浄試験用汚染布の粒子汚れ除去のメカニズムを中心に検討した。[方法] 汚染布は、ドイツ製のwfk10C、10D(綿)および30D(ポリエステル)を用いた。洗浄液は脱イオン水を所定の条件に脱気したものである。溶存気体の指標は溶存酸素濃度(DO)とした。洗浄方法は、汚染布をステンレス製治具に固定し、これを超音波洗浄槽内の所定の位置で懸垂あるいは搖動し、3分間超音波照射した。洗浄前後の試験布の表面反射率を測定し、洗浄率を求めた。洗浄槽内の音圧は水中マイクロホンを用いてFFT周波数分析計で計測した。[結果] 超音波洗浄槽内では定在波が形成され、定在波の音圧の最も高い位置で洗浄率も最大となることが予想される。本洗浄装置の理論上の音圧の極大位置は、洗浄槽底面(振動板)からの垂直距離15.5、42.5、69.5、96.9?となる。汚染布の洗浄率を槽底面からの垂直距離(x)を変化させて調べると、xと洗浄率の関係は正弦波形を示し、音圧が極大値をとるxと洗浄率の極大値のxがよく一致した。洗浄率と音圧の間には直線関係が成立した。汚れの除去が始まるためには一定の音圧(mN/cm)が必要であり、この音圧は繊維や汚れの種類に依存した。 1)多賀谷久子、上谷真由、日本油化学会、第34回洗浄に関するシンポジウム、p.25(2002)
  • 井上 美紀, 鈴木 則子
    p. 87
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    【目的】綿はコットンボールから綿繊維を取り出し、衣料などの材料として多く利用されているが、その他の葉や茎の部分はあまり利用されていない。本研究では、綿の葉を染料として利用することについて検討した。葉から抽出した染料の各種繊維に対する染色性や、助剤、媒染剤に対する影響などを比較した。さらに、染色布の摩擦や日光に対する染色堅牢度、洗濯に対する染色堅牢度などを測定した。【方法】収穫した綿の葉を乾燥後、一昼夜水に浸漬させた。浸漬した葉を煮沸し、ろ過後、冷却して染液を得た。試料には綿布と多繊交織布を用いた。染液は試料の50倍にし、助剤には酢酸を用いて90℃で1時間染色した。媒染剤には塩化第一鉄((2))、硫酸銅((3))、酢酸銅((4))、木酢酸鉄((5))を用いて(媒染剤無:(1))20分間、後媒染した。 染色前後の染液の吸光度を分光光度計で測定し、染料の吸着量を求めた。また、染色布は学振型摩擦堅牢度試験機を用いて摩擦し、グレースケールにて判定した。日光に対する染色堅牢度は試料を30日間露光後、色差計にて測色して原布と比較した。洗濯に対する染色堅牢度は、染色布に綿布を取付けて洗濯後、汚染用グレースケールにて判定した。【結果】綿布はいずれの条件においても染色され、染色2回後の試料布への染料の吸着量は約8%であった。綿の他に、ナイロン、ビニロン、羊毛、レーヨン、絹もよく染色された。摩擦や日光に対する染色堅牢度は媒染剤の種類によって異なり、摩擦に対しては媒染剤(5)を用いた場合が、日光に対しては媒染剤(3)を用いた場合が最も堅牢度が高かった。
  • 鳥居 一美, 駒城 素子
    p. 88
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    目的 脂肪酸にポリ(α-ヒドロキシアクリル酸ナトリウム);PHAを混合すると水に溶け易い複合体を生成し、これが油脂汚れの洗浄に寄与することがこれまで明らかになっている。本報では、ポリアクリル酸ナトリウム;PAも比較試料として加え、高分子カルボン酸塩と油脂との相互作用に着目し、洗浄性との関係を探ることとした。方法 ○試料:ラウリン酸、ミリスチン酸、PHA(Mw 10500,純度30%),PA(Mw 8000,純度45%) ○複合体の生成と熱分析 アルミパン中で脂肪酸およびPHA(PA)の混合モル比を変えて熱分析(DSC,リガク電機)することにより、生成する複合体を確認した。○洗浄実験 直径5mmのセルロースろ紙に脂肪酸/アセトン溶液を滴下し、汚染試料を調製した。これをPHA(PA)0.6g/l水溶液10mlにより、所定温度(35~75℃)で10分間振盪洗浄(120cpm)した。その後、ろ紙を引き上げ、デシケータ中で自然乾燥させた後、熱分析により定量した。結果 (1)PHA、PAの混合量が増えるほど生成する複合体の量は増加し、脂肪酸分子に対するポリマー単位の結合比はPHAでは2前後、PAでは6~10であることが判明し、PHAはPAに比べて複合体を生成しやすいことが明らかになった。(2)PHAの複合体生成に関して脂肪酸の鎖長変化はPHAでは影響しないが、PAの場合影響した。(3)生成する複合体は、PHAでは元の脂肪酸より高温側で融解するのに対し、PAでは低温で融解する。(4)PHA、PAともに脂肪酸の融点以上、すなわち複合体が融解する温度での洗浄で高い除去率が得られることを確認した。
  • 坂口 紘子, 駒城 素子
    p. 88
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    <目的>脂肪酸に対し特異的に除去効果を発揮するポリカルボン酸塩を,非イオン界面活性剤系液体洗剤用のビルダーとして実用化する場合,相溶性を向上させる必要がある.そこでポリアクリル酸塩(PAA)に親水基であるポリオキシエチレンを修飾したPAA-POE(東亜合成(株))について,その洗浄性をPAAなどと比較検討した.<方法>試料:POEの重合度を変えたポリマー,AG-10,AG-20(平均分子量5850,東亜合成(株)),ポリアクリル酸(平均分子量8000,Aldrich Chemical Co.,Inc),高級アルコール系非イオン界面活性剤(ライオン(株))実験:ポリマーを単独,もしくは界面活性剤と混合して,硬度5°DH,pH:11の洗浴を調整し,湿式人工汚染布((財)洗濯科学協会)をターゴトメーター120 rpmで洗浄した.この汚染布を乾燥後表面反射率測定し,クベルカムンク式より洗浄効率を算出した.<結果>AG-10,AG-20には,ポリマー単独で,ポリアクリル酸(PAA)と同程度の洗浄性が認められた.なお,これらのポリマーには,表面張力測定により,若干界面活性能が認められた(AG-10の場合,30℃,2 g/Lで69.1 dyn/cm,20 g/Lで56.4 dyn/cm.).非イオン界面活性剤に,ポリマーを混合した系では,AG-10,AG-20ともに混合による著しい洗浄性の増加はみられないが,界面活性剤を20 %までAG-10,AG-20に置き換えても洗浄性は低下しないことがわかった.
  • 大村 知子, 杉山 真理子
    p. 89
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    【目的】 本研究は高齢者の履物や着靴方法などに関する観察に基づいて設定した着靴条件による歩行実験から、高齢女性の歩容を捉え、履物の選び方や履き方について資することが目的である。【方法】被験者は、高齢者2名(A;87歳、B;74歳)と若者1名(C;21歳)計3名の女性で、被験者A,Bは介助なしで歩行ができ、休憩をはさめば繰り返しの歩行実験にも耐えうる程度の健康体であった。実験用の靴は3種類で、a:被験者が普段履いている靴、b:高齢者向けとされる靴(P社製ストローバー・ブーツ)、c:サンダル、サイズは被験者AとCが23.5cm、Bが24.5cmであった。歩行は平坦地、坂道上下、階段上下で、着靴条件は靴aを普段と同程度の締め付け具合で履く(P1)、aをジャストフィットで履く(P2)、bをジャストフィットで履く(P3)、bをルーズフィットで履く(P4)、cを履く(P5)の5パターンとした。歩行の様相は右側からビデオカメラ2台で全身および下肢部を同時に撮影した。分析にはActim-2Dd-Sを用いて、頭頂点・右肩先点・右肘点・右手首点・右転子点・右脛骨点・右外果点・踵点・足先点をデジタイズし、1歩行周期を1/60秒毎 コマとするスティックピクチャーと各点の軌跡を解析した。【結果】P1の高齢者は、坂道上りで上下動が大きく若者Cとの違いも顕著であった。P3は、安定した歩容が多かったが、被験者Bは場所によって上下動が認められた。P4は、AもBも階段や坂道で上下動がみられ、同じ靴でもP3とは歩容が異なる様相が捉えられた。P5の遊離脚期足首角度は5パターン中 最小で、足部への負荷が大きいといえる。
  • 山口 香, 矢口 春香, 川端 博子
    p. 89
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    (目的)少子化が一層進む中、子どもの服に多額のお金を掛ける時代といわれて久しい。経済が低迷の現在も、子ども用衣料の消費は伸長傾向である。街では個性的なイメージやブランドで装ったおしゃれな親子を多くみかける。母親自身も、子供時代あるいは独身時代にバブルブームを謳歌しファッションに敏感な世代である。現代の母親達は、はたしてどのような意識で幼児に服を選び、着せているのだろうか。本研究では、母親の意識や価値観がどのように幼児服の選択に関与するかを考察することを目的とする。(方法)関東地区の都市部と郊外部において、2歳~6歳の未就学児を持つ母親680余名を対象に、2002年夏より質問紙調査を実施した。調査内容は、属性、幼児服の購買行動、流行とブランドの取り入れ、教育観、母親のおしゃれ意識などである。(結果)アンケートをもとに、母親の年齢、地域、おしゃれ関心度と教育関心度の観点からデータを比較し考察を行った。母親の年齢が若いほど、自分自身のおしゃれに関心が高く、流行の取り入れに積極的であった。都市部においては、こだわりの子供服ブランドがあると回答した割合が多く、その理由としてデザイン、品質のよさなどがあげられた。おしゃれ関心度の高い母親は、まめに情報を収集し、幼児服の購入において時間とお金をかけ、流行を取り入れ、個性的な服装をする傾向がみられた。教育観において、地域差はみられなかったが、教育関心度の高い母親は、素材や機能面を重視し、子どもに大人の流行を取り入れたり、子どもの染毛やパーマを行ったりすることに否定的であった。
  • 山本 高美, 鳴海 多恵子, 田中 喜美
    p. 90
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    目的 アパレル業界のIT化により,大学での被服教育は従来からの個別製作の方法に加え,専門職業教育としてアパレル生産の方法やCADを学ぶことが必須となってきた.そこで本研究では,アパレルCAD教育カリキュラムの基礎科目における教育プログラムを開発し,授業実践を通して,その妥当性および有効性について検証を行なった.方法 CAD教育カリキュラムは,専門職業教育としてCADを実践的に使用できる知識と技術の習得を目指して設計を行った.その基礎科目における教育プログラムとテキストは,(1)CADのパターンメーキング機能習得に重点を置く,(2)初期段階では簡単な作図を通して,CADの基礎技術が習得できるようにする,(3)平面作図の基礎も習得できるようにする,(4)アパレルにおける生産システムが体得できるようにする,(5)自学習用として,また学生間の進度差にも対応できるように演習問題を設ける等を特徴とした.これらの教育プログラムとテキストによる授業実践を行い,(1)各授業後に提出させた作図の分析,(2)確認テスト,(3)アンケートを実施し,その評価を行った.結果 (1)作図の完成度は,1回目74%,2回目85%,3回目100%であった.(2)確認テストの平均点は88点であり,CADに関する知識と技術が,ほぼ習得できたことが証明された.(3)アンケートからは「便利」「楽しい」を合わせると59%,「便利」または「楽しい」けれども「大変」という重なりのあるものが20%,「大変」としたものが21%であり,学生のCAD授業に関する評価はプラスの評価が大半を占めている.これらの結果から,本CAD教育プログラムの内容は妥当であり,有効性も高いことが明らかとなった.
  • 川上 梅
    p. 90
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    目的 著者はこれまで、長時間履いても疲れない女性靴の評価という観点から、形態、重量等が様々に異なる女性靴の歩行効率について、トレッドミル上あるいは短距離での歩行実験を行い、酸素摂取量、筋電図等を測定することにより検討してきた。本研究ではより通常の歩行に近い形での歩行実験を行い、心拍数の測定を試みた。心拍数は酸素摂取量と高い相関関係にあり、瞬時に計測可能で計器は小さく、運動も自由に行える等の利便性がある。方法 被験者は女子大生6名である。安静時の動作あるいは歩行時の運動開始後2分から10分までの心拍数には個人内変動が少ないことを確認した。実験に使用した靴は6種類である。歩行条件は5分間の水平歩行および約3分間の階段昇歩行で、それぞれ80step/min、120step/minの歩調で行った。データには歩行停止直後の心拍数から安静時の心拍数をマイナスした値を「心拍数の増加量」として使用した。「心拍数の増加量」を、重量、ヒール高、足首の固定、脱げ易さ等の靴要因、ハイヒールを履き慣れているか否かの個人要因との関係から考察し、各種女性靴の歩行効率について検討した。結果 心拍数の増加量(beat/min)を平均値(メディアン)で比較すると、水平歩行80step/min(靴間平均16.3)の最大値はハイヒール(23.5)、最小値はスニーカー・厚底靴(12.5)、水平歩行120step/min(靴間平均30.0)の最大値はブーツ(36.0)、最小値はストラップ付きハイヒール(24.5)、階段昇歩行80step/min(靴間平均59.5)の最大値は厚底靴(66.0)、最小値はハイヒール(50.0)、階段昇歩行120step/min(靴間平均73.0)の最大値はブーツ(78.5)、最小値はハイヒール(63.5)であった。
  • -鈴木春信作品をもとに-
    小菅 瑞恵, 吉岡 徹
    p. 91
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    目的 縞柄は最も基本的で単純明快な柄であるが、反面複雑な多様性を持つ。九鬼周造は『いきの構造』で縦縞の和装姿を「粋(いき)」としている。今回、多色摺り錦絵の創始者である鈴木春信作品に焦点を絞り、縞柄がいかに使われ表現されているか、着物の種類、性別、頻度、成人・小児、使用法を調査し「粋」について考察した。方法 鈴木春信作品の錦絵より、縞柄が用いられている作品100点を選定し、着物の種類別(長着、羽織、帯、袴、その他に分類した。そして縞柄の種類及び使用頻度を調査した。更に、作品調査結果から、縦縞の長着と帯の組合せを四つに分類した。縦縞の長着に1.無地の帯、2.斜縞の帯、3.縦縞の帯、4.横縞の帯、と分類し「粋」についてイメージ調査を行い考察した。結果 (1)着物における縞柄の頻度は帯(46.8%)、長着(45.3%)、袴(4.9%)、その他(2.0%)羽織(1.0%)の順であった。また、長着や帯、袴では性別・成人・小児による差があるが、羽織やその他では差はない。使用されていた縞柄の種類は長着で唐桟縞が多くほぼ全て縦縞であった。帯では格子縞の市松が一番多くそれ以外はほぼ全て横縞であった。(2)縦縞長着と帯の組合せでは、4.の組合せ(長着:縦縞・帯:横縞)が一番多く、且つ被験者の調査結果から4.の組合せは最も「粋」とされた。(1)、(2)の結果より、鈴木春信の美意識と、九鬼周造の「粋」の理論、現代の女性の美意識に共通性が見られた。
  • -被服系の活動を通して-
    遠山 千代子
    p. 91
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    【目的】大学および短期大学の社会的使命あるいは存在意義のひとつに、地域との連携と互いの活性化があげられる。短大家政科における被服系の教育的活動が、地域との関連を通して相互の活性化に貢献しつつあることを報告する。【方法】地域との連携で実施されてきた活動4例について、その内容を検討する。(1)市消費生活展のリフォームファッションショー:たんすに眠る不用になった衣類をリフォームして素敵に変身させ、自らモデルとなってショーに出場する。(2)市民祭りのミスコンテスト:地場産業(染色)振興のため、応募者は専門家のデザインによる揃いのオリジナル浴衣を着用して舞台に上り自己紹介する。ミスは市の諸行事に参加。(3)市在宅福祉センターの講習会:高年者のファッション・衣類と題して、衣類の着脱を容易にする簡単な改良方法や楽しい着こなし方の工夫をアドバイスする。小品制作も体験。(4)駅前ビルのショーウィンドー展示:要請を受け、市施設を含むビルの大型ショーウィンドーに、被服および美術実習作品や短大諸行事の案内などを月替わりで展示する。【結果】(1)は、数年前に消費者問題や環境問題を学ぶ家庭経営学・経済学との関連から発生した活動であり、洋裁実習授業を活用して継続してきた。その他は、いずれも(1)から派生し発展してきたものであり、(2)では和裁が(3)では洋裁が(4)では和洋裁だけでなく本学家政科の特徴である美術実習や手芸も生かされている。かつては、必修授業の義務課題として自分のためだけに制作していた学生達が、こうした活動を通して地域のさまざまな人々と関わり、認められ役に立つ喜びを実感できたのは非常に意義深いことであった。
  • -女子学生および母親世代の場合-
    杉田 洋子, 富樫 千恵
    p. 92
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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     目的 個人のイメージは着用する衣服によって変化する。筆者らは白衣の着用とイメージとの関係について、着用経験による相違や世代間の比較等の検討を進めてきたが、本報においては、衣服に対するイメージ形成に関与すると思われる、個人の生活に対する考え方、価値観と白衣のイメージとの関連性を検討した。 方法 白衣のイメージは、前報と同じく15項目の形容詞対を7段階評定形式で測定し、因子分析を行った。生活価値観はTBS総合嗜好調査に基づき、19種類の価値観からなる質問項目を2段階評定形式で回答を求めて数量化?類による分析を行い、イメージの因子および因子得点と、生活価値観のカテゴリースコアおよびサンプルスコア間の関連を検討した。年令、白衣着用経験度などは前報と同一である。調査対象者は、関東地方の短大女子学生およびその母親世代とし、2001年12月に調査を実施した。 結果 白衣は、「やや落ち着いた」、「やや緊張した」、「ややさわやかな」、そして、「やや好きな」イメージでとらえられていた。このイメージを因子分析した結果、くつろぎ感、好感、軽快感、活動感、個性感を表わすと解釈される5因子が抽出された。また、生活価値観は、家族とのふれあいを求める傾向、活字より映画、写真、イラストなどに親しみを持つビジュアル志向、自然に親しみ、天然・自然のものを大事にする傾向、女性は結婚しても家庭に縛られず、社会に積極的に進出する傾向などに肯定的な反応が多かった。一方、これまでの性道徳にあまりこだわらない傾向や、目まぐるしい流行変化や多品種化を無駄だと思う生活簡素化の傾向には否定的な考え方のほうが多かった。
  • 福澤 素子, 深井 晃子, 周防 珠実
    p. 92
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    目的 京都服飾文化研究財団(KCI)は1978年の設立以来、西欧の服飾資料を体系的に収集・保存し、研究、公開活動を行っており、国内外で開催された衣装展は高く評価されている。それら衣装展の開催を可能にしたのは、西欧衣装の貴重な17世紀から今日までに及ぶ約1万点の収蔵品である。これら衣装は劣化の速度をくい止めるため各種の技法で補修・修復が行われている。そこで今回はドレスについてどのような技法で蘇らせたかを調査分析することにより、ドレスのコンディションを評価する尺度を得るための解析を試みた。方法 収蔵ドレスについて、補修・修復過程の写真、スケッチ、記述内容から、身頃、袖、スカートのそれぞれ表側と裏側別に、施された補修・修復技法を調査し、補修・修復に要した日数、素材、作成年代等とともに記した補修・修復一覧表を作成し解析を行った。結果 補修・修復技法は主として(1)布を新しい補修布ではさんで縫い留めるサンドイッチ法,(2)と(3)布の表側(裏側)に布を当てて縫い留める表打ち法(裏打ち法)、(4)布を覆うカバー法、(5)欠損部分を補う補充法(6)その他の6種類に分類した。その結果1)全面サンド、全面表打ち、全面裏打ちを使用したドレスは、 布地の擦り切れや布の劣化による布裂けなど布地の疲労が顕著である。2)部分サンド、部分裏打ち、部分表打ち、欠損製作・補充を施したドレスは、着脱による布地の疲労や折り目の疲労、縫製による縫い目付近の布地の損傷、素材の物理的性能の違いによる布地の疲労が考えられる。これら補修・修復技法の分析の結果からドレスの布地の疲労状況を把握することできる事がわかった。
  • 泉 加代子, 牛島 由理, 増田 めぐみ
    p. 93
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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     目的 近年、若返りの手段として、しわやしみ、たるみを取り除く美容整形手術を受ける中高年女性が増えている。外見の若返りを図ることで精神的にも張りが出るといわれているが、美容整形手術は医療行為である以上リスクを伴う。高齢期が長くなり、元気で長生きしたいという願望が増えれば、若返りのニーズもさらに多くなると考えられる。そこで、本研究では、「若さ」と「若々しい服装」のイメージや実年齢より若く見られたいか否か、その理由などを調査し、それらが性別や年齢によって違いがあるかを検討する。方法 京都府下の老人大学受講生や本学学生とその父兄など性別年齢を問わず対象として、2002年9~10月に集団調査法および配票留置法による無記名の質問紙調査を実施した。有効回答者数は539名である。調査内容は、(1)「若さ」のイメージ(自由記述)、(2)「若々しい服装」のイメージ(自由記述)、(3)実年齢よりも若く見られたいか否か、(4)若く見られたい人に対して、その理由、若く見られたいと思い始めた年齢、実年齢と若く見られたい年齢の差、(5)若く見られたくない人に対して、その理由、年上に見られたいか否か、年相応に見られたいか否か、(6)若さを感じる色(21色)、(7)フェイス項目などである。結果 「若さ」をイメージする言葉は「元気」「健康」「明るい」「自由」「活発」「青春」、「若々しい服装」のイメージは「明るい色」「流行」「活動的」「ミニスカート」「肌の露出」などの出現頻度が高い。女性72.4%、男性58.5%が実年齢よりも若く見られたいと答え、女性は比較的若年から思い始めるのに対して男性は50歳代以上から思い始める者が多い。男女共に高齢者の約8割が服装によって若く見られたいと思っていることなどがわかった。
  • 平林 由果, 片瀬 眞由美, 渡辺 澄子, 栗林 薫
    p. 93
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    【目 的】制服にローファーを履いて通学する女子高校生の姿をよく目にする。ローファーは歩行に適した靴とは言えない。それにも拘わらず、ローファーを履いている高校生が多いのはなぜだろうか。そこで、高等学校における通学靴の現状を把握するため、生徒指導教諭と女子高校生を対象にアンケート調査を実施した。【方 法】調査1:愛知県下の全高等学校(男子校を除く)218校に調査用紙を送付し(郵送調査法)、通学靴に関する規定の有無とそれに関連する着衣や持ち物などに関しての規定について調査した。調査は2002年7月に実施し、127校(58.3%)から回答を得た。調査2:調査1の結果から、通学靴を指定している高等学校に対し、指定されていることに対する女子高校生の意識を尋ねる調査を実施した(自記式集合調査法)。調査時期は2002年12月、有効回答数は759であった。【結果および考察】調査1:通学靴を「指定している」高校は13%であり、すべてがローファーを指定していた。「規定を設けている」は61%であった。指定や規定を設けている理由としては、「制服との調和」、「高校生らしさ」などが多く挙げられていた。調査2:回答した高校生の67%が指定されているローファーを気に入っていた。指定靴に関して「制服との調和」、「色」は、ほぼ80%が満足していると回答したが、「価格」、「個性の表現」では、50~60%が不満足と回答した。指定靴がない場合でもローファーを履きたいというものは64%を占めており、靴を選ぶ第1の基準が「色・デザイン」であるという高校生の実態と関連していると思われる。
  • 片瀬 眞由美, 平林 由果, 渡辺 澄子, 栗林 薫
    p. 94
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    【目 的】ここ数年、靴の踵を踏みつぶしてスリッパのように引きずって歩く高校生の姿が目につくようになった。どのような意識が隠されているのか、その背景を明らかにするために、女子高校生の靴や足に対する意識と実態を調査することにした。今回は通学靴に焦点をあて、靴選びや履き方に関してのアンケート調査を実施した。【方 法】愛知県下の高等学校に在籍する女子高校生に対し、通学靴の履き方の実態や靴選びに関して調査を実施した(自記式集合調査法)。調査時期は2002年12月、有効回答数は1257(通学靴を指定している高等学校759、指定していない高等学校498)であった。【結果および考察】通学靴としてローファーを毎日履いているものは48%、スニーカーは38%でローファー派の方が多かった。足で気になっていることについては、「靴ずれ」が最も多く、ローファー派では9割が訴えたが、スニーカー派では5割に過ぎなかった。その他、足部の痛みや巻き爪、外反母趾、肩こり、足の疲れなどの訴えもあり、女子高校生の多くは足の悩みを抱えていることがわかった。一方、自分の足のサイズに関しては、「測定はしていないが大体知っている」が77%、「知らない」が19%であり、正確な足のサイズへの認識度は低かった。「正確に足のサイズを測ってみたいか」では「思う」と「思わない」が半々で、足のサイズへの関心はそれほど高くないことが窺えた。通学靴の踵を「踏んでいる」のは16%で、その理由は「脱ぎ履きが簡単だから」であった。本調査の結果から、女子高校生は見た目を優先して通学靴を選び、脱ぎ履きの楽な靴を求めてサイズを選んでいることが足の悩みにつながっている可能性があることが示唆された。
  • ―全国の小・中学校を対象として―
    戸田 美穂, 野村 真利香, 本間 健
    p. 94
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】生活習慣病の予防は小児期からの対応が重要であると言われており、中でも栄養・食生活の改善は疾病の一次予防としての意義が極めて大きい。今、学校における食教育に期待がかけられており、栄養や健康の専門家としての学校栄養職員にも注目が集められている。さらに、食教育における「生きた教材」として学校給食の役割が重要であるという認識が高まってきている。そこで、小・中学校における学校栄養職員による食教育の現状を調査し、今後の課題、改善すべき点を検討した。【方法】調査対象は2001年全国学校総覧に記載されている国公立の小学校と中学校を規模別に分類し、小学校650校、中学校250校を無作為に抽出した。平成13年7月から9月の間に食教育実施の有無、食教育の内容等に関する自作の無記名自記式調査用紙を各学校栄養職員あてに郵送した。各学校栄養職員には予め電話で調査への協力を依頼し、承諾を得た上で調査用紙を郵送した。【結果】食教育を行っている学校は小学校で80.4%、中学校では68.5%であった。また、食教育を行っている学校で、学校栄養職員が食教育に関与している割合は小学校、中学校ともに90%以上であった。食教育に対する満足度では満足している学校栄養職員は小学校で6.4%、中学校で3.4%と少なかった。食教育に対する学校側の姿勢では、食教育を行っている学校では86.7%、食教育を行っていない学校では42.6%が協力的であった。
  • 福井 典代, 新見 祐子, 篠原 陽子
    p. 95
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】プラスチックは生活の中で広範囲に使用されているが,それらの使用に伴い廃棄物の増大という問題が生じている。廃棄物の発生を抑制し,使用済製品の再利用を図るために「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(通称:容器包装リサイクル法)」が施行されたが,消費者に周知徹底されていないと思われる。廃棄物の分別,回収,再利用などに対応するには,まず消費者の意識を高揚させる必要性がある。本研究では,プラスチック製容器包装の分別と再資源化にかかわる環境教育の教材を作成することを目的として,大学生が容器包装にかかわる内容に対してどの程度理解しているかについての意識調査を行った。【方法】大学2年生102名を対象として,平成14年12月に質問紙調査を実施した。調査項目は,(1)ごみの分別に対する意識,(2)「容器包装リサイクル法」の認知度,(3)「容器包装リサイクル法」の理解度,(4)「識別表示マーク」の認知度,(5)「材質表示マーク」の理解度,(6)小・中・高等学校における「ごみ」に関する環境教育の授業の有無,の計6項目である。【結果】調査の結果,「容器包装リサイクル法」については,52%の大学生がまったく知らなかったが,「識別表示マーク」についてはほとんどの学生が認識していた。「材質表示マーク」については51%の学生が理解していることがわかった。環境教育の授業を受けたことのある教科は,社会科60%,家庭科23%,理科7%であった。全体的には,容器包装の分別に関して認知度・理解度ともに低く,容器包装の分別に関わる内容について学習することの必要性が認められた。
  • 山口 江利子, 小松 恵美子, 森田 みゆき
    p. 95
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)天然植物色素による媒染染めは身近な材料から染色できるということで,一般的で,被服分野においても天然植物色素による媒染染めはよく取り扱われる教材の1つである。重金属の含む媒染液の廃棄は環境への負荷があるということで,廃液を利用する方法が提案されている。本研究では環境への負荷を低減した天然植物色素による媒染染めを教材化するための視点と具体化について検討した。(方法)植物染料には,玉ねぎ外皮を使用した。染色布は,羊毛布を用いた。媒染剤にはカリウムミョウバンを用いた。植物材料を20分煮沸して色素抽出を2回行い,2回に分けて抽出した液を混合したものを染液とし,後媒染染めを行った。その後,染液と媒染液の残液を混合して色素―Al錯体を形成させた。さらに,炭酸水素ナトリウム(重曹)を添加し,pHを変化させて顔料を不溶化してろ過し,分離した。(結果および考察)媒染染色の残液処理という環境教育の観点で教材化し,実践した。1)身近な材料を用いて媒染染色を行う,2)媒染および不溶化には入手しやすいカリウムミョウバンと重曹を用いる,3)錯体形成や媒染のメカニズムを理解させる,ことを留意し実践した。大学生および専門学校生に実践した結果,「染色を行うだけではなく顔料を生成したことで環境のことも関わって勉強になった。」「色素と金属が錯体を形成するというのを実際に目にすると理解しやすく面白かった」等という意見があった。
  • 村上 知子, 岡山 佳世, 塚田 絵理奈
    p. 96
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】みそ汁は現行小学校学習指導要領家庭編「簡単な調理」の題材として指定されている。本研究では食の簡便化や児童の調理経験の低下が進む中、家庭におけるみそ汁摂取の実態を把握し、調理の基本を定着させる上での課題を明らかにすることを目的とした。【方法】平成14年9月、釧路市の小学5年生193名を対象に、みそ汁の嗜好と摂取頻度、家庭でみそ汁を摂るときの主食、即席みそ汁の食経験と摂取頻度、みそ汁の調理経験、家庭で利用しているだしの種類、みそ汁の実等について質問紙による調査を行った。集計・分析には統計解析ソフトSPSSを用い、クロス集計、χ検定を行った。【結果】みそ汁は67.4%の児童が「好き」と回答し、理由としては「ごはんによく合うから」、「実がいろいろだから」等が多かった。家庭における摂取頻度は、「毎日摂る」が朝食:7.8%、夕食:21.8%と低かった。みそ汁を摂る時の主食は、ごはんが多数を占めていた。即席みそ汁の食経験は「ある」が65.8%で、摂取頻度は「週に4~5回」:1.6%、「週に1~3回」:22.8%であり、即席みそ汁の利用が日常化している家庭は少なかった。みそ汁の調理経験については、「ひとりで作ったことがある」:21.8%、「家族の人と一緒に作ったことがある」:22.8%で、「ひとりで作ったことがある」は女子に多かった(p<0.001)。家庭で用いているだしの種類は、「だしのもと」:44.6%、「だし入りみそを使う」:36.1%に対し、教科書で扱われているにぼしは20.5%と低かった。好きなみそ汁・作りたいみそ汁の実は豆腐との組み合わせが多く、画一的であった。みそ汁の学習においては、にぼしだしや実の組み合わせ方に対する認識を高めることが課題と考えられる。
  • 小林 美佳子, 市丸 雄平
    p. 96
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的と方法】学生の健康管理のため生活習慣を正確に把握することを目的とし、本学学生293名について1ヶ月間の生活時間調査を行った。記録フォームはインターネットを用いて配信した。生活時間の記録はMicrosoft Excelを用いて学生本人が行った。得られたデータの解析にはVisual Basic for Applicationを用いた。1)1ヶ月の生活活動強度指数、2)(1)食事、(2)睡眠、(3)活動、それぞれに費やしたア)時間、イ)頻度、ウ)1日における分布などのパラメータを抽出した。さらに、それぞれのパラメータと性周期の関係を検討した。【結果】293例中、216例の生活時間調査が自動処理可能であり、長期間における活動状況のパラメータを高速かつ正確に求めることができた。1ヶ月の生活活動強度指数の平均±標準偏差は1.56±0.12であり、消費エネルギーは1649.4±165.4kcalであった。食事回数の1日平均は、2.75±0.34回であった。平均睡眠時間は、7.31±0.99時間であった。月経中および前後の各パラメータの平均値を比較したが、統計学的有意差は認められなかった。したがって、個人の生活習慣を正確に把握するためには、調査期間中におけるパラメータのばらつきあるいは不規則性を個々の対象者について定量化し、その周期性を明らかにする必要があることが示唆された。その有用な手段として、コンピュータを用いた長期的な生活時間調査の可能性を報告する。
  • ~撥水性繊維について~
    川又 勝子, 佐々木 栄一
    p. 97
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的:本研究では,超極細繊維のミクロ構造によってもたらされる撥水性布帛を取り上げ,簡単な実験からその性質と構造を学ぶ実験教材について検討した。方法:試料は汎用繊維として綿布,羊毛布,ポリエステル布,ナイロン布を,撥水性布帛としては,主にポリエステル超極細繊維から作られている薄起毛織物5種,高密度織物2種を用いた。実験は,(1)2枚の版画板で作った装置による転がり角の測定,(2)双眼実態顕微鏡(×60)による試料の表面状態と水滴付着状態の観察,(3)洗瓶で試料に水をかけた様子の観察,また(4)JISの撥水度試験機を参考にペットボトル(または分液ろうと)を利用した簡単な装置による水かけ実験を行った。さらに,これらの実験をビデオカメラで撮影し,教材用ビデオを編集・作製した。結果:(1)転がり角は汎用ポリエステルやナイロンでは70°以上であったのに対し,超極細繊維織物では40°以下,その内3種では10°以下で水滴が転がり落ちた。(2)顕微鏡による観察では,撥水性布帛上で水滴がボール状に付着している様子が見られ,試料を動かすと水滴が転がったところも観察できた。(3)超極細繊維織物に洗浄瓶でゆっくり水を落としたときは,水滴が球状になり試料状を転がり,勢い良く落としたときは水滴が四方に飛び散った。ビデオの映像からもこの様子が観測できた。(4)自作の簡易撥水性試験装置による撥水性の評価では,すべての超極細繊維布帛で高い撥水性を示し,汎用繊維布帛との比較を容易に行うことができた。
  • ~吸水性繊維について~
    川又 勝子, 佐々木 栄一
    p. 97
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的:中学校「技術・家庭」では、繊維の性質について学ぶ機会が少ない。本研究ではポリエステルを中心とする新しい吸水性繊維材料の吸水性について,簡単な実験を行って、他の汎用繊維と比較しながら、吸水性繊維の構造と性質を学ぶ実験教材について検討した。方法:試料は汎用繊維として綿布,ポリエステル布,綿ポリエステル混紡布を,新繊維材料として多孔中空ポリエステル,UFO型ポリエステル,W型断面ポリエステル/綿混紡布を用いた。実験はバイレック法を参考に簡単な器具を用いて行った。吸水状態を見やすくするためには,ブルーブラック・インク等の色素水溶液を吸収させる実験とゴンゴーレッド等の酸塩基指示薬を試料に塗布し,塩酸性水溶液(pH3程度)を吸水させて吸水状態をみる実験、および通常行われる水溶性色素で布に印を付けて吸水状態をみる実験を行い比較検討した。結果:(1)実験方法の考察 色素水溶液を吸水させた場合,吸水時間が長くなると繊維への色素吸着の影響が見られた。指示薬色素を用いた場合は変色によって吸水状態が良く観察できた。水溶性色素の刻印の場合は、印間の変化は観察し難いが、印は拡散して分り易い。(2)繊維間の比較 汎用ポリエステルは吸水高さが3?程度であったのに対し,新しい吸水性ポリエステルでは15cm以上の吸水高さが得られ,吸水速度も大きく,綿以上の値を示した。また毛細管の半径を算出したところ,新しい吸水性ポリエステルは汎用ポリエステルの1/4程度の値を示した。繊維断面の顕微鏡写真などと合わせると,毛細管現象によって吸水性が向上されたことを生徒に説明することが可能である。
  • 中山 栄子, 岸 香織, 佐藤 豊, 中嶋 利誠
    p. 98
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】日本国内ではSPM(浮遊粒子状物質)による健康被害が問題になっている。特にSPMのうち48%がディーゼル排気ガスからの排気粒子(DEP)によって占められている。このため、DEPに対する規制が各国において検討されている。そこで、周辺各国のSPM調査として、2001年3月に中国上海市内に引き続き、2002年3月に香港において実施したので報告する。【方法】香港島および九龍島の約210ヶ所において、ミニポンプおよびレーザー式ダスト計を用いてSPM測定を行った。【結果】SPM濃度のコンターマップを作成し、濃度分布を可視的に把握した。SPMの発生源の多くが自動車であること、幹線道路沿いの緑地帯がSPM濃度低減にあまり効果を上げていないことが明らかとなった。
  • 水谷 令子, 富田 寿代
    p. 98
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 三重県の北中勢および伊賀地域は、鈴鹿山脈や布引・高見山地に端を発した多くの河川と豊かな地下水に恵まれている。また、この地域の造り酒屋では地下水を利用して数々の銘酒が生み出されている。そこで、この地域の湧水と地下水を分析し、水質の現状と保全について検討した。[調査方法] 北勢、中勢および伊賀地域の湧水と酒の仕込み用の地下水を採取し、pH、電気伝導度等はマルチ水質モニタリングシステム(ホリバ)、アルカリ度はMR混合試薬、硬度はEDTA法で求めた。[結果] 調査した試料は水系によりpH、全硬度等が幾分異なっていた。造り酒屋の井戸水は、pH7以下の弱酸性で鉄分をほとんど含まず、麹菌や酵母の増殖に必須成分とされるリン酸を含有していた。しかし、採取した時期が夏で酒の仕込みはおこなわれていない季節だったので、細菌類が検出された試料もある。空気や土壌から汚染される機会が多い湧水では細菌類が検出されたが、常時飲用として採水されている湧水からは細菌類の検出はなかった。四日市の追分、北勢町の桜番所、美杉村の太郎生の湧水は、pH7前後、全硬度25mg/l以下の軟水で、近隣から大勢の人が採水に訪れている。一方、採水者が最も多い藤原町の場合は、鍾乳洞の湧水を導水しており、pH7.9、全硬度110mg/lの硬水であった。マンボは、浅層地下水を利用して江戸時代末期から作られた鈴鹿山脈東麓に分布しているこの地域特有の地下水路である。用途は、主に水田の灌漑用であるが、かつては生活用水としても利用されていた。地表に茶畑が広がっているマンボの水は、pH値が低く、硝酸イオンの含有量が高かった。これは、多肥栽培の影響と考えられる。
  • 岡田 悦政, 岡田 瑞恵
    p. 99
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】現在、環境中に排出される内分泌攪乱化学物質(EDC)による生体への影響が懸念されており、EDCは10万種類以上も確認されている。今後更に増加することが予想されるが、EDCに関する研究は、まだ始まったばかりであり、不明な点も多い。特に、生体内でのホルモン様作用を有し、また、肝機能への影響が懸念されている。本研究は、食用植物のうち特にアオジソに着目し、メタノール抽出成分により、EDCのうち洗剤等に検出されるノニルフェノール(NP)のラット肝細胞への影響抑制に関する研究を行った。【方法】アオジソをメタノール抽出し、dry-up後、DMSO溶解して濃度調整し実験に用いた。実験は以下の方法により行った。ラット肝細胞は細胞バンクより購入し、コンフルエントまで培養後、一定数を60mm培養シャーレに蒔き、24時間後アオジソNP投与実験を行った。NP投与濃度は一定とし、培養ラット肝細胞への投与時間変化、アオジソ濃度変化によるラット肝細胞数への影響について、Alamarblueによる細胞染色により蛍光測定を行い検討した。【結果】食用植物アオジソを、NP投与細胞に投与することにより培養ラット肝細胞の細胞数改善効果が見られ、その効果は、アオジソの濃度を0~20μlへと高めるほどに、また、培養時間が長いほど(6時間)いずれも最大の効果を示した。NPの肝細胞への影響抑制効果が見られた。
  • 山口 庸子, 津田 淑江, 戸田 泰男, 馬場 紀子, 永山 升三
    p. 99
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、増え続ける家庭からの温室効果ガスが大きな問題となっている。生活者のあらゆる行動は環境問題と関わっており、生活者の家庭における過ごし方が温室効果ガス削減のための重要な要因の一つと考える。そこで、本研究では、本学学生の生活時間とエネルギー消費量の実態を調査し、これを基に生活者の家庭における行動パターンがエネルギー消費量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。更に、ライフサイクルインベントリ(LCI)分析を行い、適切な温室効果ガス削減のための住まい方を考察する。【方法】調査は平成14年1月~10月の期間に、共立女子大学及び短期大学の1・2年生(947名)を対象に、在宅時の学生と家族の生活時間の過ごし方、冷暖房設備・厨房設備の使用状況、冬季(12・1月)及び夏季(7・8月)のエネルギー消費量及び省エネに対する意識等について留置法により実施した。エネルギー消費量は、電力、ガス、水道について「使用量のお知らせ」を参照して回答を依頼した。更に、平均的な一日の過ごし方、特に在宅時の家族の行動も含めて記入させた。回収件数は259件、無効5件、有効回答率26.8%であった。【結果】家族構成は1人~7人世帯と広範囲にわたり、平均家族構成3.76人、最多件数は4人世帯(113件)であった。4人世帯の在宅時の過ごし方をみると、学生が自室で過ごす(自室型)、居間で過ごす(居間型)、居間と自室で過ごす(中間型)に分類され、自室型のエネルギー消費量、特に消費電力量とガス使用量は、居間型よりも遥かに高い値を示した。その要因として冷暖房設備の使用状況、浴室用給湯設備の使用状況が挙げられる。また、LCI分析からも家族団らんが家庭からのCO2排出量の削減に大きく寄与している結果を得た。
  • -高齢者の針と糸の扱いを中心として-
    川畑 昌子, 豊田 美佐子
    p. 100
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【 目的 】手芸は範疇が広く、製作には多くの手法が用いられている。手法の多さは範疇の広さの一要因ともなっている。針と糸を用いて製作する手法の一つに「縫う」がある。高齢者は幼児期・学童期に雑巾や小物製作を通して針と糸の扱いや縫う手法を体得している。ゆえに、習得した技術を活かして手芸を楽しむことができる。現在小学校の家庭科は「針に糸を通し、玉留めする」作業から始まり基本的なことを学ぶが、中高大学生は基礎的な作業にも戸惑うことが多い。本報では、「縫う」手法が多い花布巾に着目し、高齢者が製作する際の意欲や根気、達成感、技術の持続性等を観察し、併せて既習した技術の背景を探り、被服教育指導の一助にすることを目的に、デイサービス活動の調査分析を試みた。【 方法 】調査は'99年3月より継続しているH市デイサービスでの観察、聞き取りである。「縫う」手法に関する花布巾の観察チェック項目は、針の扱い・糸の通し方・指ぬき使用の有無・玉留め・手指の曲げ伸ばし運動とした。聞き取りは、初めて習得した技術の年齢や方法、その後の被服製作経験を中心に行った。【 結果および考察 】デイサービス利用者は87名、週1~4日通所、平均82.5歳・標準偏差6.8(65歳~96歳)、男女比は女子83.9・男子16.1%であり、昨年調査より年齢層にやや広がりがあった。当所で行われている各細目は午前・午後に約2時間で、手芸についての継続観察では、'91年開設時から通所している約30%の利用者が、'00年介護法改訂以降の利用者より積極的に作業をしていた。花布巾製作は、フリータイムを中心に行われ、安価で手軽にでき、実用的なことから好評であり、男子も参加していた。
  • ―介護現場における「回想法」と衣服のもつ可能性―
    山岸 裕美子
    p. 100
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】第54回大会で取り扱った「回想法を応用したファッションショーの試み」を発展させ、衣服をテーマとする回想を行うことを中心にアプローチを行った。それにより高齢者の衣生活に対する記憶や心の働きについて考察を試みたが、さらに、ケアを提供する者にとって有効なコミュニケーションやアセスメントの方法についても探った。【方法】今回は痴呆症状のある、特別養護老人ホームの利用者とショートステイの利用者を対象として、前回と同様の形式でファッションショーを実施したが、特に衣服をテーマとした回想を行うことにより得られた成果についての分析を行った。その際、日常生活にあらわれた変化の様子だけでなく、痴呆症状と深い関連のある前頭前野の働きをチェックするためのテストも実施し、事前事後を客観評価した。【結果】いずれの利用者も痴呆症状や精神状態に改善の傾向が見られた。これは漠然とした幅広い話題ではなく、ごく身近な衣服をテーマとしたことに拠るところが大きいと考えられる。また、利用者にとっては幼年期や青年期ではなく、壮年期に着ていた衣服に対する思いがことのほか強く、その記憶は活躍していた自分がその頃身に着けていたり巡り会ったりした衣服とともに存在しているということもわかった。
  • ~ケアマネジャーの視点から
    田中 順子, 和辻 敏子, 岡本 洋子, 南 幸, 浅野 恭代, 岡田 真理子, 福岡 明美, 白澤 政和
    p. 101
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    〔目的〕食べることは、人間にとって最も基本的な生活の営みである。栄養バランスのとれた食事はその人の健康を支え、疾病からの回復を促進する。食生活は高齢者のQOLを保つためにも、最も配慮されなければならない。そこで、実際に高齢者のケアプランを作成しているケアマネジャーを対象に、ケアマネジャーの視点からみた居宅高齢者の食生活上の問題点を把握する目的でアンケート調査を行った。〔方法〕対象:奈良県・福岡県のケアマネジャー。有効回答者数487名。調査日:2002年11月。統計処理は解析用ソフトSPSSVer.10を用いた。〔結果〕両地域・男女間に特に差異はなかったので、一括して分析を行った。ケアマネジャーの所属機関は民間企業20%、医療法人28%、社会福祉法人42%などであった。勤務形態は専従・常勤48%、兼務・常勤39%で非常勤はわずかであった。基本資格は介護福祉士37%、看護師35%などであった。基本資格での経験年数は、10年~15年が多かった。利用者の食生活上の問題点としてあげられたのは、「食材を買いに行けない」「食事が作れない」「偏食が多い」「宅配などが頼めない」「病気のため食事制限が必要」などであった。また、ヘルパーへの食教育が必要と考えている人が多く、「咀嚼・嚥下困難者のための調理・介助法」「高齢者心理の理解」「食事介助法の習得」などが指摘された。居宅高齢者への食生活支援として、今後必要なことは「咀嚼・嚥下困難者用食品の充実」「配食サービスの充実」「治療食の食事サービスの充実」「地域ボランテアの食事サービスへの関わり」などであり、台所設備や調理器具の改善などのハード面や高齢者の自立を促す能力の向上より、現実の食の問題に対応する支援が求められていた。
  • 佐藤 祥子, 沢田 久美子, 城戸 恵美子, 井上 勝雄
    p. 101
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 本研究は、ユニバーサルデザインの視点から、家電製品の操作文字表示部分(操作パネル)に着目し、家庭でよく用いられる5つの家電製品(掃除機、洗濯機、電子レンジ、炊飯器、電気ポット)の操作パネルの見やすさについて分析し、見やすく使いやすい操作パネルを提案することを目的とする。【方法】 現在店頭で販売されている家電製品の操作パネルのデザインを分析するため、操作パネルの色、操作ボタンの色、文字の色をJISの標準色票を用いて測定し、文字の大きさをポイント数で測定した。さらに、デジタルカメラで操作パネル部分を撮影し、操作ボタンの配置などを調査した。また、見やすさ、使いやすさに関連する要素を抽出するため官能評価をおこない、レパートリーグリッド法で分析した。【結果】 操作パネル、操作ボタン、文字の色については、文字が見やすいように明度差がつけられたものが多く、ボタンの配置についても、主要ボタンを右側に置くといった配慮がされていた。また、色使いについては、家電製品の機能によってほぼ同じような色が使われており、機種ごとの違いはあまり認められなかった。操作パネルの見やすさ、使いやすさについては、ボタンが大きいこと、ひとつのボタンが1つの機能を表していることこと、「切」ボタンが目立つこと、などが重要であることが明らかとなった。
  • 三井 美恵子, 小八木 友子, 西田 誠男, 魚谷 修
    p. 102
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高度経済成長期に定着した「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識が希薄化し、「家庭のことは妻任せにせずに、夫婦で協力して行う」という共同運営意識が高まり始めている。(以下、共立意識と略称する)。そこで、今後の家事の方向性を探るため、共立意識が高い主婦のボリューム・家事の特徴について検討した。【方法】首都圏45歳以下の既婚女性329名を対象に、共立意識の強さ、就労状況、家事の分担などについて、インターネットによるアンケート調査を実施。家事に対する意識や実際の家事行動を詳細に把握するため、共立意識の高い主婦を対象とした座談会や家庭訪問も行った。【結果】共立意識は年代・結婚年数に関わらず万遍なく浸透し、共立意識の高い主婦が約4割も存在していた。共立意識の高い主婦は意識の低い主婦に比べると、家族の協力を得て家事の分担が進んでいるが、それでも家事の約8割を担っており、意識と実態に大きなズレがあった。また、「家族の協力を得て自分の家事分担量を減らしたい」という意向は、共立意識の高い主婦に強い。ここから、今後は家事の担い手が多様化する可能性があり、家事の初心者でも使いやすい日用雑貨品や、わかりやすい家事情報がより一層重要になってくると考えた。
  • ―帰国者への聞き取り調査に基づいて―
    三善 勝代
    p. 102
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    〔目的〕日本企業に勤務する夫の海外派遣に同行した妻たちのライフコースは、帰国者152名への質問票調査(2001年実施)で、そのワークライフの概況が明らかにされた。本研究の目的は、個々の就業経歴を把握すると共に、そうした来歴が刻まれるに至った背景を探ることである。〔方法〕質問票調査経由で応諾を得た55名に対し、2002年3月にヒアリングを実施した。対象者の要件は、質問票調査と同様、在外期間1年以上で帰国後1年から10年未満の人である。対象者の平均年齢は45.1歳で、最終学歴は大卒以上が7割に近く、最終滞在地域では北米が3割で最多。アジア、欧州がこれに次ぐ。夫の派遣元企業業種では製造業が約半数を占める。〔結果と考察〕(1) 帰国後の現在、仕事を持つ31名については、婚前と現在を結ぶ職の有無歴別で、「無職後初職」「再就職」「継続就業」の3グループに整理できた。 (2)その3グループのうち、該当数で最多の「再就職」グループは、初職断念の理由別で、さらに5つのサブグループ(群)に分けられた。 (3)各群における初職断念と再就職の経緯を吟味したところ、「結婚退職」群でこそ失職と復職の選択が主体的に行われたとは言い難いものの、他の4群においては、少なくとも結婚時点では、それ以降の就業継続が意図されていた。たとえば「妊娠退職」群では、妊娠による体調変化からの「やむを得ず退職」を再起の糧に替え、現在は市で唯一のポストに就いているケースが見られた。 (4)少数派の「無職後初職」グループには永年にわたる就労意欲の潜行が窺え、「継続就業」グループからは、夫に同行したとて必ずしも妻の失職が不可避ではないこと、しかしそれには、意欲と健康はもちろん、職種や就労形態の工夫などに留まらない条件が必要とされることが、汲み取れた。
  • 竹沢 純子
    p. 103
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
     1960年代半ば以降の離婚率上昇と連動し離婚理由(家庭裁判所への調停申し立て動機)で「性格の不一致」が上昇、70年代半ばに首位となり現在に至る。「性格の不一致で離婚する人が増えた結果離婚率が上昇」という因果の解釈が果たして統計的に正しい根拠に基づいているのかどうか、数字の出所である『司法統計年報』を中心に再検討を行った。分析の結果、司法統計における調査対象特性・バイアスの存在が明らかとなり、司法統計の数値をもって離婚理由の時系列変化を論じることの問題を指摘した。 結果としては、第一に、司法統計では、全離婚の約1割を占める家庭裁判所の手を経た離婚(審判離婚、調停離婚、協議離婚の届け出で調停成立したものも含む)に限定され、約9割を占める協議離婚は調査対象外である。家庭裁判所に離婚を申し立てるのは、婚姻期間の長い中高年割合が高く、離婚率上昇を引導してきた婚姻期間が短く協議離婚をする若年層の離婚理由の変化が司法統計の数値に反映されない。 第二に、申し立て趣旨別((1)離婚、(2)円満調整・夫婦同居、(3)生活費・婚姻費用分担・協力扶助の3分類。以下数字で表記)でみると、(1)離婚を申し立て趣旨とする割合は夫妻ともに増加、(2)は夫で半減、妻で1/3に減少、(3)では妻で倍増していた。こうした申し立て趣旨の変化が申し立て動機で「性格の不一致」を選択させる割合を高めてきたと考えられる。また離婚を申し立て趣旨とする約7-8割のうち調停の結果離婚で終結するのは約半数に過ぎず申し立て動機の数値は、約半数が離婚には至らないものの夫婦関係のトラブルを抱え調停を申し立てた離婚リスクの高い人を調査対象としていることに注意を要する。
  • 水崎 令子, 草野 篤子
    p. 103
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    〈目的〉 近年、高齢者夫婦のみ世帯や高齢者の一人暮らしの増加に伴い祖父母との交流が希薄化している。祖父母と孫の交流を推進する事は、孫側にとっては視野を広げる事となり、祖父母側にとっては生きがいのある生活の一助となる。そこで、双方がより良い交流を図っていくにあたり、その適切な時期と交流の質について研究する事を目的とする。 〈方法〉 2002年8、9月に、上田市内の4幼稚園から保護者を経由して祖父母へ質問紙を810票配布した。一定期間留め置き後452票(回収率55.8%)を回収し416票(有効率51.4%)の有効票を得た。又、同時期に74人に面接調査を行った。 〈結果〉 祖父母と孫の間で頻繁に交流を行っていた群は、交流理由として「楽しみで交流」(45.5%)を1番にあげ、「子守り」(11.6%)や「用事で」(33.3%)は次であった。また、交流の継続性について最も交流頻度の高かった子どもの年齢は、「3才から5才」が最も高かった。また、「思春期の孫の問題行動に責任を感じるか」については、全体では、59.1%が「多少は責任がある」と答え、「大いにある」と答えたものは17.6%であった。さらに、これは「居住距離」、「祖父母が生まれた年代」、「学歴」等によって差異がみられたが、「性差」はなかった。さらに、双方に有意義な交流とは「行ったり来たり」といった互いに訪問し合うという「相互性」が重要であることが、面接調査で明らかになった。
  • -奈良県における調査研究から-
    杉井 潤子 , 黒川 衣代
    p. 104
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】現代は高齢化の進行、少子化が著しい超高齢社会である。多世代の積極的共存・多世代間の自立と連帯を前提とした「世代間交流」の必要性が叫ばれている。そこで本研究では祖父母と孫との相互理解を深めるため、双方の認識を明らかにすることを目的として、小学生・中学生・高校生・大学生とその実祖父/祖母を対象とした調査を行ない、現代における祖父母と孫との関係性について祖父母と孫双方の認知とそのズレを実証的に検討した。【方法】調査は平成14年7~12月に奈良県内の小学5年生242名、中学2年生216名、高校2年生237名、大学生178名を対象に留置法により実施し、さらにその実祖父もしくは祖母を対象に調査依頼を行ない、郵送調査によって祖父母223名から回答を得た。本報告の分析対象者は孫と祖父/祖母双方から回答を得ることができた223組である。祖父母と孫との関係性は田畑らの孫・祖父母関係評価尺度(1996)をもとに、孫-親-祖父母というトライアドの関係性やネガティブな関係性などを把握する視点を加えた39項目(分析対象項目は双方に共通して尋ねた28項目)のほか、祖父母・孫に対するイメージ(SD法17項目)、祖父母と孫との交流実態、孫-親-祖父母の三者関係の良否の認知によって把握した。【結果】(1)孫のいだく祖父母イメージと祖父母のいだく孫イメージを比較したところ、総じて孫よりも祖父母のほうが相手に対してより肯定的イメージをもっていた。(2)祖父母と孫との具体的関係性について、孫の認知と祖父母の認知を比較したところ、祖父母が思っているよりも、孫のほうが祖父母によって助けられるなど心の支えとなっているとより強く思っていた。(3)孫-親-祖父母の三者関係の良否の認知では、祖父母よりも孫のほうが肯定的にとらえていた。
  • ―正月料理の変化を通した質的研究(5年後の追跡調査から)―
    塩谷 幸子
    p. 104
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的  1998年に正月料理の実施状況と継承意識について調査し、家族の食文化継承に影響する要因を抽出すると共に、食文化の継承に関わる世代間の関係について報告したが、5年後の2003年に追跡調査を実施し、その間の料理と継承意識の変化と家族関係の変化を検討することにより、食文化の継承と断絶に世代間の関係がどのように影響したのかを分析・考察した。方法  2002年8月から2003年の2月にかけて、1998年の調査と同一対象である都市部と漁村部の多世代同居50世帯ついて、質問紙と個別面接による正月料理の継承に関する調査を実施した。調査内容は、正月に各家庭で用意した料理品目と各世代の調理への参加状況、継承意識、食文化の背景となった家族関係・家族史等についてである。結果  質問紙調査の自由記述と個別面接による発話を分析した結果、料理の継承には、この5年間の家庭を取り巻く食環境の急激な変化や生活スタイルの多様化に加えて、各世帯のライフステージの変化や世代交代による影響が見られた。これらの変化は、家族の正月の食卓に対する意識や主調理者である母世代の正月料理の準備・調整に対する意識に大きく影響していた。2003年の調査では、世代交代やライフステージの変化をきっかけにして料理が断絶・簡略化した世帯と、世代交代したが、さらに継承意識が強まり料理品数が増えた世帯と、料理は簡略化したが、家族の食文化は継承したいとの意識を継承している世帯に分かれた。5年前の調査で食文化の断絶・不安定要因となっていた世代関係や家庭内役割への不満感などが、家族集団内の勢力関係の変化により表面化し、家族の食文化の継承に影響していることがうかがえた。
  • アンペイドワーク時間とペイドワーク時間の分析
    平田 道憲, 小林 智子
    p. 105
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的 本研究は共働き世帯と非共働き世帯の夫妻のワーク時間を比較することを目的とした。ワーク時間とは,アンペイドワーク時間およびペイドワーク時間を意味している。共働き世帯と非共働き世帯の夫,妻および夫妻合計のワーク時間を分析した。 方法 総務省統計局が実施した社会生活基本調査の2001年および1996年調査の結果を中心として分析した。ペイドワーク時間は同調査の仕事時間であり,アンペイドワーク時間は家事,介護・看護,育児,買い物,ボランティア活動・社会参加活動の合計である。 結果 (1) 2001年の社会生活基本調査によると,夫の週全体のアンペイドワーク時間は共働き世帯(夫有業妻有業)で31分,非共働き世帯(夫有業妻無業)で36分であり,共働き世帯のほうが短い。この結果は1976年の第一回調査から2001年の第六回調査まで一貫してみられている。1996年調査によって曜日別に比較しても,平日,土曜,日曜のすべてにおいて同様の結果がみられる。(2) 夫のペイドワーク時間を比較すると,共働き世帯7時間1分,非共働き世帯6時間51分であり,共働き世帯のほうが長い(2001年・週全体)。(3) 夫あるいは妻の個人のトータルワーク時間(アンペイドワーク時間+ペイドワーク時間)は共働き世帯の妻がもっとも長く,以下共働きの夫,非共働きの夫,非共働きの妻の順である。夫と妻のワーク時間を合計した世帯のトータルワーク時間は共働き世帯のほうが長い(2001年)。(4) 夫も妻も雇用者の世帯についてみると,妻の週間就業時間が長い方が夫のアンペイドワーク時間が長い(2001年)。(5) 夫無業の世帯についてみると,夫のアンペイドワーク時間は妻が有業か無業かによる違いがほとんどない(2001年)。
  • 家族類型別の視点からみた分析
    小林 智子, 平田道憲
    p. 105
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
     目的 本研究では報告その1に引き続き,共働き世帯と非共働き世帯の夫妻のワーク時間について,家族類型別の視点から分析した。子どもがいること,親と住むことが夫妻の生活に与える影響について考察した。 方法 報告その1と同じ 結果(1)共働き世帯の比率は,親と同居する家族類型の方が親と同居しない家族類型より高い。(2001年)(2)夫婦,子どもとひとり親からなる世帯を除く全世帯で,共働き世帯の夫より非共働き世帯の夫の方がアンペイドワーク時間が長い。共働きか否かに関わらず,子どもがいると夫のアンペイドワーク時間が長くなっている。(2001年)(3)夫のペイドワーク時間をみると共働き世帯の方が長い場合と非共働き世帯の方が長い場合がある。子どもがいると,非共働き世帯の夫の方がペイドワーク時間が長くなり,その結果,非共働きで子どもがいる世帯の夫はトータルワーク時間が長くなっていた。(2001年)(4)親と住むことにより,共働き世帯の妻はペイドワーク時間が長くなり,アンペイドワーク時間が短くなる。一方,非共働き世帯の場合には親と住むことでアンペイドワーク時間が長くなっている。(2001年)(5)世帯トータルワーク時間がもっとも長いのは,共働きか否かに関らず,夫婦,子どもと両親からなる世帯であった。(2001年)(6)妻のアンペイドワーク時間は共働きか否かに関らず,妻の親と暮らすより夫の親と暮らす方が長くなる傾向にある。共働き世帯の場合にはペイドワーク時間も夫の親と暮らす方が長いので,共働きで夫の親と同居している妻はトータルワーク時間が長くなっていた。(1996年)
  • 瀬沼 頼子, 粕谷 美砂子, 天野 寛子, 伊藤 セツ
    p. 106
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的:日本家政学会第53、54回大会での研究発表に継続し報告する。IT社会の到来は、家庭へのインターネット普及を増大させ、戸内生活時間の増加につながることが予測されるが、家族のコミュニケーションをどこで図るかという問題もある。一方、高齢社会では、社会参加や地域活動、近隣の人々との交流が大切となり、これは主に戸外での生活時間の過ごし方に関わってくる。そこで、本報告では戸内・戸外別に夫妻の生活時間分析を行い、夫妻の生活実態を場所と行動の関係から明らかにしていくことを目的とする。方法:2000年東京都世田谷で実施した夫妻の生活時間調査データを戸内と戸外の生活時間別に分類し、妻の職の有無就労形態別に集計と分析を行った。結果:夫妻の平日の戸内・戸外別の1日の生活時間は、夫全体平均、戸内10時間53分、戸外13時間7分であった。妻の就業形態別にみると、常勤妻の場合、戸内13時間11分、戸外10時間49分と、常勤で働いていても夫妻差が大きかった。妻の間では、妻常勤パート・無職の順に、戸内で過ごす時間が増え、戸外で過ごす時間は著しく減少する。個人差の大きい休日も含め、それぞれの場所での生活行動は、家族関係・地域活動・近隣関係を反映することが示された。
  • ―総務庁「社会生活基本調査」ミクロデータを活用して―
    大竹 美登利
    p. 106
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的:伝統的な性役割分業の様相は仕事と家事・介護の時間配分に端的に現れ、また個々人の時間配分は生活の単位である世帯の諸相に影響される。これまで政府統計では世帯単位での生活時間分析が充分できなかったが、この度ミクロデータ活用の機会が与えられたので、政府統計データを世帯単位で分析することを本研究の目的とした。方法:1991年,1996年の社会生活基本調査のリサンプリングデータを使用し、夫と妻の就業状況から世帯を12に分類し、夫婦のみ、夫婦と子、夫婦と子と両親などの世帯類型別に、世帯主、配偶者、子ども、父母など、全ての世帯員の集計を行った。結果及び考察:雇用労働者夫妻の大竹らの調査分析と同様の結果の他、これまで明かでなかった次のことが見いだされた。(1)妻が常勤の世帯で比較すると、夫が自営より雇用者の方が家事・介護時間が長い。(2)妻の就業状況に関わりなく高齢になると妻の家事時間は減少し夫は増加する。(3)6歳未満の子のいない世帯の夫の家事・介護時間は、妻無職の世帯で長く、パートで短いが、妻常勤が必ずしも最長ではなく、子どもの居る世帯とその動向は相違している。(4)子どもの家事・介護時間に性差はあるが、夫雇用妻常勤、夫自営妻常勤の世帯で長く、妻が常勤の世帯の子どもの家事参加が高い。(5)親と同居の世帯では、夫雇用妻無職の世帯の妻の介護・看護時間が非常に長い。(6)夫雇用世帯では親と同居の世帯の妻の家事時間は、核家族世帯より長く、また母親の家事時間も長く、共働きが親に家事の依存をしているとは言えなかった。
  • -男女同一価値労働・同一賃金をあてはめた試算-
    角間(土田) 陽子, 加藤 千代, 草野 篤子
    p. 107
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    <目的> 第4回国連世界女性会議における行動綱領を受けて旧経済企画庁が実施した機会費用法による無償労働の貨幣評価は,「年齢別・性別」の賃金が用いられているために無償労働を担当する者の性別により評価額が異なる。本研究では無償労働を性別で価値の変化しないものとしてとらえるために,賃金データを男女同額として計上した。<方法> 旧経企庁がその後実施した第二回報告書での機会費用法による無償労働の貨幣評価に基づき,対象となった賃金データを「年齢別・性別」から「年齢別・男性賃金」に入力し直して計算した。<結果・考察> 女性に対する旧経企庁と本研究の試算結果を比較すると,就業や配偶者の有無といった属性に関わりなく,男性の賃金データにより試算した本研究での評価額が高いことが明らかとなった。また,対象となった無償労働の行動内容においても,男性より女性の評価額の方が高い結果となった。旧経企庁の貨幣評価では,賃金データにおいて男女による格差が既に存在しており,男性の方が高くなっているため,無償労働の性別によるアンバランスが不明確であったが,本研究結果ではその差がより顕著となった。日本における無償労働のより実態にあった評価方法の開発や生活時間の詳細な調査が実施され,その結果を具体的なシステムの実現に反映させるための政策化が推進されるとともに,性別や年齢に関わりなく,各々のライフスタイルにおける無償労働と有償労働との配分を選択可能とするために必要な,現在の性別による両労働のアンバランス及びその是正に向けての具体的な制度の実現が重要である。
  • 天野 晴子, 斎藤 悦子, 松葉口 玲子, 伊藤 純, 伊藤 セツ
    p. 107
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的 育児・介護をはじめさまざまな場面で生活の社会化が進展する中で、国際的にもアンペイド・ワークである家事労働や社会的活動の評価が注目されている。本報告は、ペイド・ワークとアンペイド・ワークの交錯に注目し、単純な時間的・金銭的比較や対比を超えたアンペイド・ワークの評価ファクターを用い、貨幣評価の客観的根拠を提示しようとするものである。方法 男女の賃金格差を是正するために開発されているペイ・エクイティのための職務評価手法を参考に、アンペイド・ワークの評価ファクターとして「知識・技能」「責任」「判断力と観察力」「精神的負担」「肉体的負担」の5つを設定した。調査は、世田谷区在住の雇用労働者夫妻を対象とした生活時間調査付帯アンケート(2000年10月)において行い、アンペイド・ワーク関連の諸行動について対象者がそれぞれ5つのファクターごとに評価したデータをもとに、分析を行った。結果 全体では「家族の世話・介護」「育児・教育」「地域の高齢者や病人の世話」の評価点が高く、夫と妻の平均では全ての活動項目とも夫より妻が高く評価していた。妻の中ではほとんどの活動項目について無職の妻の評価点が高く、夫の中では妻が常勤で働く夫の評価点が高い傾向にあった。アンペイド・ワークの貨幣評価で用いられてきた市場賃金とは異なる結果が示され、介護保険の報酬単価をめぐる議論にも新たな評価の基準を示す可能性が提示された。今後、さらにアンペイド・ワークの公正な測定評価ファクターの開発が必要であることが明らかになった。
  • ―戦後の民法改正とGHQ―
    梅木 夏子, 草野 篤子
    p. 108
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】明治時代の日本女性は法的無能力者として位置付けられていたが,戦後GHQによる占領を機に基本的人権の尊重が確立し,女性にも男性と同等の権利が与えられた。しかし,現在でも性別役割分業,婚姻による氏の改称など様々な場において男女同権とは言えない状態が続いている。明治時代に成立した「家」制度が今でも人々の意識に残存している。そこで本研究では「家」制度廃止に伴い女性の法的地位が向上したその過程においてGHQが果した役割と問題点を研究した。【方法】主として我妻栄編(1956)『戦後における民法改正の経過』(日本評論新社)に記録された民法改正に対する証言,GHQ/SCAP Records(RG331,National Archives and Records Service) Description of contents Box No5246等の資料を用い分析・考察を行った。【結果】明治民法は封建社会においては個対個であった忠孝精神を日本の天皇制を支える「家」対天皇という基本的社会基盤にまで浸透させた。それゆえ女性は男尊女卑という性差別に加え,「家」による支配という二重の桎梏を受けるようになった。戦後,GHQの初期占領政策により「家」制度は法律上廃止され,それに伴う女性の地位向上についてはGHQ初期の民生局(GS)に属したアルフレッド・オプラーや,民間情報教育局(CIE)のエセル・B・ウィード中尉をはじめとするGHQのリベラル派の関与が大きく影響している。GHQは川島武宜らの進歩的な日本人と協力体制を築き,日本女性をバックアップした。またウィードは日本全国をまわり女性への啓蒙活動を行った。日本女性は「家」制度の支配からは解放されたが,しかし性差別概念は払拭されていない。その理由として民法改正は占領政策を契機として日本のトップ・グループによる改革であったこと,民衆に対する啓蒙活動の対象は婦人団体等に属する女性に限られ,一般民衆までには浸透しなかったことが推測された。
  • -女性の性的自己決定権の視点から-
    藤本 この美, 草野 篤子
    p. 108
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】日清・日露戦争期から日本内外の軍隊買春は拡大し、日中戦争の頃には軍そのものが戦場に「慰安所」を設置し、「慰安婦」を従軍させるといった「軍隊慰安婦」政策が実行された。政府はこれまで慰安所への関与は認めているものの、あくまで業者の経営によるものと主体性を否定している。そこで本研究では、公文書から当時の政府や軍の主体的関与を明らかにし、同時にこの問題を日本軍隊の特殊性や植民地支配のあり方、様々な人権差別が交錯した問題として捉え、慰安婦制度を生んだ社会的背景を考察する。【方法】朱徳蘭編『台湾慰安婦関係資料集』(不二出版、2001年)を用いて、公文書から軍や政府の主体的関与を探し出す。また、藤目ゆき氏の研究を参考に「性」・「階級」・「民族」という視点から、基本的人権をキーワードに論述する。【結果】台湾における慰安婦徴集・送出には「軍→内務省→台湾総督府→州知事・庁長→郡守・警察署長→業者」、海南島における慰安所の建設・経営には「軍→台湾総督府→台湾拓殖株式会社→福大公司→業者」といった組織の存在が明らかとなった。軍や政府の主体的関与が認められ、同時に半官半民の台湾拓殖株式会社の関与、さらにそれを隠蔽するため福大公司という子会社をトンネルとして融資をした事実も判明した。また社会的背景としては、天皇制国家・家父長制社会・差別社会の存在があったと考察される。女性は男によって「モノ」化され、天皇には侵略戦争のための「コマ」として扱われ、差別によって意思を遮断されたのである。今後女性の性の蹂躙をなくすためには、女性が自分の生き方と性のあり方を自分で決定できるような社会の土壌をつくっていくことが重要である。
  • ―農業生産者アンケート調査からの検討―
    青谷 実知代, 森 美春, 下村 静穂, 加藤 敦子, 長嶋 俊介
    p. 109
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】将来にわたり消費者・生活者に顔の見える関係で、安全・安心・新鮮な「食」が安定的に供給されるためには生産者と相互関係的に結ばれ共生・共創していくことが望まれる。そこで生産者側の論理と消費者志向の農家育成に関するプロセスを、調査を基に明らかにする。【方法】2002年8月~10月。N県内の農業大学校卒業生1000名とN県の農業者150名を対象に郵送配布同回収のアンケート調査を実施した。就農プロセス・家族経営の在り方、消費者意識・食農教育・環境意識・生産者責任・情報提供力等の項目を設定した。有効回収票は260票で、有効回収率は22.6%であった。なお、解析にはSPSS統計プログラムを使用した。【結果】農業者の経験年数により、主体形成のあり方が異なる。就農5年未満の者は職業を継続する内的要因として必要である「生き物を育てるおもしろさ」を重視している。5年以上経過すると自然環境、農産物、生命、家族・地域の仲間、ビジネスを重要視し広がりが見え食農教育志向が高まる。15年以上の経験年数になるとトータルなおもしろさを伴いながら、農そのものに対する理解が深まり、かつ外的要因にも目を向けられるようになる。農業観を問う項目から対象者を「高おもしろさ・高成果群」「高成果・低おもしろさ群」「高おもしろさ・低成果群」「低おもしろさ・低成果群」の4つの群に分類し、自己実現度を分析した結果、性別や子どもの頃の過ごし方には差が見られなかったが、年齢とともに自己実現度が高まっている。また、女性経営者は特有の「自身消費者認識」を基礎にした、対消費者提案力・作物育成観が存在し、またその年齢的な成熟変化も見受けられた。
  • 梶原 彩子, 草野 篤子
    p. 109
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的 1995年の農水省による「家族経営協定の普及推進による家族農業経営の近代化について」通達により、家族経営協定は政策の中に位置づけられ、長野県においても2003年現在、家族経営協定締結農家は1,416組が誕生している。しかし一方で、家族経営協定に対して「知らない」「必要ない」と考えている農業者が多いことも事実である。そこで本研究では、家族経営協定締結の動機・家族経営協定の実際等を明らかとすると共に、今後、家族経営協定未締結農家に対する有効なアプローチを考察する。方法 2002年11月下旬に長野県小川村の家族経営協定締結者30人に配票調査・インタビュー調査を行なった。結果 小川村における家族経営協定締結者は、農業改良普及センターのすすめで協定を締結している者が多かった。発案者は大半の場合女性である。協定の効果については、全体的に経営面に関する変化は少なく、生活に関する変化や後継者との関係の変化に言及した者が多かった。
  • ガンガ 伸子
    p. 110
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
     目的 目的は、最近の食料消費行動をAIDS(Almost Ideal Demand System)によって明らかにすることである。これまで、各食料項目の単一需要方程式の推計からのアプローチが多くなされてきたが、需要体系によって、食料の項目間の代替・補完関係をとらえるものはあまりなかった。最近の食料消費の最も顕著な変化は、食生活の外部化と呼ばれる消費形態の変化の変化であることからも、単一方程式に代わる需要体系分析法を用いて食料項目間の関連性を検討することが有効であると思われる。 方法 (1)式に示すように地方ダミーを取り入れたAIDSモデルを採用した。          wi=αiγijlnpj+βiln(X/P)+ΣdiD+ei          (1)ただし、wii項目の支出比率、pii項目の価格、Xは1人当たりの総食料支出、PはStone価格指数、Dは地方ダミー(κ=1,2,・・・,9)、eiは誤差項である。αi,βi,γi,diは推定すべきパラメータである。添字ijは食料項目を示す。この需要体系において、以下に示す需要理論で要請される一般的な制約条件(収支均等、同次性、対称性)がパラメータの制約式として課せられる。計測期間は、1990~1995年と1996~2001年の2期に分けて行い、比較した。また、データは、総務省統計局『家計調査年報』(1995~2001年)の地方別の年平均1か月の支出(勤労者世帯)を用いた。 結果 1990~1995年よりも1996~2001年のほうが、多くの項目において支出弾力性が高くなった。また、各食料項目間の代替関係・補完関係が確認できた。
  • ―若者にとっての「食」―
    佐藤 真弓, 神部 順子, 長嶋 雲兵
    p. 110
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    目的 日々の生活行動において、日常的な「食べること」がどういう意味を持つのかを、1日分の食事について、その実態と意識を統計的に解析することを目的とする。今回は若者に対象を定めた。これは、それぞれの食事が単に「食べる」行為のみに注目することで終わるのではなく、これからの家事サービスの方向性を占う意味も持つことによる。今回は専門学校に通う学生と大学生の調査結果を報告する。 方法 学生にとっての「食べること」について、ごく最近食べた1日分の食事についてそれぞれの調達方法、誰と食べたか、そしてそれを食べるときの気持ちを聞いた。食べるときの気持ちについてはSD法を用いた。質問には15種類の形容詞対を用い、それぞれに対して5段階評価をすることにした。データを因子分析法で解析することにより、若者にとっての「食べること」の印象を代表するキーワードを決定する。また、調達方法や、誰と食べたかといった実態と「食べること」に対する意識の相関をみていく。 結果 学生は「食べること」に対して、概ね非常に積極的な評価を持っていることが判った。しかし、専門学校の学生における昼食に関しては、他の食事とは異なる傾向の積極的な評価を得たと理解した。これは教室でクラス毎に仲間と一緒に食べるというこの学校における学生達の事情が何らかの影響を与えたかもしれない。
  • 飯村 しのぶ
    p. 111
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    【目的】戦後のインフレが一段落し、国民生活にも安定の兆しが見られるようになった昭和20年代後半、北海道の家計状況が全国に比較しどのような水準にあったのか。総理府「家計調査」で収支両面調査が行われるようになったのは昭和25年9月以降であるが、地域別結果は明らかではない。ここでは当時の北海道民の生活の基本となる賃金水準及び家計収入の実態とそこにみられた地域性について報告する。【方法】昭和28年発行「北海道生活白書」(第1回)を主な資料として、当時の北海道における産業構造の特徴と賃金水準、及び勤労者世帯の家計収入の状況について全国平均と比較考察した。【結果】昭和26年における北海道の賃金水準は、全産業平均で全国水準を1割前後上回っていた。これは道内産業のうち主に鉱工業の賃金水準の高さによるもので、当時産業間の賃金格差は大きく、また基本給の割合が低く賃金が生活給的な決まり方をしているといった特徴がみられた。日常生活の基盤となる家計収入についてみると、昭和26年6月では21679円(全国=100に対し92.0)で、全国の9割程度と下回っていた。これに対し8,9,10月の夏場の3ヶ月間は地域生活の特殊性にもとづく寒冷地石炭手当の支給により全国の収入水準を1割程度上回った。しかし、寒冷地給の支給平均額は、北海道における燃料の消費実態からすると不足し、家計への圧迫は大きかった。こうした収入水準が終戦後の物価高と相まって家計支出にも影響を与え、生活困窮をもたらしていた。
  • -心療内科受診患者を事例として-
    岡島 史佳, 内田 栄一
    p. 111
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/25
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    目的 医療は経済学的にみればサービスという財であるが他のサービスとは異なる特性がある。このため,医療消費者の権利も他のサービスに対する消費者の権利とは同様に考えにくい部分が存在する。本研究では医療消費者の基本的ニーズが満たされるプロセスが複雑であったために数ヶ所の医療機関を訪れた症例を基に,医療消費者の権利の特性を検討する。方法 国際消費者機構が定めた消費者の8つの権利が本症例において保障されていたかを検討した。本症例の概要は以下のとおりである。28歳女性。家事手伝い。2001年春頃より顎,目,頬に痛みを感じたため,眼科,耳鼻科を受診するも異常はみとめられなかった。その後,口腔外科,歯科にて治療を受けたが痛みは消えなかった。この為2002年4月に歯科医師とリエゾン診療を行っている心療内科を受診。心身医学療法と平行した歯科治療により痛みが軽快した。結果 本症例では「痛みをなくして欲しい」という基本的ニーズは必ずしも保障されていたわけではなかった。医療の効用は不確実であるという特性に由来すると考えられる。口腔外科,歯科で治療を受けても痛みは軽快せず,その理由について情報=説明が与えられる権利も必ずしも保障されていたわけではなかった。この症例の家族はインターネットの情報をたよりに「消費者教育を受け」,医療を「選択」した。医療には情報の非対称性はあるものの,近年インフォームドコンセントの意識の高まり,情報の多様化,および疾病構造の変化を背景とし情報を収集し自己決定する権利は保障される方向に向かっていると考えられる。
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