一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
60回大会(2008年)
選択された号の論文の356件中101~150を表示しています
2日目口頭発表
  • 村田 順子, 田中 智子
    セッションID: 2H13
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的<B/> 近年、要介護状態になっても地域の中で暮らし続けることが求められ、制度的な整備も進められつつある。しかし、従来の介護保険制度サービスの提供のあり方では、要介護期の高齢者の在宅生活継続を支えていくことは難しい。本研究は、高齢者が要介護期にも安心して在宅生活を続けていくために必要な地域ケアのあり方について明らかにすることを目的とし、その1では高齢者の在宅生活を支える地域づくりに取り組んでいる事例について報告する。
    方法<B/> 2007年8月、11月に高齢者の在宅生活を支援している宅老所2ヶ所を訪問し、地域で暮らす高齢者の生活を支援する取り組みについて施設関係者に対しヒアリング調査を実施した。
    結果<B/> 地域に暮らす高齢者の生活を支えるためには一つの事業所で出来ることには限界があるという考えから、家族、地域の事業所、地域住民が連携することにより、高齢者本人および介護する家族が安心感を持って在宅生活を継続できている。在宅生活の継続を可能にするには、住み続けられる住宅があること(居住の安定)、生活を成り立たせる適切な支援があること(日常生活の安定)、経済的基盤の確立(経済的安定)が必要であるが、今回の調査から不安感の払拭という精神的な安定が重要なファクターの一つであることがわかった。宅老所の取り組みは、人と人のつながりにより日常生活の安定を生み出し、不安感を払拭している。目に見えない「安心感」をいかに生み出していくかが、地域での在宅生活の継続を考える際の大きな課題であろう。
  • 田中 智子, 村田 順子
    セッションID: 2H14
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的<B/> その2では、高齢者の在宅生活を支えるために多様なサービスを提供する組織づくりに取り組んでいる事例について報告する。
    方法<B/> 2007年8月、11月に7ヶ所の宅老所、介護保険事業、ホームヘルパーによる家事援助、365日の配食サービスなど多様な高齢者支援サービスを実施しているNPO法人を訪問し、その取り組みについて代表者および関係者に対しヒアリング調査を実施した。
    結果<B/> 1994年に「困ったときはお互い様」を合い言葉にボランティアで開始した事業が、しだいに地域の人に認識されるようになり、住宅を安い家賃で提供する家主が次々と現れ、現在7ヶ所の宅老所を運営している。このNPO法人の特徴は、まず第一に、その地域で必要とされているにもかかわらず、行政や福祉の分野でとりこぼされている支援に応えようと事業を拡大してきていることであり、(1)高齢者支援に限らず、育児支援、障害者・障害児支援も実施していること、(2)地域のニーズに合わせ、老人会の元気デイや昼食会、障害児のデイ、子どもから高齢者まで対象者を限定しない多世代型など多様なサービスを実施していることである。第二に、ここから派生した宅老所のほか、他の事業所の宅老所の立ち上げを手伝うなど、宅老所を増やしていくこと、またそれらの宅老所の連絡会を設立し、宅老所全体の質の向上に務めていることであり、一事業所に止まらず、県全体の高齢者支援を充実させていっている点である。これらのことから、困ったときには相談、支援を受けられるかけこみ寺として地域の人々に広く認識され、「安心感」を与える存在になっている。
  • 清水 陽子, 中山 徹
    セッションID: 2H15
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的・方法
    本研究は、中心市街に居住する大学生をどのようにすれば地域コミュニティに参加させることができるのかを調査したものである。地域住民として大学周辺の自治会会長106名にアンケートによる調査を行い、78名(回収率73.6%)から回答を得た。また、進学のために奈良に来た学生を対象としたため、大学の寮に住む学生(149名)と、下宿生(101名)からもアンケートの回答を得た。調査時期は2007年12月である。
    結果
    調査より、自治会長の84%は現在の住まいに20年以上居住しているが、大学生との接点は「全くない」という回答が70%となった。また、下宿する大学生を自治会の加入対象としている自治会は合わせて59%あるが、そのうち32%は「大家が一括して加入」することになっていた。また、「自治会の加入対象とならない」という回答も25%あり、自治会と学生が交流を持てない状況であることも分かった。しかし、自治会の活動に大学生が参加することに対し「とても良いことだ」という回答が35%、「きちんとやってくれるなら良い」という回答が45%であり、受け入れる意思があることも明らかになった。
    また、学生を対象とした調査から、地域活動について見てみると、寮生・下宿生とも今の地域での活動にはほとんど参加できていないが、実家のある地元では地域の清掃活動や回覧板、お祭り、運動会と様々な行事参加をしている。また、今の地域でもお祭りなどの行事には寮生の53%、下宿生では91%が参加したいと回答している。
    今の状況ではお互いにその存在を意識しながらも、コミュニケーションがとれていないことが明らかになった。地域の活動の情報をもっと学生にも周知できるような仕組みや、学生も積極的に地域と関わる機会を作るべきである。
  • -三重県鈴鹿市を事例として-
    天野 圭子, 中山 徹
    セッションID: 2H16
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 近年、モータリゼーションの発展により公共交通利用者が減少する中で、公的な移動手段の維持や確保が難しくなってきている。こうした背景の元、今後さらなる少子高齢化の進行も迎え、自動車を利用できない層にとっての移動手段として、市町村が中心となり行政の予算で運行するコミュニティバスの導入が全国的に広がっている。しかしながら、コミュニティバスの運行意図の主な部分として廃止路線の代替があげられるようにその利用の少なさや、加えて低料金設定もあり多くの自治体では赤字運行となっている。厳しい財政状況の中でも住民の交通に対するニーズに応えるためには、その効果を明らかにする必要がある。本研究では高校生におけるコミュニティバスの通学利用に対する意識を把握することを目的とする。
    方法 三重県鈴鹿市内のコミュニティバス路線沿線の高校2校を対象に通学時におけるコミュニティバス利用に関するアンケート調査を実施。調査時期は2007年12月。配布・回収は各高校を通して行い、配布数800票、うち回答数614票(回収率76.8%)である。
    結果 利用状況としては、毎日の利用よりも雨天時や家族の送迎が難しい場合における利用が多く、コミュニティバスの運行によって通学時間の短縮が図られたという意見もみられる。また、利用していない場合の主な要因は、自宅近くにバス停がないことが最も多いが、現在利用していなくとも運行状況が改善された場合、積極的に、もしくは、機会があれば利用したいという回答は半数以上に上った。しかしながら、運行自体を知らないという回答も多数あり運行周知の徹底も求められる。
  • 中山 節子, 大竹 美登利
    セッションID: 2I1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的: 我々は、2005年11月に実施したタイ生活時間調査を実施し、バンコックの都市部に住む男女のペイドワーク、アンペイドワーク時間の相違を明らかにした。本報告では、このデータを更に、年齢階層別、家族形態別、既婚未婚別、就業未就業別、収入階層別に分析することで、タイ政府調査などで明らかにできない、個々の属性による生活時間の相違を分析し、タイの生活時間における問題を明らかにする。
    方法: 分析データには、Kulkanit Rashainbunyawat(Kasetsart University)らを中心とするタイの調査チームとともに行った生活時間調査の結果を用いた。サンプル数は、平日1164、土曜1217、休日1164である。
    結果:年齢階層別では、雇用における仕事時間は男女において差が見られず、男女ともに41~50歳が最も長い。家事・育児などのアンペイドワークは男女差があり、男女ともに60歳以上の家事時間が最も長い。家族形態別にみると、子どもの有無により男性はペイドワーク時間に大きな違いは見られないが、女性は違いが見られた。また、子どもの有無により、育児時間を除く家事時間に大きな男女差があった。これは既婚未婚別においても、同様の傾向が見られた。就業未就業別では、就業者は、雇用における仕事時間や宗教活動などの時間において男女差はみられないが、家事時間、社会的文化的時間に男女の差が見られた。収入階層別では、男性は収入が高い方がペイドワーク時間も長いが、女性は必ずしもそうではない。男女ともに収入の高い方が家事時間は短い結果であった。 
  • 2006年調査多摩ニュータウン生活時間調査による分析
    大竹 美登利
    セッションID: 2I2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的:男女の社会経済的な貢献の相違は、第1義的にペイドワークとアンペイドワークへの関わり方の相違にあるといえる。北京世界女性会議の行動綱領を受けて、女性の経済的貢献を把握するための生活時間調査比較の必要性が強調され、発展途上国や経済中進国ではインフォーマルな労働がアンペイドワークに組み込まれやすい問題が指摘された。そこで、どのような行動がアンペイドワークとなるのかを、その社会的背景が理解しやすい日本の生活時間のデータから明らかにすることとした。
    方法:2006年9月~11月に、多摩ニュータウン在住世帯員に、平日、土曜、休日の3日間の生活時間調査とアンケート調査を実施した。生活時間調査はアフターコードの日記形式とし、24時間を10分刻みで、主な行動とながらの行動、それぞれについて、ペイドワークかアンペイドワークか、一緒にいた人、行動の場所、誰のために行ったか、を尋ねた。調査対象者は、世帯構成、就業状況、子どもの年齢などを加味し、それらの世帯が一定数得られるように、ニュータウンのコミュニティ誌の読者を中心に375世帯に依頼した。回収世帯数は197世帯、有効回答数は184世帯、517人である。回答者は0歳から80歳までであるが、本報告では20歳以上を分析の対象とした。
    結果:男女別では、女性の報が男性より、アンペイドワークの時間が長い。また、平日より休日で、年齢が高い程、さらに有業者よりも無業者の方がアンペイドワークの時間が長い。有業者では、収入のための労働時間のなかでもその一部にアンペイドワークとなる時間がある一方、無業者では家事的生活時間やボランティア時間などでペイドワークである時間があり、日本でも、収入労働時間がペイドワーク、その他がアンペイドワークにきれいに2分されるとは限らなかった。
  • 貴志 倫子, 平田 道憲
    セッションID: 2I3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究は,高校生とその親の生活時間から,高校生の家事労働への関わりの特徴を明らかにすることを目的とした。
    【方法】分析には,総務省統計局が実施した2001年「社会生活基本調査」を使用した。目的外使用申請によって集計された結果を加工し,核家族世帯の高校生と父母の三者の家事労働を相互にとらえる世帯データについて検討した。
    【結果】(1)週平均の母親の家事労働時間は259分,父親12分,高校生の子ども6分であり,高校生の家事時間は,平日,土曜,日曜のいずれにおいても父親より少ない。(2)同一世帯の母親,父親,高校生の子どもの三者の家事労働時間の有無をパタン化した結果,76.4%の世帯で母親のみ家事労働を行っており,三者とも家事労働時間があったのは,わずか2.1%であった。(3)三者の家事時間を合計したものを世帯の総家事労働時間ととらえ,三者の家事時間の有無のパタンでみたところ,三者とも家事をしていた世帯の総家事時間の平均がもっとも長く,以後,父母のみ,母子のみ,母のみの順であった。(4)パタン別に,母親,父親,子どもそれぞれの家事労働時間を分析した結果,母の家事労働時間は,父親,子どもの家事の有無で変化はみられず,父子の家事労働時間が,母親の家事労働を短くしているわけではない。子どもの家事労働時間は,父親が家事労働をしていない場合より,家事をしている場合のほうが,長い傾向がみられた。一方,父親の家事労働時間には子どもの家事の有無による明確な傾向はみられなかった。 
  • 遠藤 理恵, 平田 道憲
    セッションID: 2I4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]障害のある児童生徒の通常学期中の学校休業日と長期休業中の生活時間を比較し,学校休業日の特徴を明らかにすることを目的とした。
    [方法]広島県在住の障害のある児童生徒を対象とする生活時間調査を実施した。調査期間は2004年11月から2005年10月までで,通常学期中と長期休業中の平日と土曜の生活時間の記録と付随する質問紙への回答を得た。配布数104部,有効回答数は通常学期中平日と土曜各44部(42.3%),長期休業中平日38部(36.5%)土曜39部(37.5%)であった。
    [結果]行動別平均時間量の比較において,学校教育のある「通常学期中の平日」と,学校教育のない「通常学期中の土曜および長期休業中の平日・土曜」との比較では,いずれも有意差のある項目が多く見られた。通常学期中の土曜および長期休業中の平日・土曜の3日間の比較においては,時間使用に大きな差が見られる項目は少なかった。時間使用差の少ないこれら3種類の学校休業日を比較すると,中分類項目で15分以上の差が見られた主な項目は「睡眠」(通常土曜10時間2分,長期平日9時間45分,長期土曜9時間20分:以下同順に活動時間を記載した),「移動」(1時間49分,1時間14分,1時間38分),「付き添われて出かける行動」(1時間17分,48分,1時間10分),「会話・接触」(21分,58分,38分),「社交・交際」(19分,1時間13分,31分),「テレビ」(2時間1分,1時間34分,1時間44分)などがあげられる。この違いの生じる主な要因として,父親がどのように関ることができるかに因ること,また平日には母親が子どもの生活に社会的な関りが少しでも増えるように配慮していることに因ると考えられた。
  • 大町 一磨, ガンガ 伸子
    セッションID: 2I5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 現在、わが国はフードシステムの発展により、多種類の食品を誰もが場所を選ばず容易に手に入れることが可能になった。食生活の外部化・簡便化も著しく進展した。このように便利でバラエティに富んだ食生活を享受することが可能となった一方で、栄養面や食習慣の変化により様々な問題が生じている。そこで、本研究では、総務省統計局「家計調査」など統計資料の分析から、わが国の食生活の変化とその特徴を示す。次に、その変化が子どもの食生活に及ぼした影響、および身体状況の変化について解析した。それらの結果をもとに、今後の食育を考える上での課題を提示する。
    方法 総務省統計局「家計調査」や農林水産省「食料需給表」のデータを用いて、わが国の食料消費の変化とその特徴を示す。次に、厚生労働省「国民健康・栄養調査」や文部科学省「学校保健調査」の資料から、その期間における子どもの食生活や身体状況の変化と現状、また食料消費の変化が子どもへ及ぼした影響について考察する。さらに、これまでの子どもの身体状況の変化に一定の傾向がみられるかどうか回帰式を推計し、回帰式の結果から、将来の子どもの身体状況の方向性について予測を行う。
    結果 日本の食料消費の変化とともに、肥満傾向児の増加など子どもの身体の状況や食習慣において様々な問題が発生していることが明確になった。また、現在の食生活が維持されると仮定した場合、今後の傾向として子どもの平均体重が増加し、肥満傾向児の出現率が高くなることが予測された。これらの結果から、今後の食育を考える上で、いくつかの課題を提示する。
  • ガンガ 伸子
    セッションID: 2I6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 近年、BSEや鳥インフルエンザ発生、食肉偽装事件など消費者の食の安全性に対する信頼は大きく揺らいでおり、それらの影響を受けて家計の生鮮肉(牛肉、豚肉、鶏肉)の消費行動にも変化がみられる。そこで、農林水産省「食料需給表」や総務省統計局「家計調査」の統計資料などを用いて、最近の家計の生鮮肉消費の変化とその特徴について明らかにすることとした。現在では、食の外部化・高級化が著しく進展しているため、本研究では、1)家庭内・家庭外消費別の消費量の変化、2)消費者の品質に対する反応の両面から分析を行った。
    方法 1)農林水産省「食料需給表」と総務省統計局「家計調査」の統計資料を用いて、生鮮肉消費のうち、どれだけが家庭内で消費され、またどれだけが家庭外で消費されているかを推計し、生鮮肉消費における外部化の実態を示す。2)総務庁統計局「家計調査」の月別の全国・全世帯の品目別のデータを用いて、1998年以降の生鮮肉の支出金額および購入単価の所得弾力性を推計し、その変化から消費行動の変化を明らかにする。
    結果生鮮肉消費において、家庭外消費が伸びる一方で、家庭内消費の割合は減少し、外部化が著しく進展していた。現在では、牛肉、豚肉、鶏肉のいずれにおいても、家庭内消費よりも家庭外の消費が多くなっている。また、近年のBSE等の食の安全性を脅かす出来事があってからは、家庭内消費の割合が大きくなるなど、それ以前と異なる傾向を示した。生鮮肉の支出金額および購入単価の所得弾力性からも、200-2003年は牛肉の購入単価の支出弾力性が高くなっており、国産志向を反映して高品質化傾向を示すという消費行動の変化の特徴がみられた。 
  • 豊かさ感に焦点をあてて
    近藤 美紀, 中森 千佳子
    セッションID: 2I7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】持続可能な社会の実現に向けて、ライフスタイルの転換が世界的な課題となっている。この課題の本質的な解決のためには、質的な豊かさを重視する豊かさ感の形成が必要と考える。そこで、本研究では、生活の質を高めるツールとしての地域通貨を取り上げ、地域通貨の使用が質的な豊かさを重視する意識に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
    【方法】北海道夕張郡栗山町の地域通貨「クリン」の参加者296名(有効回収率49.3%)を調査対象者とし、2007年10月に自記式質問紙法を用いた郵送法による調査を行った。調査項目は、「属性」、「クリンの使用状況」、「クリンに対する理解度」、「生活意識」、「クリン使用後の変化」である。「生活意識」は、「質的な豊かさ感」の指標として「豊かさに対する意識」とその要因となる8項目の意識から構成した。
    【結果】クリン使用状況の影響を分析するために、対象者を「クリン参加者」と「クリン新規参加者」(クリンへの新規参加者で使用経験がない対象者)に分類し、両者を比較した。その結果、まず、「クリン参加者」の方が「質的な豊かさ感」の意識を持っていることがわかった。また、「クリン参加者」の中で、クリンの使用頻度と「質的な豊かさ感」の意識との相関がみられた。これらの結果から、地域通貨は「質的な豊かさ感」を形成するツールとして有効であり、その使用が「質的な豊かさ感」の形成を促進するといえる。また、生活意識との関係では、無償労働の評価や地域や環境に対する意識、自分自身でよりよい生活・社会をつくろうとする自覚が「質的な豊かさ感」と関連することがわかった。
  • 乘本 秀樹
    セッションID: 2I8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的家庭経済学では、同時点・異時点間資源配分(資金計画など)、わりびき(預貯金やローンの利子など)、危険(保険など)等に関する実際的計算があまり展開されない。力強い生活経済主体が育まれるためには、よく吟味された計算的主題が導入されるのが望ましい。本報告では、導入の前提にかかわる事項について検討する。 方法a.生活主体においてどのように「計算」が展開し、経済計算行為はどのような特質をもつか。b.実際的経済計算の導入は家庭経済学の方法と整合するか。c.導入に際して配慮すべき事項は何か。これらについて、文献をもとに考察する。 結果aについて;生活主体においては、「快」の大小比較、内面化(ルーチン化、身体化)された基準数値(室温、血圧、熱量、歩数…)による生活制御、戦略的数値の把握と意思決定への適用という、少なくとも3層で計算が展開する。最後者の経済計算は「技術」でもある。 bについて;家庭経済学諸学派のうちには、実際的計算主題が有意義なものもある。 cについて;生活主体が本来もつ経済計算機能が無自覚に外部化(社会化)されてはならず、内部化努力が必要である。基礎的知見がまとめられたり、誰もが助言を受けることができる、大学の教養教育・家政教育や生涯学習で学べるなど、実際的経済計算をめぐる環境整備が望まれる。
  • 2.1960年代の消費者情報
    大藪 千穂, 杉原 利治
    セッションID: 2I9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 本研究は、消費者立法の黄金時代で、消費者主権の考え方が確立した、1960年代のアメリカの消費者情報誌Consumer Reportsを分析することによって、当時のアメリカの消費者がどのような情報を得ていたか、企業、政府がどのような行動をしていたかを、明らかにした。
    方法 1960年代のConsumer Reportsが提供している情報を、「商品・サービス」と「社会・時事問題等」の2つに大別し、「商品・サービス」については、10大費目に非消費支出を加えた11大費目と品目に分類した。また、情報のメッセージ性として、機能性、経済性等、8つの内容に分類した。「社会・時事問題等」は、社会保障、経済、社会、その他の4つに分類し、メッセージ性として、紹介、啓発、解決策提示を設定した。また、それぞれ情報の流れについて、消費者、消費者情報誌、企業、政府の4主体別に分析した。さらに、消費者立法と情報との関連を分析した。
    結果 1960年代の記事数は2535件で、「商品・サービス」が6割を占めていた。中でも家具・家事用品、教養・娯楽、交通通信に関する情報で全体の7割を占めた。情報のメッセージ性では、機能性に関する記事がもっとも多く、次いで安全性となった。「社会・時事問題等」では、その他に関する情報がもっとも多く、次いで社会に関する内容であった。次に情報の流れについては、「商品・サービス」では、消費者情報誌からの情報は99%が消費者に対しての出力情報であったが、消費者情報誌への入力情報は少なかった。一方、「社会・時事問題等」では、消費者からの情報が多かった。
  • 重川 純子
    セッションID: 2I10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 住宅の購入は生涯の中でも最も高価な買い物の1つであり、長期間のローンを利用して購入することが一般的であり、購入後長期間にわたるローン返済が家計に影響を及ぼす。本研究では、同一対象者の継続調査を用い住宅取得状況と住宅購入が家計へ及ぼす影響を明らかにする。
    方法 消費生活に関するパネル調査((財)家計経済研究所)の14年間(1993年から2006年)の調査を用い、2006年調査まで回答が継続している調査対象者中、有配偶継続者、調査期間中に結婚した者1216人を観察対象として抽出した。世帯の住宅変化の類型を作成し、調査対象期間に住宅または敷地を購入した世帯の家計支出、貯蓄の変化を捉える。
    結果 有配偶継続者、結婚した者の世帯中、住宅または敷地を新規に購入した者は各々230、97世帯である。有配偶継続者の購入前後の貯蓄の変化では、世帯貯蓄、調査対象者本人(妻)貯蓄ともに約4割減少している。購入前後の家計支出の変化では、購入後ローン返済額が増加し、平均消費性向は73から58に低下している。生活費に比べ貯蓄の減少率は小さい。費目別消費では、食料、水光熱、被服、交際は変化率が小さく、教養娯楽は減少率が大きい。人別支出では、生活費、貯蓄ともに世帯共通、妻分の減少率が大きく、夫、子ども分は低減少率あるいは増加している。また、家計管理パターンでは、共働きの場合には夫妻の収入をあわせて管理する一体型が約10%ポイント増加しており、住宅ローン返済が家計の共同性を高めた可能性が示唆される。
  • 下村 静穂
    セッションID: 2I11
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】環境教育は持続可能な社会のための教育であり、かつその社会実現には個人の生活における環境配慮行動が重要な要素であることが、ともに国際的な共通認識となっている。そこで本研究は、成人にこの「生活」における「環境配慮行動の実践」を促す有効なツールとして企業内環境教育(以下「社内EE」)に注目した。しかしながら従来型の社内EEでは、この「生活」での実践は重視されていなかったと言える。よって本研究の目的を、日本の環境教育および企業活動における社内EEの位置づけを調査し、「生活」への射程拡張が今後取り組むべき課題となり得る根拠を見出すことに定めた。
    【方法】社内EE位置づけは、行政面では環境基本法や環境教育推進法(通称)を初めとした各種法律の条文、そして企業面からは経団連などの経済団体の提言類の文書より調査した。また環境省「環境にやさしい企業行動調査」(~2007)の結果も参照した。
    【結果】法律では、企業も環境教育の取組を家庭へ反映させることに関わる必要性に踏み込んだ表現も見られたものの、罰則規定の設定がなく、活動促進の十分な根拠とは言えなかった。経済団体は、以前からの企業市民として環境を重視する姿勢のほか、近年は企業の社会的責任(CSR)論より、従業員一人ひとりの責任に基づく行動のほかに、企業にも「人づくり」の責任を担うことを求めている。この人づくりと社内EEを結びつける提言等はまだ存在しないが、生活に射程を広げた社内EEを人づくりの一環に組み入れ、従業員の満足及び市民の評価につなげるシステムを生み出すことで、その企業にCSR経営上の重要なセールスポイントをもたらし得ることを考察した。
  • 三善 勝代
    セッションID: 2I12
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 日本企業の転勤(勤務地の変更)施策には、まだ、勤労者本人の意向が反映されにくく、家庭事情への配慮もほとんどないという問題点がある(たとえば、佐藤厚、単身赴任を伴う転勤を従業員が受け入れていること、日本労働研究雑誌No.561、p.71-73、07年)。これを解消すると共に、新施策の実を上げるにはどうすればよいか。本研究において、その方途を探ってみたい。
    方法 (1)「両立支援」企業5社に対する聞き取り(07年)結果の再分析。(2) 混迷する米国企業の両立支援状況に打開の道を示したL.ベイリン(1993)(三善訳『キャリア・イノベーション』、白桃書房、07年)の読み解き。
    結果 (1) 調査対象5社中の4社で、転勤の二大目的(適材適所の実現と、多様な職務経験による人材育成)別に定期異動と不定期異動を使い分けており、問題点の一部解消に繋がる姿勢が認められた。(2)その一方で、当面の運用を女性限定とするなどの措置も施されており、新制度の実効性に疑問が残った。(3) L.ベイリン著書の主旨は、勤労者側の多様な生活ニーズに応えた施策の実現には、結局のところ、労使双方でキャリア形成についての基本仮定(性別役割規範や業績評価の基準など)を問い直し、新たな組織文化をつくっていく必要があるとするものであった。(4) 転勤施策は確かに人的資源管理の一部を占めるにすぎないが、部分は全体と無縁ではなく、まして、転勤は勤労者と家族の生活環境を変化させる事象である。いつまでも周辺事項に留めてはおかず、そろそろ、ベイリンの提唱するような抜本的改革を始める時期に来ているのではないだろうか。
  • 林 雄太郎
    セッションID: 2I13
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的
    地域活性化は我国の方針であり、様々な取組みがされているが、多様性社会の為、広範囲の地域活性化計画は存在しても実行は不十分である。特に育児で悩む若い母親に対して地域社会は満足行く行動がとれていないのが実状である。そこで幼稚園を機能拡大して、例えば子育て支援活動を強化し、地域と一体化して、私立の場合理事長・園長の価値観に大きく左右する幼稚園経営の改善を図り、地域活性化を促進することを目的とする。

    方法
    地域活性化、地域振興に関する先行研究と幼稚園運営と経営に関する先行研究の分析と共に、幼稚園を訪問して地域活性化と幼稚園の関与について聞き取り調査を実施する。

    結果
    社会の急激な変化と、技術の進化及び市場主義によって、社会は多様化し多元化しており、地域活性化のために幼稚園はもっと地域と結合し、社会に対する行動を取らねばならない。地域社会は幼稚園を地域社会のメンバーとして認知し、一方、幼稚園は地域社会の一員であると云う認識と共に地域活性化への英知を提供し行動することが期待される。例えば保育と云う教育行動とは別に、親学や人間学などの講座の開設や育児に関する相談に対応することが必要である。そのために、幼稚園経営自体の改善と自己組織性の強化及び経営戦略の確立が求められる。自己組織性の強化により当然他律性よりも高い価値感と組織感を持ち、幼稚園の組織目標を建学の精神に立ってより効率的に遂行でき、経営資源を組み合わせて今迄以上に最適化を行うと共に、創発的思考と行動を取ることができる。換言すれば地域社会と幼稚園は自律的有機的システムとし、大きく意識改革して地域活性化を目指さねばならない。
  • 金澤 等
    セッションID: 2J1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 今日、不要となった繊維素材が大量に廃棄されている実情がある。そこで、不要繊維を有効に用いる手段として、繊維素材を衣料用以外の用途に使用する方法を検討した。先ず、繊維の化学的改質を行い、所定の機能性をもたせ、物質を選択的に吸着できる材料の設計を目指した。 方法 綿、レーヨン、絹フィブロイン、羊毛(径10-30μm)、ポリエステルPET(15μm)、ポリプロレンの未処理物について、水中の有機物の吸着を測定した。各種繊維は、それぞれ、アルコールやクロロホルムを吸着した。特に、綿、レーヨン、絹フィブロインは吸着量が多い事から、繊維の表面形状が重要な因子であると考察した。セルロース繊維(木綿、レーヨン)に、ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)、メタクリル酸メチル(MMA)の単独または混合物を光グラフト化させて得られた「グラフト化繊維」をガラスまたはステンレスのカラムに詰め、水中に存在する有機物質、陰イオン界面活性剤(LAS)、アンモニア等の吸着量を、GCおよびUVを用いて、時間毎に測定した。 結果 未処理の繊維は水中のクロロホルムをよく吸着した。繊維の表面構造が重要な因子であると考察した。ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)のグラフト化セルロースはカチオン性のために、LASをよく吸着した。一方、カルボン酸基をもつグラフト化セルロースはアンモニアの吸着性能を示した。
  • 長山 芳子, 田代 しおり
    セッションID: 2J2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】「人や環境にやさしい」「いろいろな用途に使える」「洗浄力が高い」と謳われた多用途洗剤が発表され,高価格で販売されている。これらの多くは衣類の洗濯として適用できるとされることから,その洗浄力について洗濯用洗剤と比較検討することにした。
    【方法】汚染布は湿式人工汚染布((財)洗濯科学協会頒布)を使用した。洗剤は通信販売購入の多用途洗剤5種類と洗濯用合成洗剤1種類,店頭購入の石けん2種類,合成洗剤の洗浄力判定用指標洗剤(JIS K 3362)とした。洗濯条件は,Terg-O-Tometerを用い洗剤液1Lに対し汚染布(5×5_cm_)5枚,温度20および30℃,時間10分とした。すすぎは水1L3分間2回,乾燥は自然乾燥とした。洗剤濃度は,洗濯機使用時の洗剤使用量の目安(以下,目安量)およびcmcとした。洗濯は同一条件で3回繰り返した。洗浄効率は,光電反射計により汚染布の表面反射率を測定し算出した。pH,表面張力(輪環法)およびCOD(過マンガン酸カリウム法)も測定した。
    【結果】目安量による多用途洗剤の洗浄力は,指標洗剤および石けんより同等あるいはそれ以上の高値のものが半数であり,1種類は著しく低値であった。目安量はcmc付近の設定が多いが,1種類は著しく希薄濃度,2種類は高濃度であった。目安量が希薄濃度の多用途洗剤はcmcでの洗浄力が著しく増加し,目安量が高濃度の洗剤はcmcでの洗浄力が低下した。多用途洗剤の洗浄力は種類によりバラツキが多く,COD値においても水質汚染の可能性が高いことが明らかとなった。また洗濯用洗剤として洗浄力を比較する場合,界面活性剤配合のものはcmcを確認する必要がある。
  • 大島 紀子, 大矢 勝
    セッションID: 2J3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 表面反射率を用いた洗浄性評価は簡易的に数量化できるため、有用な評価法となるが、タンパク質汚れの洗浄性評価については表面反射率による方法が確立されていない。また、タンパク質汚れにおいて洗剤の洗浄力を比較するには熱処理が求められる。そこで熱変性有色タンパク質(ヘモグロビン)を用い、化学分析による除去量と表面反射率の関係を調べ、表面反射率による質量単位の洗浄率評価を行うことを検討した。 方法 モデル汚れとして、ヘモグロビン、ゼラチンを用い、アンモニア水溶液に溶解させたものを汚染液とし、木綿に500μℓずつ付着させ、熱処理条件の異なる乾熱処理汚染布、蒸熱処理汚染布の二種類を作製した。また、画像処理により汚染布の色むらを調べた。洗浄はTerg-O-Tometerを用いて行った。色素除去率の算出には、デジタル測色色差計を用いて洗浄前後の表面反射率を測定し、Kubelka-MunkのK/S値及び色素除去率の算出を行った。タンパク質除去率は、銅-Folin法を用いて算出した。汚染布から0.1N水酸化ナトリウム水溶液で熱抽出した検体を発色させ、分光光度計を用いて比色した。 結果 乾熱処理汚染布の場合、ヘモグロビンのみの汚染布では洗浄能の低い条件でも非常に高い洗浄率を示すため実験に使えないが、ゼラチンを混合することで、ある程度の洗浄条件に耐えうることがわかった。さらに洗浄能の高い条件に耐えられる汚染布を作るために蒸熱処理を行ったところ、除去率は著しく減少した。汚れの落ちやすさは汚染液付着時の温度や乾燥時間にも大きく左右された。色素除去率とタンパク質除去率の関係性を調べたところ、タンパク質除去率よりも色素除去率の方が高い値を示した。
  • 田川 由美子, 後藤 景子
    セッションID: 2J4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】 衣服の洗浄に関する実験的研究を行う場合、固体粒子汚れのモデルにカーボンブラックがよく用いられる。この場合、汚染布の表面反射率から洗浄性の評価を行なうが、反射率には洗浄前後のカーボンブラックの粒度や付着状態の変化が影響する。本研究では、水晶振動子(QCM)を微小質量天秤および洗浄基質として利用し、カーボンブラックの付着重量からの洗浄性評価を行なう。得られた結果と粒子脱離に伴う自由エネルギー変化の関係を調べる方法で、評価法の妥当性を検証した。
    【方法】 基質には、QCMの金電極表面、および金電極に被覆したポリエチレン膜表面を用いた。固体粒子汚れには、東海カーボン製の炭素微小球(平均粒径264 nm)を用いた。粒子分散液中にQCMを浸漬する方法で粒子を付着させ、QCMの周波数変化から付着重量(WD)を求めた。次に、種々体積比の水/エタノール混合液中に上記のQCMを浸漬し、超音波洗浄(36kHz,5 mV)を行った。洗浄前後のQCMの周波数変化から粒子脱離重(WR)を求め、WR /WDを脱離率とした。脱離に伴う自由エネルギー変化ΔGは、実験的に求めた表面自由エネルギーや接触角から算出した。
    【結果】 粒子脱離率の経時変化を調べたところ、洗浄時間とともに増大して20分後にほぼ一定となった。そこで洗浄時間を20分とし、水/エタノール混合液中での脱離率を求めた。その結果、金基質では、エタノール濃度が増加しても脱離率に大きな変化は見られなかったが、ポリエチレン基質では、エタノール濃度が高くなると脱離率が大きくなる傾向が認められた。ΔGの値は全ての洗浄系で正の値となり、超音波が粒子除去の機械力となっていることが示唆された。脱離率とΔGの関係を調べたところ、ポリエチレン基質では、ΔGが増加すると脱離率が減少する傾向を示し、QCMを用いた洗浄性評価が妥当であることがわかった。
  • 杉原 利治
    セッションID: 2J5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 毛髪のカラーリングは、処理剤による毛髪の損傷や安全性への懸念など、さまざまな問題を抱えている。そんな中、植物由来の染料、ヘナ(主成分、ローソン;2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン)が注目を集めている。本研究では、ヘナの主成分ローソンの毛髪への吸着条件と吸着量、そして、毛髪損傷に対する保護効果を検討した。
    方法 ローソンの吸着量は、ローソン溶液(5x10-4mole/l, 緩衝液6ml)に毛髪0.2gを加え、30℃で24時間振騰した後、460nmでの吸光度の減少量から求めた。洗髪は、シャンプー処理(10%SDS水溶液25ml中で毛髪0.5gを1分間攪拌)、すすぎ(蒸留水50ml中で3分間攪拌)、リンス処理(1%塩化デシルトリメチルアンモニウム液25ml中で1分間攪拌)、すすぎ、ドライヤー乾燥(2分間温風加熱)の一連の処理を、1回の洗髪とした。毛髪の表面状態は、SEM、FT-IRによって調べた。
    結果 1)ローソンの毛髪への吸着:吸着は溶液pHに大きく依存し、アルカリ側では吸着量が非常に少なく、pH4-5付近で吸着量が極大となった。非イオン界面活性剤、ベンジルアルコール、ミョウバンなどは、吸着に影響を及ぼさなかったが、Na2SO4を高濃度に添加した場合は、吸着量が増大した。2)洗髪ダメージに対するローソンの保護効果:洗髪回数がふえるにしたがって、いずれの毛髪も損傷が顕著になった。しかし、ローソン処理をした毛髪では、キューティクルの浮きやはがれが少なく、ローソンの保護効果が認められた。特に、パーマや漂白を施した毛髪において、大きな違いがみられた。FT-IRによって、吸着したローソンの一部は、1,4付加により、ケラチン側鎖に結合していることが示唆された。
  • 今城  千恵, 川邊 淳子
    セッションID: 2J6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】ナナカマドは保存料であるソルビン酸の語源に由来し,未成熟粒にはその成分が含まれることが分かっている。しかし,ナナカマドの薬効特性についてはまだまだ明らかにされていない部分多く,ナナカマドの抗菌性についてはもちろん,染色性との関連から明らかにしている研究はほとんどない。そこで本研究では,染色素材としてのナナカマドの抗菌性を明らかにするために,ナナカマド果実の成熟度の違いおよび濃度変化による,身近な食品に由来する細菌に対する抗菌性についての検討を行った。
    【方法】ナナカマド成熟粒・未成熟粒については,本大学構内で採取したものを用いた。ナナカマド液は,通常の染色濃度の5倍のものを作製し,1倍は蒸留水で薄めて用いた。細菌は,魚<サンマ>,卵,豚ひき肉の表面から,その採取には,一般細菌検出用および黄色ブドウ球菌検出用DDチェッカー「生研」を使用した。食材に付着させた寒天培地上にナナカマド液を滴下し,37±1℃のインキュベータ内で,一般細菌用は24時間,黄色ブドウ球菌用は48時間培養した。その後,寒天培地上のコロニー数をカウントし,ナナカマド液なしに対する細菌抑制率を算出した。
    【結果】ナナカマド液の濃度の効果としては,ナナカマド染液がなしの場合よりも,1倍濃度・5倍濃度の順でコロニー数が少なくなり,また,成熟粒ではその濃度の差が明瞭に表れたが,未成熟粒では,1倍濃度の効果が大きく,5倍濃度の効果とあまり変化がなかった。さらに,魚<サンマ>と卵については,成熟粒および未成熟粒のいずれにおいても,一般細菌・黄色ブドウ球菌に対して顕著な抗菌性が認められた。特に魚<サンマ>に比べて卵は採取できる細菌数も多く,その効果が明瞭にあらわれた。
  • 森本 綾子, 澤渡   千枝, 八木  達彦   
    セッションID: 2J7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 ポリ-L-乳酸(PLLA)は柔軟な風合いを持ち、繊維表面が弱酸性を示すことから環境・人体に優しい繊維として衣料分野でも実用化されているが染色性が悪く、分散染料でしか染色できない。そこで、本研究はPLLA本来の特性を損なわず、天然色素が染色可能になる化学修飾方法を検討した。 方法 試料にはPLLA100%の布を用い、天然色素との染着を可能にする親水性官能基を持つ試薬との反応条件を検討した。少量の反応試薬と共に石英ガラスに挟んだ試料に波長254 nmの紫外線(UV)を照射する方法、反応試薬と共にパイレックス管に封入した試料にコバルト60を線源とするγ線を5 kGy照射する方法により、それぞれPLLAへの官能基の導入を行った。導入効率とPLLAの力学的物性低下との関係から最適反応条件を決定し、抽出調製した紅茶、カテキュー、黒米により染色を行い、色素染着量、汗・摩擦・洗濯に対する染色堅牢度を評価した。 結果 化学修飾PLLAを染色した結果、最適条件試料の染着量は、未処理PLLAに比べて紅茶で約3倍、カテキューで約9倍、黒米で約3倍増加し、濃色の染色布を得た。染色堅牢度は紅茶染色において、染色布の洗濯試験による変退色、並びに酸性汗及び摩擦による白布の汚染の等級が低かったが、その他の堅牢度試験は3級以上を示した。カテキュー染色では洗濯試験、酸性・アルカリ性汗試験で等級が低かったが、その他は3級以上で実用可能なレベルであった。黒米染色では、汗試験及び洗濯試験ともに堅牢度が低い一方、摩擦堅牢度は高かった。これらの結果から、化学修飾の有用性を示すとともに、染色した試料の色素安定性において媒染方法等、検討すべき課題が残った。
  • 牛田 智, 古濱 裕樹, 池宮 千明
    セッションID: 2J8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>タデアイの生葉染めやリュウキュウアイの煮染め、赤色色素インジルビンを豊富に含む沈殿藍による分散染めなどの手法で、絹、羊毛、ナイロンなどに対しインジゴとインジルビンによる赤紫色が染色できる。これらは新鮮な生葉を用いたものである。一方、毛染め剤等として市販されているインドアイ乾燥葉にもインジカンが保持されており、それを使えば生葉染め同様の染色が行える。そこで、インドアイ乾燥葉の粉末を使って生葉染めの手法で赤紫色染色についての検討を行うとともに、粉末を多量に使用することでインジカン濃度を高めることができるという特性を活かし、濃色に染められないか検討を行った。
    <方法>インドアイ粉末4gにエタノール水溶液500mlを加え放置した後、炭酸ナトリウム水溶液を加え、絹布を入れ1時間染色を行う方法を基準とし、エタノール濃度、液の放置時間、染色温度などを変化させた。次に、インドアイ粉末16gに64mlのエタノール水溶液を加えてペースト状にして、各種条件を変化させ、低浴比での濃色染色を試みた。
    <結果と考察>500ml規模では、染色温度、エタノール濃度が高いと色がくすむが、エタノール20%までは濃度が高くなるほど赤みが強くなった。タデアイの生葉染めと同じ傾向がみられ、インドアイ粉末を10~20%エタノール水溶液に入れ、10~60分間放置後、炭酸ナトリウムを加え、常温で1時間染色する方法が最も良く染まった。ペースト状にして低浴比で染色すると多少濃く染まったが、色ムラが生じた。500ml規模よりもアルカリを弱くすることが良く、エタノール5%、炭酸水素ナトリウム5%の水溶液を使用し、ラップフィルムで密閉し1時間染色する方法が最も良かった。
  • 室谷 雅美
    セッションID: 2K1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>近年、子どもを取り巻く事件・事故が毎日のようにマスコミを通じて報じられている。こうしたなか、子どもたちが安心して外で遊べない状況を踏まえ、安全で安心して遊べる公民館等の社会教育施設などで子ども居場所づくりが実施されている。さらに、都市化や核家族化により子どもたちは地域の大人たちと交流する機会も少なく、日常生活の中での様々な体験も不足しているのが現状である。学校・家庭・地域が連携協力して、地域全体で子どもたちを育んでいくことを目指し、子ども居場所づくりの取り組みがなされている。  そこで、地域密着型の公民館で子ども居場所づくりに対してどのような活動を行ってきたかについて明らかにすることを目的とする。 <方法>地域の小学生を対象に公民館に子ども居場所の活動拠点を設け、地域の大人の協力を得て、畑作りや茶道体験・お餅つきなど様々な体験活動や交流活動を実施した。 <結果>公民館において子どもたちの安全を確保し、学年の違う子どもと地域の大人を交えた異年齢間でのさまざまな活動を通して、年齢相互の役割や地域の素材を活用した体験活動など、週末や長期休暇を利用し、幅広い活動を実施することができた。祖父母や地域の大人から物事を教えられたり、一緒に遊んだりすることが少ない子供たちにとって、他の世代や、多くの大人たちと活動することにより、人との繋がりもできた。また、地域の子どもに対する意識や関心の高まり、学校・家庭・地域の協働や連携を進めることもできた。
  • 吉川 はる奈
    セッションID: 2K2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】第1報では、小学生を対象に日常生活における身体動作についての実態調査を行った。小学生の日常生活における身体動作、特に「食べる」「書く」際の不適切な箸や鉛筆の持ち方や、さまざまな身体動作での姿勢の悪さが学年問わず、明らかになった。      本報告では、幼児にも対象を広げ、小学生と双方に日常生活における身体動作とさらに生活状況について調査を行なった。幼児期からの状況を把握し、長期的視野で保育・教育的支援を行うための示唆をえることを目的とした。 【方法】幼稚園5歳児、小学校低学年、高学年を対象に、_丸1_予備調査をもとに作成した各分類基準によって、「食べる」「書く」際の、箸の持ち方、鉛筆の持ち方など、また「読む」「書く」「食べる」際の姿勢など、日常生活における身体動作について調べた。あわせて、日常生活の状況を心身の健康状態を含めて質問紙でたずねた。 調査時期は、2006年11月、2007年10月、2008年2月 【結果】日常生活における身体動作いずれも姿勢が悪いのが目立った。5歳児については、声をかけることで修正ができ、あらためて、幼児期からの日常生活動作についての声かけを保育・教育的な立場から行うこととの必要性が示された。小学生については、適切な身体動作でなくても、自身は不便を感じておらず、修正することを意識化することが重要であると示唆された。また「鉛筆の持ち方」の正しくない子どもの多さや「はしのもち方」の多様さについては、第1報と同様の傾向であった。生活状況調査からは心身の健康状態について、低学年の子どもに不調を訴える者が目立った。
  • 松本 歩子, 中山 徹
    セッションID: 2K3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的学童保育(以下、学保)は1940年代から、働く女性とその子どもの健全な成長を支える事業として長年機能してきた。そして近年、共働き家庭の増加により家庭に代わる保育の場としてさらに需要が高まっている。一方で学校週5日制の導入以降、全ての小学生が休日・放課後等に健全に過ごせるよう「全児童対策」と呼ばれる事業が実施されてきた。しかし政府は2007年度からこれら学保と全児童対策を「一体化」又は「連携」した新しい放課後等の居場所づくり事業「放課後子どもプラン」として実施する方針を打ち出した。ただし運営形態は各自治体の判断に任され明確な方針は示されていないため、全ての児童を対象とした事業の中で学保が果たしてきた保育機能がいかに位置付けられていくのか学保関係者からは不安の声も上がっている。本研究では(1)「放課後子どもプラン」において計画されている2つの事業の「連携」の一現状を把握し、(2)保育機能も存続する望ましい事業実施の手段を探ることを目的とした。
    方法大阪府吹田市を一事例として取り上げ、運営方法・活動内容・指導員体制などに関し、自治体と指導員を調査対象としたヒアリング調査を行った。また、現場での子どもたちの様子を観察調査により把握した。
    結果(1)吹田市では経験豊かな学保指導員が全児童対策指導員に働きかけ、一緒になって遊びや活動の計画・運営を行うことから充実した事業が実施されていることが分かった。またその過程の中で学保指導員が保育機能の重要さを全児童対策指導員にも伝えることにより保育機能も一定基準満たされていた。以上より(2)学保指導員の専門性が認められ今後運営の中で積極的に取り入れられることが望ましい事業のあり方へとつながると考えられた。
  • 「父子手帳」を中心に
    篠原 久枝
    セッションID: 2K4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】少子化対策としてワーク・ライフ・バランスが実現できる社会が望まれている。夫の家事・育児分担度が高い夫婦ほど、出産意欲が増すことが知られているが、玉城らの研究では、男性の育児についての実施申告時間は「遊び」が多く「排泄の援助」は少ないと報告されている。女性は妊娠中の母体の変化や「母親学級」等を通して、子育てに関する知識や技術を習得していくことができる。一方、男性は父親になる準備期間や制度がほとんど用意されていないため、子育てに対する知識や技術が不足し、育児参加を阻害する要因になっていることも考えられる。そこで、本研究では、宮崎県の各自治体における父親の育児参加を促進するための取り組みや、「父子手帳」の配布状況・内容等について検討を行った。 【方法】平成19年12月~平成20年1月に、宮崎県の自治体31ヶ所に対して、質問紙によるアンケート調査を郵送により依頼し、回収した。配布数31、回収22(回収率71.0%)であった。回答者は各自治体の市役所や保健センターにおいて子育て支援に係わる人であった。 【結果】「父親の育児参加」を促す取り組みは、「両親学級」が一番多く、次いで「家庭の日」であった。 「父親の子育て支援」に関する配布物は、「父親向けパンフレット」が9ヶ所、「父子手帳」は5ヶ所で配布していた。「父子手帳」に記載すべき内容としては「妊娠期の精神的・物理的サポート」と「哺乳の仕方」「おむつ交換の仕方」など子どもの生理的な世話であった。今後は、「父親手帳」の有効性についての検討が課題である。
  • 特に米国の文化的背景における児童の発達支援を中心に
    中田 栄
    セッションID: 2K5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】  本研究は米国の文化的背景における児童の発達支援を検討することを目的とする。2005年の10月から約1年間の米国在外研究の機会を経て、帰国後も縦断的にフォローアップ調査のために渡米し、観察を続けてきた。ここではビデオによる観察記録の分析に基づき、日本から渡米した児童の仲間関係について検討する。さらに、5歳から7歳にかけての2年間の仲間関係の変容過程を第1期から第3期に分けて1年ごとに発達的特徴を検討する。 【方法】  対象:米国ニューアークに在住する24名の児童の中から、冬期間も縦断的な観察が可能であった児童(開始時に5歳2ヶ月の女児)を対象とした。 第1期:調査期間は2005年10月から2006年9月まで。第1期の期間には、毎月4回の観察記録を実施することができた。 第2期:2006年12月下旬から2007年1月上旬まで。 第3期:2007年12月下旬から2008年1月上旬まで。  第1期の観察記録は1年間の在外研究期間に毎月児童の行動を分析し、2名の評定の信頼性を検討し、仲間への接近の変容過程について検討した。 【結果】  活動内容は、(1)音楽を用いて仲間関係を促す活動をねらいとして、コミュニケーションのための発達支援としての音楽の役割を検討した。(2)児童が音楽に合わせて踊る活動は、仲間との相互作用のきっかけとなった。(4)音楽によって子ども同士で波の音をつくる活動に発展し、音を作って仲間に知らせることでコミュニケーションが促された。 【考察】  波の音がする楽器を作るときには、楽器づくりに用いる米の形によって、音が微妙に変化することを伝え、子ども同士の相互作用が促された。なお、大人は経験から同じ波の音をイメージしがちである。しかし、児童は米の形や色の違いに気づくことによって、音の違いを予測した。児童の観察記録に基づいて発達的特徴を質的にみることによって、認知発達の特徴が明らかにされた。
  • 年長組児とのインタビュー資料から
    岡野 雅子, 井田 彩織
    セッションID: 2K6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的  わが子と関わりたいと願いながら、時間が取れずにできない父親は多い。父親は子どもの社会性の獲得と深く関係していることは先行研究より指摘されているが、良い影響を及ぼすためには子どもとの信頼関係の形成が重要であると考えられ、父親と子どもの関わりが充実していると子ども自身が捉えていることが必要ではなかろうか。本研究は、父親と子どもの交流の実態と、父親に対するイメージや父子関係の捉え方との関連を探った。
    方法  面接法。対象児は長野県下の町立保育園・幼稚園の年長児組幼児92名(男児47、女子45)で、面接者と対象児の1対1の面接を行った。質問項目は導入として生活について(食事や風呂)の後に「父親とのかかわりの実態(遊びや会話の頻度とそれは好きか、ほめられるか)」「父子関係の捉え方(仲がよいか)」「父親に対するイメージ(優しい、面白い、元気、こわいなど10語)」「父親が好きか」の計26項目で、調査時期は平成18年10~12月である。
    結果と考察  性と「父親とのかかわりの実態」には関連は認められず、女児は「優しい」イメ-シ゛が高率である。「遊ぶ頻度」は「父親が好き」と関連がないが、「父親との遊びが好き」と「父親が好き」とは関連し、父親と「仲がよい」、「優しい・面白い・威張っていない」のイメ-シ゛も「父親との遊びが好き」と関連がある。「父親との会話が好き」と「父親が好き」「仲がよい」は関連し、「ほめられる」頻度は「優しい・元気」のイメ-シ゛と関連していて、頻度の低い場合は「わがまま」と捉える割合が高い。しかし「ほめられる」と「父親が好き」は関連がなく、ほめられることで父親を好きになるとは言えない。これらの結果から、父親との遊びや会話を子どもが楽しんでいるか否かが、父親との信頼感の形成や父親に対する肯定的なイメージにつながるといえるようである。
  • 『女鑑』(明治24年~42年)を分析対象として
    磯部 香
    セッションID: 2K7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    (目的) 明治20年代以降、「家庭」言説は女性の領域として概念形成されてく。「家庭」において、夫、舅姑に仕え、子どもの養育を遂行することこそ、女性が国家の一員、国民としてみなされるようになり、国家の名のもとで、女性の生き方が画一化されるようになる。その一方で、明治国家は近代産業の担い手として女性の労働を推進していく。つまり、明治中期以降、女性は「家庭」で生きることと、社会で働くこととを期待されることにより、矛盾を抱えることとなるのではないかと考える。そこで本研究の目的は、「家庭」で生きる女性たちとは対極に存在すると想定できる女性たち、つまりは働く女性たちの存在がどのように記述されているのかを明らかにすることにある。 (方法) 婦人雑誌『女鑑』(明治24-42年)を分析対象として、『女鑑』の「雑報」から女性の労働に関わる記事を抽出し、記事の内容を分析する。 (結果) 分析の結果、明治25年以降、「家庭」で生きることが女性の規範となる一方で、労働する女性の記事も存在することが明らかとなった。しかし働く女性たちは、一括りにはできず、3タイプに分けることができた。1つは、専門的な職業に従事する教育を受けた女性(後の職業婦人)、2つは、工場等において肉体労働を主とする女工、3つめは、それ以外の、家業、内職に従事する女性であることが分かった。
  • 高橋 桂子
    セッションID: 2K8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 出産後も就業継続する女性が増える中、仕事と家庭生活の関連に関する研究が蓄積されている。本研究では時間的葛藤(time-based conflict)が、仕事領域から家庭(W→FC)に、家庭領域から仕事(F→WC)や生活満足度にどのような影響を与えるか、について、末子年齢別に検討する。同時に、仕事、家庭領域からのソーシャル・サポートが葛藤に与える緩衝効果についても検討する。 方法 調査は日本労働組合総連合会に所属する5つの労働組合の男女平等局等に依頼した。調査票の配布は2005年10月下旬~12月下旬、20代から50代までの子どものいる女性労働者を対象に本人票と配偶者票をセットで配布した。回収は直接郵送法である。配布枚数3930組、回答枚数2358組(回収率60.0%)である。本分析では本人票のうち、生活満足度、W→FC指標、F→WC指標すべてに欠損値のない1824票を用いる。 結果 全体サンプル(RMSEA=.098)では、1)週労働時間や通勤時間は、W→FCに有意にプラスの影響を与える、2)末子年齢が高いとF→WCに有意にマイナスの、本人の育児分担割合が高いとF→WCに有意にプラスの影響を与える、3)W→FCもF→WCもともに生活満足度に有意にマイナスの影響を与えるが、その影響力はW→FCの方が大きい、4)予定外の残業や有給休暇をとりにくいという職場風土はW→FCに有意にプラスの影響を与えるが、育児ネットワークの多寡はW→FCに有意な影響は与えない、などが明らかになった。6歳以下サンプル(RMSEA=.048)に限定すると、その効果はより明瞭になる。
  • 表 真美, 片山 優子
    セッションID: 2K9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的食生活の個別化が進むなか、家庭における食生活と子どもの心身の発達との関係が論じられているが、実証研究は少なく詳細な検証が急がれる。そこで本研究では、家族の食事と小・中学生の自尊感情・心身の健康との関連を明らかにすることを目的とする。
    方法2007年6月から7月に京都府内の小・中学校において小学校3・4・5・6年生153名、中学校1・2年生147名、計300名を対象に集合法により自記式質問紙調査を行った。調査内容は食生活(家族の食事の共有・食事に関する家事労働・食事に関するしつけなど)・生活時間・家庭の雰囲気・自尊感情・心身の健康である。
    結果得られた結果の概要は以下のとおりである。(1)朝食を一人で食べる子どもは27%、夕食を一人で食べる子どもは7%、朝食をまったく食べないと答えた子どもは3%であった。家族で食事をする子どもは食事を楽しいと感じていた。(2)食事に関する家事労働、とくに食事作りへ関与する頻度は全体的に低かった。(3)食事中に、食べ方、行儀などのしつけを受ける子どもの割合は全体的に低い傾向がみられた。(4)9割以上が塾や習い事に通い、半数近くが11時以降に就寝していた。(5)家庭の雰囲気は「楽しい」と答えたものが6割、「バラバラ」は1割であった。(6)夕食を家族全員で食べる子どもは、自己肯定感が強くなる傾向がみられた。(7)夕食を家族全員でたべる子どもは、「イライラする」「暴れたい」などの愁訴率が低く、家族の食事の共有は子どもの精神面での健康にプラスの方向で影響していた。
  • 平川 眞代
    セッションID: 2K10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
     社会化は親が子どもを養育することを通じて、1人前の社会構成員にまで成熟させると、従来親子関係に特化した位置づけが主流であるが、本当にそうであるのかという疑問が本稿の本質的な問題設定である。社会化概念には、形式社会学の中心概念、公的機関による統制、管理、所有などを意味する言葉個人が集団の成員として成長していく過程などがある。確かに、人間の新生児は社会的かつ文化的環境の中で、さまざまなプロセスを通じて、パーソナリティを形成し、社会的適応を完成させていく。しかし、人間はライフステージ上で、学校、地域、職場などの社会集団のメンバーになり、集団やライフイベントを経て生活をおこなっている。社会化は人の一生という長い時系列での過程であり、家族のみならずその外での社会化も重要である。  このような視点をふまえ、現代社会における子どもの社会化について問題提起をし、家父長制の直系家族から戦後には分業固定制の夫婦制へ、さらに家族の多様化という変化から、家族における社会化だけでなく、トータルにこの概念をとらえることを目指す。
  • 蟹江 教子, 牧野 カツコ
    セッションID: 2K11
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】文部科学省が進める「早寝早起き朝ごはん」運動に代表されるように、子どもの生活習慣や生活リズムの確立・改善に社会的関心が集まっている。その背景には、生活リズムの乱れが、子どもの学習意欲や学力、さらには体力の低下をもたらしているのではないか、という教育現場からの懸念がある。そこで、本研究では、児童・生徒の生活リズムを概観し、記述的な把握を試みるとともに、家庭生活や学校生活全般との関連についての検討を行う。 【方法】分析には、お茶の水女子大学が、日本の青少年の学力・能力、アスピレーション、学校生活や家庭生活などについての統計的ポートレイトを得ことを目的に、2003年から実施している「青少年期から成人期への移行についての追跡的研究(JELS)」のうち、2006年に関東地方の小3・小6・中3・高校生3を対象に行った調査データを用いた。調査の回収率は小3が96.7%(回収票は1,165票)、小6が98.8%(1,260票)、中3が93.5%(1,163票)、高3が88.5%(2,044票)であった。 【結果】小3、小6、中3、高3と学年が進むに従い、児童・生徒の就寝時間は遅くなる。就寝時間が遅くなるのに対応して、起床時間も遅くなる傾向にあり、日中、眠気を感じる児童・生徒も少なくない。また、生活リズムの乱れは、学力はもちろんのこと、遅刻や欠席、学校が好きかどうかなど、学校への適応、さらには、家族とのコミュニケーション、家事参加の状況、などとの関連も認められた。しかし、これらの関連については学年による違いも少なくなく、今後は児童・生徒の発達を考慮した対策が必要であると考えられる。
2日目ポスター発表
  • 上野 弘
    セッションID: 2P1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    〔目的〕 生ごみ処理はその処理速度を上げる必要性から多大なエネルギーを投入している。この処理を開放系で行うなら、エネルギー負担0で堆肥工場(閉鎖系処理)に匹敵する生ごみ処理が可能になる。本報告では処理の難しい家庭生ごみをコウカアブ等の昆虫の幼虫の食作用を利用して処理する方法を提示する。30世帯の家庭から排出される生ごみ(1世帯週平均約0.01㎥、0.005t:筆者回収調査結果)を1年間回収し実践した結果である。 〔方法〕 各家庭で貯めておいた生ごみを週1回回収し、回収物は、底から水が抜ける容器90cm×180cm×90cmに投入を繰り返した。滴下した水分は液肥として利用した。 〔結果〕 4月から11月までの温暖期では、回収分(かさ高10.5㎥・重量5.3t)はコウカアブ等の幼虫の食作用などにより0.24㎥に保たれた(減量度0.02%)。生ごみはコウカアブ等幼虫の食作用と微生物による発酵・分解作用により短時間に分解消費された。残渣は、幼虫の羽化に伴う系からの脱出と脱出に伴う粉砕物落下による系外への排出で減量し、一定量が保たれた。環境への効果として、食物連鎖により小型野鳥の飛来が多くなり虫の大発生はなかった。12月から1月までの寒冷期は、昆虫の繁殖行動がなくなり腐敗が減量の中心作用となる。回収分(かさ高2.7㎥・重量1.4t)はかさ高0.73㎥になっている(減量度0.27%)。腐敗した水分が流下することにより腐敗臭が抑えられ、生ゴミ回収場所特有の不快環境は生まれず、大量保存も可能である。寒冷期の生ごみも4月を過ぎると、コウカアブの幼虫等の活動と共に温暖期の安定した状態に戻る。処理エネルギー0の試みである。残渣は年数回の処理で済み、家庭生ごみ回収時の混合収集も可能である。
  • 杉井 潤子
    セッションID: 2P2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 超高齢社会を迎え、高齢者に対する差別や虐待が問題となっている。日常生活場面で高齢者に対して意識的・無意識的になされている「不適切な対応」を取り上げ、その実態と関連要因を検証し、虐待・差別に生み出す社会構造の解明を目的とした。
    方法<不適切な対応は「信頼関係の上に築かれた予期しうる適切な行為を欠いている事態、行為」として先行研究成果を参考にし、15項目によって指標化した。調査内容は基本属性、不適切な対応のほか、介護経験、扶養規範、加齢意識、生活満足感などである。調査は調査会社に依頼して個人サンプルデータから近畿二府四県×都市規模別の40歳以上推定母集団を算出し、40歳以上を5歳階級別男女16グループに分け、各115名の配分を考えて対象者を抽出し、計1840人に対して郵送留置法で配票、1104票回収。2006年1-3月実施し、有効回収率60.0%。
    結果および考察 (1)日常生活場面で呼称のほか、拒否・無視・子ども扱い行為が30-5%の割合で行われている。(2)男性のほうが女性よりも有意に不適切な対応を行っている。女性は学歴、義母の介護経験、加齢意識によって、男性は健康状態、実母の介護経験、介護愛情規範、加齢意識、生活満足感によって有意に影響を受けている。以上から高齢者差別・虐待におけるジェンダー構造の存在、さらに嫁や息子としての介護経験が一般高齢者への不適切な対応に影響を及ぼすことは虐待の未然防止に向けて高齢者教育の必要性が指摘できる。
    本研究は平成16-18年度基盤(C)「現代社会における年齢差別(エイジズム)の実態解明と高齢化教育の推進」16500475(研究代表者:杉井潤子)のデータをもとにしている。
  • 倉元 綾子
    セッションID: 2P3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    <目的> 仕事と子育て・家政生活を両立させて働き続ける女性労働者は増え続けている。このような女性労働者とその家族がどのような状況にあるのか,どのような困難に出会っているのか,両立を実現するための要素は何かを明らかにし,どのような施策が求められるのかを,自由記述の分析によって検討する。 <方法> 調査は2005年10月から12月にかけて日本労働組合総連合会の5団体の、20代から50代までの子どものいる女性労働者とその配偶者を対象に行った。回収は直接郵送法,配布枚数3930組、回答枚数2358組(回収率60.0%)である。自由記述への回答は妻票424(18%)、配偶者票179(8%)である。それらのうち、仕事と子育て・家庭生活の両立実現に関連した記述541を分析に用いる。 <結果> (1)「子育て支援政策・制度」に関する記述が最も多く,「子育て政策・制度一般」23%、保育所・学童保育・補助金等「公的支援」52%、育児休業・短時間勤務等「事業所による支援」36%である。(2)労働時間・昇進昇格等「労働条件」には26%、「職場環境・理解・協力」には17%が言及している。(3)仕事と子育て・家庭生活の両立を支援する「社会環境・意識啓発」に関する記述は12%である。(4)「夫・家族の理解・協力」には15%、「親族支援」には7%が言及している。(5)「仕事と子育て・家庭生活の両立」を推進する施策として緊急に求められるのは,事業所による支援策の充実とこれに関連する労働条件の改善,職場環境の改善,保育所・学童保育・補助金などの公的支援の向上,国による子育て支援制度・政策の推進である。
  • 松岡 英子, 胡桃 圭
    セッションID: 2P4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 若者の失業,フリーターやニートの増加などの問題状況を背景として,子どもたちが社会人・職業人として自立していけるような教育の推進が求められている.本研究は高校生の進路意識の実態を把握し,進路意識に影響を与えている要因を明らかにすることを目的とする.
    方法 長野県内の高校3年生を対象に質問紙による配票調査を実施した.調査時期は2007年11月である.配票数1043,回収数941(90.2%),有効数912,有効率87.4%である.高校は普通科だけでなく,専門学科および総合学科も含めた.
    結果 進路意識は高校卒業後の進路に対する肯定的で積極的な意識を捉える6項目を用いた.肯定的・積極的傾向が強い順に4点から1点を与え,加算尺度にしたところ,平均17.1点,SD=4.58,α=.89であった.男子の平均は16.2点,女子の平均は17.7点であった.進路意識を従属変数,8要因25変数を独立変数として用いた.独立変数は「基本属性」6変数,「両親の就労」4変数,「進路選択」2変数,「自己理解」4変数,「生活満足度」2変数,「学業への積極性」1変数,「職場体験」4変数,「職業観」2変数である.進路意識に影響を与えている要因を明らかにするために分散共分散分析,重回帰分析等を行ったところ,「進路選択」要因のうち卒業後の進路希望,「自己理解」要因のうち自己概念(積極性と独立性),「学業への積極性」要因,「職場体験」要因のうち体験効果,が有意な影響を与えていた.職場体験での体験効果が大きかった生徒,学業に対して積極的な生徒,自己概念の中でも積極性や独立性を持っていると自己評価をしている生徒は,肯定的な進路意識を持っていることが明らかになった.なかでも自己概念の影響は大きかった.
  • 吉田 仁美, 伊藤 セツ
    セッションID: 2P5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    研究の目的2006年,国連は障害者権利条約を採択した.本条約は,「障害者が自立して生活し,及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすること」を目的の一つとしている.生活の自立を育む「家庭生活」と「障害者」の研究は,家政学においては,障害者の親に焦点をあてた研究がみられるが,障害者当事者を扱ったものはない.本研究は,女性聴覚障害者に限定して,当事者視点から生活経営を考察する.その理由は,報告者のひとりである吉田が当事者であるからである.本研究の目的は,第一に,当事者視点からみた生活経営の諸問題を衣食住生活の実践の文脈から明らかにし,聴覚障害者の主体的生活経営を妨げているものを考察することである. 第二に,報告者らが本学会第59回大会で課題とした「家政学のユニバーサルデザイン教育の展開」を上記の考察に立って,シラバス作成を具体的に試みることである.
    研究方法女性聴覚障害者当事者を中心とした自助グループのメーリングリストを活用したアンケート調査,インタビュー調査等を用いて生活経営学視点からの考察を行う.
    結果第一に,衣・食生活の実践においては,障害をもたない他の一般の人々と同様に生活知識獲得が可能であるが,住生活の実践においては,インターフォンの音が聞こえない等の困難さがあることが明らかにされた.聴覚障害者の主体的生活経営を妨げているものとしては,コミュニケーションが必要とされる介護や育児活動があげられた.第二に,上記の考察に立ったユニバーサルデザイン教育を実践するためには,生活経営に「障害者理解」及び「ICT支援」をシラバスに取り入れる必要性が明らかにされた.なお,作成したシラバスについての詳細は当日提示する.
  • 赤星 礼子, 小川 直樹, 後藤 直子, 川口 惠子, 谷村 賢治, 花崎 正子, 財津 庸子, 米村 敦子, 田中 孝明, 根笈 美代子
    セッションID: 2P6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的九州における高齢者の生活研究として、本研究グループが取り組む第3回目の共同研究である。今回は、人口減と高齢化の進む離島における高齢者の生活実態を明らかにし、そこにある生活問題と課題について生活福祉の視点から答えようとする実証研究を目指している。調査対象地を長崎市高島(2007年12月末日人口696人)にすることで、限界集落となる離島(高齢化率48.99%)、また、市へ合併された離島(西彼杵郡高島町から市へ2005年1月合併)、という状況による高齢者の生活変化を捉える。
    方法島町に関する文献資料の収集を行った。高島炭鉱については、三菱鉱業の社史『高島炭砿史』や、高島町役場の『高島年表』などがあり、「一企業城下町」の歴史はよく残されている。先行研究として、高島地域保健研究会(代表:齋藤寛、長崎大)の『炭鉱閉山の島から学んだこと―長崎県高島における学際的地域研究の試み―』(1991年、報告書)という、通称「高島研究」がある。この研究の実地調査からほぼ20年経過している。2007年3月、9月、12月、2008年3月に、高島の高齢者への面接調査を含めて実地調査を行っている。結果調査研究は、高齢者を中心に、近接環境(親族・家計・隣人等)、地域環境(人口・地理・行政・経済・福祉等)という大枠を据えて始めている。本報告は、1)高島町の歴史と地理について、2)人口及び世帯構成の推移、3)福祉行政について、「高齢者の生活支援ネットワーク形成」の可能性を探るという目標に向けて分析している途中経過の第1報である。高島の世帯規模は小さく、流入人口は少ないことから、地域の人的ネットワークは閉鎖的で緊密であるとみられたが、必ずしもそうとは言い切れない状況にある。また、同居率は低いものの、親族交渉の頻度は高そうである。
  • 町屋を活用した村上市の事例
    柳井 妙子, 中山 徹
    セッションID: 2P7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    地方都市の商店街では、車社会や郊外型大型店の出現などによりドーナツ化現象が起きている。現在の社会は消費者の多様なニーズに加え高齢化が進んでおり、地方では事業の後継者がいないまま衰退したまちで商いを営んでいる家族経営が増えている。  個々の店での経営努力も必要であるが、地域をあげて魅力あるまちづくりを行うことが地域全体の活力に繋がると考える。その地域に眠っていた地域資源を住民自らが探し出し、それを起爆剤としながらまちを活性化していくことが、持続可能な社会へと結びついていくと考える。  本研究では、新潟県村上市の中心市街地の商店街における家族経営の個人店主を対象として、地域資源を活用したまちづくりの実践活動が、商店街の各店舗における家族経営商店の再生に果たした役割と意識の変化を聞き取り調査によって解析した。同市では、地域資源を活用した年2回のイベント、2000年から開始した春の「町屋の人形さままつり」、2001年からの秋の「町屋の屏風巡り」を通して、観光客が急速に増加し経済効果が高まり家族経営商店の経営状態の改善に大きく寄与している。現在では、一部の住民の活動に止まらず、地域をあげてのイベントへと発展しつつある。その理由として以下のことが考えられる。_丸1_村上の商店街に残存していた町屋の内部が江戸時代、大正時代、昭和初期時代にタイムスリップしたような日本人の心のふるさとを感じさせるものである。_丸2_それぞれの店舗が所蔵している人形や屏風が歴史、文化を感じさせるものである。_丸3_来訪者の熱い反応が各商店へ伝わり、自分たちの地域への誇り、愛着が生まれる。_丸4_家庭経営ならではの、「もてなしの心」による来訪者への対応が多くのリピーターに結びつく。
  • 「食卓」を題名とした2映画の場合
    荒川 志津代
    セッションID: 2P8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的:ドラマや映画の中で、家族の「食卓」はしばしば、円満な人間関係における幸せの象徴である。しかし最近における家族の変容やきしみに伴って、現代を舞台としたドラマや映画では、食事場面は単純な幸福を意味しないこともある。そのような背景の中で、あえて「食卓」という単語を関した映画が、近年製作上映された。「食卓」というものへのかつてのノスタルジックなイメ-ジを背景として、現代を描き出そうとしたものと思われる。それは人々の中にある家族への幻想と現実に、対応したものとなるのであろうと考えられる。そのように描かれた食卓には何が託され、そこでの子どもはどのような意味を持つのかを考察することが、本研究の目的である。 方法:「食卓」を題名に関した現代映画、『紀子の食卓』(2005年製作)と『幸福な食卓』(2007年)を比較し、食卓の意味とそこでの子どもの位相を考察する。 結果と考察:1)『紀子の食卓』における食卓は、「虚構」の象徴であったが、それをそれらしくする(演じる)ことに、家族の今後を示唆するものであった。本映画における子どもは、大人(父)とは異なる感性を持ち、大人とは異なる「演じ方」を選択する者であった。ただしそこに到達する道筋は、近代青年における「危機」を経るものであった。 2)『幸福な食卓』における食卓は、旧来型の「良い家族」の象徴であったが、そこで家族の「危機」が始まるという場ともなっており、両義性を示す徴であった。本映画においても「役割を演じる」ことが一つのテ-マになっており、その演じ方の模索において、大人と子どもの間に決定的な違いは見られず、両者の境界が見えにくくなった現代を反映したものであった。3)両映画に共通しているのは、家族の中における子ども役割遂行の困難さであった。
  • 女亜 茹, 中山 徹, 今井 範子, 野村 理恵, 咏 梅
    セッションID: 2P9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近代化、都市化の影響を受け、中国内モンゴルのモンゴル民族の生活が大きく変貌した。その中、モンゴル民族の生活水準の向上が見られる。一方、モンゴル民族の固有の文化が希薄しつつある。特に、子どもの生活環境も変貌し、現代社会に適応して行く中でモンゴル民族の文化をいかに継承していくのか、それに必要な方策を探るため、三世代の子どもの頃の遊びと生活の変化に把握することを目的とする。
    【方法】内蒙古大学蒙古学学院にて調査を実施した。内蒙古大学は1957年に成立し、中華人民共和国の成立後、少数民族地域において最初に創立された総合的な大学である。その中、蒙古学学院の学生は90%以上がモンゴル民族であるため、蒙古学学院の大学生に対象とし、アンケート調査を行った。アンケート調査票は、大学生、親世代、祖父母世代と3種類の調査票である。夏休みの直前(2007年7)にアンケート調査票を配布し、夏休み期間中に帰省の際、アンケート調査票を実家に持ち帰り、親と祖父母には大学生から聞き取りしながら調査票に記入する方式を用いた。新学期が始める時(9月)に回収した。
    【結果】子どもの頃の遊びではよく遊び人数は大きな変化がなく、よく遊び場所は「家の庭」「草原」「山」といった戸外での遊びの割合が高いが、その中、「公園」と「学校」は大学生、親世代、祖父母世代の順で割合が高く、差が見られた。 伝統的な遊びは同様な傾向が見られた。子どもの頃の生活において、一番時間が費やされた事では、大学生が「学校での勉強」「遊び」、親世代が「親の仕事の手伝い」「学校での勉強」、祖父母世代が「親の仕事の手伝い」「兄弟・姉妹の面倒を見る」となっており、時代の背景を強く反映された。
  • 王 飛雪, 中山 徹
    セッションID: 2P10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 2008年のオリンピックの開催により、首都北京に次々と巨大な開発プロジェクトが急ピッチで進められていた。こうした開発の波のなかで、北京の都市開発において、その再評価を行う必要があると思われる。
    方法 北京の旧市街地である崇文区を対象とし、区政府の都市計画課に保護と再生の実態および今後の計画方向性についてヒアリング調査を行い、現地の老舗、典型的な町並みを調査し、歴史的資料を収集する。
    結果 本研究は訪問によるヒアリング調査のうえ、崇文区の旧市街地に関する保護・整理・発展という都市計画を評価し、その問題点を分析し、今後の都市開発政策の課題を明らかにする。
  • 野村 理恵, 中山 徹, 今井 範子, 婭 茹, 咏 梅
    セッションID: 2P11
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】中国・内モンゴル自治区では、かつてモンゴル民族が遊牧生活を営んでいたが、近年は牧畜民の定住化が進行している。本研究では、古くから牧畜業を営んできたモンゴル民族を対象にその定住過程と定住による生活変化及び居住空間の変化について明らかにすることを目的とする。
    【方法】調査地は、内モンゴル自治区シリンゴル盟鑲黄旗である。日本家政学会第59回大会にて発表した調査家庭※1に対し、2007年7月に追調査を行った。「ホト」と呼ばれるいくつかの世帯が集まった宿営地集団が拡大し、定着化する過程や「ホト」内のコミュニティ形成に着目してヒアリング調査を実施した。
    ※1日本家政学会第59回大会研究発表要旨集p.132
    【結果】「ホト」の拡大要因として、家族の結婚に伴う世帯分離が挙げられる。1世帯に1つの住居を構えることが多いが、その住居がゲルから固定家屋であるバイシンへ移行したことにより、「ホト」の規模が拡大している。バイシンの導入は、1960年代の人民公社時代、漢民族が運転手として配属され、当該地域に定住し始めたことがきっかけであった。その後、モンゴル民族の間でもバイシン建築が加速した。更に世帯が増えると遠隔地に「ホト」を形成するようになり、1968年には1つであったものが、1970年から1980年代に分離し、現在では4つの「ホト」が1~2kmの距離で隣接している。各「ホト」には7~8世帯が居住しており、互いに協力して牧畜経営をしている。「ホト」間でも家畜の飼料栽培や井戸水の利用、家畜の洗浄等を合同で協業している。1980年代より実施された土地政策及び2000年代の旱魃の影響で、かつては馬群の放牧を行っていた調査家庭では馬をすべて手放し、現在は牛と羊の定居放牧を行っている。
  • 咏 梅, 中山 徹, 今井 範子, 野村 理恵, 女亞 茹
    セッションID: 2P12
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】2002年12月14日、朱鎔基が公布した「中華人民共和国国務院令(第三六七号)」の中での“退耕還林条例”が盛り込まれている。同条例第四条においては「農耕地域に対する“退耕還林”に続き、2003年新たに、「退牧還草」事業が実施されることになった。 本稿では、内モンゴルでも沙漠化が最も深刻化しているアラシャン(阿拉善)盟が行っている“公益林”、“退牧還草”政策の下での牧民(生態移民)の生活様態について現地調査を行い、その結果について論じる。 【目的】_丸1_内モンゴルアラシャン盟に実施された「退牧還草」、「公益林」政策がなぜアラシャン盟で実施されなければならないのか。 _丸2_長期にわたり放牧を生業としてきた牧畜民は放牧を辞めた後、どのように生活を営んでいくのか。 _丸3_「退牧還草」、「公益林」政策が環境保全として機能しているのか。 _丸4_政策前後の生活様態がどのように変化しているのか。 このような環境の中でモンゴル民族の伝統生活様態がどの程度引きつがれていくのかを検討する。 【方法】2006年6月から2007年8月まで三回にわたり、アラシャン盟地域にて_丸1_禁牧後、無職の家庭及び_丸2_第一産業を営む農業家庭、_丸3_また禁牧後の第三産業として、町に移住してきた移民村の家庭、合計42世帯に対してヒヤリング調査を行った。 【結果】1.政策後、慣れない新しい生活習慣変化、新たな職業により生み出される不安定な生活及び不安定な職業による将来への不安2.政策後の主な収入として定額の補助金だけであり、政策前よりは多少良くなっていることが明らかになったことに対して、政策後は主食の入手等で年間かかる費用から、年間収入が政策前より減少する事が分かった。それにより、生活の低下が引き起こされる 3.政策前後で民族祭りなどの変化が多く見られる 4.政策制度への不満、政策に納得できてない面が多く見られる
  • 蔡 柏玲, 中山 徹
    セッションID: 2P13
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    研究題目: 『中国東北三省における戦争遺跡を日本の平和教育への活用に関する研究』 研究背景: 1972年の日中国交正常化以後、日本と中国の友好関係が回復していたが、日本国内の対中感情はサッカーW杯サポーター騒動などで日本人が被害に遭ったことにより悪化している。 さて、両国の友好関係の回復ために、日中関係の根底に横たわる歴史問題を放置したままでは、真の和解を果たすことはできないと考える。過去、日本軍が行った中国への侵略戦争に対して、特に、若い世代にその「歴史事実」を検証、公平な認識、理解してもらうことが重要であろう。  日中戦争の発端となった旧満州国、現在の中国東北三省にあたる地域に戦争の遺跡が多く残され、平和教育観光施設として展示されている。近年、日中友好協会などの催しで、そういう施設の訪問ツアーが多く実施される中、修学旅行として訪問される例が極めて少ないというのは現状である。実際に遺跡を見て、戦争を実感することによって、歴史の勉強になるだけでなく、戦争に反対し、積極的に平和を追求するという平和教育の教材にもなるため、修学旅行の目的地として適切な整備を整えることが必要と考える。 研究目的: _丸1_戦争遺跡の現状と活用状況を明らかにする。 _丸2_修学旅行の目的地として、学生の希望要件を明らかにする。 _丸3_修学旅行生が理解しやすい環境を作るために、必要な改善を考える。 調査対象と方法 1、中国東北三省(旧満州国)は日中戦争の遺跡に対して、現地調査を行う。 2、高校に対して、アンケート調査を行う。 3、平和概念、戦争遺跡などの文献を参考する。 4、他国の戦争遺跡の事例を探し出す。
  • 向井 友花, 畑井 朝子, 佐藤 伸
    セッションID: 2P14
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的食物繊維が高血圧の予防に有効であることが知られているが、その作用機序は十分に明らかにされていない。また近年、高血圧と酸化ストレスの関連が注目されている。一方、アズキの種皮には食物繊維が豊富に含まれている。我々は本学会にてこれまでアズキ抽出物の血圧上昇抑制作用について報告した。そこで本研究では、食物繊維を多く含むアズキ抽出物(DF-ABE)のSHRSPの血圧上昇抑制効果および酸化ストレス低減効果を検討した。
    方法6週齢、雄性のSHRSPに0、0.5、2.0%DF-ABE添加食を7週間与えた。対照として同週齢のWKYラットに0、2.0%DF-ABE添加食を与えた。また飲水として0.5%NaCl溶液を与えた。実験期間中、体重および収縮期血圧を測定した。投与終了後、解剖し臓器を採取し、大動脈のスーパーオキシド(O2-)量を化学発光法により測定した。
    結果WKY群およびSHRSP群の体重はいずれもDF-ABE摂取による影響は見られなかった。SHRSP群の収縮期血圧はWKY群より顕著に高くなったが、DF-ABE添加食群の収縮期血圧は投与2週目から0%群に比べて有意に低値を示し、血圧上昇の抑制が認められた。またSHRSPの0%群では相対心重量がWKY群に比べ有意に増加したが、DF-ABE添加食群では0%群に比べて減少した。さらに、SHRSPの0%群の大動脈のO2-量はWKY群に比べて有意に増加し、酸化ストレスの亢進が認められた。これに対し2.0%DF-ABE添加食群は0%群に比べて有意に減少した。以上の結果から、DF-ABEは血圧上昇抑制作用を有しており、大動脈中のO2-産生を抑制し、酸化ストレスを低減することが示唆された。
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