化石研究会会誌
Online ISSN : 2759-159X
Print ISSN : 0387-1924
40 巻, 2 号
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特集「ヒゲクジラの進化」
巻頭言
特集・講演録
  • 木村 敏之
    2008 年 40 巻 2 号 p. 107-111
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル フリー
     現生のヒゲクジラ類ではそれぞれのグループごとに特徴的な摂餌様式を獲得し,それによって同所的に存在する他のヒゲクジラ類との間での棲み分け(ニッチ分化)がみられる.日本産ヒゲクジラ類化石をもとに,北西太平洋におけるヒゲクジラ類のニッチ分化に注目すると以下のように概観される.ヒゲクジラ類では前期中新世末までに断続詰め込み型摂餌を行うグループが北西太平洋に出現した.後期中新世の北西太平洋ではヒゲクジラ類において断続詰め込み型摂餌を行うケトテリウム類からナガスクジラ類への置き換わりが示唆される.また後期中新世末までには連続詰め込み型摂餌を行うグループが北西太平洋に出現し,少なくとも鮮新世において断続詰め込み,連続詰め込み及び断続吸い込み型摂餌を行うヒゲクジラ類の分布という現在と同じ生態的枠組みが成立したことが示唆される.
  • ークロミンククジラ(Balaenoptera bonaerensis)胎児における下顎周辺部の構造および顎の開閉機構に関する一考察ー
    伊藤 春香, 澤村 寛, 一島 啓人, 大谷 誠司
    2008 年 40 巻 2 号 p. 112-119
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル フリー
     標本採取や取り扱いの困難さから,ヒゲクジラの解剖学的知見は少ない.本研究では5%フォルマリン水溶液で固定後,70%アルコールに浸したクロミンククジラ(Balaenoptera bonaerensis)の胎児2個体(体長145.2cm と134cm)の下顎周辺部を肉眼解剖学的手法で詳細に解剖した.筋の同定に際しては,筋の起始,停止のみならず支配神経の情報を加味した.さらに,その構造を基にナガスクジラ属の下顎の開閉機構を推測した.
     下顎骨は大きな軟骨を介して頭蓋骨と関節している.下顎前方部の内側には1対の軟骨がハの字状に位置する(成体では Y 字型).口輪筋,口唇の筋,広頚筋,顎舌骨筋,Longitudinal muscular pouch stratum(LM),下顎下制筋,肩甲舌骨筋,胸骨下顎筋,咬筋,側頭筋,外側翼突筋,内側翼突筋,オトガイ舌筋,舌骨舌筋を見いだした.
     広頚筋,顎舌骨筋,LM は下顎の腹側面において,あたかも1枚の筋肉のように密着しているが,それぞれ顔面神経,顎舌骨筋神経(下顎神経),舌下神経が進入している.また,これらの筋の前端外側部はハの字状の軟骨に停止している.下顎下制筋には顔面神経が入っており,顎二腹筋後腹と相同だと考えられる.また,胸骨下顎筋は胸骨,下顎,後頭骨に付着し,後方部では大胸筋の一部を覆う非常に大きな筋であるが,顎舌骨筋神経と同幹をなす顎二腹筋神経,舌下神経,および舌下神経と頚神経の交通枝が入ることから,顎二腹筋前腹,オトガイ舌骨筋,胸骨舌骨筋の3筋に相当する筋肉であると推測した.一般の陸上哺乳類では,下顎と舌骨を結ぶオトガイ舌骨筋が口腔底を形成しているので,舌骨より後方部分を膨らませることは難しいが,クロミンククジラの胸骨下顎筋は舌骨に付着していないので,餌と水を口に含む際には,頭〜胸部腹側にある畝と呼ばれる蛇腹構造を大きく膨らませることができる.その際,舌は口腔底に落ち込む.
     下顎骨の筋突起には側頭筋,咬筋粗面には咬筋,下顎孔の直上に顎舌骨筋後端の一部が,下顎孔後方部には内側翼突筋が付着する上に,下顎神経から枝分かれした下歯槽神経が下顎孔から下顎管に入るので,下顎骨筋突起以後の部分は頭蓋骨に対して大きく動かすことができない.そのために,下顎をある程度開けた後に,筋突起の先端を大きく動かさないで済むように下顎を内側に回旋させる.すなわち下顎骨の下縁を外側にせり出しながら,さらに下顎を引き下げることができる.一方下顎を閉じる際には咬筋,側頭筋で下顎を引き,左右に広がった下顎骨を翼突筋で内側に引きつけて,下顎を元の位置に戻していると考えられる.
  • ー歯のあるヒゲクジラ化石と現生種胎児からー
    澤村 寛
    2008 年 40 巻 2 号 p. 120-130
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル フリー
     ヒゲクジラはクジラヒゲや頭蓋の独特の構成などユニークな形質を持つ.その出現や初期進化の様相を解明するものとして漸新世の歯のあるヒゲクジラが注目されてきた.北海道足寄町産のMorawanocetus sp.(AMP14)の頭蓋にクジラヒゲの存在を示唆する形質を見出したので,その検証のために現生ヒゲクジラ類の比較解剖学的・発生学的検討をおこなった.その結果,クジラヒゲは従来説明されてきた「横口蓋ヒダが変化した」ものではなく,歯肉から発生するものであることがわかった.このことを手がかりにして化石鯨類を見直すことにより,クジラヒゲは Morawanocetus において臼歯列の内側に出現し,原鯨類バシロサウルス科の上顎骨の形質とも関連があることが判明した.ヒゲクジラの出現は,クジラヒゲに関連した形質を精査して追求するべきであり,Morawanocetus はその重要な経路を担う資料である.
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