はじめに:投球障害予防において肩関節最大外旋位(MER)からボールリリース(BR)を含むacceleration相における肩甲帯の役割の重要性が数多く述べられている.我々は投球動作における肩甲帯と肩関節および体幹の運動との関係性について運動学的に検証し,明らかにすることにした.
方法:野球投手321名を対象にモーションキャプチャ・システムを用い投球動作解析を行った.投球動作を計測するため,触診により解剖学的骨特徴点上に赤外線反射マーカを36個貼付し,それら全ての3次元空間位置をサンプリングレート500Hzにて獲得した.肩甲帯の運動を記述するために肩甲帯座標系,胸部座標系を設定した.肩甲帯の運動は屈曲/進展(水平内転/水平外転)・引上げ/引下げ(上方回旋/下方回旋)の2自由度とし,胸部座標系に対する肩甲帯座標系の回転をオイラー角で表現した.ただし,肩甲帯座標系は第7頚椎棘突起,胸骨上切痕,肩峰に貼付した赤外線反射マーカの3次元空間位置情報から設定した.また,肩甲帯の運動,肩関節,体幹運動の関連性を検討するために,腰部座標系と上腕座標系を設定した.肩関節の運動は胸部座標系に対する上腕座標系の回転を,また体幹運動は腰部座標系に対する体幹座標系の回転をそれぞれオイラー角で表現した.
結果:MERにおいて肩甲帯の水平内転/外転と肩関節の水平内転/外転,および体幹の投球側/非投球側への側屈にそれぞれ相関がみられた.また,BRにおいても肩甲帯の水平内転/外転と肩関節の水平内転/外転,体幹投球側/非投球側への側屈にも同様に相関がみられた.
結論:投球時の過度の水平外転は関節間力の増強につながり,投球障害予防の点から大切な指標の一つとされている.本研究結果より肩甲帯と肩関節および体幹の運動との間に有意な関係性を認めた.よって肩甲帯の運動を評価することが投球障害予防の観点から重要であると意味付けた.
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