九州歯科学会雑誌
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63 巻, 2 号
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原著
  • 永尾 史徳
    原稿種別: 原著
    2009 年 63 巻 2 号 p. 67-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/15
    ジャーナル フリー
    顎関節症患者の関節滑液中ではInterleukin-1β(IL-1β)発現が増強し,対称的にその抑制系であるIL-1 receptor antagonist(IL-1ra)が減少していることが報告されているが,組織内にIL-1raを増加させることができれば,この炎症性変化の制御に有効だと考えられる.そこで今回,この関節炎を制御する安全で非浸襲的な方法を確立するために,IL-ra遺伝子を滑膜細胞に超音波遺伝子導入し,抗炎症効果が発現するかを検討した.
    ウサギ膝関節由来滑膜細胞株HIG-82を5%CO2,37℃にて培養し,実験に供した.超音波振装置(Sonitron 2000TM)を用いて,IL-1ra cDNAをHIG-82に導入した.遺伝子導入の際,導入効率増強を目的にマイクロバブル(SonoVueTM)を併用した.遺伝子導入細胞中のIL-1ra mRNAの発現をRT-PCRで,またIL-1raタンパクの発現を免疫染色にて確認した.また,HIG-82にIL-1ra遺伝子を導入後,細胞をLPSで刺激し,IL-1β,IL-1raとPGE2の産生をELISAにて検討した.
    予備実験としてHIG-82に対してIL-1ra遺伝子を超音波遺伝子導入する際の超音波ならびにSonoVueTMの濃度の至適条件の検索を行ったが,IL-1ra遺伝子の導入効率が最も優れていたのは超音波強度;2.0W/cm2,周波数;1 MHz,Duty比;10%,照射時間30秒の条件であった.また,SonoVueTMは細胞懸濁液中で5%の濃度で最も遺伝子の導入効率が優れていた.HIG-82にIL-1raを超音波遺伝子導入することにより,RT-PCRにてIL-1ra mRNAの発現が確認され,免疫染色においてはIL-1ra陽性細胞が確認された.また,遺伝子導入細胞にLPS刺激を行うと,炎症反応が惹起され,コントロール群,IL-1ra導入群ともにIL-1βの発現が誘導された.両群間に有意な差は認められなかった.しかし,コントロール群ではIL-1β発現に続いて継時的にPGE2の産生が亢進したのに対して,IL-1ra遺伝子導入群ではPGE2発現は有意に抑制されていた.
    この研究で,in vitroにおける滑膜細胞へのIL-1raの遺伝子導入による抗炎症効果が確認され,顎関節の炎症性変化に対する遺伝子治療の可能性が示唆された.
  • 石部 徹, 後藤 哲哉, 川田 健太郎, 小林 繁, 高橋 哲
    原稿種別: 原著
    2009 年 63 巻 2 号 p. 78-86
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/15
    ジャーナル フリー
    Apolipoprotein E(ApoE)は生体内において脂質代謝に重要であり,最近,骨代謝にも関わっていることが示されている.ApoEはチタン周囲の骨形成時に多く発現し,チタン上の培養骨芽細胞に添加すると骨形成が促進することが明らかとなっているが,チタン上の骨芽細胞のApoE発現についてはまだよく解っていない.今回,われわれは,チタン,カバーグラス,培養デッシュ上での骨芽細胞のApoE発現について比較検討し,ApoEの発現する意義について考察した.
    ラットもしくはマウス初代培養骨芽細胞様細胞とマウスの骨芽細胞株であるMC3T3-E1細胞をそれぞれの材料上で培養し,石灰化結節の形成量を調べるとともにApoEおよびオステオカルシン(OCN)のmRNA発現を半定量的RT-PCRならびに定量的Real-time PCRにて調べた.チタン,培養デッシュ上では石灰化結節の形成がみられたが,カバーグラス上では見られなかった.ApoEの発現もそれと同様にチタン,培養デッシュ上で認めたれたが,カバーグラス上では認められなかった.Real-time PCR解析でも,培養14,21日目ではチタン,培養デッシュ上ではApoE,OCNとも同程度の発現を示したが,カバーグラス上では,ApoE,OCNの発現はチタン上での発現と比較すると,ApoE(14日目:18%,21日目:29%),OCN(14日目:2%,21日目:12%)ともに低い値を示した.一方,MC3T3-E1細胞では通常の培養条件ではApoEの発現は認められなかったが,ApoE添加もしくは初代培養骨芽細胞様細胞のコンディションメディウムを加えた群ではApoEの発現が認められた.
    以上より,初代培養骨芽細胞様細胞は骨形成を生じるときにApoEも発現して局所の脂質代謝に関わるとともに,骨代謝にも関わっていることが示唆された.この発現は,チタン上の骨形成に特異的ではないが,骨形成に石灰化中期および後期のApoEの発現が強く関わっていることが示唆された.
  • 林 知孝, 松尾 拡, 吉田 充広, 張 皿, 福山 宏, 仲西 修
    原稿種別: 原著
    2009 年 63 巻 2 号 p. 87-96
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/15
    ジャーナル フリー
    β-thymosin(TBs)は様々な脊椎,無脊椎動物より抽出された高度に保存された5kDaの極性ペプチドである.Thymosin β4(TB4)は,哺乳類の組織において,TBs総量約70~80%に相当する最も豊富なペプチドである.一方,Thymosin β10(TB10)はTBsの少数派としてヒト,ラット,マウスに存在する.最近の研究で,TBsは細胞遊走,血管新生,創傷治癒,炎症,形態形成および腫瘍の転移に関与する多機能ペプチドであることが明らかとなった.それにもかかわらず,歯学研究,歯科臨床の領域に直接関連のあるTBsの研究報告は殆どない.本研究で,我々は舌の創傷治癒過程に及ぼすTB4やTB10の効果について,これらTBsの27アミノ酸から成る部分合成ペプチドを用いて検討した.パンチバイオプシーの器具を用いてラット舌を貫通させ,合成ペプチドを穿孔時およびその後毎日4日間腹腔内投与した.対照として等量のリン酸緩衝生理食塩水を同様に投与した.2,3,4日目例の組織切片を作成し,Hematoxylin-eosin(H-E)染色およびPhosphotungstic acid hematoxylin (PTAH)染色を施した.H-EおよびPTAH染色を参照しながら我々の定義に従って創傷部(W)領域を組織学的に組織欠損(D)部と肉芽組織(G)部に細分した.それぞれの面積はコンピュータ解析によって計測した.D部面積を切片の総面積(T)で割ったD/T値(%)は,TB4およびTB10投与群において,対照群より常に有意に小さい値を示した.一方,G/T値は,2日目例についてのみ実験群は対照群より有意に高い値をしめした.これらの結果は,TBsはおそらく創傷初期における壊死あるいはアポトーシスを抑制することにより組織損傷を最小限におさえることを示唆した.
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