フィブリンモノマー(サブユニット)が凝集(重合)するパターンを吸光度の変化で観察するとアクチンやチュブリンのそれと極めてよく似ており、いずれの場合も液相中に繊維状の構造物が析出するので半固相への相転移が示唆される。このようなフィブリン・ネットワーク形成の研究報告は見いだされない。本総説はフィブリン分子の微視的な性質とフィブリン・ネットワーク形成の巨視的なメカニズム、およびその構造と機能をまとめた。 すなわちグローバルな視点に立った新しい理解を得るためにネットワークの形成をモデル化し、コンピュータ・シミュレーションを実行して得られた結果を解釈した。モデリングには2次元格子のサイズを50x50=2500としたパーコレーション(浸透現象)過程(粒子のクラスタリング)を採用し、その浸透確率とクラスター
注1)の大きさ(サイズ)を評価した。現実に近づけるための大規模なシミュレーションではないが、凝集の定性的な理解には十分であると考えた。その結果、1)凝集時間とともに確率pが増加するものと仮定すれば、パーコレーションはフィブリン分子の凝集を吸光度で測定した過程と類似した。2)生成した最大クラスターの空間占有率(フィブリン・ネットワークが2次元格子を端から端まで繋がる最小割合)は約十数%だった。これらのことから、フィブリン・ネットワークの形成は従来考えられたようなフィブリン分子の単なる重合ではなく、次のようにステップワイズ的に進行することが示唆された。まずフィブリン分子(サイズ0.05 nm)が横と縦方向に8分子結合しプロトフィブリル(サイズ0.2 μm、モジュール
注2))が生成される。モジュールが3つ同士結合しノード(節)を形成(サイズ0.6 μmのドメイン)する。このドメイン内の線維は2分岐する。さらにドメイン同士が急速に結合することによって液相から半固相(semi-solid phase)へと相転移することが考えられた。すなわち血液の急速な凝固は低い空間占有率(14.3%)で起こることが原因である。その速さは血漿中に細胞成分(または血小板や細胞膜の破片=マイクロパーテイクル)が関与すれば
注3)さらに大きくなり、損傷した血管部位に血栓を速やかに形成することができる。
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