〔目的〕Mycobacterium fortuitumを被験対象とした場合のZiehl-Neelsen染色法(ZN法)と蛍光染色法(蛍光法)の染色性の比較検討。〔方法〕2007年1月~2012年3月の期間中,NHO近畿中央胸部疾患センターにてMGIT培養で陽性となり,DDHにてM.fortuitumと同定された菌液42株と標準菌株を対象に,蛍光法であるauramine-rhodamine染色法(AR法)並びにacridine-orange染色法(AO法)とZN法の染色所見を比較した。さらに各菌株に対し16S-23S rDNA internal transcribed spacer(ITS)領域における遺伝子と16S rRNA遺伝子の部分配列シークエンスを実施し,相同性検索を行った。〔結果〕ZN法にてすべての株は良好な染色性を確認できた。AR法は16株(38.1%)に良好な染色性を認めていたのに対し,残り26株(61.9%)と標準菌株では蛍光法でほとんど染まっていないか,まだら模様の染色像であり,AO法もやや劣るがAR法と同程度の結果であった。ITSシークエンス解析では35株(83.3%)がM.fortuitum subsp. acetamidolyticumの遺伝子と100%一致したが,7株は同定不能であった。しかし16S rRNA遺伝子シークエンスにてM.fortuitum近縁の迅速発育菌と同定できた。遺伝子型と蛍光法の染色性との間における相関性は乏しかった。〔考察〕DDHでM.fortuitumと同定された菌体に対して蛍光法を用いた場合,検出が困難となるケースが半数以上存在する結果となり,同菌の分離頻度が過小評価される可能性が考えられた。特に,培養菌液からの菌体確認には蛍光法よりもZN法を用いることと,培養性状による同定(発育速度,温度,コロニー形状)の徹底を提唱したい。
50例の肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)に対する手術を経験した。今回,術後1年以上の経過観察を経た37症例に対し,再燃再発に焦点を当て検討を行った。年齢・性別・術前画像スコア・空洞病変の有無・術後残存病変の有無・術前化学療法・術前治療期間・術後観察期間・術摘出組織の菌培養の結果・起因菌・術式の11の項目について再燃再発群と非再燃再発群との比較検討を行った。このうち統計学的有意差を認めたものは,術後残存病変の有無・術前治療期間・術摘出組織の菌培養の結果の3項目であった。この結果より,肺NTM症で手術適応がある症例はできうる限り早期に手術を施行すること,また手術では残存病変を残さないこと,が術後の再燃/再発を防ぐために大切であることが示唆された。また,術摘出組織の菌培養は,術後のより詳細な経過観察を必要とする症例を抽出するうえでの一つの指標になりえ,菌培養陽性例では術後の化学療法の期間を延長するなど,より詳細な術後経過観察が必要であると考えられた。手術を施行した50症例に関し術死や在院死はなく,手術に関連した大きな合併症も認めず,肺NTM症に対する手術は安全に行いうる治療法と考える。