顕微鏡
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43 巻, 4 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
特集:超高圧電子顕微鏡の医生物科学への応用
  • 小澤 一史
    2008 年 43 巻 4 号 p. 241-245
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    超高圧電子顕微鏡を用いて生物試料の微細構造を立体的に観察する有用性を示す.構造が複雑な展開を示すもの,方向性が不鮮明な不整形の構造などの観察には大きな力を発揮することが考えられる.これまでの,よく用いられてきたステレオ観察に加え,近年ではトモグラフィー観察の技術も進み,微細構造の三次元化が容易に出来るようになりつつある.従って,超微細構造を局所的観察で考察することから,微細構造の全体像を捉えることが出来るようになりつつある.ユニークなアイデアの惹起によって,超高圧電子顕微鏡が生物試料観察に,さらに大きな手助けを示す可能性が示唆される.これまで我々が行ってきた,神経細胞,神経膠細胞の機能形態学的変化を,超高圧電子顕微鏡を用いて解析するデータも示しながら,実際の有用性について説明する.

  • 野田 亨
    2008 年 43 巻 4 号 p. 246-249
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    超高圧電子顕微鏡を用いた厚切り切片の観察からは細胞内小器官の真実に近い立体構造を捉えることができる.しかし,そのためには選択的に細胞小器官を染め出す組織化学的な方法が必須となる.本稿では超高圧電子顕微鏡で厚切り切片を観察する場合に使われる種々の染色法,細胞小器官の立体構造の具体例などを紹介する.

  • 樋田 一徳, 清蔭 恵美, 有井 達夫
    2008 年 43 巻 4 号 p. 250-253
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    超高圧電子顕微鏡の医学生物学領域への応用の最大の利点は,高エネルギー電子線による厚い切片の観察にある.更に厚い試料を傾斜して連続的な透過像をコンピューター画像処理することにより,切片内に埋もれている内部構造を高解像レベルで立体的に解析できる.この三次元トモグラフィー解析法は,通常の透過型電子顕微鏡の連続切片解析再構築法とともに脳内のニューロンやグリアの複雑な構造を理解するために極めて有効な解析手法である.本稿では超高圧電子顕微鏡の概要を筆者らの具体的な解析例とともに紹介し,その有用性と将来の可能性について論じたい.

  • ―電顕トモグラフィーによる3次元解析―
    伊藤 浩行
    2008 年 43 巻 4 号 p. 254-257
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    超高圧電顕は,厚い切片の観察を可能にしたことから,医学・生物学における形態学的研究に新たな展開をもたらした.その例として本稿では脳卒中モデルラットを用いた高血圧による脳浮腫の形態学的研究を紹介する.通常の透過型電顕では神経の変性や血管透過性の亢進を示す所見は認められるものの,その原因を明らかにすることは不可能であったが,超高圧電顕により厚い試料を観察し,トモグラフィーを作成して三次元の解析を行うことにより,神経細胞におけるdendrite spineの変化や,微小血管における好中球の接着の様相が明らかとなった.超高圧電顕による観察およびコンピュータを用いた立体像の構築さらにトモグラフィーの作成による解析は,従来の光顕と電顕のイメージギャップを埋めるだけではなく,形態と機能を結びつける手段としても極めて有用であり,今後病理形態学への応用が期待される.

  • 小池 謙造, 儘田 明, 長瀬 忍, 吉田 修, 鷹岡 昭夫
    2008 年 43 巻 4 号 p. 258-262
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    美容に重要である毛髪の構造解析を行った.従来の機器では難しい厚みのある毛髪切片(2~5 µm)を2000 kV以上の超高圧条件下で電子顕微鏡を用いて観察することによって,毛髪内部の構造を解析することができた.本手法により,健常毛,ダメージ毛,日本人毛,コーカシアン毛など様々な毛髪を解析した.また,毛髪物性(曲げ弾性など)を向上させる植物エキスのダメージ抑制効果の解析についても本手法を応用した.

解説
  • 河本 圭司, 大石 哲也, 大重 英行, 川口 琢也, 瀬野 敏孝, 甄 云波, 李 一, 龍 新兵
    2008 年 43 巻 4 号 p. 263-267
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    電子顕微鏡は1930年代にvon Ardenneにより開発されて以来,器械,染色法,ミクロトームの開発,改良により,形態学の発展に大きく発展してきた.脳腫瘍の微細構造の解明,診断にも貢献してきた.その後,脳腫瘍の新しい発見にも寄与してきた.脳腫瘍の形態学における電子顕微鏡の役割として,①脳腫瘍の超微細構造より,その特徴を把握できる,②光顕では鑑別が困難な腫瘍に有用である,③病理組織診断に高い診断価値がある,④腫瘍の悪性度,分化,機能などの検索にも有用である.これらの中でも電顕は形態学による超微細構造が明確になることから,形態学,病理診断学に大きな貢献をしており,電顕により今後新しい発見も追加されていくことであろうと考えられる.

  • 藤田 克昌
    2008 年 43 巻 4 号 p. 268-272
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    光を分子に照射した際に見られる光学現象である,ラマン散乱やコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS),ならびに高調波発生を用いれば,細胞や生体組織内の分子を標識せずとも顕微観察できる.ラマン散乱,CARSは分子の振動を検出しながら,その空間分布を観察像として与える.高調波発生は,コラーゲン,ミオシン等の生体内で配列構造をつくる非中心対象性分子のみを特異的に検出する.化学的,生物学的な標識技術は観察対象を改変する恐れがあるので,これらの光を用いた無標識イメージング技術は,生きた試料を観察する上で重要である.

講座
  • 神野 尚三
    2008 年 43 巻 4 号 p. 273-277
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    Ramón y Cajalが,ニューロンの形態と機能に密接な関係があることを示唆して以来,脳の構造についての古典的な解剖学的研究が,現代の神経科学の礎を築いてきたことに異論の余地はないであろう.しかし,従来の解剖学的知見自体からは,脳の機能的構造を規定しているメカニズムについて知ることが困難であったことも事実である.このため我々は,空間解析による新たな解剖学的研究の確立に取り組んできた.空間解析とは,構造の背景にある規則を見いだすための数理的手法のことであり,生態学の分野では,樹木などの分布パターンの形成メカニズムを明らかにするために,幅広く用いられている.我々は,海馬のグリアについての空間解析を行い,ミクログリアにドメイン構造が存在することや,アストロサイトとミクログリアの間に誘引作用があることを発見した.本稿では,空間解析がもたらす神経解剖学の新たな可能性について考察する.

  • 山崎 貴司, 渡辺 和人
    2008 年 43 巻 4 号 p. 278-282
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF STEM)像は電子線の干渉性や輝度,収束性および装置の安定性の向上によって高分解能電子顕微鏡(HRTEM)像と同等の空間分解能を得ている.近年,球面収差補正装置の登場によって収束性が飛躍的に向上したため,分解能はsub-ångstromに至った.しかしながら,定量的局所構造解析の手法としてHAADF STEM法を利用するには,白い点を原子柱の位置として像を解釈するだけでは不十分である.そこで,これからSTEMを使って研究される方を対象に,数式による記述を極力避け,STEM像を理解するために必要不可欠なポイントの説明を通して本稿を著すことにした.なお,今回の解説Ⅱでは主にbright-field STEM像と球面収差補正したSTEM像を中心に行う.

  • 甲賀 大輔, 牛木 辰男
    2008 年 43 巻 4 号 p. 283-286
    発行日: 2008/12/30
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル フリー

    精巣上体管主細胞,性腺刺激ホルモン産生細胞,脊髄神経節細胞のゴルジ装置の三次元立体微細構造を,オスミウム浸軟した組織を用いて走査型電子顕微鏡で観察した.精巣上体管細胞のゴルジ装置は,扁平なゴルジ層板がシス側を外側にして重なり,全体で火焔状もしくは,コップ状をしていた.一方,性腺刺激ホルモン産生細胞では,ゴルジ層板が同心円状に積み重なり,全体でシス側を外側にした球状のゴルジ装置を形成していた.また,脊髄神経節細胞では,小さいゴルジ層板の重なりが細胞質内に多数分散していた.いずれの細胞のゴルジ装置も,シス最表槽は扁平な板状の槽からなり,その表面には多数の小さな孔があいていたが,トランス最表槽の構造は細胞の種類によって様々で,管状と板状の槽の多様な組み合わせでできていた.なお,トランス最表槽は,しばしば粗面小胞体と接していたが,両者間に直接的なつながりはみられなかった.

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