顕微鏡
Online ISSN : 2434-2386
Print ISSN : 1349-0958
44 巻, 1 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
特集:産業界での電子顕微鏡利用法と将来技術
解説
  • 西野 吉則
    2009 年 44 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2009/03/30
    公開日: 2020/01/21
    ジャーナル フリー

    X線回折顕微法は,コヒーレントX線回折パターンから試料像を再構成する斬新な手法である.像再構成には計算機上での反復的位相回復法が用いられる.レンズを必要とせず,従来のX線顕微鏡の限界を超える高い空間分解能が達成できる.X線の高い透過能を利用した,厚い試料の内部構造の非破壊測定に特に有効である.理想的なX線位相コントラスト顕微法であり,無染色の細胞小器官など,X線に対して透明な物体に対しても高いコントラストが得られる.さらに,ナノ結晶試料のブラック反射近傍でのコヒーレントX線回折からは,歪み分布を得ることもできる.最先端のアンジュレーター放射光を利用した研究が世界的な広がりを見せている.また,次世代のX線源であるX線自由電子レーザーを利用した研究への期待も高まっている.本稿では,X線回折顕微法の原理および研究の動向について解説する.また,電子回折顕微法の研究の動向についても触れる.

  • 黒住 昌史
    2009 年 44 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2009/03/30
    公開日: 2020/01/21
    ジャーナル フリー

    近年,癌の薬物療法は癌細胞の生物学的な性状によって適応を決定するいわゆる「tailor-made therapy」の方向に進んでいる.特にホルモン依存性癌である乳癌では,ER(estrogen receptor)もしくはPgR(progesterone receptor)陽性の患者のみが内分泌療法の対象になっている.また,ヒト上皮細胞増殖因子受容体であるHER2に対するモノクローナル抗体製剤であるtrastuzumabが,HER2のタンパク過剰発現ないしは遺伝子増幅のある乳癌に有効であることが明らかになり,広く臨床で使用されるようになった.現在,これらの治療法の適応を決めるために,ER, PgRの発現状況とHER2タンパクの過剰発現の有無を免疫組織化学的方法(IHC法)で,HER2遺伝子増幅をISH法(FISH, SISH, CISH)で検索することがスタンダードになった.このような乳癌領域における新しい展開は,長年の基礎的,臨床的研究の結実であり,地道な研究と実地医療が結びついた理想的な事例の1つと思われる.

講座
  • 進藤 大輔, 赤瀬 善太郎
    2009 年 44 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 2009/03/30
    公開日: 2020/01/21
    ジャーナル フリー

    磁性体の磁区観察に用いられるローレンツ顕微鏡の原理とその応用について記した.まず,試料の磁区構造に影響を与えない小さな磁場で観察を行う対物レンズ(ローレンツレンズと呼ばれる)の機構について説明した.次に,ローレンツ顕微鏡法と呼ばれる磁区観察法について解説した.汎用のディフォーカス法の他インフォーカス法を説明するとともに,強度輸送方程式を用いた位相計測法と走査ローレンツ顕微鏡法についても概説した.さらに,磁性材料の特性を理解する上で重要な磁化過程を明らかにするための各種磁場印加システムについても紹介した.永久磁石を用いた磁性針をピエゾ駆動ホルダに装着することにより,局在した強い磁場を試料に印加でき,永久磁石の逆磁区発生過程を追跡できることを示した.また,開発中の磁場印加と偏向システムを同期させた交流磁場印加システムの説明を行い,電磁鋼板中の析出物と磁壁の相互作用についての観察結果も紹介した.

  • 木森 義隆, 諸根 信弘, 片山 栄作
    2009 年 44 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2009/03/30
    公開日: 2020/01/21
    ジャーナル フリー

    Mathematical morphologyは,画像中の物体形状を操作し計測する理論的枠組みである.本稿では,バイオイメージに対し,mathematical morphologyに基づく画像処理を適用することにより,その構造情報を抽出し,定量的に計測する手法について述べる.

  • 石塚 和夫
    2009 年 44 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2009/03/30
    公開日: 2020/01/21
    ジャーナル フリー

    電子顕微鏡は目に見えないものを拡大して,微細構造を観測者の眼前にあらわ(顕)にするものである.このために,観察方法の工夫や,装置の改良による取得データの改善に力が注がれてきた.一方,データ処理により元の画像を肉眼で見るだけでは判らない情報を得ることが可能である.データ処理は本来存在しない情報を生成してはならない.この意味において,データ処理はなんら新しい情報を生み出すことはない.しかし,有用なデータ処理は,データに含まれている情報を人間が認識しやすいように加工しているのである.本稿では,このような画像処理の幾つかについて解説したい.しかし,これらの処理はもろ刃の剣であり,その解釈には観察対象に関する深い知識が必要とされる.このことを頭の片隅において,聡明な読者諸氏にはこのようなデータ処理に果敢に挑んで頂きたい.

  • 刑部 伸彦, 光岡 薫
    2009 年 44 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2009/03/30
    公開日: 2020/01/21
    ジャーナル フリー

    電子線結晶構造解析により原子モデルが決定された,MAPEGスーパーファミリーに属する2つの膜タンパク質(ミクロソーム型グルタチオン転移酵素1とミクロソーム型プロスタグランジンE合成酵素1)について,立体構造の特徴を述べ,さらにその酵素機能との関係について議論する.この二種類の酵素は,多様な基質をもつ前者と基質特異性が高い後者という異なる特徴を持つが,両者の構造上の違いからどのように上記の機能の違いが現れるか,現状のモデルを紹介する.また,これらの構造解析を例として,膜タンパク質の発現から,二次元結晶の作製,データ収集や解析までの電子線結晶学の現状を紹介する.X線結晶構造解析に比べると,研究開発が必要な部分がまだ多いが,膜中の構造が得られるなど利点も多く,電子顕微鏡を日常利用している研究者にとっては,簡単に試みることができる方法となってきている.

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