顕微鏡
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48 巻, 1 号
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特集:スピン偏極電子技術
  • 孝橋 照生
    2013 年 48 巻 1 号 p. 2-
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー
  • ―偏極電子源の原理とその応用―
    桑原 真人, 中西 彊, 竹田 美和, 田中 信夫
    2013 年 48 巻 1 号 p. 3-8
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    スピン偏極電子源は,負の電子親和性表面を有する半導体フォトカソードを用いたレーザー駆動型電子源である.この電子源は名古屋大学中西らの研究により,量子効率0.5%において92%の高いスピン偏極度を可能とし,ピコ秒パルス電子の生成や107 A/m2.sr.Vの高輝度電子ビーム生成が実現されている.その生成には半導体光物性,固体内の電子輸送過程,表面,そしてビーム物理と複合的な要素を考慮して開発されてきており,本記事ではスピン偏極電子生成原理とその特徴,またその特色を生かした透過電子顕微鏡への応用研究を紹介する.我々は既にスピン偏極電子源を透過電子顕微鏡に搭載しパルスTEM像の取得やEELS測定を実施しており,そのゼロロスピーク幅が0.3 eV以下であることを確認するに至っている.最後に電子顕微鏡への応用として大きな一歩を踏み出したことについて触れたい.

  • 越川 孝範, 鈴木 雅彦, 安江 常夫, Ernst Bauer, 中西 彊, 金 秀光, 竹田 美和
    2013 年 48 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)・光電子顕微鏡(PEEM)は表面の現象を実時間かつ多機能で観察する表面電子顕微鏡として注目を集めている.ここではLEEMにスピン偏極電子ビームを照射することによる,磁区観察の機能向上のための開発ならびに得られた結果について最近の状況を報告する.スピン偏極電子ビームを用いた磁区コントラストは弱いために実時間観察を実現しようとすると,電子銃の高輝度化,高スピン偏極化,電子源(フォトカソード)の長寿命化を実現しなければならない.そのため,励起用レーザ光の背面入射による高輝度化とそれに伴う歪み超格子フォトカソードの開発および偏極度の向上,極高真空(XHV)の実現と電子光学系の新しいデザインによる長寿命化を達成した.また,開発したスピン偏極LEEM(SPLEEM)を用いてスピントロニクス薄膜材料として期待される[CoNi2]y多層膜の詳細な観察を行った.これらの一連の成果につき報告する.

  • 孝橋 照生
    2013 年 48 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    スピン偏極電子技術を発展させてきた重要な要素のひとつが,スピン検出器の開発である.その検出技術を走査電子顕微鏡に取り入れ2次電子のスピン偏極度を解析し,磁区観察を可能にした装置がスピン偏極走査電子顕微鏡(スピンSEM)である.この技術は開発されて30年近く経つが,現在でもその性能向上は続いており,他の磁区観察顕微鏡にはない特長を活かし,磁性体の基礎的な物性解明を目的とした学術的な研究のみならず,磁気記録デバイスや永久磁石材料等の評価,解析にも用いられている.本稿ではスピンSEMの原理,特に最大の特徴であるスピン偏極度検出に関して述べた後,スピンSEMを用いたHDD記録媒体観察,並びに最近我々が搭載した試料加熱機構を用いたCo単結晶の500°Cまでの磁区観察例を紹介する.

  • 山田 豊和
    2013 年 48 巻 1 号 p. 20-25
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    スピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM: Spin-polarized scanning tunneling microscopy)は,試料表面・単一原子・単一分子・ナノクラスターなど,ナノ構造体や表面の電子・量子スピン構造(磁気構造)を,原子スケールの分解能で観察することのできる顕微鏡である.単なる顕微鏡でなく,同時に分光測定が行える.ナノ材料のフェルミ準位近傍(±3 eV)の電子(スピン)状態(=軌道)を測定できるため,ナノ材料の電気伝導測定に最適な手法の一つであり,次世代ナノエレクトロニクスデバイス創成および評価のための強力な手法となっている.本論文ではこのSP-STMの原理・概要をわかりやすく説明し,今後のSP-STM研究の発展・普及を願う.

解説
  • 石田 森衛, 大林 典彦, 谷津 彩香, 福田 光則
    2013 年 48 巻 1 号 p. 26-32
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    メラノソームはメラニン色素を合成・貯蔵する細胞内の袋状の構造物(オルガネラと総称)で,メラノサイトと呼ばれる哺乳類の皮膚などに存在する特殊な細胞で形成される.メラノソームはメラニン色素を含み黒く着色されているため,古典的な光学顕微鏡でも観察が可能であり,その研究の始まりは150年以上前に遡る.この長い歴史の中で,メラノソームの単離・精製に関する生化学的な研究が盛んに行われ,また近年のマウスの毛色変異体やヒトの色素異常を伴う遺伝病の原因遺伝子の解析により,メラノソームの機能に関与する分子が数多く同定されてきた.本稿では,これらの研究により解明されたメラノソームの基本的な性質についてまず概説し,メラノソームの形成・成熟・輸送の仕組みについて最近の知見を紹介する.

  • 伊藤 智雄
    2013 年 48 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    免疫染色は現代の病理診断学にとってなくてはならない.様々な目的の抗体があり,上皮性マーカーとしてはサイトケラチン類,その他目的によって様々なものが用いられる.血球マーカーは主に悪性リンパ腫の診断に用いられ,L26,CD3を中心として多様な抗体が用いられている.間葉系マーカーとしては,平滑筋にはαSMAその他が用いられるが,単独での判断は控えるべきである.横紋筋肉腫にはmyogeninやMyoD1といった新たな有用なマーカーが登場した.悪性黒色腫に対してもSOX10という優秀な新規抗体が得られ,今後の普及が待たれる.治療選択に有用な免疫染色としては特に乳癌におけるエストロゲン,プロゲステロン受容体,さらにHER2が広く検索されている.近年肺腺癌の一部にEML4-ALK融合遺伝子陽性群が見出され,分子標的療法の適応決定に免疫染色が用いられるようになった.今後とも新たな抗体の登場などにより,より免疫染色の重要性は高まってゆくものと思われる.

  • 齋藤 晃, 長谷川 裕也, 内田 正哉
    2013 年 48 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    本稿では,らせん状の波面をもつ電子波の物理的基礎を概説し,最近われわれが行った電子らせん波の生成,伝播および干渉についての結果を紹介する.透過電子顕微鏡の照射レンズ系にFIB加工したフォーク型回折格子およびスパイラルゾーンプレートを導入し,試料上でのビーム径がナノメーターオーダーの電子らせん波を生成した.特にスパイラルゾーンプレートをもちいた実験では,±90ћという大きな軌道角運動量をもつ電子らせん波が生成できた.また,回折格子等を通過した電子がらせん波を形成するまでの伝播過程を観察し,その強度分布がフレネル伝播理論にもとづくシミュレーションときわめて良い一致を示すことを明らかにした.さらに2つの電子らせん波をもちいた干渉実験を行い,互いの軌道角運動量によらずそれらが干渉することを見出した.この結果から,軌道角運動量はスピンと異なり,位置や運動量と同時計測不可能な物理量であることが確認できた.

講座
  • 水之江 義充
    2013 年 48 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    細菌は飢餓や低温等のストレス下で生存するために種々の適応戦略を有している.代表的なものはグラム陽性菌では芽胞の形成である.一方,グラム陰性菌ではバイオフィルムの形成や生きているが培養できない(VNC:viable but noncalturable)状態への移行などが考えられる.コレラ菌は飢餓等のストレスが加わると,通常見られる平滑な(スムース)コロニーからしわのよった(ルゴース)コロニーに変化することを見出した.ルゴースコロニーはバイオフィルムを形成し,酸化ストレスや高浸透圧のストレスに抵抗を示した.また,コレラ菌を低温や低栄養の培地中で長期間培養すると,培養能が徐々に低下し寒天培地上でほとんどコロニーを形成しなくなった.つまりVNC状態へ移行した.VNC状態の菌をカタラーゼ等の抗酸化剤を含む培地に播種することにより蘇生(コロニー形成)に成功した.コロニー形態の相変異やVNCへの移行はコレラ菌のストレスに適応するための重要な戦略と考えられる.

  • 山田 博之
    2013 年 48 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は,かつて世界で最も高い死亡率を記録した感染症である結核の原因菌である.1882年,Robert Kochにより発見された.幅約0.5 μm,長さ約3 μmのやや湾曲した普通の桿菌であるが,結核菌を含む抗酸菌属の細菌はcarbol fuchsin(石炭酸フクシン)やauramine Oを用いる染色で,塩酸アルコールによる脱色に耐える「抗酸性(acid-fastness)」を示す.また,結核菌のコロニーはコード形成と呼ばれる特異的な形態を呈し,感染宿主細胞内ではphagosome-lysosome fusion(P-L fusion)を阻害して殺菌プロセスから逃れるなど極めて特徴的な性質を示すが,その発現機序は未だ不明な部分が多い.本講座では結核菌が示すこれらの形態学的な特徴を電子顕微鏡観察を用いて検討した結果を紹介する.

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