日本健康教育学会誌
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21 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 高泉 佳苗, 原田 和弘, 中村 好男
    2013 年 21 巻 3 号 p. 197-205
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/09/05
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は,健康的な食行動と身体活動を促進するための情報発信において,有用なチャネルを明らかとするために,健康情報源と食行動および身体活動との関連性を検討することを目的とした.
    方法:社会調査会社の登録モニター898名(平均年齢41.5歳)を対象とし,インターネットによる横断調査を実施した.調査項目は,独立変数として健康情報源,従属変数として食行動および身体活動を調査した.健康情報源と食行動および身体活動との関連は,ロジスティック回帰分析を用い,年齢階層,最終学歴,世帯収入,同居人数を調整して検討した.解析は男女別に行った.
    結果:「朝食を食べている」という食行動と関連していた健康情報源は,男性において雑誌(OR=1.70,95%CI=1.01-2.86)および家族(OR=1.98,95%CI=1.05-3.73)であった.「バランスの良い食事を食べている」と関連していた健康情報源は,女性において新聞(OR=1.68,95%CI=1.04-2.71)と家族(OR=2.40,95%CI=1.35-4.27)であった.23 Ex(エクササイズ)/週以上の身体活動と関連していた健康情報源は,男性において雑誌(OR=1.77,95%CI=1.07-2.95)とインターネット(OR=1.55,95%CI=1.03-2.35)であった.
    結論:本研究で得られた結果から,1)食行動の促進に有用なチャネルは,男性では家族と雑誌,女性では家族と新聞であること,2)男性における身体活動の促進には雑誌およびインターネットからの健康情報が有用であることが示唆された.
  • 幸地 康子, 原田 和弘, 片山 祐実, 中村 好男
    2013 年 21 巻 3 号 p. 206-215
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/09/05
    ジャーナル フリー
    目的:ウォーキング行動と関連性のある恩恵の抽出が可能な尺度を開発すること.
    方法:40~64歳の日本人(n=3,000)を対象にしたインターネット調査による横断研究を実施した.結果をもとに,定義された8因子40項目について探索的・確認的因子分析を行い,尺度の妥当性,信頼性を検証した.
    結果:探索的・確認的因子分析の結果から,7因子構造(21項目)で,許容できる適合度指標の値を得た(GFI=0.942,AGFI=0.921,RMSEA=0.06).また,内的整合性を示す,Cronbachのα係数においても,許容できる値であった(α=0.80~0.88).尺度スコアとウォーキング時間(身体活動の推奨基準に従い週150分以上・未満の2群に分類)との関連性を検証した結果,一部の下位尺度を除き,ウォーキング時間が週150分以上の群の方が,尺度スコアも高くなることが確認された.さらに,再検査法においても,尺度全体において強い相関が認められた(r=0.74,p<0.01).
    結論:40~64歳の成人を対象に,7因子21項目のウォーキングに特化した恩恵認知尺度が開発され,尺度全体の妥当性・信頼性において許容できる値を得られた.
  • 足達 淑子, 上野 くみ子, 永本 博子, 深町 尚子, 田中 みのり, 佐藤 千史
    2013 年 21 巻 3 号 p. 216-224
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/09/05
    ジャーナル フリー
    目的:男性飲酒者におけるAUDITと節酒意向との関連を検討すること
    方法:AUDITを含む自記式質問票による横断調査.健診受診した飲酒男性363名を,AUDIT 7点以下,8~15点,16点以上の3群間で基本特性,飲酒状況,飲酒の効用・デメリット,知識および節酒意向(4件法)を比較した.次いで節酒意向を従属変数に,年齢,飲酒の効用数とデメリット数,翌日への影響,飲酒頻度,飲酒後の後悔,減酒の勧めを独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った.
    結果:節酒意向を有する者は8~15点群の42.9%,16点以上群の64.7%とAUDIT得点が高いほど多かった.反面,8~15点群の73.8%,16点以上群の38.2%が節酒助言を受けておらず,適正飲酒の正答率も30%台と低かった.ロジスティック回帰分析からは飲酒頻度(オッズ比 1.62),飲酒後の後悔(オッズ比 1.74),減酒の勧め(オッズ比 1.38)が節酒意向の関連要因として抽出された.
    結論:AUDITは節酒意向と関連しており問題が重篤なほど節酒意向を有する者が多かった.飲酒教育におけるスクリーニングには問題飲酒と節酒意向の把握を含めるべきである.
実践報告
  • ―1型糖尿病のケースを用いて―
    竹鼻 ゆかり, 佐藤 千史
    2013 年 21 巻 3 号 p. 225-235
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/09/05
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,研究者らが以前に作成した病気の子どもを理解し支援できるようになるための指導法を改訂し,その評価を行うことである.
    方法:改訂の主たる点は,指導法の内容の精選,指導者の統一,対象の一般化,評価方法の簡素化,介入群・対照群における1カ月後の追跡調査の実施である.準実験研究デザインにより,公立中学校の2年生222名を対象とし,介入群には,授業の1週間前に調査を行った後,授業前日に1型糖尿病を簡単に説明したパンフレットを配布した.翌日に病気の理解を促す授業を行い,その直後と1ヵ月後に事前と同様の調査を行った.対照群には,授業を行わず介入群と同日に調査とパンフレットの配布を行い,すべての調査終了後に倫理的配慮として授業を行った.
    結果:男子では「病気の理解」(p=0.001),「病気の支援」(p<0.001)において,女子では「病気の理解」(p=0.003)と「病気の支援」(p=0.016)「共感性」(p<0.001)において,事前より事後に有意に得点が上がっていた.また,一ヶ月後は男子の「病気の理解」(p=0.041),女子の「病気の支援」(p=0.047)において,事前より一カ月後に有意に得点が上がっていた.
    結論:慢性疾患の子どもを支援するための指導法の改訂版は,公立の中学生に対して効果があり,1型糖尿病などに罹患している子どもを支援するための指導法として活用できる可能性が示唆された.
  • 滝澤 寛子, 若林 佳子
    2013 年 21 巻 3 号 p. 236-244
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/09/05
    ジャーナル フリー
    目的:退職男性の地域活動グループを育成し,その活動経過からグループ活動の推進要因について検討した.
    方法:55~65歳の男性を対象に,活動を通じて地域とのつながりを充実させていくことができるグループづくりを目指して,講座を企画し,2007年,2008年に実施した.活動場面への参加観察と,グループメンバーへの聞き取りによりグループ活動の経過を把握し,活動展開をまとめた.活動の発展過程から,グループ活動の推進要因を抽出した.
    結果:継続して参加した者は,2007年が23名の申込み中19名,2008年が12名の申込み中12名,計31名だった.各年度の講座終了後,「このまま別れるのはもったいない」と参加者の中から声があがりグループが誕生した.グループ活動の経過から活動の推進要因として5つ抽出した.参加者側の要因として,「肩書きにこだわらず互いをよく知ること」「自分たちにできることへの挑戦とその成果の実感」「縛られない自由と楽しさ」の3点,活動方法に関する要因として,「さまざまな団体との交流や協働」「活動拠点があること」の2点を見出した.今後はいかにメンバーを確保するかがグループ活動の課題である.
    結論:退職男性の地域活動グループを育成し,その活動経過からグループ活動の推進要因について検討した結果,5つの要因を抽出した.メンバーの確保が今後の課題である.
特別報告
  • 神馬 征峰
    2013 年 21 巻 3 号 p. 245-252
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/09/05
    ジャーナル フリー
    背景:1994年以降ポピュレーション・ヘルスの波が高まるにつれ,とりわけカナダではヘルスプロモーションが下火となり,ヘルスプロモーションの価値見直しの検討がなされてきた.注目すべき事項として,本稿では3つの課題をとりあげる.第1に「ヘルスのプロモーション」と「ヘルスプロモーション」の違い,第2にヘルスプロモーションにとって望ましいエビデンス,第3にヘルスプロモーションの発展過程についてである.
    内容:第1に,「ヘルスのプロモーション」とは,健康を増進しようと思っている人すべてにあてはまる共通な言説である.一方「ヘルスプロモーション」は「健康に影響を及ぼすライフスタイルや生活状態を計画的に変容させていく」ための専門分野ととらえるべきである.第2にエビデンスに関しては,プロミスィング・プラクティス(有望実践例)がより適切であるとの動きがある.有望実践例とは,「ベスト・プラクティスと称するほどには十分(科学的に)評価されていないかもしれないけれども,輝きに満ち(illuminating)かつ心をゆさぶる(inspiring)実践例」である.最後に,ヘルスプロモーションの発展プロセスとして,ツリー型(樹木型)に対して,ヘルスプロモーション活動があちこちから生じるリゾーム型(地下茎型)の発展がみられている.
    結論:公衆衛生分野においてヘルスプロモーションの定義をより専門的なものと捉え,有望実践例が,リゾーム型に発展していくプロセスに今後注目すべきである.
  • 神馬 征峰
    2013 年 21 巻 3 号 p. 253-261
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/09/05
    ジャーナル フリー
    背景:健康教育やヘルスプロモーションによる行動変容は最重要課題の一つである.しかしながら,これらの戦略をもってしても,行動変容が難しい場合がある.本稿では行動変容の一つの手段として,Positive Deviance Approachを紹介することを目的とする.
    内容:他の人たちと同じ課題を抱えているにもかかわらず,その課題をよりうまく解決する人を positive deviant,その行為をpositive devianceという(本稿では以下いずれもポジデビと称する).1990年,米国のNGO,Save the Childrenがベトナムの4つの村で栄養調査を行った結果,3歳未満児の64%が栄養不良であった.ということは,36%は栄養不良ではない,ということでもある.この36%の中でポジデビを探した結果,見えてきた特徴は以下のようであった.「田んぼや畑からお金のかからない食品を入手している」,「汚れたら子供の手を随時洗わせている」,「子供が1日に食べる回数を2回から4,5回に増やしている」.これに基づいたポジデビ・アプローチをとることによって,7年間で 50,000人以上の子供たちの栄養状態が改善した.その後さらにこのアプローチは,院内感染対策,乳幼児死亡改善策,肥満対策,妊婦の栄養対策などに用いられ,困難な行動変容課題を克服してきた.
    結論:ポジデビ・アプローチは行動変容が困難な健康課題を克服するための手段として有効に使える.日本でも今後これが広がっていくことを期待したい.老人対策,震災後の地域保健対策,学校のいじめ対策などに,このアプローチは使える可能性がある.
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