日本健康教育学会誌
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22 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 朴 ソラ, 増田 知尋, 村越 琢磨, 川﨑 弥生, 内海 建, 木村 敦, 小山 慎一, 日比野 治雄, 日野 明寛, 和田 ...
    2014 年 22 巻 2 号 p. 100-110
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:残留農薬に関する知識が十分でない消費者に,適切な残留農薬量の理解を促すためのイラスト表記を開発し,その理解度を検討することを目的とした.
    方法:大学生および大学院生80人を対象に横断研究を行った.文章のみ,累積正規分布関数のグラフと文章,農薬量を一次元で示したイラストと文章の3種類の説明表記のうちどれか1種類を添付した質問紙を配布した.回答は,無毒性量,一日摂取許容量,残留農薬基準の3段階の残留農薬条件以下の農薬が残留している架空の農産物について,安全性に関わる3つの質問項目にビジュアルアナログスケールを用いて評定させた.安全性評価の相対的な大きさが残留農薬量の順序と一致した場合を正答として条件ごとに正答率を算出し,χ2 検定を行った.
    結果:すべての質問項目で正答率に有意な偏りがみられた(p<0.05).残差分析の結果,「文章+イラスト」条件では正答率が期待値よりも一貫して高かった(59.3~70.4%).一方で,「文章のみ」では正答率は期待値との差はなかった(41.4~55.2%).また,「文章+グラフ」では,どの程度安全であると感じるか,自分が食べようと思うかの質問で期待値よりも正答率が低かった(16.7~33.3%).
    結論:グラフは残留農薬量の適切な理解を促進しないが,一次元で表したイラストは促進することが示唆された.
  • 林 芙美, 武見 ゆかり, 赤松 利恵, 奥山 恵, 西村 節子, 松岡 幸代, 蝦名 玲子
    2014 年 22 巻 2 号 p. 111-122
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:特定保健指導を受けたが,減量に成功しなかった男性勤労者を対象に,その背景にある非成功要因について質的に検討した.
    方法:関東の4つの職域健康保険組合が委託した機関において,特定保健指導を受け,6ヶ月後評価時に体重変化が1%未満であった者か増加が見込まれた者,計63名に研究協力を依頼した.同意が得られた36名を対象に,インタビューガイドを用いた約30分間の個別半構造化面接を実施した.分析は6ヶ月評価時の体重変化が基準を満たした28名を対象とした.逐語録を作成しグラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に分析を行い,初回面接後の原因的条件として語られた内容別にカテゴリーをパターン化した.
    結果:逐語録から,背景的要因として,【必要性を感じていない】,【仕事による強いあきらめ】,【制度への不信感】の3つのカテゴリーが抽出され,さらに原因的条件として【自分のこととして危機感を感じなかった】,【義務感】等,5つのカテゴリーが抽出された.非成功に至るまでのプロセスについて,いくつかのカテゴリーの重なりをパターン化したところ,7つの異なるパターンに分けられた.
    結論:職域男性における減量の非成功要因について検討した結果,7つのパターンが示された.特に,原因的条件の【義務感】や【反発】,背景的要因の【制度への不信感】は,特定健診・特定保健指導に特徴的な要因であった.
短報
  • ―健診機関等保健師の運動指導における認知―
    高波 利恵, 中田 光紀
    2014 年 22 巻 2 号 p. 123-132
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:世界保健機関によると,健康づくり支援の際,人々の認識や行動だけでなく,それを取り巻く環境に働きかけることが効果的である.本研究は個別保健指導での対象者を取り巻く環境への着目の重要さに対する保健師の認知と,保健師の背景との関係を特定することを目的とした.
    方法:西日本7県の149名の保健師のうち,分析の該当基準に適合した83名を対象に横断的自記式質問紙を用いた横断調査を行った.調査項目は,1)環境と対象者の認識・行動への着目の重要さの認知,2)保健師の背景とした.これらの関連はχ2 検定とU検定を用いて分析した.
    結果:「情報的環境」と「家庭の社会文化的環境」では,環境への着目を「重要」とした者が70%以上であった.しかし,「社会的環境」と「職場の社会文化的環境」では70%未満で,この結果は保健師の保健指導経験年数と関連がなかった.さらに,保健指導以外の支援機会が少ない者よりも,多い者の方に「重要」と回答した者が少ない結果が,「社会的環境」の3項目,「職場の社会文化的環境」の2項目で示された.
    結論:健診機関等保健師において保健指導の際に「社会的環境」と「職場の社会文化的環境」に着目することは,「情報的環境」や「家庭の社会文化的環境」よりも重要とは認知されていなかった.この結果は,保健指導以外の支援機会が少ない者よりも,多い者の方で顕著に示された.
実践報告
  • 須藤 英彦, 濱崎 絹子, 原田 和弘, 安田 誠史, 中村 好男
    2014 年 22 巻 2 号 p. 133-145
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:電子メールを活用した職域ウォーキングプログラムを開発し,勤労者のウォーキング行動を促進する事業を行った.本論文は本事業の有効性の評価を行い,今後の課題を明確にすることを目的とした.
    方法:K県の事業所Aが実施した社内研修参加の従業員210名を対象とし,準実験研究デザインにより,ウォーキングプログラムへの参加希望者に対して4ヵ月間のプログラムを2回実施した.プログラム実施前後にウォーキング時間とウォーキング行動の変容ステージに関する自記式質問紙調査を行い,プログラムのアウトカム評価を行った.2回のプログラムのどちらかに参加した45名のうち,事後調査に回答の35名を介入群とし,どちらにも参加を希望しなかった165名のうち,事後調査に回答の110名を対照群とした.第1回プログラム終了後のアンケートに回答の20名を対象としてプログラムのプロセス評価を行った.
    結果:介入群は対照群と比較して,介入前後のウォーキング時間の増加量が60分/週長く,群間の差は有意だった(p=0.02).介入群では,仕事場面で有意な増加(50分/週)が認められた(p=0.02).プログラム前後の行動変容ステージの変化量には,群間で有意な差はなかった(p=0.22).
    結論:電子メールを活用した職域ウォーキングプログラム介入により,勤労者のウォーキング時間が増加する効果が示唆された.
特別報告
  • 湯浅 資之, 白山 芳久
    2014 年 22 巻 2 号 p. 146-152
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:人々の健康は経済・社会・政治・環境など様々な社会的決定要因(Social Determinants of Health)に影響を受けることから,健康問題の解決や健康格差の解消には保健医療以外の分野との幅広い協働が必要とされる.IUHPE世界大会2013において社会的決定要因について発表された演題を紹介し,研究の最新動向を紹介することを目的とする.
    方法:同大会において配布された演題抄録集から,「社会的決定要因(Social Determinants)」を主題に含む27の演題を分析の対象とし,英文抄録をもとにその研究内容を紹介した.
    結果:演題はエリア別で見るとアジア5ヵ国(17題),北中南米3ヵ国(5題),欧州4ヵ国(4題),そしてオーストラリア1題と計13ヵ国から報告があった.例えば,タイでは,社会的決定要因に対処するために,病院・行政・コミュニティから成る組織を形成し取り組んだ.カナダでは公衆衛生関係者,医師,疫学者,研究者らを全国から集めワークショップを積み重ね,対処の方法を模索した.フランスやオランダの事例では,公共政策を健康の社会的決定要因に配慮した政策へと転換するために,行政への継続的な働きかけや代替オプションの具体的提示が重要だと報告された.
    結論:健康の社会的決定要因介入の具体策として,立場が異なる人々による話し合いの積み重ねや,行政への継続的な働きかけ,エビデンスの蓄積の必要性が強調された.
  • 北田 雅子, 望月 友美子
    2014 年 22 巻 2 号 p. 153-161
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:本稿では,第21回ヘルスプロモーション・健康教育国際連合(IUHPE)世界会議において報告されたタバコ規制に関する調査研究の動向を概観し,世界のタバコ規制の現状と今後の方向性を考察するとともに,日本の課題を検討することを目的とした.
    方法:学会抄録附属DVDを用い,タバコ規制に関する発表88演題(口頭発表,ワークショップおよびポスター)の抄録を全てレビューした.
    結果:演題内容は,タバコ規制の政策や戦略24,若者や未成年の喫煙防止13,禁煙サポート18,受動喫煙からの保護20,メディアやマーケティングによるタバコ規制等13であった.世界会議開催国タイからの演題は44と全発表の半数を占めた.これらの演題レビューの結果から,世界のタバコ規制は2005年に発効したFCTCにより,その取り組みが一気に加速しており,国家レベルで包括的な取り組みが展開されていることが明らかとなった.
    結論:日本の今後の課題は,他国のようにFCTCに沿ったタバコ規制を国内で推し進めることである.そのためには,ヘルスプロモーションの専門家は,一般市民のタバコリテラシーの向上を目指し,タバコ産業の活動(特に社会貢献活動,CSR)に抗する対策を考え,タバコの害から全ての人を守るための「政策決定の橋渡し(アドボカシー)」の役割を果たすことが必要であると思われた.
  • 中山 直子, TRIPATHI Suriyadeo
    2014 年 22 巻 2 号 p. 162-170
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:第21回IUHPE世界会議(開催地;タイ・パタヤ)における,子どものwell-being,コミュニティ,life assets(生活(生命)資産)に焦点を当て,研究の動向を概観し報告することである.
    方法:子どものwell-being,life assetsに関連する報告を基に,シンポジウム・ワークショップや一般口演における各報告の概要と特徴について,当日の報告,抄録の内容や関係する資料に基づきまとめ概観した.
    結果:子どものwell-beingに関する発表や報告は多岐にわたった.今回注目したlife assetsプロジェクトは,48項目の知識ベースの評価指標を使用し,それらを5つのメイン要素に分けて青少年のポジティブな力に注目したプログラムとなっていた。継続的な調査では,1)青少年の保護要因としての個人と社会の評価を行うこと,2)コミュニティで利用できる資源を使ってlife assetsを構築する準備をすること,3)コミュニティの活動へ青少年を参加してもらい改善することが提案されていた。また,国家政策のもとに継続的にモニタリングしていくことの重要性が報告されていた.
    まとめ:子どものwell-beingに関する研究は,家族ベース,学校ベース,地域ベースの取り組みで行われているものが多く,子どもとその保護者のみならず,国家政策のもとに,家族・学校・地域を核とした環境整備が必要であることが示唆された.
  • 春山 康夫, 福田 洋
    2014 年 22 巻 2 号 p. 171-176
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:今日,Non-communicable diseases(NCDs)は最も重要な健康課題の一つである.本報告では,第21回IUHPE世界会議の中での,1)NCDs対策への投資の現状(タイの事例),2)NCDs予防の実践と研究に関する動向,3)NCDsリサーチプラットフォームについてまとめ,わが国のNCDs対策への参考資料として活用されることを目的とした.
    結果:1)ThaiHealth(タイヘルス)は,たばこ税と酒税を原資とし,毎年約100万ドルの予算規模でヘルスプロモーションに投資している.その中で,禁煙,アルコール対策,運動促進,健康リスク対策及び地域ヘルスプロモーションセンターの推進などNCDsに関連するプロジェクトが半分以上を占めている.2)ヘルスプロモーションにおいて個人または組織レベルでできる限り早い段階でのヘルシーリテラシーへの介入と測定方法の確立が重要である.3)研究協力プラットフォームは,人々の健康公平性を保つための,多施設多部門間の研究者と政策決定者と実践者間の有効な架け橋となる可能性がある.
    まとめ:わが国のNCDsを克服する効果的で効率的な保健指導プログラムのためには,健康への継続的投資,社会的決定要因,健康行動理論のエビデンスの蓄積及びリサーチプラットフォームに注目すべきである.
  • 大谷 順子
    2014 年 22 巻 2 号 p. 177-184
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    抄録:質的手法は近年,社会学,心理学,教育学,人類学,健康科学,ビジネスのマーケティングリサーチなど,様々な分野で用いられるようになっている.一方で,質的手法にどのように取り組めばよいのか,あるいは,学術的に価値のある研究になっているのか,不安を抱えている.健康教育学分野においても例外ではない.そこで本稿では,はじめに,質的研究の方法論の基本について,まずは方法ありきでなく「はじめにデータありき」のアプローチで,量的との比較も交えながらまとめ,混合研究法も紹介する.つぎに,質的研究を上手に行うのに有用と思われる質的データ分析ソフト(QDAソフト)について紹介する.具体的な研究プロジェクトを進めていくときに参考になりそうな,参考文献も示す.教科書的な書籍と,具体例として参考になる論文である.質的研究においては,いろいろな参考文献を読み比べることが重要である.孤独な作業ともなりがちな研究をグループ作業として進める方法もまたあみだしてほしい.健康教育は,世界的にみても日本は進んでおり良い事例を多く持っている.健康教育分野でも,ますますの質的手法を用いた良い研究成果が発表されることを期待したい.
  • ―質的研究セミナーを終えて グループワークの記録―
    松下 宗洋, 青柳 健隆, 戸ヶ里 泰典
    2014 年 22 巻 2 号 p. 185-191
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/13
    ジャーナル フリー
    目的:2014年1月26日に日本健康教育学会主催で質的研究セミナーが開催された.そこで,セミナー参加者によるグループディスカッションの成果ならびに総合討論の概要を報告する.
    方法:受講者総数は101名であった.グループワークでは,計10グループに分かれ「質的研究について知りたいこと」をテーマに議論し模造紙に整理した.また,整理した結果をもとにグループごとに講師並びに編集委員に対して質疑応答を行った.本稿では各グループの整理結果について再度構成,整理を行なうとともに,質疑の概要を記述した.
    結果:質的研究に関する疑問点として大きく6つ「1.質的研究法・混合研究法の概要」「2.研究戦略・方略について」「3.データ収集の方法」「4.分析の方法」「5.分析から結果への移行」「6.論文執筆について」のカテゴリに分けられた.総合討論においては,質的研究方法論の習得,分析のテクニック,質的研究の質と原著性,飽和状態に達すること,等について質疑が行われた.
    結論:グループワークの結果から,疑問内容はきわめて多岐にわたっていることが明らかになった.総合討論においても,本質的で具体的な問題についてのやり取りが展開されて,参加者は有益な情報を得ることができた.
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