日本健康教育学会誌
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24 巻, 1 号
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巻頭言
短報
  • 渡邊 晶子, 福田 吉治
    2016 年 24 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
    目的:行動経済学のヘルスプロモーションおよび疾病予防への応用が期待されている.本研究は,行動経済学の考え方のひとつであるナッジに基づき,ビュッフェ方式の食事における料理の並ぶ順番が食の選択や摂取量に影響を与えるかどうかを検証した.
    方法:山口大学医学部保健学科学生(男性63名,女性436名)から参加を希望した61名を無作為に2群に割り付け,昼食時にビュッフェ方式の食事(16品目)を提供した.野菜先行群は,手前から順に,生野菜,果実,野菜料理,主食,肉・魚料理と並べた.もう一つの群はこれとは逆の順番とした(肉類先行群).20代の女性54名(野菜先行群27名,肉類先行群27名)を分析対象者として,摂取品目数と摂取数(品目および料理の種類ごとの個数)を比較した.
    結果:野菜先行群では肉類先行群に比べ,野菜料理(4品目)の品目数が有意に多かった(3.5個対3.0個).また,野菜先行群より肉類先行群は主食以外の品目に占めるタンパク質料理の品目の割合が有意に多かった(30.4%対34.8%).さらに,料理の種類ごとの摂取数については,野菜先行群に比べ,肉類先行群はタンパク質料理の摂取数が有意に多かったが(3.8個対5.4個),野菜先行群が肉類先行群よりも有意に多くの量を摂取した料理の種類はなかった.
    結論:料理の種類ごとの品目数の比較において,野菜料理を先に並べると野菜料理の摂取品目数が多くなり,逆に肉料理を先に並べるとタンパク質料理の割合が高くなっていた.日本人大学生においても料理の順番は食の選択や摂取量に影響を与えることが示された.
実践報告
  • ―Learning Partner Modelを用いた検討―
    助友 裕子, Ana M. NAVARRO
    2016 年 24 巻 1 号 p. 12-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
    目的:自治体の市民向け講座において,学習内容が受講者から地域へ普及するLearning Partner Modelの有用性について検討することを目的とした.
    方法:2自治体における健康に関する市民向け講座(28~30回)のうちがんに関する講座の前後に,受講生(以下,第一参加者)とその家族または友人(以下,第二参加者)を対象とした自記式質問紙調査を行った.調査項目として,社会的属性,がん予防知識,がんの講座で学んだことを共有したいと思うかをたずねた.回答の得られた第一参加者(事前事後とも58名),第二参加者(事前53名,事後54名)を解析対象とし,事前事後比較,第一・第二参加者間比較を行った.
    結果:がん予防知識について,事前調査では,正答数の平均値に第一参加者と第二参加者間で差は見られないものの,事後調査では第一参加者が有意に高かった(p<0.01).事後調査において,がんの講座で学んだことを共有したい人数は,第一参加者は全員が,第二参加者は8.5割の者が,少なくとも1人以上の数字を回答していた.
    結論:本実践報告では,学習内容が受講者から地域へと波及効果をもたらす可能性として,受講者の社会的ネットワークを好ましい情報伝達経路ととらえたLearning Partner Modelの有用性が示された.今後,学習内容が確実に伝達される介入プログラムを開発し,自治体の市民向け講座事業が地域の健康水準向上に寄与するためのプロセス評価を行うことが可能となる.
特別報告
  • 涌井 佐和子
    2016 年 24 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
    目的:特定健診・特定保健指導制度下での身体活動不足や座位行動(座りすぎ)対策の課題や今後期待されるポピュレーション戦略についてレビューし,且つ,これらの実践例を示すこと.
    内容:特定健診・特定保健指導は,メタボリックシンドロームの予防・解消を目的としたハイリスク対策の制度である.しかしながら,次に示す3点の課題がある.1)身体活動不足であることが,喫煙習慣と比較して重視されていない.2)これまでに座位行動(座りすぎ)の評価や座位行動を減らす介入は実施されていない.3)身体活動不足である人々の多くは特定健診を受診しておらず,しかも専門家による身体活動介入の恩恵も受けていない.この制度の対象は40歳~74歳の全ての被保険者とその扶養者であり,ポピュレーション戦略の機会になり得る.「健康づくりのための身体活動基準2013」では,社会環境整備や社会的支援の増加などを含む,ポピュレーション戦略が強調されている.しかし,理論的な枠組みについてはあまり示されていない.これまでにその実践例は,いくつかの理論やモデル(例:コミュニティ組織論,普及理論,メディア効果論やソーシャル・マーケティング,エコロジカルモデル)に基づくものであり,身体活動の促進や,座位行動の低減に適用されてきている.
    結論:特定健診・保健指導の制度において,理論あるいはモデルに基づいたポピュレーション戦略の視点を持つことが期待される.
  • ―食育から食環境整備までの現状と課題―
    阿部 絹子
    2016 年 24 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
    目的:ポピュレーションアプローチに基づく群馬県の食育及び健康増進対策の実施状況と問題を報告することを目的とした.
    内容:群馬県では,健康増進対策の一環として食育推進計画における第2次計画から第3次計画へ積極的に取り組んだ.①これまで食品安全部門が所管していた食育推進業務を健康増進部門に移管し,健康増進施策と一体的に推進する組織体制とした.②若い世代食育推進協議会の設置や高齢者の食育支援体制整備を行い,生涯に渡って県民の「食」と健康への支援を強化した.③社会環境の整備として健康づくり協力店制度(栄養成分表示・ヘルシーメニュー提供店舗等の登録)を導入し,今現在登録企業数は100社を上回った.以上の対策は県民及び関係企業・団体のどこまで普及できるか,また,行政と企業(社会環境)が互いの強みを活かし,連携できるネットワーク体制の構築が課題となっている.
    結論:今後,県民の健康のため,ポピュレーションアプローチとしての食育と健康増進対策を継続に推進すると共に,多分野の連携できるネットワーク体制の形成が重要である.
  • ―生活保護受給者への生活習慣病重症化予防対策―
    高橋 真奈美
    2016 年 24 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
    目的:川崎市では生活保護受給者と生活困窮者を含めた方策について全庁的に検討し,「川崎市生活保護・自立支援対策方針」を策定した.6つの基本施策の1つとして「健康づくり支援」を位置づけ,平成25年度からは市内福祉事務所の生活保護担当部署に正規職員保健師を1名配置した.こうして始まった被保護者の健康管理支援の取り組みについて報告する.
    活動の実際:取り組み課題は「高齢者世帯の増加に伴う医療扶助費の増大」と「経済格差を背景とした健康格差」である.そして,ケースワーカーの訪問頻度が少ないケースを中心とした高齢者の健康支援と生活習慣病の重症化予防を重点項目とした.具体的な活動として,①個別支援,②生活習慣病予防対策(糖尿病対策),③健康診査の受診率向上,④医療扶助費の適正化を行っている.これらの活動は本庁保健師,市内9福祉事務所の保健師,ケースワーカー,関係職員が協力し,試行錯誤しながら健康管理支援を実施している.
    まとめ:生活保護の現場では,保健師を含む関係者が予防的介入や健康の視点を基盤に,住民の自立助長を図っていく必要がある.国からも健康管理支援についての課題や方向性,評価指標が示されている.川崎市でのこの取り組みによる効果測定は,今年度の課題である.また,被保護者が生活保護廃止となった後も,継続して健康管理に関する支援を受けられる仕組みや地域づくりを関係部署・関係機関と共に検討していくことも課題である.
  • 江川 賢一, 春山 康夫
    2016 年 24 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
    目的:2015年7月5日に前橋で開催された第24回日本健康教育学会学術大会主催,日本健康教育学会学術委員会共催シンポジウム「特定健康診査・特定保健指導制度の課題と改善対策」を総括し,本制度の改善対策を検討することを目的とした.
    内容:高齢者の医療の確保に関する法律に基づく第一期医療費適正化計画は,メタボリックシンドローム該当者・予備群を25%以上減少することを目標としたものの,2012(平成24)年度は3.09%,2013(平成25)年度は3.47%であった.2013(平成25)年度から2022(平成34)年度までの健康日本21(第二次)ならびに第二期医療費適正化計画では,特定健康診査・特定保健指導の実施率の向上と重症化予防実現のために,医療保険者による一層の有効な方策が求められる.本シンポジウムで紹介されたヘルスプロモーションの成功事例からは,ハイリスクアプローチ単独で得られる短期効果に加えて,ポピュレーションアプローチの導入により,長期にわたる社会的インパクトが期待できる.
    結語:日本のヘルスプロモーションを成功させる視点から,本学会は特定健康診査・保健指導の効果に関する科学的根拠を発信するとともに,本制度を改善するために行政,医療保険者に向けたアドボカシーを推進すべきである.
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