畑地における浸透性有機燐剤の土壌施用の効果の発現に影響すると考えられる要因の一部に検討を加え, 下記の成績を得た。
1) 害虫防除効果の発現速度および強度と土壌水分の間には正の相関関係が, 効果の持続期間とそれとの間には負の相関関係がみとめられた。
2) 畑作物の初期生育と施薬方法の問には密接な関係があり, 薬剤が種子の近くに高密度に存在する場合には発芽遅延や薬斑発現等の薬害が起りやすく, 間土, 側条施用, 土壌混入等はこれらの薬害を軽減する働きを有すると考えられた。
3) 厨川の下層土と川砂で土性を違えてハクサイを育てたポツト実験において, 粘土含量20%区が最も初期生育が遅延して薬害が著しかつたことから, 土壌施薬による作物の薬害は作物の生育速度と関係が深く, これが遅い場合に多く, 土性はこの発育速度に関係を有する要因であると考えられた。
4) 土壌施薬がアズキの後期生育および収量に及ぼす好影響は土壌によつて異なり, それは厨川火山灰土壌 (SL) では著しく, 水沢の沖積土壌 (siCL) および秋田の沖積土壌 (CL) ではかなりみとめられ, 山形の洪積土壌では認められなかつた。結局その効果は, 土壌施薬によつて防除できる害虫の発生量が多い場合, および易分解性の有機物が多い土壌であつて, 土壌のN的肥沃度または施肥量 (特にN) のある範囲内の (極端でない) 不足によつて作物の収量レベルが低く抑圧されている場合に大きいと考えられた。
5) 浸透性有機燐剤の上壌施用のNO
3-N増加効果は土壌によつて異なり, 一定の培養期間 (20日) 内における硝化速度および量は, 水沢, 厨川, 月寒, 芽室, 北見の間においては地理的に南方に位置する土壌ほど優れ, 東北地方と北海道の問には顕著な差が認められた。この違いは主として土壌有機物の腐熟程度の差に基づくと推測され, 浸透性有機燐剤の土壌施用による作物の増収効果が, 東北地方においては明瞭に認められたが, 北海道においては認められなかつた一つの原因がここにあるのではないかと考えられた。
6) 浸透性有機燐剤を添加した土壌の硝化作用 (以下「それ」と呼ぶ) は施肥量, とくにNの施用量に影響され, これが少なすぎたり多すぎたりする場合には弱く, この適量水準の範囲内において盛んであると考えられた。
7) それは土壌の肥沃度, とくにN的肥沃度が適量水準の範囲内にある場合に盛んであると考えられた。
8) それは土壌中の有機質量や添加する有機質量に影響され, これらが適量水準の範囲内にある場合に盛んであると考えられた。
9) それとpH45~7.0の範囲の土壌酸度との間には平行関係がみとめられた。
10) それは土壌水分が畑作物の生育に適当な範囲内で多い場合に盛んであると考えられた。
11) それは降水量に影響され, 適量の降水は適当な土壌水分状態をつくるが, 土壌の最大容水量を越す多量の降水はNO
3-Nの溶脱を惹起すると考えられた。
12) それと16~30℃の範囲の土壌温度との間には, 初期 (培養開始20日後まで) には正の, その後 (培養開始21~45日後) には負の相関関係が認められ, 培養開始45日後におけるNO
3-Nの蓄積量は24℃>20℃>16℃>30℃ の順に多かつた。
13) それは土性とも関係があり, 初期には粘土含量2.5~20%の間において, 両者の問に負の関係がみとめられるように推測された。
14) それは施薬量が適量を越えて多い場合には抑制されると考えられた。
15) それは作物根系が存在する場合に盛んであつた。しかし, 作物の生育量が多いと, これに吸収されるNO
3-N量も多くなるため, 土壌中から検出されるNO
3-N量は少なくなると考えられた。
16) 直接実験を行なわなかつたが, それは土壌および添加される有機物のC/N比, 土壌の4要素, ビタミンB
12およびコバルト, アルミニウム, 気相等にも影響されると考えられた。
17) それは実験に供試する土壌の扱い方にも影響され, 厨川の火山灰熟畑表土では培養前に室内で自然風乾することによつて弱まつた。
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