本稿では,観測ロケットを機体のベースとする超小型衛星打上げ機(SS-520 5号機)で実施した飛行安全について概説する.この機体は超小型であるため,搭載や重量における制約条件を受けたり通常の観測ロケットで用いている既存の地上設備を利用する上での制約条件を受けたりする中での飛行安全運用となった.そのため,本打上げ機は我が国の基幹ロケットに適用されている飛行安全基準を遵守しつつ,長年観測ロケットで培った飛行安全手法を最大限活用し,本打上げ機特有の制約条件を満足しつつ独自の飛行安全運用方法を適用し確実な飛行安全を行った.また,内之浦での軌道投入型ロケットの飛行安全運用はM-Vロケット以来となったため,新たな飛行安全管制システムが必要となった.今回新たに導入した飛行安全管制システムやシステム検証方法および実際のフライトにおいて新システムを適用した結果についても紹介する.
空港周辺での騒音被害を減らすために,着陸進入時の機体空力騒音の低減が重要な課題となっている.FQUROHプロジェクトでは過去2 度にわたってJAXA実験用航空機「飛翔」の低騒音化改造を行い,航空法第11条ただし書きに基づいて国土交通省航空局より飛行許可を取得し,飛行実証試験を実施してきた.本稿では,飛行実証試験に至るまでの「飛翔」低騒音化改造のプロセスを説明し,その過程での考え方,空力データの取得の仕方,空力データを用いた飛行性能解析,ならびに飛行性能確認試験について紹介する.改造の飛行性能への影響解析を通して,改造後の機体搭載燃料重量の調整により飛行に問題がないことを示した.また,改造後の機体の飛行性能をパイロットにより評価する飛行試験も実施し,問題がないことを確認した上で,騒音源計測のための飛行実証試験へと臨んだ.
HTV搭載小型回収カプセル技術実証ミッションでは,2018年11月,日本として初めて,我が国の再突入機による国際宇宙ステーションからの宇宙実験(タンパク質実験および静電浮遊炉実験)のサンプルの回収に成功した.宇宙で生成した貴重なサンプルを無事に地上に回収するためには,再突入中も含めた回収運用の全期間において,温度等の環境条件を適切に制御することが必要である.本稿では,同ミッションにおいて高いペイロード温度維持性能が実証された魔法瓶技術を採用した真空二重断熱保冷容器について,その開発および運用結果について紹介する.
HTV搭載小型回収カプセルは,国際宇宙ステーション(ISS)からの我が国独自のサンプル回収,および揚力誘導制御技術や国産低密度アブレータによる熱防護技術の獲得を目的とした実証ミッションであり,2018年11月に飛行実証に成功した.システム全体を正常に機能させるためには,約4日間に及ぶ軌道周回中と再突入時の両方で,内部搭載機器やパラシュート等の艤装品を許容温度範囲内に収めるような熱制御が必要とされ,さらにアブレータ非実装部は高耐熱性の断熱材で保護する必要があった.また,再突入時熱設計の妥当性を検証するためには,断熱材単体およびシステムレベルで特殊な試験検証を行う必要があった.本稿では,熱制御系の概要と各種開発試験,および飛行結果を紹介する.