地球周回衛星-地上局間データ伝送速度の高速化のためにKa帯データ伝送システムの研究開発が行われている.Ka帯周波数では雲,降雨による電波の減衰が大きく衛星の送信性能の向上,特に増幅器の高出力化が必要であるが,衛星搭載の制約から増幅器は電力効率の高い非線形領域での動作が求められる.そこで伝送特性の劣化要因である増幅器の非線形性を衛星側で事前に線形化する信号歪補償(デジタルプリディストーション)技術の適用を検討している.本稿では,WINDSを使用した実験によりデジタルプリディストーション技術によってデータ伝送路に存在する非線形性を抑圧し,データ伝送特性が改善できることを示す.また,地上局内折返し伝送路と28 GHz帯のWINDS折返し伝送路における信号品質の差が縮まること,復調後の信号コンスタレーションから伝送路上の信号歪特性を推定し,信号歪補償のパラメータを最適化することによって信号品質を向上させることができることも示す.
超低高度域(高度300 km以下)で運用される宇宙機の課題の一つとして原子状酸素(Atomic Oxygen : AO)の存在がある.AOは高層大気中の酸素分子が太陽からの紫外線により分解され,酸素原子となったものであり,高度が低いほど高濃度である.AOは衛星構体最表面に用いられる高分子材料を浸食する.そのため超低高度域の開拓には,AO量及びその影響の把握がミッションの成立性の観点で重要である.超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS : Super Low Altitude Test Satellite)のミッション機器として,AOモニタ(Atomic oxygen Monitor : AMO)が搭載された.AMOの目的は,SLATSが運用される軌道のAO環境の計測及びAOによる材料劣化の確認である.AMOはSLATSの打上げに合わせ電源投入,運用され,計画したミッションを達成した.