基幹ロケット高度化はH-IIAロケット第2段を改良することにより国際競争力や打上げの柔軟性向上を狙い,2009年度から概念設計を開始し2011年度に開発へ移行した.推進系に対してはロングコーストおよび再々着火実現のための技術開発が課せられ,2013年度に開発を完了した.第2段の性能は輸送能力に直結するため極限の高性能化が求められるが,微小重力や真空といった軌道上環境により地上検証が困難となる.開発では地上要素試験と解析技術を組み合わせ,重要な要素についてはH-IIAロケット上で衛星分離後の機会を利用した軌道上実験を行うなど日本の独自性を生かし産学官共同で開発を進めた.開発の成果は商用通信衛星の受注に繋がり,2機の地球観測衛星の異なる軌道への同時打上げ,惑星間軌道投入にも適用された.獲得した推進系技術はH3ロケットを始め,将来の月探査や再使用ロケットにも貢献する.
日本航空宇宙学会が学会名に「宇宙」を入れてから50年を迎える2018年に,第50期理事会は「宇宙長期ビジョン」を学会から提言する決定を行った.2019年4月に開催された年会講演会で約50頁の「JSASS宇宙ビジョン2050」を公開し,学会ホームページ上に掲載した.第51期理事会はさらにターゲットを絞った深い検討を行う方針を決めた.外部の有識者の意見を取り入れて,「有人月拠点建設」「有人宇宙輸送」「人文社会科学」「宇宙ビジネス」の4項目を掲げ,2年間にわたり実現への検討を深めた.検討結果を2021年7月に増補版として,JSASS宇宙ビジョン2050に追加した.そこには2050年の理想の宇宙活動が描かれ,宇宙活動の転機が間近に迫っていることが示された.日本航空宇宙学会は,この転機を自らの手で創り上げるという意志を持って,研究者・実務者の活動が展開することを期待している.
月面での長期滞在や資源利用,産業活動を支えるために不可欠な有人月面基地の建設に向けて,より具体的な技術ロードマップを策定することを目的に,専門家の参加を得て調査を行った.2019年版に続き,2021年版では,「ロボット」と「建設」を中心に深化を進め,新たな検討項目として「In-situ Resource Utilization(ISRU)」を追加した.それぞれの関連を人間が定住する月面拠点建設へのロードマップとしてまとめた.これらは,基地建設の初期段階から月での人類の生存を支えるために重要であるだけでなく,輸送やエネルギーの問題にも深く関わってくる.