静止衛星バスにおけるミッション機器の搭載比率を増加させるため,電気推進の採用が世界的に主流となってきている.技術試験衛星9号機(ETS-9)では,そのような動向を踏まえて衛星推進系すべてに電気推進を採用した全電化衛星技術の獲得を目的としており,国内初のホールスラスタ軌道上実証のための国産ホールスラスタを開発中である.国産ホールスラスタは,最大6 kWの大推力作動が特徴である.これにより軌道遷移時間の短縮が期待されており,海外製ホールスラスタとの差別化を図っている.国産ホールスラスタの開発ステータスは,Prototype Model(PM)フェーズおよびFlight Model(FM)フェーズへ移行している.PMフェーズでは,寿命試験を除くQualification Test(QT:認定試験)レベルの各試験を完了し,現在は寿命試験を継続中である.FMフェーズでは,計画されていたAcceptance Test(AT:受入試験)レベル試験をすべて完了して衛星システムに引き渡しを行い,打ち上げに向けた準備が進められている.
小天体の地球衝突は早くからその可能性が指摘されてきた問題であり,小天体の発見・監視技術の発展に伴って予測することのできる自然災害となりつつある.小天体の軌道変更ミッションとは,地球衝突の可能性が無視できないような小天体が発見された場合に,予めその軌道を変更することで地球への衝突回避を目指すものである.通常,小天体は宇宙探査機の数百万倍,場合によっては数千万倍以上の質量を持つことから,地球と小天体の軌道交点をなくすようなミッションは一般的に困難である.軌道変更の本質は,小天体に対してわずかに与えることのできる速度変化を地球衝突の何年も前に発生させ,公転周期の変化を蓄積させることで地球と邂逅する時刻をずらすことにある.本解説では,軌道変更手法としてこれまでに提案された手法とそれぞれの特徴を紹介する.また,宇宙機衝突と万有引力を用いる手法の効果を,数値例を用いて示す.
本稿では,宇宙エレベーターの建設費を10年で回収できると仮定し,宇宙デブリ衝突による宇宙エレベーターの破断を考慮して,10年後の宇宙エレベーターの残存率を評価した結果を示す.その結果,宇宙エレベーターがその建設費を回収できるまで残存するためには,宇宙デブリ衝突による宇宙エレベーターの損傷を最小化するような冗長系だけでなく,現在の衝突フラックスと比してほぼ0%にまで宇宙デブリ環境を改善しなければ実現不可能であることが分かった.