Model-Based Design(MBD)は,数学的モデルを用いてシステムをシミュレーションし,設計と検証を行う設計手法であり,自動車や航空宇宙分野で広く普及している.しかしながら,日本の航空機業界では導入が遅れており,これを解決するため,2020年にModel-Based Aviation development Consortium(MBAC)を設立した.MBACは,企業間の協力を通じて,モデル流通や作成規約に関する標準化活動を進め,国内のMBD普及と技術力向上を目指している.本稿では,MBAC設立の背景と活動概要について報告する.
数値風洞(Numerical Wind Tunnel, NWT)は宇宙航空研究開発機構(JAXA,当時は航空宇宙技術研究所(航技研)と富士通株式会社が共同開発した世界初の分散主記憶型並列ベクトル計算機である.1993年11月から1995年11月の2年間,スーパーコンピュータTOP500において世界最高速を記録し,1994, 1995, 1996年にはGordon Bell賞を受賞している.数値風洞の導入により,航技研では本格的な並列シミュレーションを行うことが可能になり,乱流シミュレーションなどの基礎研究から小型超音速実験機NEXSTや極超音速飛行実験機HYFLEX,国産宇宙往還実験機HOPE-Xなど航空機・宇宙機の開発に幅広い分野で用いられ,航空宇宙分野への数値シミュレーション技術の適用を実用化するとともに,その後の航空宇宙工学の発展に大きく貢献した.以上の理由により,数値風洞が航空宇宙技術遺産第二号として認定された.
月面・月近傍での様々な月宇宙機の計画が進められる一方,月宇宙機への通信中継や測位サービス等の基盤構築が課題である.LunaCubeは,月面での簡便な測位・通信サービスを早期に提供する技術の確立を目指す6U-CubeSatである.LunaCubeは測位手法として,最低2衛星と基準点,ユーザ間での測位を行う方式を用いる.また,測位送信機はソフトウェア無線技術を利用し,周波数や変調方式等の再構築が可能なシステムとしている.更に,LunaCubeは低電力通信が可能な民生技術を利用した通信中継サービスも行う計画である.衛星バスは,地球周回の超小型衛星で実証されたシステム・ソフトウェアアーキテクチャやコンポーネントを活用することにより,早期に開発完了可能なシステムとしている.LunaCubeはエンジニアリングモデルの開発および振動試験,熱真空試験などの環境試験を完了した.
近年の技術発展に伴う小惑星発見数の増加を受けて,プラネタリーディフェンスに対する国際的な関心が高まっている.今後10年で,小惑星発見数が更に増加することが予想されており,小惑星衝突の危機が顕在化するようになる.こうした危険小惑星が発見された際に,速やかに対応策を模索するために,危険小惑星に対する即応型フライバイ探査が注目されつつある.本解説では,複数の探査機を小惑星フライバイサイクラー軌道という特殊な軌道に待機させておき,即応型フライバイ探査を実現する深宇宙コンステレーション構想の概要を説明する.本構想では,即応型フライバイ探査だけでなく,超高頻度な小惑星マルチフライバイ探査も可能であり,地球近傍小惑星に対する統計的な情報収集の観点でも,プラネタリーディフェンスに貢献する.また,ある探査機の喪失を他の探査機群で補うことができるため,より挑戦的な技術を継続的に実証していく機会としても有効であり,宇宙工学の飛躍的な発展に寄与する.
衛星光通信は高速大容量化や小型化,軽量化,低消費電力化等の様々な利点を併せ持つ点で,電波に代わる技術として注目されている.情報通信研究機構(NICT)は,衛星光通信の実用化を見据えて,地上─衛星間光通信の実証を中心に様々な衛星光通信ミッションの研究開発を進めてきた.現在,NICTは,次世代衛星光通信ミッションとして超高速先進光通信機器(HICALI)の研究開発を推進し,地上─静止衛星間光通信では世界最高レベルの通信速度となる10 Gbit/sの実証を目指している.このHICALIは技術試験衛星9号機(ETS-9)に搭載され,2025年度に打ち上がる予定である.ETS-9の打上げ後は,HICALIとNICT光地上局との間の10 Gbit/s光フィーダリンクの実証実験を予定している.本論では,NICTが推進中のETS-9搭載光フィーダリンクサブシステムであるHICALIの概要や開発状況,システム試験結果を報告する.