症例は76歳の農婦.数年来, 腰痛を訴え骨粗鬆症と診断され, その後, 生じた貧血は消化管出血由来とされ, いずれも治療中, 転倒し肋骨骨折を来たし入院.検査で高度の貧血及び腎機能障害と著明な高蛋白血症を認め, 免疫電気泳動で, 血清中にIgG型のM蛋白, 尿中にκ型のベンスジョーンズ蛋白を検出した.骨は外傷性肋骨骨折のほか骨溶解性病変を呈した.これらの症候と検査成績から多発性骨髄腫 (以下MM) と確診した.高度の貧血に輸血を行い, 当初エンドキサン, 次いでプレドニンを投与し, γグロブリンは半減したが腎不全が進行し死亡した.自験例は確診に先立つかなり前からMMの手掛かりとなる骨痛, 貧血が存在し, 前者を骨粗鬆症, 後者を消化管出血由来と判断した為早期診断が遅れた.著明な貧血と腰, 背, 胸部の疼痛を呈する疾患を見た場合, 多発性骨髄腫等の悪性腫瘍も考慮し対応することが肝要と反省させられた.
抄録全体を表示