群馬県小都市居住の老人クラブ会員240名について暦年令, 生理的諸機能 (体力) および日常生活および社会的能力の度合を比較考察し, 個人差の要因を追究した.その主な所見は次の如くである.
1) 60才代と70才以上の2群に分けて考察すると, 年令とともに減退のめだつのは男では握力 (右) と肺活量である.一方女では重量保持 (右) のみが衰退しているにとどまり, 体力の変動は目立たない.高血圧, 非高血圧の別は上記の年令区分と有意の関係にない.
2) 日常生活および社会的諸能力は男では60才代でも70才以上でも有意の差を示さない.
しかし女では70才以上になると身体不自由を訴えるものが増し, 社会的役割をもつものが減少する.また, ひるねの習慣をもつものが多いことが認められる.
3) 個々の体力測定種目の格づけと, 日常生活および社会的能力の格づけは一般に大なる関連を示してはいない.しかし男で握力の大なるものは家庭内の経済上の実権をにぎり, 社会的役割を保持しているものが多い.また男では重量保持のすぐれているものおよび最低血圧のひくいものに毎日がたのしいというひとが有意に多い.けれども女では体力の格づけと日常生活および社会的能力の格づけとの間に殆んど関連がみとめられないのが特異である.
4) 日常生活および社会的諸能力相互間の関係をみると, 男では何等かの仕事をしていることが経済的実権をにぎることと関連し, 逆にdisabilityのあるものが男女ともこれが著明に妨害されているといえる.注目すべきは社会的役割をもつひとに毎日がたのしいと称するひとが有意に多いことである.女でも家庭内の仕事をしているひとに経済的実権をにぎるひとが多い.奇妙なことは女のひるねの習慣と社会的役割をもつことが関連することである。その他配偶者が現存していることは男女とも経済的実権をにぎることと関連がみとめられる.
5) 毎日がたのしいと称するグループとしからざるグループを比較すると, 綜合体力評点よりも日常生活および社会的能力評点に密接に関係しているようである.
以上から推論できることは成人病対策も重要であるが, 老人の健康は生物学的なものより社会学的, 心理学的なものにより強く支配されていると思われる.すでに60才以上になっているひとびとに対しては別の角度からの対策が必要であることを示唆している.すなわち多少の肉体的disabilityはあっても毎日がたのしいといいうるような心理学的, 社会学的条件の設定がより本質的に重要性をもつものではなかろうか.具体的にいうといつまでも種々の家庭内外の役割 (肉体的, 家族的, 社会的) をもつこと最低限度の肉体的活動力を維持すること, さらに配偶者の共存 (偕老) というようなことが一応の目標となるであろう.
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