振動障害の早期診断に用いるスクリーニング・レベルの設定を志向した立場から, 主として手指の冷却負荷 (5℃, 10分浸漬) に伴う指先皮膚温 (以下, 指先温) の変動について検討した.
対象は, M営林診療所で実施した昭和54年度振動障害特殊健康診断 (以下, 健診) の受診者で, これまでに白指発作がみられ業務上の振動障害者と認定されたもの全員34人及び, それらの者に年齢平常時指先温をmatchさせた非障害者34人を抽出して編成した計34組のmatched-pairsである.用いた資料は, 上記54年度健診成績であり, 得られた主なる所見は以下の通りである.
1) 労働省通達による健診所定の各種検査で得られた測定値を観察群 (障害者) 対照群 (非障害者) の2群とし, 対応のあるデータの平均値の差の検定法によって比較した.群間で差が認められたのは, 指先温では負荷解除5分後及び10分後の2時点の場合のみであり (観察群遅延), 指先温以外では振動覚 (同, 鈍麻), つまみ力 (同, 低下) の2項目であった.
2) 負荷解除後の指先温回復状況を示す各指標 (回復量, 回復率, m.r.c.) において, 指先温低回復 (遅延) と判定される者の出現頻度が観察群で有意に高率となるcut off point (cop) は何れの指標にあっても1ないし2点に限られる (McNemar's test).その中でSensitivity (St) Specificity (Sp) が高値である方を採って決定されるcopは, 回復量 (5分後) : 9.9℃, 同10分後 : 17.9℃, 回復率 (5分後) : 69%, 同10分後 : 79%, m.r.c. (10分後) : 1.3である.
3) 上記copにおけるSt, Spの比較からは, 指先温回復状況を示す3指標間の優劣は判じ難い.一方, 負荷解除後の経過時間では, 10分後の成績を用いるよりも5分後の成績で検討することが有利となることが窺われた.
4) 指先温回復指導に指先振動覚検査成績を組合せて判定基準を設けるとSt, Sp共に指先温回復指標単独の場合よりも高値となる.この場合も, 解除5分後の成績による方が10分後の成績の場合よりも有利である.その際, 最良のSt, Spを得ると推定されるcopは, 回復量9.9℃+振動覚7.5dB(125Hz), 回復率59%十振動覚7.5dB(125Hz) である.
5) 以上, matched-pairsの検討成績から判断するとき, (1) これまでの冷水浸漬中ないし浸漬終了時指先温が判定資料として有効であるとする所見は認められない. (2) 浸漬終了 (負荷解除) 後指先温は, 10分経過時よりも5分経過時の成績で検討することが有利である. (3) 負荷解除後の指先温回復状況を示す, 回復量 (絶対量), 回復率 (相対量), m.r.c. (傾向量) の3者間で, とくに有利ないしは不利と判断される指標は見当らない.等が指摘できる.
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