代謝性アシドーシスの補正に重炭酸ナトリウムを使用することは依然として論争の的である.低灌流状態では静脈血の高炭酸ガス血症が顕著であるにもかかわらず, アルカリ化薬の効果は主として動脈血で判断されてきた.本研究の目的は, 等価の重炭酸ナトリウム (1mM/kg) と炭酸ナトリウム (0.5mM/kg) それぞれの効果を, 混合静脈血, 門脈血, 肝静脈血において, 恒常状態と, 低灌流状態の間で比較検討することにある.雑種成犬の, 動脈, 肺動脈, 門脈, 肝静脈にカニュレーションを行い恒常状態とし, その後平均動脈圧40mmHgの出血性ショックを1時間維持し低灌流状態とした.8頭に重炭酸ナトリウム (Bicarbonate : B群), 7頭に炭酸ナトリウム (Carbonate : C群) をショックの前後で投与し, 循環動態, 血液ガス, 乳酸値を投与前, 投与1分, 15分後に測定した.時間経過による変動と, また同一時点での両群間の差を検討した.低灌流状態で混合静脈血の炭酸ガス分圧は一定の変動を来さなかった.しかし, 動脈血の炭酸ガス分圧は上昇し, この動静脈における相違はHaldane effectによるものと考えられた.混合静脈血pHの上昇は, 投与1分後で, B群よりもC群で顕著であり (p<0.05), これは両薬物問の炭酸ガスの変化量の差を反映した.また, 低灌流状態での重炭酸ナトリウムの投与は, 肝臓における乳酸の摂取を増加させた.重炭酸ナトリウムは炭酸ナトリウムと比較して, 混合静脈血, 門脈血, 肝静脈血のpH, 炭酸ガス分圧に悪影響を与えず, 中等度の循環不全に安全に使用できる.
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