ミオシン軽鎖キナーゼ (MLCK) はミオシン軽鎖をリン酸化する酵素である.しかし骨格筋ミオシンはリン酸化の有無に関わらず活性型であり, しかもMLCKは細胞内でミオシンではなくアクチンに結合して存在するなどMLCKの機能については解明されなくてはならない点が多い.アクチンに結合してアクトミオシン相互作用を修飾する平滑筋MLCKの性質 (Kohama K, et al : Biochem Biophys Res Commun : 184, 1204-11, 1992.) を参考に, MLCKの骨格筋アクトミオシン系に対する制御機構を検討した.ニワトリ胸筋のMLCKは結合定数10
-7Mレベルで濃度依存性にアクチンに結合した.このMLCKはアクチンに結合する濃度ではミオシンには結合しなかった.ミオシンのactinactivated ATPase活性測定結果からは, MLCKはミオシンのリン酸化, 非リン酸化どちらの場合でも濃度依存性に同じ程度ATPase活性を抑制した.即ち, ATPase活性の抑制はMLCKのミオシンをリン酸化する作用ではなく, アクチン結合を基にした作用と考えられる. MLCKのアクチン結合はCa
2+とカルモジュリン (Ca
2+-CaM) により阻害され, 同時にMLCKによるATPase活性抑制はCa
2+-CaMにより解除された.MLCKの抑制作用とCa
2+-CaMによる抑制解除はアクチンとミオシンの間のATP依存性の相互作用を直接観察しうる
in vitro motility assayにおいても確かめられた.以上より骨格筋MLCKはキナーゼ作用とは無関係にカルモジュリンのCa
2+の結合成分としてアクチンに結合し, アクチン-ミオシンの相互作用に制御効果を与えると考えられた.またこの制御効果の生理的役割について考察を加えた.
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