半夏厚朴湯は体力中等度以下の咽頭症状や不安症状に対して使用され,脳神経系領域においても大変有用な漢方製剤である。咽頭症状に関しては,substance Pを介する機序の報告もある。しかしながら他の漢方製剤と比較して,研究報告数は多いとは言えず,さらなるエビデンスが必要であると考えられる。本稿では,半夏厚朴湯研究の文献的検証を行い,今後の研究の方向性を考察する。
治打撲一方は脳神経外科領域では外傷による皮下血腫や術後の皮下腫脹に対して投与されている。当院では器質化慢性硬膜下血腫穿頭術後に投与を行っている。また,慢性硬膜下血腫穿頭術後にトラネキサム酸の投与を推奨している。器質化慢性硬膜下血腫穿頭術後に治打撲一方単独投与症例と治打撲一方とトラネキサム酸の併用症例の比較を行った。併用するほうが術後の観察期間を短縮でき,さらに器質化の前段階の隔壁形成の状態で投与を行うほうがより効果的である。
未破裂脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術後の慢性硬膜下血腫を予防する方法は未だ確立されていない。今回我々は,過去7年間に自施設でkeyhole clipping (KC) を施行した未破裂中大脳動脈瘤27例を対象とし,術後に手術加療を要する慢性硬膜下血腫を発症した群と対照群とで検討を行った。2群間で患者背景に差は認めなかったが,対照群において,KC術後に五苓散を投与されている症例が有意に多かった。本研究結果より,未破裂中大脳動脈瘤に対するクリッピング術後の症候性慢性硬膜下血腫の発生を,五苓散投与により予防できる可能性が示唆された。
漢方薬は頭痛治療においてしばしば併用される。しかし,どの漢方エキス製剤が患者に最も適しているかを判断するのは難しい場合がある。そこで本稿では,「頭痛」 の効能・効果が記載されている漢方エキス製剤をピックアップし,成分別に分類するとともに,証や症状別に生薬の特徴を分析し,患者ごとに適切なエキス処方を選択するための参考とすることを目的とした。
川芎茶調散の適応疾患は慢性頭痛全般とされるが,漠然とした定義であるため臨床現場において処方対象を選定するのが難しい。本研究では原因不明な慢性頭痛に対する川芎茶調散の有効性を後方視的に検討した。川芎茶調散を処方された15名のうち3名で効果を認めた。川芎茶調散の処方対象として“消炎鎮痛剤が無効な感染症後の慢性頭痛”,“発生機序が不明確な高齢者の慢性頭痛” が挙げられた。
開頭手術後に創部が腫脹することで,疼痛の出現や大脳半球の圧迫など様々な合併症が報告されている。近年,駆瘀血剤を用いて術後の軟部組織の腫脹を抑制するという報告があるが,未だ予防法としては確立していない。本研究では,前内側側頭葉切除術後の側頭筋腫脹に対する治打撲一方の効果を検証した。内服群では全例で術後膨張率の低下を認めた。今回の検討により,治打撲一方は安全に術後の軟部組織腫脹の改善を促進する可能性があると考えられた。
慢性硬膜下血腫の縮小・再発予防に対し五苓散の有効性の報告は多いが,内服中でも再発する症例もありその要因は不明である。今回我々は,自施設症例で五苓散の慢性硬膜下血腫再発予防効果とその関連因子を検討した。2006~2023年に,当院で慢性硬膜下血腫の手術を行った症例を対象として再発の有無を統計学的に解析した。多変量解析の結果,男性が有意に再発に関連していた。本研究では,五苓散内服により女性でより再発が抑制されている可能性が示唆された。
「瘀血」 とは,血の流通に障害をきたした病態を言い,静脈系の鬱血状態や微小循環不全によって生じる病理変化であり,顔面の発作的紅潮・顔面の色素沈着・粘膜の暗赤紫化・精神不穏など様々な症状をきたし,さらにいろいろな心身の不調や病気を引き起こす原因となる。この概念は西洋医学にはなく,東洋医学に特徴的な病態である。この治療に用いられる方剤を駆瘀血剤と言う。我々は駆瘀血剤が奏効した17症例を経験し,その内訳は桃核承気湯が8例,桂枝茯苓丸が7例,通導散が2例であった。桂枝茯苓丸と桃核承気湯の奏効例を検討した結果,冷え・のぼせ・瘀血があり,便秘のない場合は桂枝茯苓丸を,便秘がある場合は桃核承気湯が望ましいと考えられた。駆瘀血剤の由来や生薬の構成,これまでに研究解明された様々な薬理学的作用,排便コントロールの必要性など文献的考察を加えて報告する。
患者は43歳,男性。激しい頭痛,左眼瞼下垂,左三叉神経第1枝,第2枝領域の感覚障害を認め,脳MRIを施行された。左前頭洞の急性副鼻腔炎,急性鼻副鼻腔炎による頭痛,急性副鼻腔炎による不全型Raeder症候群と診断した。クラリスロマイシンと葛根湯の2週間投与で頭痛,左眼瞼下垂は改善傾向となったが,左三叉神経領域の感覚障害は残存した。十味敗毒湯を4週間投与したところ感覚障害は改善し,画像所見の改善も得られた。十味敗毒湯は副鼻腔炎の治療選択肢になりうる。
半夏厚朴湯は,サブスタンスPを増加させることで嚥下反射が改善すると考えられているが,その効果に対する科学的エビデンスは十分ではない。本研究は,簡易に嚥下音データが取得可能なデバイスを活用し,定量的分析を用いて半夏厚朴湯が嚥下反射に与える影響を検証した。入院中の小脳出血既往患者 (26歳・女性) を対象とし,半夏厚朴湯の内服開始前後の嚥下音データを分析に用いた。結果,嚥下反射時間の短縮傾向がみられ,半夏厚朴湯が嚥下反射に有用である可能性が示唆された。
69歳女性で特記すべき既往歴なし,頭部CTでくも膜下出血があり,コイル塞栓術を施行しクラゾセンタンナトリウム投与を開始した。肺水腫に対してフロセミド,ニトログリセリンを投与した。漢方薬として五苓散,木防已湯を併用した。肺水腫は徐々に改善した。五苓散は肺水腫が生じてからは効果が乏しいと考えられた。たこつぼ心筋症を併発した場合にはニトログリセリンと木防已湯の併用で効果を期待できる可能性が考えられた。
今回,我々は,五苓散内服中に 「しぶり腹」 が悪化した症例と,柴苓湯内服中に 「間質性肺炎」 を発症した症例を報告し,脳神経外科領域で汎用される五苓散と柴苓湯の副作用に関して検討した。五苓散は重大な副作用がなく,比較的安全な漢方薬ではあるが,しぶり腹 (tenesmus) の時には,内服不可となっており,大腸炎での投与は控えることが望ましい。柴苓湯は五苓散と小柴胡湯の合剤であるが,しぶり腹でも使用可能である。しかしながら,間質性肺炎や偽アルドステロン症などの重大な副作用があり,高齢者および肝疾患既往,サイアザイド系およびループ利尿薬,インスリン,副腎皮質ステロイド,甲状腺ホルモン薬,アスピリンなどの併用薬内服の患者には,投与を控えることが望ましい。また投与後も発熱,呼吸器症状および肝機能障害のチェックが必要である。
便秘症の悪化 (痙攣性便秘) とともに,アルツハイマー病 (Alzheimer disease: AD) の諸症状が急激に悪化した症例に,大建中湯を投与したところ,便秘の回復とともに諸症状の顕著な改善を認めた症例を経験した。近年,認知症の発症,進行には脳腸相関の関与が指摘されている。便秘症により,腸内細菌叢の多様性が障害され,増加した悪玉菌 (有害菌) により,腸管粘膜バリア機能の劣化から,腸管壁透過性の促進を生じ,腸管内の物質 (悪玉菌の代謝産物など) が腸管神経~迷走神経,血液循環,免疫系を介して,脳神経に作用し,認知機能障害を引き起こす可能性が考えられる。本症例の著効要因としては,大建中湯の便秘改善作用 (腸管運動を的確に調節) と配合生薬;膠飴による腸内細菌叢是正効果により,悪玉菌の代謝産物が減少し,さらに腸壁のバリア機能が正常化し,脳腸相関の悪循環が断ち切られた可能性が考えられる。認知症治療における大建中湯の有用性が示唆された。
牛車腎気丸は主に加齢による腎虚が関係した冷えや下肢痛に対して使用され,脳神経系領域においても大変有用な漢方製剤である。比較的若年女性の両下肢痛 (原因不明) の症例で,小腹不仁がみられたことから腎虚と判断し牛車腎気丸を投与し奏功したので,若年の腎虚に関する考察も含めて報告する。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら