日本脳神経漢方医学会誌
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最新号
日本脳神経漢方医学会誌
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原著
  • 郭 忠之
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 9 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル フリー

    「めまい」 は日常診療において多い症状の一つであり,その症状は多彩であり非特異的である。西洋医学診療においては原因となる疾患も様々である。

    一方,東洋医学では虚・風・火・痰飲により生じ,五臓では “肝・脾・腎” の機能失調に関連するとされている。

    我々は眩暈に対して漢方薬が奏功した39症例を経験し,苓姜朮甘湯が12例,苓桂朮甘湯が11例,半夏白朮天麻湯が6例であり,この上位3剤は痰飲に対する方剤で,全体の70%以上を占めていた。痰飲とは体内の水液代謝が失調し,身体のある部位に停滞することによって発生する病証をさす。

    これら3剤を検討した結果,苓桂朮甘湯は胃腸障害や気の上衡と思われる頭痛・頭重感・頸部痛や動悸が,苓姜朮甘湯は冷えや腰痛が,半夏白朮天麻湯は胃腸障害 (脾虚) や倦怠感や冷えがあればよい適応と考えられた。

    眩暈診療においては,まずは痰飲の可能性を考えて,その原因となる脾虚・腎虚・気の異常に着目して方剤の選択をすべきであると考えられた。

  • 大島 聡人, 日暮 雅一, 浅田 恭輔, 高瀬 創, 山本 哲哉
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 9 巻 1 号 p. 12-18
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル フリー

    片頭痛に対するCGRP関連抗体薬(CGRP mAbs)と漢方薬(五苓散・呉茱萸湯)の併用療法に関し,安全性と効能を検討した後方視的観察研究である。漢方薬はCGRP mAbsと安全に併用可能であることが示唆された。CGRP mAbs導入前から漢方薬を使用していた患者では漢方薬の継続率が高く,約3割では症状改善により漢方薬の投薬が終了した。しかし,CGRP mAbs治療後に新たに漢方薬を導入した場合には,併用療法の効果が劣る可能性が示唆された。五苓散は天候変動に伴う頭痛やめまい症,呉茱萸湯は薬剤の使用過多を有する患者で併用療法が有用である症例が存在する。

  • 木下 朋, 稲次 基希, 佐藤 陽人, 河野 能久, 田中 洋次, 前原 健寿
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 9 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル フリー

    三叉神経痛に対して微小血管減圧術後に残存・再発した患者16例を対象に,桂枝加朮附湯とブシ末の治療効果を評価した。桂枝加朮附湯の投与により7例で疼痛が改善し,さらに5例中3例にはブシ末の追加で効果がみられた。全例で副作用は認められなかった。桂枝加朮附湯およびブシ末は鎮痛・利尿効果がある生薬であり,外科治療抵抗性三叉神経痛に対して安全で有用な治療選択肢であることが示唆された。

  • 三島 寛人, 井川 房夫, 日髙 敏和, 落合 淳一郎, 奥 真一朗, 青山 淳夫, 堀江 信貴
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 9 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル フリー

    脳神経外科領域において,誤嚥性肺炎は無視できない合併症である。その治療・予防に関して,半夏厚朴湯に関する報告が散見される。今回我々は,自施設における過去10年間に入院を要した急性期脳梗塞患者において,半夏厚朴湯を内服した群と対照群とを比較検討した。2群間で入院中の肺炎発生割合に有意差はみられなかったが,半夏厚朴湯内服開始後に新規に発生したものはなかった。誤嚥性肺炎の発生に影響を及ぼした背景因子は梗塞領域であった。これらにおいて半夏厚朴湯が誤嚥性肺炎の予防に有用である可能性が示唆された。

  • 秋山 理, 原田 佳尚, 児玉 琢磨, 鈴木 まりお, 清水 勇三郎, 近藤 聡英
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 9 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル フリー

    悪性神経膠腫の術後化学療法で用いられるテモゾロミド (TMZ) は,骨髄抑制や食思不振や便秘などの消化器症状の副作用を持つ。骨髄抑制のうち血小板および好中球には休薬/中止基準が設けられており,しばしば治療中の休薬/中止を経験する。十全大補湯は主に病後の疲労倦怠,食思不振,貧血に処方される漢方薬の一つである。一部の固形がんや悪性神経膠腫に対する化学療法との併用で骨髄抑制などの副作用の緩和効果が報告されているが,悪性神経膠腫に対するTMZの副作用について十全大補湯の緩和効果は報告が少なく検討の余地がある。今回我々は,悪性神経膠腫術後の放射線化学療法中の副作用等について,十全大補湯を投与した症例としていない症例に分け後方視的に検討を行った。十全大補湯投与群では,血小板および好中球の減少を緩和し,栄養状態について有意に改善効果が認められた。また疲労倦怠,食思不振,便秘については十全大補湯投与群で副作用が少ない結果であった。

    悪性神経膠腫術後の放射線化学療法中の十全大補湯の併用は,骨髄抑制の緩和,栄養状態の改善,副作用の低下に寄与する可能性が示唆された。

症例報告
  • 吉田 賢作, 原田 佳尚, 堀野 雅祥, 石元 玲央, 肥後 拓磨
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 9 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル フリー

    38歳女性,突然の意識障害で救急搬送され,くも膜下出血と診断された。頭部CT検査で,左側頭葉の脳内血腫を合併しており,クラゾセンタン投与で脳浮腫悪化が懸念された。そのため,day 1に破裂脳動脈瘤に対する脳動脈瘤塞栓術を行い,day 2よりクラゾセンタンと五苓散を投与開始した。水分出納の管理を行うことで,脳浮腫の悪化をきたさず,症候性脳血管攣縮もなく経過した。脳浮腫を認めるくも膜下出血の症例にクラゾセンタンを投与する場合には,水分出納を慎重に管理することが求められる。本症例は,五苓散投与がクラゾセンタンによる治療を補完したと考える1例である。

  • 玉野 雅裕, 高橋 元, 大城 信之, 岡村 麻子, 加藤 士郎, 中村 優子, 小倉 絹子
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 9 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル フリー

    痙攣性便秘症の悪化とともにパーキンソン病の諸症状が進行し,歩行,通所リハビリテーションが困難化,精神状態が不安定化したため,大建中湯を投与したところ,便秘の回復とともに諸症状に顕著な改善を認めた症例を経験した。パーキンソン病の発症,進行には脳腸相関の関与が指摘されている。便秘症により,腸内細菌叢の多様性が障害され,増加した悪玉菌(有害菌)により,腸管粘膜バリア機能の劣化から,腸管壁透過性の促進を生じ,腸管内の物質 (悪玉菌の代謝産物など) が腸管神経叢に作用して,αシヌクレインの蓄積を生じ,迷走神経を通じて,緩徐に黒質に供給され,パーキンソン病を発症・進行させる機序が考えられている。本症例の著効要因としては,大建中湯の便秘改善作用(腸管運動を的確に調節)と配合生薬;膠飴による腸内細菌叢是正効果により,悪玉菌の代謝産物が減少し,さらに腸壁のバリア機能が正常化し,αシヌクレインの黒質への供給が抑制される可能性が考えられる。パーキンソン病治療における大建中湯の有用性が示唆された。

  • 仲尾 貢二, 田島 祐
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 9 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル フリー

    柴苓湯と防風通聖散による間質性肺炎を2例経験した。間質性肺炎の原因となる漢方薬で最も多いのは柴苓湯,次いで防風通聖散との統計がみられる。上位10製剤のうち8製剤に黄ゴンが含有されており,その関与が示唆される。漢方薬による間質性肺炎は,基礎に肝機能障害が存在する場合に発症しやすいことが明らかにされている。肝機能障害を有する症例に黄ゴン含有製剤を投与した際には,発熱,呼吸器症状の発現には十分注意する必要がある。

編集後記
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