高分子合成化学は,これまで有機反応から多大の恩恵を受けてきた。しかし,これはあくまでも一方的であったと思う。われわれは,ここ数年来,高分子の「ジチオカルバメート化」というきわめて特殊なテーマから出発して,ジチオカルバメート類,ザンテート類の光分解反応とそのビニル光重合触媒作用,これらジチオエステル構造を含む感光性ポリマーの合成とその感光性,ジチオカルバメート基の隣接基関与効果,N,S,Sに囲まれた安定カルボニウムイオンの興味ある求電子的反応性などに発展させてきたが,ここではこれらの概要を述べるとともに,これら,一見何のつながりもない分野がどのような経過で生まれてきたかを述べ,有機反応の高分子への応用という従来からの方法とともに,高分子合成の発想から生まれた新しい有機反応研究,すなわち高分子合成から有機反応へのフィードバックについて述べてみたい。
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