どんな結晶の物性も,その中の欠陥,特に転位を除外して語ることはできない。結晶の緩和現象,塑性変形,熱処理効果,再結晶などにおいて転位が重要な役割を占める.高分子の転位論はまだ生れてから10年程度にすぎない.1960年代においては主としてその直接観察,およびその形態の定性的な推定において,大きな発展を見た.1970年代には,より定量的な研究が,転位のひずみエネルギー,その可逆的な運動と緩和現象,非可逆的な運動と塑性変形,熱処理,再結晶との関係などの面で大きく発展するであろう.われわれの研究室では昨年数人のグループで高分子の転位について集中的なコロキウムの機会をもった.そこでいろいろの論交などを勉強していくうちにいろいろの考えが浮んだ.ここに記するのはそのとき諸先輩達の論文から学んだことやわれわれの考えたことの一部分であり,著者らのみならず他のメンバーの考えも含まれている.この小文では高分子研究者の中に必ずしも格子欠陥になじみの強くない方も多いことを考えて,転位とは何かということから書き始めることにしよう.しかし高分子の転位論はきわめて未確定の分野で,われわれがこれを勉強し始めてからまだ短月日にすぎない。ここに記すことの中にも誤謬独断が多いと思う.読者諸氏のご批判をお願いする.
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