日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
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  • 松井 正典
    セッションID: K1-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    高温高圧実験においては、広範な温度圧力領域にわたる高精度な圧力スケールの使用が不可欠である。圧力スケールとしては、次のような性質が求められる:化学的に不活性であること、熱力学的に安定であること、高精度な温度-圧力-体積状態方程式が求められていること、圧縮率が小さすぎないこと、X線回折パターンが単純なこと。これらの条件を満たすものとして、近年金及びペリクレイスの圧力スケールが高温で良く用いられている。金については、Jamieson et al.(1982)、Anderson et al.(1989)、Shim et al.(2002)による圧力スケールが、またペリクレイスについては、Jamieson et al.(1982)、Matsui et al.(2000)、Speziale et al.(2001)のもの等が報告されている。我々は今回これら2種の圧力スケールのそれぞれの特徴と精度について、マントル深部を想定した温度圧力条件下における詳細な検討を行なったのでその結果を報告する。金スケールについては、いずれの報告も電子熱圧力の効果を全く考慮していないので、電子熱圧力が大きくなる高温領域での使用に際しては特別な注意が必要である。故に、我々はまず、金の電子熱圧力を、uniform electron gasモデルを用いて、且つ交換相関ポテンシャルについては、random-phase近似(Kanhere et al., 1986)に基づいて、広範な温度圧力範囲について求めた。その結果、体積一定下での電子熱圧力は、温度Tの2乗にほぼ比例して増加すること、また電子熱圧力は、体積にはあまり依存しないことを見出した。一方、体積一定下での格子熱圧力は、温度Tの1乗に比例するので、電子熱圧力の寄与は温度増大とともに益々大きくなることを見出した。故に、衝撃圧縮実験等における超高温データを取り扱う場合は、電子熱圧力の正確な見積りが不可欠である。しかしながら、電子熱圧力は温度2000 K及び3000 Kではそれぞれ0.1 及び0.2 GPaと求められ、この程度の温度領域では、電子熱圧力の全熱圧力への寄与は金ではあまり重要ではないとの結果を得たが、これは、Tsuchiya and Kawamura(2002)による金のバンド計算による結果と調和的である。Matsui and Nishiyama(2002)は、金とペリクレイスの同時圧力測定データに基づいて、Matsui et al.(2000)によるペリクレイス圧力スケールとAnderson et al.(1989)による金圧力スケールを詳細に比較した。その結果、660 kmの地震波不連続面を想定した圧力20~24 GPa、温度1873 Kにおいて、Anderson et al.(1989)による金スケールは、圧力を1.4(3) GPa低く見積もりすぎている可能性があると報告した。Shim et al.(2002)は最近、金の300 Kにおける準静水圧縮データ(Takemura, 2001)と金の衝撃圧縮データ(McQueen and Marsh, 1960; Jones et al., 1966等)に基づいて金の新たな温度-圧力-体積状態方程式を報告するとともに、Anderson et al.(1989)による金の圧力スケールは、660 kmマントル不連続面における圧力を1.0(2) GPa低く見積もりすぎていることを見出した。金とペリクレイス圧力スケールをマントル不連続面における物性の観点から議論する。
  • 小野 重明
    セッションID: K1-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    地球マントルのダイナミクスや化学組成進化を理解するためには、マントルを構成している鉱物や、鉱物の集合体としての岩石の物性を明らかにすることは不可欠である。マントル中は高温高圧状態であるため、その条件で出現する鉱物は、しばしば常温常圧条件では準安定な状態として存在する。精密な物性測定は常温常圧で行われることが多いが、このような高圧鉱物にとって準安定な条件で測定された物性は、本来、安定に存在する高温高圧条件における物性を反映しているのであろうか。そこで、本研究では、高圧鉱物の圧縮率を、安定に存在する圧力条件と準安定な圧力条件で測定し、それらを比べることにより、疑問を明らかにすることを試みる。高圧実験は、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を使用した。高圧状態の試料を直接観察するために、X線その場観察の手法を用いて観察した。X線実験はSPring-8のBL10XUとPFのBL13Aの放射光を使用した。X線は約0.42オングストロームに単色化されたものを用い、回折データはイメージングプレートで収集した。高圧条件では、試料中に大きな差応力が生じ、圧縮率を測定する際にはこの影響は致命的である。たとえ、静水圧性が高いと考えられているメタノール・エタノールの混合液やヘリウムなどの希ガスを圧媒体として用いても、地球マントルに相当する圧力条件では差応力の影響が非常に大きい。したがって、これらの圧媒体を用いて非常に高い圧力条件で得られたデータは、しばしば信頼性が著しく劣る。そこで本研究では、高圧条件でレーザーによる加熱を行い、試料に蓄積された応力を開放し、理想的な静水圧に近い状態でデータを収集する方法を用いた。この方法は、近年、主要な世界の放射光施設で行われていて、高圧条件では、十分満足しうる圧縮率の測定に成功している。本研究で圧縮率を測定した高圧鉱物は、Mg-ペロフスカイト、Ca-ペロフスカイト、スティショバイト、CF-typeアルミ相、Hexagonalアルミ相、Scheelite-typeジルコンなどである。測定の圧力条件は、常圧から100ギガパスカルの範囲で行い、この条件は、地表から、深さ約2200kmのマントルまでの領域に相当する。加熱温度は試料の状態に応じて約1500から2500ケルビンとした。いくつかの高圧鉱物について、本研究によって得られた圧縮率は非常に興味深い結果を示した。それは、高圧鉱物が安定な圧力条件で測定された圧縮率と準安定な条件で測定された圧縮率が見かけ上ことなった値を示したということである。例えば、Scheelite-typeジルコンは、安定な圧力条件では体積弾性率は約350ギガパスカルを示したが、準安定な条件では3割程度小さな値を示した。また、Mg-ペロフスカイトでは、準安定な条件では、安定な条件より1-2割程度小さな値を示す。この例とは反対に、安定な圧力条件と準安定な圧力条件で測定された圧縮率に差異が認められない高圧鉱物も観察された。例えば、スティショバイトは、どちらの条件でも体積弾性率は、ほぼ300ギガパスカルを示す。これらのことから、高圧鉱物が準安定な条件で行った物性測定の値は、再考を必要とする可能性があり、準安定な条件で得られた測定値を外挿して議論することは危険である。すなわち、高圧鉱物の物性測定は安定な温度圧力条件で測定することが望ましい。
  • 篠田 圭司
    セッションID: K1-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    シリカ鉱物の高圧相のひとつコーサイトは超高圧変成岩中に観察され、地殻物質が100kmを超える深さまで沈み込んだ結果と考えられる。また、マルチアンビルを用いた合成実験によりコーサイト中には、5GPa、1100℃以上でOH基の形でプロトンが取り込まれ地球深部においてOH基を保持する高圧鉱物の候補と考えられる(Koch-Muller et al. 2001)。コーサイトの低圧相の石英中にはやはりOH基が入りうるが、石英中に含まれる“水”のもう一つの形態として流体包有物がある。流体包有物を含む石英が、超高圧変成作用などの高温高圧条件下に持ち来されコーサイトに相転移する際、“水”がどのように挙動するかは地球科学的に興味ある問題と考え、外熱式ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて石英中の流体包有物の赤外吸収スペクトルを高温高圧下その場測定し、石英ーコーサイト相転移の際の“水”の挙動を観察した。高温DAC実験後の微小な回収試料のX線回折を測定するために、ガンドルフィカメラを用いた。今回、ガンドルフィカメラを用いて撮影したX線フィルムを、市販のスキャナー、NIH-image、エクセルを用いてX線フィルムの濃淡を数値化・集計し、0.025°刻みのX線回折図に変換するシステムを作成した。処理する面積は25.4×180mm2でデータの総数は約450万点である。外熱式DACはレバー式でシリンダー部を外側からスクエアヒータで加熱し、ダイヤモンド近傍もカンタル線を用いて加熱した。高温高圧下での赤外吸収スペクトル測定は、高輝度光科学研究センター(SPring-8)赤外放射光ビームライン(BL43IR)の赤外顕微鏡を用いた。出発物質として流体包有物を多く含む石英薄片を準備した。実験後、回収試料をガンドルフィカメラを用いてX線回折パタンを測定し、相の同定を行った。測定例として、#1(到達温度圧力7GPa, 550℃)、#2(8GPa, 600℃)を紹介する。ガンドルフィカメラによる回収試料の同定によると、回収試料はコーサイトと同定された。#1、#2共に、常温下初期加圧により3400cm-1を中心とする水の赤外吸収ピークは低波数側3200cm-1に移動した。これは流体包有物中の水が固化したためと考えられる。加熱により#1のピークは3500cm-1付近に移動し、半値幅は出発物質の3400cm-1より小さくなった。#1の回収試料からは、Koch-Muller et al.の報告にあるようなOHのシャープな吸収ピークは測定されなかったが、#2の回収試料では、3本のOHの吸収ピークが観察された。このことから、石英ーコーサイト転移の際、コーサイト中にOH欠陥が形成され、従来の報告より低い温度でOH欠陥が形成される可能性があることを示唆する。
  • 羽江 亮太, 大谷 栄治, 久保 友明
    セッションID: K1-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1. はじめに
     これまでの研究から、地表部の海水がマントル深部まで運ばれている可能性が指摘されており、さらにマントル鉱物には水素や水が存在し得ることが示されている。地球内部物質に構造的に取り込まれた水はその構成鉱物の物性に種々の変化を与えるため、地球深部における水の分布(広がり)を考えることは重要である。特に、マントル遷移層主要構成鉱物であるwadsleyite中の水素の拡散速度を調べることで遷移層における水の分布を考えることが可能になると考える。過去にはolivineなどの上部マントル構成鉱物中の水素拡散係数が調べられている(Mackwell & Kohlstedt 1990)が、マントル遷移層以深の鉱物についてはまだ全く実験が行われていない。このような背景を受け、本研究ではwadsleyite中の水素拡散係数を明らかにすることを目的とし高温高圧実験を行った。その結果からマントル遷移層における水の移動について考察を行う。
    2. 実験方法
     高圧実験は、東北大学理学部設置の3000 ton川井型高圧発生装置(MAP-3000)を用いて行った。圧力媒体にジルコニア、ガスケットにパイロフィライトを用い、圧力は予め作成された圧力較正曲線に基づいてプレス荷重から推定した。高温発生にはランタンクロマイトヒーターを用い、温度測定にはW97%Re3%-W75%Re25%熱伝対を使用した。水素拡散実験の方法として、2通りのアプローチを試みた。合成したwadsleyite多結晶体をNaCl + Mg(OH)2の粉末混合体に埋め込んで水素を拡散させるという方法と、含水濃度の異なる合成wadsleyite多結晶体を拡散対にして実験を行うという2通りの方法である。そのため本研究ではまずforsteriteから出発物質であるwadsleyite多結晶体、hydrous wadsleyite多結晶体を合成し用途により使い分けた。その後17 GPa、1073 - 1273 Kの条件下で水素拡散実験を行った。また現在は新たな方法による水素拡散実験を検討中であり、その結果も合わせて報告・議論したいと考えている。出発物質の含水量の見積もり、及び拡散実験後の濃度プロファイルの作成は東北大学設置のフーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)を用いて赤外吸収スペクトルを測定することにより行った。含水量・濃度の計算にはPaterson(1982)の較正式を用いた。FTIR分析に使用した機器は日本分光製のMFT-2000であり、波数分解能を4 cm-1として全て大気中で測定を行った。
    3. 結果
     実験結果から得られた水素拡散係数は、NaCl + Mg(OH)2を用いた実験では17 GPa、1073 - 1273 Kで約1*10-11 m2/s-2*10-10 m2/s、拡散対を用いた実験では、17 GPa、1073 - 1173 Kで約2*10-13 m2/s-3*10-12 m2/s、それぞれ顕著な温度依存性が確認できた。前者はolivineの水素拡散係数(Mackwell & Kohlstedt 1990) と概ね一致するが、後者ではolivineのそれよりも1,2桁程度遅く、実験方法の違いで拡散係数の値に差がみられるという結果になった。またwadsleyite中の他の拡散種と比較した場合、wadsleyite中の水素拡散係数はMg-Fe相互拡散係数より4,5桁程度遅く、Si自己拡散係数と比較すると8桁以上速いという結果になっている。なお本研究では多結晶体を用いているため、算出した拡散係数は粒内拡散と粒界拡散を含んだ有効拡散係数である。
  • 細矢 智史, 久保 友明, 大谷 栄治, 舟越 賢一
    セッションID: K1-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    上部マントルの主要構成鉱物であるオリビンの準安定相の存在により、沈み込むスラブのダイナミクスに大きな影響を与えたり、深発地震の原因 (Kirby et al., 1991) や相転移後のスピネルの細粒化による粘性の低下 (Riedel and Karato, 1997) が起こる可能性が議論されている。そこで以前からオリビンの相転移カイネティクスの多くの研究がなされてきた (例えばMosenfelder at al., 2002; Kubo et al., 2002)。また、近年になって水の存在が鉱物の物性に大きな影響を与えることがわかってきた。オリビンの高圧相の変形スピネルにも最大約3wt%もの水が含まれることがわかっており (Inoue, 1994; Kohlstedt et al., 1996)、相転移カイネティクスにも大きな影響があると考えられる。オリビンの相転移カイネティクスに対する水の効果について、今までに定量的な議論はなされていない。そこで本研究では、定量的に水の効果を明らかにするために放射光を用いた高温高圧X線その場観察実験をおこなっている。 高圧実験はSPring-8のBL04B1に設置されているKAWAI型高圧発生装置SPEED-1500によって行った。出発試料はMgO, SiO2, Mg(OH)2を混合してMg2SiO4+0.5wt%H2O、Mg2SiO4+0.2wt%H2Oの含水量を変えた2種類の組成を用いた。またカプセルには実験中のH2Oの流出を防ぐため、AgPdを使用した。温度はW3%Re-W25%Re熱電対によって測定し、圧力はNaClの状態方程式 (Decker, 1971) によって見積もった。実験は、まず初めにオリビンの安定領域である約10 GPa、1000-1100℃の条件で100分間アニーリングを行い、オリビンの多結晶体を合成した。その後温度を500℃に下げて目的の圧力まで加圧し、最後に10秒間の間隔でX線時分割測定を行いながら目的の温度まで急加熱を行った。実験の温度圧力範囲は14.2-15.2 GPa、730-900℃であり、過剰圧は2.0-2.7 GPaである。 本研究では10秒間の時分割測定によって、AgPdのカプセルに封入した試料のX線データから相転移の推移を観察することができた。出発試料がMg2SiO4+0.5wt%H2Oの場合15.2 GPa、900℃の実験では、900℃に達してから約50秒後に相転移が始まり、400秒後には完了した。14.2 GPa、810℃の実験では、約60秒後に相転移が始まり、約800秒後には約90%まで相転移が起こった。また14.4GPa、730℃の条件では非常に遅く相転移が完了するまでに8時間かかった。一方Mg2SiO4+0.2wt%H2Oでは14.3 GPa、820℃の条件で相転移が約90%に達するまでに100分かかった。これらのカイネティクスデータをCahn (1956) による速度式 (V=1-exp(-ktn), V:相転移率、k, n:定数、t:時間) で解析したところ、nの値は4つの実験で1.0-1.4となった。これは過剰圧が大きいため全相転移速度がほぼ成長によって律速されていることを示している。Brearley et al. (1992) はオリビン-変形スピネル相転移は粒界核生成-成長メカニズムによって起こることを報告した。よってCahnの粒界核生成-成長モデルに従って解析をおこない、成長速度を見積もった。この結果とKubo et al. (2002) の無水条件 (0.1wt%) の実験結果と比較すると、0.5 wt%の水が含まれることにより変形スピネルの成長速度が2-3桁、0.2 wt%では1-2桁程度大きくなることがわかった。以上のようにオリビンの相転移カイネティクスはわずかな水の量に大きく依存する。したがって実際のスラブの含水量によって準安定のオリビンが存在する領域はかなり変化することが示唆される。
  • 安東 淳一, 富岡 尚敬, Petaev Michail, 金川 久一, 本田 聖美, 柴田 恭宏
    セッションID: K1-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    分化した隕石中のオリビンの微細組織を観察する事は,地球内部の物質の形成過程を考える上で重要な情報を与えると考えられる.我々は,始原的エコンドライトに分類されるDivnoe隕石中のオリビンの微細組織を,電子線後方散乱回折法(EBSD)と透過型電子顕微鏡法(TEM)を用いて観察を進めている.
     Divnoe隕石は等粒状完晶質のオリビンに富むエコンドライトである.オリビンの組成はFo72-75 mol%であり,しばしば120°で交わる三重合点が認められる直線的な粒界を持つ.粒径は0.5mmから1.0mm程度である.殆どのオリビンは,弱い波動消光を示している.EBSDによって,この波動消光の軸が(100)上にある事が分かる.オリビン中には不規則な割れ目が顕著に認められるが,平面状の割れ目は顕著ではない.光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いた観察では,強い衝撃を受けた際に形成されるメルトポケットと不透明な衝撃脈は認められなかった.従って,上記のオリビンの存在様式から,Divnoe隕石が受けた衝撃変成の程度は, S2(very weakly shocked)に区分できる事が分かる.
     EBSDを用いた観察により,オリビンが格子定向配列(LPO)を持つ事が分かった.このLPOは,[001]が極集中を,[100] と[010]が大円上に配置するパターンを示す.一般に,岩石中の鉱物のLPOは,1)対流するメルト中での晶出過程と2)大歪を伴う転位クリープ中に形成される.本LPOと同じパターンは,マントル中の変形したオリビンでは報告されていない.また,本LPOと本質的に同じパターンが既に幾つかの隕石中のオリビンで報告されており,1)によるLPOの形成メカニズムが示唆されている.従って,Divnoe隕石中に発達するオリビンのLPOは,隕石母天体中でのメルトからの晶出過程時に形成されたと考えられる.これは,Divnoe隕石中のオリビンが,衝撃などによる後の変成の影響を受ける事無く,隕石母天体中で形成された際の組織を保持している事を意味している.
     LPOを示すオリビンをTEMで観察した.非常に密に絡み合った転位が存在する数マイクロメーターから20マイクロメーター幅の(100)に平行に延びる領域が複数認められた.この領域は,隣接する領域とはわずかに結晶方位を異にしている為,光学顕微鏡観察の際に認められた波動消光の原因であると考えられる.また,不均質に分布する直線的な[001]らせん転位も存在する.これら,絡み合った転位と[001]らせん転位は,相対的に高歪速度と低温条件下で形成される特徴的な転位として知られている.従って,これらの転位は,隕石の衝突の際に形成されたものと考えられる.
     以上の様に,Divnoe隕石中のオリビンは,隕石母天体中で形成された際の組織を保持している事が明らかとなった.現在はこの事実を元に,TEMによる組織観察を進め,母天体中での発現現象を明らかにしている.
     Divnoe隕石中のオリビン中には,Feの濃度差によるラメラが存在する.Petaev and Brearley(1994)は,このラメラの成因を離溶と考えた.この論文は,オリビン中の離溶現象の唯一の観察結果であるが,オリビンの離溶現象は一般的には疑問視されている.本講演では,TEM観察に基づいた,このラメラの成因の考察も行う.
  • 久保 友明, 大谷 栄治, 細矢 智史, 長瀬 敏郎, 亀卦川 卓美
    セッションID: K1-07
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    地球深部に沈み込んだ冷たい海洋プレート内での高圧相転移にともなう密度変化を知ることは、マントル対流の冷たい下降流のダイナミクスを理解するうえで非常に重要である。特にプレート内部の低温条件下では未反応の低圧相が存在する可能性が指摘されており、それは沈み込むプレートの密度に大きな影響を与える。本研究では最近行っている天然ガーネットとダイオプサイドの高圧分解相転移カイネティクス実験の結果を報告し、これまでに得られている他の相転移カイネティクスの結果も考慮して沈み込む海洋プレートの密度を考察する。相転移カイネティクス実験は高エネルギー加速器研究機構photon factoryにおいて放射光と川井型高圧装置(MAX-III)を組み合わせた高温高圧X線その場観察法を用いて行った。常温加圧後、母相の安定領域において1473K, 100分の条件でアニーリングを行い、等粒状の5-10ミクロンの多結晶体を作った後に相転移カイネティクスを観察している。天然ガーネットのMgペロフスカイト+Caペロフスカイト+スティショバイト+アルミナス相への分解相転移は28-32GPaにおいて1320Kでは3時間経過しても起こらず、1600, 1710, 1820Kにおいて相転移率の時間変化のデータを得た。2000Kでは相転移は数分以内に完了した。一方、ダイオプサイドからCaペロフスカイト+スピネル+スティショバイトへの分解、またダイオプサイドからCaペロフスカイト+イルメナイトへの分解は18-23 GPaにおいて1320Kでは3時間保持しても相転移は起こらず、1520Kにおいて相転移率の時間変化のデータを得た。得られたkinetic dataの予備的な解析から、これらの分解相転移の成長速度は時間とともに減少し、拡散律速の成長が起こっていることが予想された。同じような現象はこれまでにエンスタタイトのスピネル+スティショバイトへの分解相転移でも確認されている。我々がこれまでに研究を行ってきたpolymorphicなオリビンのα-β相転移やエンスタタイト-イルメナイト相転移(界面律速成長)、またポストスピネル分解相転移(ラメラ成長)では、同じように母相が5-10ミクロンの粒径をもつ場合、1300K付近で約10分以内に相転移が完了する。拡散律速の成長はそれに比較して非常に遅いことが明らかになってきた。分解相の成長形態は拡散律速の成長のカイネティクスに大きな影響を与える可能性があり、今後、回収試料の相転移微細組織の電顕観察と得られたkinetic data の定量的な解析を相補的に行っていく必要がある。例えばポストスピネル分解相転移ではサブミクロンの細かいラメラ組織を保ちながら成長していく。この場合、分解に必要な拡散距離が短くてすむため分解相転移にもかかわらず成長が速い。分解相の間には結晶学的な方位関係が認められ、そのために界面エネルギーが減少し細かいラメラ組織が実現されていると考えられる(Kubo et al., PEPI, 129, 153, 2002) 。一方ガーネットの分解相転移ではそのようなラメラ状の成長組織やトポタキシーは観察されず、分解相の成長速度は非常に遅い(Kubo et al., Nature 420, 803, 2002)。これまでに得られている相転移カイネティクスの結果を考慮して沈み込む海洋プレート本体のペリドタイト層の密度を考えると、オリビンやエンスタタイトの高圧相転移カイネティクスは非常に冷たい(周囲のマントルより900K以上低い)プレートにおいてのみ大きな影響をもち、特にマントル遷移層下部においてプレートの密度を減少させる可能性がある。一方、ガーネットやダイオプサイドの分解相転移カイネティクスは比較的暖かいプレートにおいても重要な役割をもち、下部マントル最上部のプレートに浮力を与える可能性がある。
  • 入舩 徹男, 末田 有一郎, 西山 宣正, 実平 武, 山崎 大輔, 井上 徹, 舟越 賢一
    セッションID: K1-08
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    我々のグループはWCアンビルおよび大型焼結ダイヤモンドアンビル(一辺14mm)を用いたマントルおよび沈み込んだ海洋/大陸地殻物質の相転移および密度変化を、SPring-8の大型マルチアンビル装置(SPEED-1500, SPEED-MkII)を用いたX線その場観察により実験的に決定している。現在までのところ焼結ダイヤモンドアンビルを用いて常温下では50GPaを越える圧力の発生に成功するとともに、40GPa余り・1500C程度の温度圧力の安定的な発生が可能になっている。現在地殻関連鉱物のいくつかについて高温高圧下での相変化やP-V-T関係を決定し、高圧相の等温非圧縮率やその圧力微分、また熱膨張率など、状態方程式を制約するパラメーターを得ている。
    (MgAl2O4
     MgAl2O4スピネルはマントル最上部で重要な鉱物であるが、沈み込んだ海洋地殻物質中においても下部マントル領域においてcalcium ferrite構造関連相として出現する。MgAl2O4の下部マントル領域の相変化をX線回折その場観察実験により観察するとともに、その非圧縮率の決定を試みた。この結果calcium ferrite構造は40GPa、1500C程度まで安定であることを見いだすとともに、K0=213GPaという値を得た。
    (CaSiO3
     立方晶ペロフスカイト構造のCaSiO3はマントルおよび海洋地殻物質中において、マントル遷移層以深で重要な高圧相である。このペロフスカイト構造への相転移圧力とともに、立方晶ペロフスカイトの安定性、また熱弾性パラメーターの決定をめざし、40GPa、1200C程度までの条件下で実験をおこなった。この結果立方晶ペロフスカイトへの相転移は12GPa程度の圧力で起こるが、その正方晶への変化は上記の条件下までは明確には認められなかった。立方晶ペロフスカイト構造CaSiO3の非圧縮率としてK0=228GPaという値を得ている。
    (KAlSi3O8
     KAlSi3O8は9GPa程度の圧力下でホランダイト構造に相転移することが知られている。この相は特に大陸地殻物質中において、マントル深部条件下で重要であることが指摘されたが、その熱弾性についてはほとんど研究されていない。最近我々のグループでは26GPa, 1800K程度までの条件下でP-V-Tデータを収集し、現在その解析をすすめているが、予察的な解析によるとK0=183GPa程度の比較的小さい非圧縮率が得られている。
  • 藤野 清志, 小川 久征, 泉 宏之, Das Kaushik, 富岡 尚敬, 大西 市朗
    セッションID: K1-09
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1.はじめに
     下部マントルの主要な構成鉱物と考えられている(Mg,Fe)-ペロブスカイトとCa-ペロブスカイトでは,マントルの化学組成によりさまざまの陽イオンの置換が起こりうる.それらの置換とそれに伴う構造変化は,下部マントルの鉱物組成と物性に大きな影響を及ぼす.特にMgSiO3ペロブスカイトへのFeとAlの固溶は重要であるが,それらの固溶の程度や両者の相関関係にはまだ不明な点が多い.今回(Mg,Fe)SiO3-Al2O3系を用いたレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(DAC)実験で,MgSiO3ペロブスカイト相へのFeとAlの固溶について調べたので報告する.
    2.実験
     Fe/(Mg+Fe)モル比を0.2 に保った(Mg,Fe)SiO3に,Al2O3を0, 5, 25, 50モルパーセント混ぜた(Mg,Fe)SiO3-Al2O3系のゲルを出発物質に用いて,30-60 GPa,1800-2000 Kの条件でYLFレーザーによる両面加熱DAC実験を行った.Fe/(Mg+Fe)モル比を0.2 に保ったのは,上記実験条件でペロブスカイト相中に常に限界のFe量が固溶するようにしたためである.実験試料については,放射光X線による高圧その場観察と常温常圧回収試料の観察,並びに分析電顕による回収試料の観察を行った.
    3.結果と考察
     放射光X線と分析電顕による解析の結果,Al2O3の割合により生成相は以下のように変化した.Al2O3が0および5 モルパーセントでは,ペロブスカイトとマグネシオウスタイトおよびスティショバイトの3相が共存し,Al2O3が25 および50 モルパーセントではそれらの共存相に加えてコランダムがさらに加わった.分析電顕による組成分析の結果,これらのペロブスカイト相では,ペロブスカイト中のAl が増えるに従ってFe も増えていったが,その増加の割合はAl量が少ない間は小さく,Al量がある程度増えてくるとFeの増加の割合も増大する傾向が示された.また,Al量がゼロの場合を除いて,ペロブスカイト相と共存する金属鉄が確認された.これらのことは,ペロブスカイト中でAl量が少ない間は,Mg2+ + Si4+ → 2Al3+ の置換が卓越し,Al量がある程度増えてくると,Mg2+ + Si4+ → Fe3+ + Al3+ の置換が増加して,ペロブスカイト中にFeAlO3と言う端成分が生成されたことを示唆する.このことから,下部マントルのAl に富む環境では,(Mg,Fe)SiO3ペロブスカイトは相対的にFe に富み,その一部はFe3+ と考えられる.
  • 泉 宏之, 藤野 清志, 小森 豊久, Das Kaushik, 富岡 尚敬, 大西 市朗, 久保 敦, 桂 智男, 伊藤 英司
    セッションID: K1-10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1. はじめに
     CaSiO3は高温高圧下で立方晶または擬似立方晶ペロブスカイト構造をとり,実際に下部マントルの主要な構成鉱物と考えられている.一方,CaTiO3は高温高圧から常温常圧にいたる広い範囲でおおむね斜方晶ペロブスカイト構造をとり,しばしばMgSiO3ペロブスカイトのアナログ物質として用いられている.今回,下部マントルにおけるCaSiO3ペロブスカイトの陽イオン置換や構造変化を考える一環として,CaSiO3-CaTiO3系についてマルチアンビルセルとレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(DAC)による高温高圧実験と放射光X線回折および分析電顕による試料の観察を行ったので,その結果について報告する.
    2. 実験
     マルチアンビルセル実験は,岡山大学固体地球研究センターにおいて,CaSiO3-CaTiO3系のガラスと一部結晶の混合物を出発物質に用いて,5.7-13.2GPa,1773Kで行った.また,レーザー加熱DAC実験は,北大の当研究室でガラスを出発物質に用い,YLFレーザーによる両面加熱で約30GPa,1800Kで行った.
     マルチアンビルによる高圧合成実験の生成物は,高エネルギー研での放射光X線回折と当研究室の微小部X線回折および分析電顕で調べ,レーザー加熱DACによる生成物はスプリング8での放射光X線回折で調べた.分析電顕の薄膜作成には,イオン研磨のほか,ウルトラミクロトーム法も用いた.
    3.結果と考察
     マルチアンビルセル実験の生成物の解析からは, Kuboら(1997)の温度1473Kにおける相平衡図に似た結果が得られ,この領域における相関係には温度による依存があまりないことが確認できた.1773Kでは12.5GPa以上ではCaSiO3-CaTiO3系の全域でペロブスカイト相のみの存在が確認された.常圧への回収試料の電子線回折パターンから,CaTiO3からCaSiO3が約40モル%までは斜方晶(Pbnm)ペロブスカイトのパターンが,またCaSiO3が約40モル%から65モル%まではCaSiO3立方晶ペロブスカイトの約2倍の格子定数を持つダブルペロブスカイト構造(Fm3m)で指数付けはできるが面心格子の消滅則を破るパターンが見られた.これら,面心格子より低対称のパターンにはいくつかタイプが見られたが,それらのタイプと組成の間には特に相関は見られなかった.また,65モル%よりCaSiO3よりでは,回収試料は非晶質であった.またこの系で組成の異なるペロブスカイトの2相共存領域は見出されなかった.
     一方,レーザー加熱DAC実験からは,放射光による高温高圧その場X線回折で,中間組成領域ですべて偶数かすべて奇数の反射のみからなる面心格子のダブルペロブスカイト構造が認められた.しかし同試料を室温にさげると奇数と偶数の混じった反射を示すようになった.このことから,この系の中間組成領域には高温高圧下で面心立方格子のダブルペロブスカイト構造が存在するが,この構造は室温に急冷される過程でSiとTiの秩序化が起き,より低対称の単純立方格子に変わってしまうことが推察される.常温高圧下におけるX線回折ピークからは,CaSiO3が90モル%までダブルペロブスカイト相のピークが確認できた.
  • 大谷 栄治, 佐野 亜沙美, 久保 友明, 細矢 智史, 舟越 健一
    セッションID: K1-11
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    Subsolidus phase relation in hydrous mid-ocean ridge basalt (MORB) was determined by high pressure and temperature in situ X-ray diffraction study. SPEED1500 was used for this experiment. We used a rhenium tube heater with LaCrO3 thermal insulator, the magnesia window for the X-ray path, the W3%Re-W25%Re thermocouple for monitoring temperature of the experiments. Pressure was calculated from the lattice constants of gold. We observed that increase of the intensity of the X-ray diffraction peaks of garnet phase clearly at 20.7 GPa and 1200C (Run mb41019), whereas we observed intensity increase of the diffraction lines of Mg-perovskite in three runs made at 21.6 GPa and 1100C (Run mb51017), 23.1GPa and 1200C (Run mb43028), and 25.5 GPa and 1200C (Run mb42027). These observations imply that transformation from the garnet bearing to the Mg-perovskite bearing assemblage occurs at around 21.6 GPa and 1100C. The boundary of the perovskite appearance in the wet MORB composition has a positive slope expressed as P(GPa)=0.0056(+-0.0009)T (C)+15.4(+-1.1) based on the pressure scale by Anderson et al. (1989). The boundary is about 1 GPa lower than that determined under the dry condition by Hirose et al. (1999). There is a crossover between the post-garnet phase boundary in MORB and the post spinel phase bouhdary in peridotite at around 1300 C at the around 22 GPa by Anderson gold scale. The result has a significant implication of the subduction of the crustal materials into the lower mantle. In the low temperature conditions of the slabs below 1300C, post garnet transformation occurs at lower temperature compared to the post spinel transformation of the peridotite layer of the slabs. The crustal component in the wet slab can easily descend into the lower mantle.
  • 大高 理, 有馬 寛, 福井 宏之, 内海 渉, 片山 芳則, 吉朝 朗
    セッションID: K1-12
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    放射光とマルチアンビルプレスの組み合わせにより、高温高圧下でのXAFS実験を行った。Li2Ge4O9成分のジャーマネートメルトの1000℃における9GPaまでのXAFS測定に成功した。このジャーマネートメルトでは3 GPaで配位数変化がおこり、4 GPa以上ではほぼ全て6配位成分からなる高密度液体となることが実験的に初めて確認された。また、この高密度液体中のGeO6八面体は結晶中のそれに比べて、大きな圧縮率を持つことがわかった。これらの結果から、アナログ関係にあるシリケート液体の高圧下での振る舞いについて考察する。
  • 平賀 岳彦, Anderson Ian M., Kohlstdet David L.
    セッションID: K1-13
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    Segregation of incompatible elements results in a marked difference between the composition of the interiors and the boundaries of grains within the rocks that comprise Earth’s mantle. At chemical equilibrium, the molar concentrations of solutes in grain matrices, XGM, and the grain boundaries, XGB, can be related through the grain boundary segregation energy, γ:
     XGB/(XGB0-XGB) = exp (γ / RT)*XGM/(1-XGM)
     where XGB0 is the saturation level of XGB, R is the gas constant, T is the temperature. This thermodynamic model has not been applied to grain boundaries in Earth materials; grain boundaries have simply been treated as possible sinks for impurities in rocks.
     To test whether the thermodynamic model describes segregation to grain boundaries in mantle rocks, we investigated partitioning of Ca between the grain interiors and grain boundaries of olivine in natural and synthetic olivine-rich aggregates. We calculated partitioning curves for Ca (ri = 0.1 nm) using Eq. (1) for different temperatures; assuming that the absorption energy, γ, is equal to misfit strain energy, U, and that the segregated Ca is confined to the M sites at the grain boundary plane (XGB0 = 1). Good overall agreement suggests that the observed Ca partitioning is consistent with the thermodynamic equilibrium model in Eq. (1), with the segregation confined to the grain boundary plane and the partitioning controlled by misfit strain energy. The consistency of the Ca partitioning in both natural and synthetic samples our model predictions suggests that partitioning according to this segregation model accurately describes the partitioning of Ca, and likely other incompatible divalent cations, in Earth’s mantle.
  • 津野 究成, 大谷 栄治, 久保 友明, 近藤 忠
    セッションID: K1-14
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1.はじめに
     地球型惑星の中心核は、金属鉄とともに軽元素が含まれている可能性が高い。軽元素のうち、酸素、硫黄は最も有力な候補であると考えられている。Dreibus and Wanke (1985)は, Shargottite 隕石から火星の化学組成を見積もり、核はSに富んでいる。Ringwood (1977)は、火星は地球よりも低温で、より酸化的であると主張している したがって、核の組成モデルを議論するうえで、Fe-FeO-FeS 系の相関係を明らかにすることは重要である。Urakawa et.al., (1987) は15GPa までの条件下でFe-FeO-FeS 系の相関係を明らかにし、Fei et al., (1997, 2000) は 21GPa までのFe-FeS 系の相関係を、Li et al., (2002) は25GPaのFe-FeS 系の相関係を明らかにしている。本研究において23GPa でFe-FeS 系、Fe-FeO-FeS 系の高温高圧実験を行ったので、その結果を報告する。
    2.実験方法
     高圧力発生には、東北大学理学部設置のMA8型高圧発生装置を用いた。アンビルは先端が2.0mmのタングステンカーバイドである。圧力媒体にはZrO2の仮焼結体を使用し、試料を詰めるカプセルにはMgOを使用した。ヒーターにはレニウムの箔を筒状にしたものを使用し、測温にはW3%Re-W25%Re熱電対を使用した。出発試料は2種類用いた。86wt.%Fe-14wt.%S(粉末のFeとFeSの混合物)、81wt.%Fe-5wt.%O-14wt.%S(粉末のFeとFeS、Fe2O3を雰囲気炉で還元させたFe0.910)である。実験圧力は23GPaとした。実験は、まず圧力を上げ、その後、目的の温度まで上昇させる。5-20分の温度保持の後、試料は電源を切ることによって急冷させた。回収試料の組織観察には、反射顕微鏡と走査型電子顕微鏡によって行われ、組成分析にはEPMAを使用した。
    3.実験結果
     現在、23GPa における共有点温度を決定しつつある。Fe-FeS 系(86wt.%Fe-14wt.%S)では、1050℃で solid phases (Fe+Fe3S + Fe2S)、1100℃で liquid phaseであるという結果が得られた。Fe-FeO-FeS 系(81wt.%Fe-5wt.%O-14wt.%S)では、850℃で solid phases ( FeS + Fe3S2 + FeO)、900℃-1200℃ で solid (FeO) + liquid であるという結果が得られた。Fe-FeS 系に酸素を混入させてFe-FeO-FeS 系にすると約200℃溶融温度が下がるという結果が得られた。これらの結果より、火星の核は部分溶融している可能性が高いことが明らかになった。
  • 井上 徹, 和田 智之, 佐々木 瑠美, 入舩 徹男, 圦本 尚義
    セッションID: K1-15
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    (はじめに)
     水は地球表層に大量に存在する主要な揮発性成分の1つであり、その水がスラブの沈み込みによって常に地球内部に供給され、鉱物の物性や溶融温度に大きく影響を与えることが明らかにされてきている。特にマントルの主要構成鉱物はカンラン石であり、その高圧相のwadsleyite, ringwooditeには3wt%ものH2Oが結晶構造中に含まれうることが明らかにされてきてはいるが、実際の水の存在割合を議論する場合、それらの鉱物間の水の分配が重要で、マントル中のどの層に相対的にどれぐらい水が存在可能かということを知る必要がある。現在までolivine-wadsleyite間(Chen et al.,2003)、及びwadsleyite-ringwoodite間(Kawamoto et al., 1996)でこのようなデータが報告されているが、特に後者ではデータは1点だけである。本研究ではオリビンの高圧相転移のwadsleyite-ringwoodite、及びringwoodite-perovskite間における水の分配を明らかにし、上部マントル、マントル遷移層、及び下部マントル間の水の分配を明らかにした。
    (実験方法)
     本研究の含水系の出発物質には(Mg0.8Fe0.2)2SiO4+16wt%H2OになるようにFe2SiO4, Mg(OH)2, SiO2の混合粉末試料を、無水系には(Mg0.8Fe0.2)2SiO4になるようにFe2SiO4, MgO, SiO2の混合粉末試料を用意した。実験装置は愛媛大学設置のマルチアンビル型高圧発生装置を使用し、wadsleyite-ringwoodite間の水の分配を求める実験は14.6~17.0GPa、1400℃の条件下で、ringwoodite-perovskiteの水の分配を求める実験は~23.5GPa、1600℃の条件下で行った。今回の実験は含水量測定に耐え得る大きな共存結晶を得ることを目的としているので、比較的大きい含水量を選択し、また温度も含水ソリダス直上になるよう設定した。実験は目的の圧力まで加圧、圧力を一定に保ちながら加熱した後、急冷減圧し回収した。回収試料は顕微ラマン分光装置、及び反射電子像により相の同定を、さらにエネルギー分散型電子顕微鏡により化学組成を測定した。また含水量は東京工業大学設置の二次イオン質量分析計により測定した。
    (実験結果)
     含水系で含水量測定に耐え得る50μm以上のwadsleyite及びringwooditeの共存結晶、及びringwoodite及びperovskiteの共存結晶を合成することに成功し、この共存結晶間での水の分配が明らかにできた。Wadsleyiteとringwoodite間の水の分配係数は5点で制約できたが約2程度となり、これはKawamoto et al.(1996)での値(2.5)と近い値を示した。またringwooditeとperovskite間の水の分配係数は約10かそれ以上となった。我々の以前の研究(Chen et al.,2003)によりwadsleyiteとolivine間の水の分配係数は約5程度と明らかにされているので、410km以浅の上部マントル、410-520km及び520-660km間のマントル遷移層、及び660km以深の下部マントル間での水の分配は4:20:10:1ということになる。すなわち、マントル遷移層に極めて高濃度に水が保持され、地球内部の水の貯蔵庫となっていることが考えられる。
  • 朝原 友紀, 大谷 栄治, 近藤 忠, 久保 友明, 宮島 延吉, 藤野 清志, 亀卦川 卓美
    セッションID: K1-16
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    本研究では、天然の隕石に近い、Ca及びFeに富み、かつAlを含むような輝石組成について、下部マントル圧力条件(約30GPa、1000-1900℃)における安定相を調べる為、放射光を用いた高温高圧その場観察実験を行った。
     高圧鉱物には、大気圧に戻すとアモルファス化してしまう相が多く、また、回収試料の粒径も非常に小さい為、急冷実験のみで安定相を決定することは困難である。加えて、Caに富む輝石に関しては、cubic-pv相が準安定に出現することが、報告されており、安定相の決定にはさらに注意を要する。マルチアンビルを組み合わせた放射光実験の利点は、高圧下で、安定した高温条件を保持した状態でX線その場観察が行える点であり、本研究では、その利点を生かして、相転移の進む過程を直接観察する事で安定相の確認を行った。また、組成の温度依存性を調べる為、急冷回収実験も合わせて行った。
    実験方法
     高温高圧その場観察実験は、KEK-PF(BL-14C)設置の700tonキュービックプレス(MAX-III)と1辺10mmの焼結ダイヤモンドマルチアンビル高圧装置を用いて行った。また、高温発生にはLaCrO3ヒーターを用いた。圧力は金の状態方程式を用いて測定した(Anderson et al., 1989)。出発物質には合成したCa1.0Mg0.6Fe0.2Al0.1Si2O6組成の輝石とガラスを用いた。約30GPa、1000-1900℃の範囲で実験を行った。急冷回収実験は東北大学設置の700tonキュービックプレス(SPIRIT-700)を用い、30GPa、1000-1200℃の条件で実験を行った。回収試料の化学分析には北大及び東大物性研の分析透過型電子顕微鏡を用いた。
    結果
     ガラスを出発物質とした実験については、32GPaにおいて1300℃付近からcubic perovskite相(CM-Pv)が単独で晶出し、その後、100-200℃ごとに5-15分間温度を保持して回折パターンをとりながら昇温していったところ、1800℃において、CM-Pvから、Ca-pv (cubic) + Mg-pv (orthorhombic)+ stishoviteへ分解する様子が観測された。一方、輝石を出発物質に用いた実験では、同様のCM-Pvの分解が、30GPa、1200℃において観測された。輝石を出発物質にした場合、輝石から、Ca-pvとMg-pvもCM-Pvと同時に晶出しており、このため、ガラスからCM-Pvが単独に晶出する場合よりも低温で、CM-Pvが分解したと考えられる。この結果は、約30GPa、1200℃以上では、Ca-pv+ Mg-pv + stishoviteの組み合わせがより安定であり、最初に晶出するCM-Pvは準安定相であることを示している。また、回収試料の化学分析の結果、1000-1800℃の温度範囲においては、Ca-pvとMg-pvのCa/(Ca+Fe+Mg)は各々0.98,0.01で、ほとんど互いに固溶しないことが確認された。
  • 平尾 直久, 大谷 栄治, 近藤 忠, 亀卦川 卓美
    セッションID: K1-17
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    地震学的観測から推定されている地球核の密度は,同条件下での純鉄の密度よりも,内核で3-4%、外核で10%程度低いことがわかっている.このことは,地球核に鉄よりも軽い元素が存在していることを示唆しており,その候補として,水素,炭素,酸素,マグネシウム,シリコンおよび硫黄といった軽元素が挙げられている.しかしながら,どの軽元素がどの程度の影響を与えているのかは不明である.これまで様々な鉄-軽元素系の実験が行われ,地球核中に含まれている軽元素の可能性が議論されてきたが,その大部分は低圧領域における実験結果の外挿からの推察が基になっていることも,未解決の理由のひとつになっていると思われる.しかし,近年のダイヤモンドアンビルセル技術の発展により,核条件すなわちメガバールからマルチメガバール領域における高温高圧実験が可能になってきた.実際に核に相当する圧力条件下で鉄-軽元素系の実験を行い,それらの系で出現する高圧相,その組成や状態方程式を決定することは,地球核の組成を制約するのに非常に有用である.
     シリコンは地球化学的な議論から地球核中の軽元素の候補として挙げられている.従来,鉄-シリコン系の密度は衝撃圧縮実験で270 GPaまで得られているが,静的圧縮ではダイヤモンドアンビルセルを用いた実験での54 GPaが最高圧力であった.我々は出発物質にFe8.7wt.%SiおよびFe17.8wt.%Siを用い,それぞれ圧力196 GPa,124 GPaまで実験データを取得した.高圧発生にはダイヤモンドアンビルセルを用いた.高圧X線回折実験を高エネルギー加速器研究機構PFのビームラインBL13AおよびBL18Cで実施した.回折パターンはイメージングプレートを用いた角度分散法により取得している.圧力測定はルビー蛍光法,または白金の状態方程式により決定した.実験は室温で行われた.
     Fe8.7wt. %Siは常温常圧では純鉄と同様のbcc構造をしている.加圧過程では,16 GPaでbccに加えhcp構造が共存し,37 GPaでhcp単相になり,196 GPaまでhcpが安定に観察された.この転移圧力はLin et al. [2002] が報告している結果と一致する.一方、Fe17.8wt. %Siも常温常圧でbcc構造であるが,その周期構造は純鉄の2倍となる.この相は124 GPaまで安定で,転移は観察されなかった.3次のBirch-Murnaghanの状態方程式より,Fe8.7wt.%Siのhcp相,Fe17.8wt.%Siのbcc相の弾性定数を求めた結果,前者は常圧での体積(V0)が22.2(8) Å3,体積弾性率(K0)が198(9) GPa,体積弾性率の圧力微分係数(K'0)が4.7(3) であり,後者ではそれぞれV0=179.41(45) Å3, K0=207(15) GPa and K'0=5.1(6)であった.これらの実験データから地球核条件での密度を求め,地震波観測から求められている密度と比較した結果,地球核中に含まれる軽元素をすべてシリコンとし,温度6000 Kと仮定した場合、4-10%含まれると見積もられた.同様に,得られた弾性定数から地球核における弾性波速度を見積もり,地震波観測から取得されている値と比べた結果,地球核中に数%のシリコンが含まれる可能性が示された.
  • 安藤 良太, 大谷 栄治, 浦川 啓, 片山 芳則
    セッションID: K1-18
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     高圧下での珪酸塩融体の密度は、地球内部でのマグマの移動を制約するうえで最も重要なパラメータの一つである。しかしながら、格子定数を持たないメルトの密度を求めることは容易ではなく、浮沈法と呼ばれる密度既知のマーカーの浮き沈みを利用した方法で決定されたごく限られた条件での値を除いては、その値はほとんど知られていない。
     そんな中、Katayama(1996)が試料の密度とX線吸収との関係を利用し、金属メルトの密度を測定する新しい方法を開発した。そこでこの方法のシリケイトメルトへの使用を試みた。本研究ではまず、メルトを測定する前段階として、シリケイトガラスの密度測定をおこなった。
    方法
     出発試料にはMORB組成のガラス粉末(SiO2-Al2O3-FeO-MgO-CaO-Na2O)を使用した。酸素分圧を制御した電気炉で、調合した試料を1603Kに加熱し、溶融した試料を水の中に落とすことで、急冷し、ガラスを合成した。
    X線が物質中を透過すると、透過してきたX線の強度(I)は次のように表される。
     I= I0×exp(-mrt)
     I0は入射X線の強度を、μは物質のX線吸収係数、tは物質の厚さ、rは物質の密度を表す。ここで物質のm値とt値が既知であれば、IとI0を測定することで、物質の密度rを求めることが可能となる。このことを利用して密度を測定するのX線吸収密度測定法である。本研究では、試料の厚さtを求めるために、新しく、試料容器として単結晶ダイヤモンドの円筒を使用した。ダイヤモンドは変形しにくく円筒の形状が保たれるため幾何学的に試料の厚さを求めることが可能となった。また、ダイヤモンドのX線吸収係数が小さいことも測定を可能とした。
     実験はSpring-8、BL22XUビームラインを利用しておこなった。高温高圧発生装置には同ビームライン設置のDIA型キュービックアンビルプレス(SMAP180)を使用した。アンビルには先端6mm超硬アンビルを使用した。X線は25keVの強度のモノクロX線を使用し、2つのスリットを使い、0.1mm×0.1mmに絞ったものを用いた。強度I、I0の測定にはイオンチャンバーを使用した。
     測定は常温(300K)で1atmから5GPaまで加圧をおこなった過程と、5GPaで温度を773Kまであげた加熱時、さらに、その後、温度を773Kに保ったまま、5GPaから常圧(1atm)までの脱圧した過程においておこなった。
    結果及び考察
     常温での5GPaまでの加圧では25%の密度増加がみられた。また、773Kまでの加熱により20%の密度増加が観測された。さらに1atmまでの脱圧で10%の密度減少が観察された。この脱圧過程の密度変化から773Kにおける等温体積弾性率Kを求めるとK=46(4)と求まった。
     この方法が高圧下でのシリケイトメルトの密度測定に有効であるといえる。
  • 赤荻 正樹, 手島 寧子, 糀谷 浩
    セッションID: K2-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    CaSiO3は圧力の増加によって、wollastoniteからwalstromiteに転移した後、Ca2SiO4 larniteとCaSi2O5 titaniteに分解し、さらに下部マントルの主要構成鉱物の一つであるCaSiO3 perovskiteに転移する。これらの相の内、CaSi2O5 titaniteとCaSiO3 perovskiteは、常圧に戻すとそれぞれtriclinic phaseとアモルファスに転移する。また、圧力の増加によってCaTiSiO5 titaniteにCaSi2O5成分が固溶し、約9GPa以上では連続固溶体が形成され、CaSi2O5端成分以外はtitanite相が常圧にクエンチされる。これらのカルシウム珪酸塩の熱力学的性質と相平衡関係はまだ十分に明らかにされておらず、特にTiを含む珪酸塩のエンタルピー測定はほとんど行われていない。本研究では、ホウ酸鉛溶媒に溶けにくいTiを含む試料のエンタルピーを測定するため、落下溶解法と気泡撹拌法を組み合わせた新しい熱量測定法を試み、CaTiSiO5- CaSi2O5系titaniteの落下溶解エンタルピーを測定した。それによって外挿法でCaSi2O5 titaniteのエンタルピーを求め、CaO-SiO2-TiO2系の高圧相平衡関係を熱力学的に計算した。
     マルチアンビル装置を用いてxCaTiSiO5-(1-x)CaSi2O5組成(x=0.1, 0.2, 0.5, 0.75, 1.0)のtitanite固溶体を合成し、粉末X線法で一相のtitaniteであることを確認した。705°Cに保たれたカルベ型高温微少熱量計に2PbO.B2O3溶媒を入れ、titanite固溶体粉末をペレットに成型して溶媒に落下させた。この時、白金管を通して溶媒中にアルゴンを流し、その気泡によって溶媒を撹拌して、試料を溶解させた。測定されたtitanite固溶体の落下溶解エンタルピーはCaSi2O5量とともに直線的に減少し、この固溶体が理想固溶体とみなせることを示した。外挿によって求められたCaSi2O5 titaniteの落下溶解エンタルピーを用いて計算されたCaSiO3 walstromite + SiO2 coesite -> CaSi2O5 titaniteの転移エンタルピーは44.9±2.5 kJ/mol、1/3Ca2SiO4 larnite + 1/3CaSi2O5 titanite -> CaSiO3 perovskiteでは66.0±4.5 kJ/molであった。
     以上の熱力学データを用いて、CaTiSiO5- CaSi2O5系titaniteの安定領域を計算した。その結果は、圧力の増加によってCaSi2O5-CaTiSiO5系 titaniteの領域が拡大するKnoche et al. (1998)の実験結果とほぼ一致した。またクエンチ実験の結果と今回の熱力学データを合わせると、larnite + titanite (R) perovskiteの相境界線は14.6GPa、1600°Cで1.8MPa/Kの勾配を持つと計算された。これらの相平衡関係を用いると、Joswig et al. (1999)らの発見したKankanダイヤモンド中に共存するlarniteとtitanite は深さ約300-420kmで生成し、Ogasawara et al. (2002)の発見したKokchetav超高圧変成岩中のSiに富むtitaniteは約200km以深で生成したと考えられる。
  • 岡田 卓, 小松 一生, 日野原 邦彦, 川本 竜彦, 鍵 裕之
    セッションID: K2-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     マントル鉱物と共存する際の水の性質(物質溶解量や濡れ角など)は圧力に伴って変化することが知られている。これは水そのものの化学構造が変化するために引き起こされている可能性が考えられる。今回我々は高圧下で水のラマン散乱スペクトルを測定することによって、化学構造変化の検出を試みた。
    実験
     高圧発生には上下にサファイア製光学窓を持つステンレス製高圧セルを使用した。試料及び圧力媒体は純水で、ハンドポンプによってステンレス製パイプを通りセル内に導入、加圧される。圧力はブルトン管圧力計によって、温度はセル中心部に導入されたクロメル-アルメル熱電対によって測定された。現在のシステムでは最大圧力0.40GPaまで加圧可能である。
     ラマン散乱スペクトルは、Ar+イオンレーザー(出力50mW)を、20倍の長作動距離対物レンズ及び高圧セルのサファイア窓を通して試料に集光・照射し、散乱光を回折格子によって分光させ、CCDカメラを用いて検出した。レイリー散乱はノッチフィルターによって除去した。測定波数域は2766-3831cm-1のO-H伸縮振動域であり、波数校正には標準物質としてナフタレン(3056.4cm-1)及びブルーサイト(3650cm-1)のラマン散乱ピークを用いた。波数分解能は約1.5cm-1である。室温下(22.8-23.8℃)および高温下(50.3-53.9℃)で0.05GPa毎に0.40GPaまで各圧力温度にて600秒間のラマンスペクトルを収集した。
    結果と考察
     3つのバンドからなるブロードな散乱スペクトルが得られた。初期値としてピークの本数・波数・強度を与え、波数・強度・幅を変化させ、最小二乗法により3本のガウシアンピーク(室温常圧では3229±2.1cm-1, 3431±1.5cm-1, 3599±2.4cm-1)に分離した。室温下での3229及び3431cm-1付近の2本のピーク波数は、圧力増加に伴い系統的に変化した。圧力増加に伴ってはじめ高波数側へシフトし、約0.20GPaを頂点としてより高圧では低波数側へシフトした。約50℃でのピーク波数はほとんど変化せず頂点も認められなかった。
     水の粘性率は、圧力増加に伴い減少し2.2℃では約0.15GPaで最小値を示し、その後増加していくという液体としては例外的な性質を持つことが知られている。この最小値は温度上昇につれて低圧側へずれ、30℃で消失し通常の液体と同じく粘性率は圧力に比例して大きくなっていく(Bett and Cappi, 1965; Horne and Johnson, 1966)。この現象の解釈として、室温では約0.15GPaまでは加圧による体積収縮過程で水分子間の水素結合が弱くなるか又は切断されるため粘性率が減少するが、その後は自由体積をつぶすことによって収縮が進行し粘性率が増加する、一方高温で単純増加するのは水素結合が既に減少しているためと考えられている。
     我々の得たラマンピークの圧力増加に伴うシフトは、高波数側へのシフトは水素結合力が弱まっていることを示し、低波数側へのシフトは強まっていることを示すと考えると、粘性率の圧力変化とほぼ調和的である。
  • 久保 敦, 米田 明, 伊藤 英司, 桂 智男
    セッションID: K2-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    In high-P/T in situ X-ray observation using Kawai-type apparatus, generated pressure is usually determined from the unit cell volume calculated from d-spacings of diffracted planes of pressure standard materials, such as cubic crystals of Au, Pt, NaCl and MgO.
     However, possible deviatoric stress exerting on the standard causes serious error to the calculated pressure. In order to determine the appropriate pressure, it is indispensable to evaluate stress state of the standard material. In hydrostatic condition, strains of d-spacings are uniform over diffraction lines. Therefore, it can be interpreted that difference among strains of d-spacings is caused by deviatoric stress. If elastic constants of standard material are known, we can calculate stress from strain using Hooke's law. In the conference, we would like to discuss a new simple (and fully numerical) method established by the present study to estimate magnitude of deviatoric stress in a Kawai-type apparatus.
  • 奥野 正幸, 田口 忠史, 草場 啓治
    セッションID: K2-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     斜長石は地殻を構成する主要鉱物のひとつである。その融液やガラスの高圧での構造についての情報は、地殻下部やマントル上部でのマグマなどのメルトの挙動をしる重要な手がかりになる。本研究では、斜長石組成ガラスを圧縮し、高密度化したガラスを回収し、ラマン分光法ならびにX線回折法によりその構造を調べた。
    実験
     斜長石{albite, Labradorite(Ab50An50), Anorthite}組成のガラスを得るように試薬(NaCO3, CaCO3, SiO2, Al2O3)を調合し、白金るつぼに封入電気炉中(1600~1700℃)で融解し、室温空気中に取り出し急冷して出発ガラス試料を得た。このガラス試料を、キュービック・アンビル型プレス機を用いて4.0GPa/500℃、7.7GPa/500℃及び7.7GPa/室温も条件で30分間圧縮した後、急冷後常圧にもどして回収した。
     回収したガラス試料の密度をジヨードメタン/アセトン混合液による重液法で測定した。ラマンスペクトルの測定は愛宕物産(株)(現堀場Jovin Yvon)においてDilor社製の顕微鏡ラマン分光計LABRAMを用いて行なった。X線回折測定は、約0.5mmの粒状試料を持い、4軸型単結晶回折装置によって測定した。結果と考察 測定した密度から、室温での圧縮ではほとんど密度の増加は見られなかった。他方、500℃での圧縮では密度増加(4.0GPaで7~9%、7.7GPaで15~17%)が認められた。室温における圧縮では密度・ラマンスペクトルにほとんど変化が見られないことから、室温では弾性変型が起ったと考えられる。他方、500℃での圧縮ではラマンスペクトルにも次のような変化が見られた。まず、480~530cm-1のバンドの波数は圧力増加に伴い増加している。これは、ネットワーク構造中のT-O-T角の減少に対応する。560~590cm-1のバンドは圧力の増加に伴い相対強度が増加しており、これは四面体の3員環構造の増加を示している。700cm-1バンドは6配位のAlに対応し、Alの増加と圧力の増加に伴いその強度が増加している。また、X線回折測定の結果から、その回折強度の第一ピーク(FSDP:First Sharp Diffraction Peak)の位置が圧力の増加に伴いQの大きい方にシフトしていることが明らかになった。そのシフトの量はAb組成に富む程大きい。この結果は、Ab組成に富む程、3員環のような中距離構造単位の増加率が高いことを示している。
     以上のような結果を総合すると、斜長石ガラスは500℃での圧縮では密度が増加するが、これらの密度増加は構造中のT-O-T角の減少と3員環構造の増加ならびに6配位のAlの増加に起因すると考えられる。Anガラスの密度増加が他のガラスにくらべ大きいことは、6配位のAlの増加が密度増加に大きく寄与していることを示していると考えられる。
  • 泉谷 健介, 奥野 正幸, 赤荻 正樹
    セッションID: K2-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
      高圧下におけるシリケートガラスの構造変化についての知見は、地下深部のマグマの挙動を理解するうえで重要である。またSiO4四面体のみから成るシリカガラスの圧縮実験は、高圧シリケートガラスの基礎研究となると考えられる。本研究では、高温(300℃、400℃)で15GPaまで圧縮を行い、その後常温・常圧下で回収したシリカガラス(最大密度2.829g/cm3)のナノスケールの構造を赤外分光法とX線回折法により調べ、その圧縮メカニズムを明らかにすることを試みた。
    実験
      試料はシリカガラス(ニラコ社製)を学習院大学の6-8面体型アンビル装置を用いて圧縮した。ガラス試料は5GPa/400℃、7.5GPa/400℃、10GPa/400℃、15GPa/300℃の条件下で1時間圧縮後、常温・常圧に急冷し回収した。また試料の密度はバーマンバランスを用いて測定した。赤外スペクトルはフーリエ変換赤外分光計Jasco FT/IR-610Vを使用してKBr錠剤法により測定、X線散乱強度は4軸型単結晶X線回折計RIGAKU AFC-7Sを用いてMoKα線で測定した。
    結果と考察
      密度は圧力増加に伴って増加し、15GPaで最大2.829g/cm3に達した。また、7.5GPaと10GPaの間で密度増加の傾きに変化がみられた。これは圧縮のメカニズムに何らかの変化が起きたことを示している。赤外吸収測定の結果、いずれの試料にもシリカガラスに特徴的な3つの吸収ピークが現れた。ν=470、800、1100cm-1付近の吸収ピークは、それぞれO-Si-O偏角振動、Si-O-Si偏角振動、Si-O非対称伸縮振動によるものである。圧力増加に伴って1100cm-1付近のバンドの低波数へのシフトが観測された。これはSi-O結合距離の増加を示している。このことから、相対的にSi-O-Si角が減少したと考えられる。また、800cm-1と470cm-1のバンドの強度が7.5から10GPaの間で減少した。特にこの減少はSiO4四面体内における振動に起因する470cm-1付近のバンドで顕著であり、配位数の変化やその前兆となるようなネットワークの変形等の可能性が考えられる。動径分布関数の解析より、圧力の増加に伴いSi-O距離はわずかに増加していることが分かった。またSi原子の酸素の配位数はいずれの試料においてもほぼ4であり、高密度シリカガラスにおいても基本構造はSiO4四面体であることが分かった。これは従来の研究で報告されている高配位Siが常温・常圧下にクエンチできなかったことを示している。またSi-Si距離、Si-O-Si結合角については特に注目できる変化はみられなかった。他方、X線散乱強度曲線の第一のピーク(FSDP)の強度は、10GPaまでは減少しそれ以上の圧力ではほぼ一定となる。また、FSDPの位置はほぼ圧力と密度に比例してSの大きい方にシフトすることが明らかになった。FSDPは主に、ガラス中のSiO4四面体のリング構造などの中距離構造に起因するもので、この強度の減少は架橋構造の減少、いいかえれば架橋酸素の増加を示唆するものと考えられる。これの結果は赤外吸収スペクトルの470及び800cm-1付近のバンド強度の減少と一致する。さらに、FSDPの位置のSの大きい方向へのシフトは、小さいリング構造などの増加を示している。これらの結果から、シリカガラスは圧縮により、非架橋酸素を持ったSiO4四面体のより小さいリング構造(3、4員環)が増加したと考えられる。
  • 小松 一生, 鍵 裕之, 栗林 貴弘, 工藤 康弘
    セッションID: K2-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    パキスタン産topazの単結晶について、常圧高温下、高圧常温下においてX線回折および赤外吸収スペクトルの測定を行った。MoKα(50kV, 40-80mA)のX線源を用いて、格子定数の精密化およびX線回折強度の測定を行い、得られた独立な反射を用いて結晶構造を精密化した。900oCまでの常圧高温下における構造解析の結果、R因子はいずれの温度においても3%以下となり、一方、6.2GPaまでの高圧常温下における構造解析の結果、R因子は6%以下となった。結晶構造の温度圧力に対する注目すべき変化は、Al-F-Al結合角の変化とそれに付随した水素結合を形成する可能性のある3つのOH...Y (Y=O またはF)距離の変化である。すなわち、圧力の上昇とともにAl-F-Al結合角は増加し、その結果としてOH...Y距離の圧縮率は他の結合距離の圧縮率に比して大きな値を持つ。結晶構造の温度に対する変化と圧力に対する変化とは定量的に見ても逆関係にあり、これはAl-F-Al結合角とOH...Y距離の関係についても成立する。常圧高温下における赤外吸収スペクトルの測定から、OH伸縮振動モードは30.4GPaまで直線的に高波数側にシフトし、その傾きは0.86(3) cm-1GPa-1であった。また、常圧常温下で観察された3650cm-1を中心とするOH伸縮振動モード以外に、圧力の上昇に伴った新たなピークの出現は見られなかった。このことは、常圧から30.4GPaまでの圧力領域において、水素結合は形成されていないということを示唆している。6.2GPaにおけるOH...Y距離は、OH...O1距離が3.024(7) Å、OH...O2距離が2.950(4) Å 、OH...F距離が3.112(10) Åであり、この値はNorthrup et al. (1994) によって解析されたtopaz-OHにおけるOH...Y距離(O...O1距離, O...O2距離, O...F距離がそれぞれ、3.054Å, 2.961Å, 3.100Å)と非常に近い値となる。Wunder et al. (1999)によるtopaz-OHの赤外吸収スペクトルの測定の結果、3457cm-1, 3526cm-1, 3602cm-1にOH伸縮振動モードが見られるため、topaz-OHは水素結合を形成していると考えられている。つまり、天然のFの多いtopazが高圧下において水素結合を形成しうるOH...Y距離を持つにも関わらず、赤外吸収スペクトルからは水素結合の形成を支持しないという結果となった。このことは、水素結合の形成にとって、OH...Y距離だけでなく、O-H...Y角など他の要素を考慮に入れる必要があるということを示す。
  • 奥部 真樹, 吉朝 朗, 八島 正知, 沼子 千弥, 小藤 吉郎
    セッションID: K2-07
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    3価のランタノイド元素をドープしたペロブスカイト型酸化物は、電荷を補償するため対応する数の酸素空孔を生成し、プロトン伝導性を示す。中でもSrZrO3は科学的安定性が高く、Ybを10%ドープしたSrZr0.9Yb0.1O3-δは最も高い伝導性を示し、昇温と降温でTGAは異なる温度依存性をもちヒステリシスを描く。またSrZrO3は4つの多形が知られているが、SrZr0.9Yb0.1O3-δの局所構造はまだ知られていない。本研究ではXAFSを用いてSrZr0.9Yb0.1O3-δの各元素周りの局所構造解析を行った。試料は1975Kで30時間保持して合成し、X線粉末回折法にて評価した。実験は放射光施設PF BL10Bを用いて、Sr K-, Zr K-, Yb L3-, Yb L2-, Yb L1-吸収端において300Kから1250KまでのXAFSスペクトルの測定を行った。結果、700Kから950Kの間に局所構造の変化が現れることが分かった。
     これはX線回折法によるUnit cell volumeの変化やTGAの結果と一致し、相転移よりむしろ酸素欠損の増減によるものだと考えられ、この有効価数の変化がSrやZrの局所構造変化に大きく影響しているものと考えられる。得られたXANESスペクトルからはSrとZrの局所構造は700Kから950Kの間に変化するが、Ybの局所構造はL3、L2、L1各吸収端で変化を見せなかったことや原子間距離の比較から、低温域では酸素空孔はYbの周りに局在していることが考えられる。
  • 植田 千秋, 田中 健太, 高島 遼一
    セッションID: K2-08
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    液体中に分散させたミクロンサイズの反磁性鉱物の磁場整列過程に関して、これを制御すると考えられる温度の効果を実験的に検証した。その結果は、整列過程に関する既存のランジュバン理論と整合するものである。特に分散媒および粒子の温度低下により、粒磁場整列が実用的な低磁場で実現することが検証された。これは粒子結晶の磁気的安定軸の方向をランダム化させる熱運動が、温度低下と共に減少するためである。さらに結晶中に不純物として常磁性イオンが含まれる場合、これに起因する磁気異方性がキュリー則に従うため、低温での整列磁場の低下が期待される。これらの効果を、高純度のグラファイト、および常磁性不純物を含んだカオリナイト、タルク微細結晶の磁場整列過程を観測することにより検証した。以上の結果から、非磁性材料の合成過程において、常磁性イオンをドープさせることにより、その実効的な磁場整列能率を向上させることが期待される。
     一方で近年、コランダム、フォルステライト、白ウンモ、生セッコウ、正長石、ADP,KDP、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ジアスポアなど多数の基本的な無機酸化物の反磁性異方性が検出された。それらの測定値は結晶を構成する個々の結合軌道が、一定の反磁性異方性を有すると仮定することで矛盾無く説明される。上記のモデルの一般性が確立した場合、対称性の高い一部の結晶系を除く大多数の非磁性酸化物は、有限の磁場強度で磁場整列する特性を有することになる。さらにこれらの物質の整列磁場は、上記グラファイトの結果と同様、温度の減少と共に低下することが期待される。
     なお100K以下の低温において鉱物粒子を流体中に分散させるには、分散媒として不活性ガスを、用いる必要がある。これを実現するための装置開発の現状について報告する。
  • 遊佐 斉
    セッションID: K2-09
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    カーボンナノチューブに代表される、いわゆるナノチューブ構造は大きく単層型と多層型に分類される。多層型ナノチューブは各単層チューブのカイラリティの多様性を別にすれば、グラファイトを円筒状にしたモルフォロジーといえる。層間の距離もほぼグラファイトと同一であり、そのため、層間の相互作用もグラファイトとの類似性が予想される。高圧下での層間相互作用を考えた場合、グラファイトは室温、15GPa程度でマルテンサイト型変換により六方晶ダイヤモンドに相転移することが知られている。本講演では、ダイヤモンドアンビルセルを用いて、多層型カーボンナノチューブを50GPaまで圧縮し、その変化を放射光X線によりその場観察した結果について報告する。
     出発試料はシグマ-アルドリッチ社製多層型カーボンナノチューブ(P/N 413003)で、事前の分析電子顕微鏡観察により殻の数が5~20層程度で内部に5~10 nmの中空を持つチューブであることを確認している。この試料をメタノール-エタノール-水混合圧力媒体とともにダイヤモンドアンビルセルに封入し、SPring-8(BL-10XU)にてイメージングプレートを検出器として角度分散X線回折実験をおこなった。
     7.4GPaまでの静水圧領域においては、dhkl ~ 2.3 Å に弱い回折線が付加される以外に、回折パターンに顕著な変化は見られなかった。比較のため、グラファイトの回折パターンを同一条件で収集したが、同等の指数付けが可能であり、層間の圧縮率も大差は認められなかった。しかしながら、13GPa以上の圧力においては、(002)の回折線強度が減少し、52GPaにおいて、ほとんど消滅し、(100)との相対的な回折強度の逆転が観察された。しかし、圧縮中の顕微鏡観察においてもグラファイト-六方晶ダイヤモンドに見られるような、光学的変化は全く観察されなかった。これは、層間の炭素原子が2Hの規則性を持つグラファイトと比べ、ナノチューブは上下の層間で規則正しく配置しえないためといえる。その後、減圧過程においては(002)は再生することから、チューブ構造は非静水圧的な圧縮に対しても容易に崩壊することのない、耐圧縮性の大きな構造であると考えられる。回収した試料の透過電子顕微鏡観察も、層間の構造に大きな乱れのないことを示し、多くのチューブ端も閉じたまま保持されていることから、ナノチューブの構造の堅牢さを証明しているといえる。
  • 吉朝 朗, 奥部 真樹, 八島 正知, ALI Roushown
    セッションID: K2-10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    A席に陽イオン欠損をもつLa2/3TiO3化合物の仲間は高いイオン導電性と誘電常数を持つ。イオン伝導性のような物性は局所構造に大きく依存し、詳細な構造と物性の研究は重要である。La0.63Ti0.92Nb0.08O3ではCmmm-P4/mmmの相転移が623(2)K起こる。陽イオン欠陥は両相で格子席に規則配列している。構造中に2種類あるLa席(La1,La2)のうちLa2席に陽イオン欠損が集中している。回折法でもとめた平均のLa1-OとLa2-O距離はそれぞれ2.691と2.802 Aであり、欠損のあるLa2席が有意におおきい距離をもつ。通常のATiO3(A=Ca,Sr,Ba)ペロブスカイトに比べLa3+やNb5+はイオンの価数が大きく、局所構造や物性に与える効果を知ることも興味深い。
     EXAFS Debye-Waller因子の温度依存から近接イオンとの間の原子間の結合力を決定することができる。今回Ti K-、Nb K- 及び La L3-端近傍のXAFS測定をKEK PFにて行った。有効二体間ポテンシャル、V(u)=αu2/2+βu3/3!、をEXAFS Debye-Waller因子の温度依存から決定した。La0.63Ti0.92Nb0.08O3中のTi-O結合では、ポテンシャル係数α、βは、それぞれ6.6(1) eV/A2、-42(3) ev/A3であった。これらの値は、CaTiO3やSrTiO3のTi-O結合のものにくらべ、より非調和性が大きく、柔らかいことを示している。
     EXAFS法より得られた局所距離は、Ti-O=1.95 A、 Nb-O=1.98 A、 La-O=2.65 Aであった。これらの距離はShannon半径から期待される、1.985、2.02、2.74、に比べ有意に短い。これは、La0.63Ti0.92Nb0.08O3が陽イオン欠損を持つことによっている。ペロブスカイト型関連の化合物は多彩な局所構造と物性をもつが、下部マントルの主要構成鉱物と考えられているMgSiO3固溶体の詳細はまだ明らかにされていない。固溶種や熱力学的諸条件変化による、多彩な局所構造と物性の高温高圧下での研究は将来の重要テーマである。
  • 久保 友明, 下宿 彰, 大谷 栄治, 圦本 尚義
    セッションID: K2-11
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    オリビンの高圧相であるwadsleyiteは,地球内部のマントル遷移層における主要構成鉱物であり,wadsleyite中の原子の拡散速度を測定することは,マントル遷移層のレオロジーやダイナミクス,電気伝導度を議論するうえで重要である。本研究では15-18.5GPa, 1473-1973Kにおいてwadsleyite中のMg-Feの相互拡散実験を無水と含水条件下で、またSiの自己拡散実験を無水条件下で行った。それらの結果からマントル遷移層の含水量と電気伝導度,およびマントル遷移層のレオロジーに関して考察を行う。
     高圧実験は東北大学理学部設置の3000 ton 川井型高圧発生装置(MAP-3000)を用いて行った。Mg-Fe相互拡散実験では、Mg#90とMg#100のwadsleyite多結晶体を接合し、酸素分圧はNi-NiOバッファーで制御しながら実験を行った。FTIR測定により、無水条件下では0.01 wt.%以下、含水条件下では0.02-0.23 wt. %のH2Oがwadsleyite多結晶体中に含まれていることがわかった。拡散実験後, EPMAを用いて拡散プロファイルを測定し拡散係数を算出した。wadsleyite中のMg-Fe相互拡散には組成依存性があり,Boltzmann-Matanoの解析法を用いて拡散係数を求めた結果,Fe 成分が多いほど拡散速度は速くなることがわかった。無水条件下ではMg-Fe相互拡散の活性化エネルギーは156kJ/molと求められた。16 GPa, 1200 °C における wadsleyite中のMg-Fe 相互拡散係数は,無水条件下で1.85×10-14 m2/s, 含水条件下で5.53×10-13 m2/s と求められた. wadsleyite中のMg-Fe 相互拡散係数は,0.02-0.23 wt. %のH2Oの存在下で約3倍速くなる。また含水量が多いwadsleyiteについては,粒界拡散の寄与も認められた。Schultz et al. (1993) による地球内部の電気伝導度観測とMg-Fe相互拡散係数から計算した電気伝導度を比較した場合,マントル遷移層には約0.2 wt. %程度のH2Oが存在する可能性がある。
     Si自己拡散実験では、出発物質としてwadsleyite多結晶体表面に拡散源となる29Siに富んだSiO2を蒸着したものを用いた。拡散実験後,東京工業大学設置の二次イオン質量分析計(SIMS)によるDepth profile法を用いて29Siの拡散プロファイルを作成し,拡散係数を算出した。拡散プロファイルは粒内拡散と粒界拡散が寄与している二つの領域からなる。粒内拡散が寄与している領域について薄膜状拡散源に対する解法をもちいて粒内拡散係数(Dv)を求め、粒界拡散が寄与している領域についてはLe Claire(1963)による解法を用いて粒界拡散係数(_Dgb)を求めた。Si自己拡散の活性化エネルギーは、粒内拡散の場合273kJ/mol、粒界拡散の場合254kJ/mol と推定された。Wadsleyite中のSiの拡散速度は,Mg-Feの相互拡散速度と比較して約6桁遅い。また,Dohmen et al. (2002) によるオリビン中のSiの拡散速度よりも1桁程度高くYamazaki et al. (2000) によるペロブスカイト中のSiの拡散速度と同程度であった。得られた拡散係数を用いてwadsleyiteが拡散クリープによって変形した際の粘性率を計算した。また,転位クリープによって変形した際の粘性率をKarato et al. (2001) によるクリープパラメーターを用いて計算した。それらの結果と地球物理学的観測による粘性値を比較して,マントル遷移層では拡散クリープおよび転位クリープの両方の変形メカニズムが卓越する可能性がある。また沈み込むスラブの低温条件では拡散クリープが卓越していることが予想され,この場合は相転移に伴う結晶粒径の細粒化によってプレートが軟化する可能性がある。
  • 川野 潤, 三宅 亮, 下林 典正, 北村 雅夫
    セッションID: K2-12
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    炭酸カルシウムCaCO3はさまざまな多形をもつ。そのうち天然で主に産するのは常温常圧で安定なcalciteや高圧で安定なaragoniteであるが、calciteはaragoniteの安定領域中でCaCO3-IIと呼ばれる多形に準安定的に相転移することが知られている。CaCO3-IIは、calcite構造からCO3およびCaイオンをわずかに変位させただけの単斜構造をもつ。そのため、calcite - CaCO3-IIの相転移は、準安定相をも含めた炭酸カルシウム多形の生成メカニズムを考える上でも重要となる可能性があるが、相境界の傾きや相転移メカニズムに関して統一的な解釈が得られていない。そこで本研究においては、calcite - CaCO3-IIの相転移メカニズムを明らかにすることを目的し、分子動力学(MD)法による計算機シミュレーションを行った。MD法は時間的な原子の動きを直接追跡できる点で有効であるにもかかわらず、現在までのところこの相転移に計算機シミュレーションが適用された例はない。 本研究においてはより精密なシミュレーションを行うために、まずMD計算に用いる原子間相互作用パラメーターを第一原理計算に基づいて導出した後、得られたパラメーターを用いて、calciteを初期構造とし、300 K において圧力を変化させてMD計算を行った。その結果、calciteのBulk Modulusが非常に精度よく再現できた。すなわち本研究で新たに導出した原子間相互作用パラメーターは高圧条件におけるシミュレーションに適しているといえる。
     この原子間相互作用パラメーターを用い、300 K から800 K の各温度に対して1 atmから9 GPaの圧力においてMD計算を行った結果、約 8 GPa付近でcalcite - CaCO3-II間の相転移が再現できた。300 K においては、この転移は明確な体積の圧縮をともなう1次の相転移であり、このとき両相の相境界 は負の傾きをもつ。温度が上昇するに従ってその傾きはなだらかになり、700 K 付近でほぼ0から正の傾きに転じる結果となった。この相転移は三方晶系から単斜晶系への対称性の低下を伴うため、calciteの等価な3つの結晶学的方位のうち1方向が非等価になる。相転移圧の直下の圧力においては、非等価になる方位の時間的な入れ替わりがみられ、この傾向は温度が高くなるほど顕著になる。相境界の傾きが温度によって変化するのは、このような方位の入れ替わりが原因となっている可能性がある。
  • 西 文人
    セッションID: K3-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    Wollastonite型結晶構造をもつCaGeO3および(Ca0.85Sr0.15)GeO3の結晶合成を行い、引き続きそれらの構造解析に成功したので報告したい。
    [はじめに]
     CaGeO3については、Wollastonite(CaSiO3)のSiをGeで置換したものであるが、珪酸塩 Wollastoniteについては以前より多くの研究が行われている。たとえば伊藤(1950)により単斜晶系のセルが、一種の双晶をして三斜晶系の単位格子を形成しているという仮説などである。その後、構造解析が行われ(Mamedov and Belov (1956); Buerger and Prewitt (1961); Peacor and Prewitt (1963))、その詳細な構造が解明されている。

    [格子定数および測定条件]
     CaGeO3の格子定数は、a=8.125(2)Å, b=7.554(1)Å, c=7.292(2)Å, α=90.11(3) deg. ,β=94.40(3)deg. ,γ=103.48(1)deg.である。2θ<65deg. までのX線回折強度を測定し、最小自乗法に使用した反射数は2586であり、最終的に R 値として 4.8%を得た。

    [Ca-OおよびGe-O結合距離について]
     まず、ブリッジしている酸素原子3種類 (O(7), O(8), O(9)) のGe-O距離は、ブリッジしていない他の酸素原子のGe-O距離よりも長いが、興味深いことはこの3種類のなかでGe-O(9)の長さが他の2つに比べて短いことが観察される。ちなみに Ge-O(7) 1.782Å、 Ge-O(8)1.785Å、Ge-O(9)1.748Åである。この原因は、それぞれの酸素のCa-O結合距離を計算することで推察できる。つまり、Ca-O(7)2.393Å, Ca-O(8)2.390Å, Ca-O(9)2.649Åであり、結合の強さ(ボンドバレンス)を考慮すると、O(9)がCaからの距離が遠いために少量のボンドバレンスしか得られないので、Geにより接近して十分なボンドバレンスを獲得しているという事である。同様にブリッジしていない酸素原子のO(5)とO(6)についても、それらのGe-O結合距離が他のブリッジしていない酸素原子のGe-Oに比べて非常に短いことが観察される。ちなみに Ge-O(5)1.699Å、Ge-O(6)1.706Åであり、Ge-O(1)からGe-O(4)までの結合距離はすべて1.723Å以上である。この原因もやはり、それぞれの酸素のCa原子への配位状態を観察することで推察できる。つまり、O(5)とO(6)は2つのCa原子にしか配位していないが、他のO(1)からO(4)までの原子は、それぞれ3つのCa原子に配位している。つまりO(5)とO(6)は、Caからは十分なボンドバレンスを得られないので、Geにより接近して少しでも多くのボンドバレンスを獲得しようとしているという事である。

    [Srによる置換]
     Ca原子のうちの15%をSr原子で置換したゲルマニウム-Wollastoniteの構造解析の結果から、Sr原子は独立な3つのCaサイトすべてに、多少の量の差はあるにしろ統計的に分布していることが判明した。
    参考文献
     Ito,T.(1950) X-ray Studies on Polymorphism. Maruzen, Tokyo.
     Mamedov,Kh.S. and Belov,N.V.(1956) Dokl.Akad.Nauk SSSR, 107, 463-466.
     Buerger,M.J. and Prewitt,C.T. (1961) Proc.Nat.Acad.Sci.47,1884-1888.
     Peacor,D.R. and Prewitt,C.T.(1963) Am.Mineral.48, 588-596.
  • 小暮 敏博, 鈴木 正哉, 三留 正則, 板東 義雄
    セッションID: K3-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    天然におけるナノチューブであるイモゴライト(imogolite)はCradwickら(1972)の提唱した構造(管状になったギブサイトシートの内側に,独立したSiO3(OH)四面体がシートの空サイトのところに配置したもの)が一般に支持されている。しかしながらはたしてイモゴライトと呼ばれる物質のすべてがこの構造をもつのか,あるいは何らかのバリエーションが存在するのかといった問題は未だ明らかではない。そこで我々は天然及び合成のイモゴライトについて主に透過電子顕微鏡(TEM)を用いてその構造を調べ,その違いを明らかにした。
     天然の試料は鳥取県倉吉市の風化軽石層から採取されたイモゴライト(愛媛大学逸見彰男先生提供),また合成試料は鈴木ら(2000)によって作製されたものを観察した。水に分散したイモゴライトをマイクログリッドに滴下してTEM観察用試料とし,TEMはJEM-2010 (200 kV)あるいはエネルギーフィルターを装着したJEM-3100FEF(300 kV)を用いた。電子回折像は主にイメージングプレート(IP)に,またTEM像は主にGatan社製のマルチスキャンカメラ(MSC)に記録した。
     イモゴライトはチューブの軸(c軸)方向にのみ約0.84 nmの周期性を持ついわゆる1次元結晶と考えられ,これをもとにまず一軸配向した場合の電子回折パターンを計算した。これよりチューブ径(Cradwickら(1972)に従い半周におけるAl八面体の数(N)で表現する)は,l = 2 の逆格子面上に現れるピーク位置から推定できることわかった。これと天然のイモゴライトの回折パターンを比較した結果,N = 10-11のチューブ径が観察されたパターンを最もよく説明した。さらにマルチスライス法によって計算されるシングルチューブのコントラスト(軸方向に平均化したもの)は,広い範囲のアンダーフォーカスの条件でシリコン位置より若干大きい半径にその極大が現れることがわかった。これよりTEM像に写ったチューブ径はN = 11程度に見積もられた。
     一方合成イモゴライトから得られる電子回折パターンはl = 2 の逆格子面上に明瞭なピークを持たず,これは従来の構造モデルでは説明することができない。またそのTEM像ではチューブのコントラストが約2.3 nmと天然のもの(約1.4 nm)に比べかなり大きく,そのチューブ径はN = 20かそれ以上と見積もられた。このことより合成されたイモゴライトは天然のものと比べその径がかなり大きく,またその構造も異なっていることが示唆された。
     尚本研究の一部は文部科学省「ナノテク支援プロジェクト」による支援と日本板硝子材料工学助成会の援助のもとに行われた。
    文献
     Cradwick et al.(1972) Nature Phys. Sci., 240, 187-189.
     鈴木正哉,大橋文彦,犬飼恵一,前田雅喜,渡村信治 (2000) 粘土科学,40,1-14.
  • 興野 純, 木股 三善, 斉藤 庸一郎
    セッションID: K3-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    [はじめに]
     メライト(Al2[C6(COO)6]16H2O)は、ベンゼンヘキサカルボン酸(C6(COOH)6)の誘導体として亜炭、褐炭中に産出する有機鉱物である(Gaines et al. 1997)。また、ベンゼンヘキサカルボン酸は、多様な陽イオン(e.g. K+、Ca2+、Cu2+、Y3+)を取り込み、多種類のモデル構造を形成する(e.g. Endres & Knieszner 1984)。その幅広い柔軟な構造特性は、ベンゼンヘキサカルボン酸分子と水分子の、水素結合を主体とする3次元ネットワークに由来している(Harnisch et al. 1999)。従って、共有・イオン結合が支配的な無機鉱物に比べて、水素結合が支配的なメライトは、無機鉱物にはない特異な物性を示す可能性が期待できる。本研究では、メライトの温度依存性について調べるため、合成メライトを用い、室温と低温間で単結晶構造解析を行った。
     [実験]
     合成は、出発物質に硝酸アルミニウム九水和物とベンゼンヘキサカルボン酸を使用した。それらを化学量論比で調合し、水溶液中に溶解して、7日間室温で反応させた。実験手順は、はじめに室温(298K)で合成メライトの回折強度を測定し、その後、液体窒素に4日間浸した。その後取り出して、128Kに保たれたゴニオメーター上に速やかにセットし、その状態で1時間保持した後、測定した。さらに、低温測定後、単結晶を24時間室温で放置し、再度測定を行った。
     [結果]
     低温測定前(298K)の単位格子は、a= 15.5412(4)Å、 b= 15.5543(6)Å、 c= 23.1691(8)Å、 V= 5600.7(3)Å3、低温時(128K)は、a= 15.5983(8)Å、 b= 15.6333(6)Å、 c= 23.145(1)Å、 V= 5643.9(4)Å3、低温測定後(298K)は、a= 15.5444(9)Å、 b= 15.5617(9)Å、 c= 23.186(1)Å、 V= 5608.5(5)Å3となり、低温時、a、b軸は膨張し、c軸は収縮して、体積は膨張していた。さらに低温時は、ほぼ全ての結合距離が、等方的に増加していた。一方、水素結合距離は一定であった。また、c軸の収縮は、c軸に平行なC-O-H結合角が変化したためであった。
     [考察と結論]
     メライトの低温結晶構造(15K)は、Roble & Kuhs (1991)が既に報告しており、室温の構造(Giacovazzo & Scordari 1973)と比較して、体積膨張は認められないものの、等方的な結合距離増加は、それからも確認することができる。また、有機化合物中でも低温時の結合距離増加は観察されている(Wilson 2000、 Abashev et al. 2001)。Wilson (2000)は、これは熱振動効果と周囲の配位環境に関連しているとしており、本研究でも、Al、C、O原子は、熱振動が著しく減少している。また、一般に電荷の大きいAl、C、Oイオンは、分極が大きく共有結合的な結合を形成するとされる(ファヤンス則)。従って、低温状態では、原子の熱振動が減少し、それによって結合原子間の共有結合性が減少する可能性が考えられる。それに対し、水素結合は電子雲の分極とは無関係な静電気的な結合ある。そのため、水素結合が支配的なメライトでは、低温状態下では、水素結合力の方が共有結合性の低下したイオン結合力よりも相対的に優勢(水素結合>イオン結合)になり、その結果、イオン結合部分の結合距離が等方的に膨張し、体積膨張を引き起こしていると考えられる。
  • 木原 國昭
    セッションID: K3-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    石英は多くの面にわたって数多くの研究機会を提供して来た鉱物である.特にα-β転移に不整合相(inc)が介在することが発見されて,1970-1990年代初めにかけて活発な研究が行なわれた.中でも中性子非弾性散乱による低振動数フォノン分散曲線の観測はα-inc-β転移の微視的描像を得る上で重要であった(Berge et al, 1986; Dolino, 1990; Dolino et al, 1992等).しかしこれらの文献を詳細に検討すると,分散曲線のアサインメントに首尾一貫していない点があることがわかる.本研究では,温度・圧力(常圧)一定の古典MDで得た原子の軌跡データを利用して,各原子の分極ベクトルをBrillouin zone(BZ)の主要な3方向即ちγ-M,γ-K,γ-Aのそれぞれにおいて,低振動数4分枝(音響分枝3+光学分枝1)について決定した.我々の1000Kにおけるβ石英の分散曲線は,振動数に関する限り,これまでの報告と良い一致を見せている.しかし分極ベクトルの連続性を調べて行くとDolino et alでは示されない別の可能性を強く示唆するものとなった.我々のMDでは,良く知られているinc相の起源であるγ-M方向の最低振動数横波音響分枝((001)面内分極のTA)と光学SMのq<<0.1a*における”anti-crossing”については結晶サイズの点から観測不能であるが,それとは別の固有ベクトルの交換が同じ方向で光学分枝と第2低振動数横波音響分枝([001]分極のTA)の間でq=0.2-0.3a*の範囲で起こっているという事を示したのである.
     MDによる本研究はソフトモードを含めて低振動数横波音響モードの解釈に再考の余地がある事を示していると思われる.
  • 永嶌 真理子, 赤坂 正秀
    セッションID: K3-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    紅簾石の6配位席におけるMn3+の分布と結晶構造変化を検討するため、Ca2Al3-pMn3+pSi3O12(OH)-紅簾石 (p = 0.5, 0.75, 1.0, 1.1, 1.5, 1.75)の熱水合成を行い、粉末X線リートヴェルト法により結晶構造解析を行った.合成条件は200ー350 MPa,500-550 ℃で,MnO2-Mn2O3バッファで酸素分圧を制御した.
     p=0.5から1.1の出発物質からはほぼ紅簾石1相が晶出したが,p=1.5および1.75の出発物質からの生成物は紅簾石と少量のビクスビ鉱,珪灰石である.EPMA分析結果によると,本研究で合成された紅簾石中のMn3+の最大含有量は1.3±0.1 a.p.f.u.であった.
     リートヴェルト解析によって得られた紅簾石の6配位席中における席選択性の優位順はM3>M1>>M2で,これは天然の紅簾石による結果と一致している.M3,M1席における席占有率(g)とp値の関係は,それぞれgM3 = - 0.24p2 + 0.98pおよびgM1 = 0.06p3 + 0.15p2 - 0.02pである.Mn3+はM3席を完全に満たさなくても,M1席のAlを置換し,p >1.0の紅簾石ではM1席中のMn3+が急激に増加し,0.34 a.p.f.u.に達する.また,M2席にも占有率にして約10%以下のMn3+が認められた. 本研究で得られた紅簾石中のM1,M3サイトにおけるMn3+の分配係数KD [= (Mn3+/Al) in M1 / (Mn3+/ Al) in M3]は,0.024-0.120である.これはCz-Ps系緑簾石におけるFe3+のKD (0.01-0.025)よりも大きく,Jahn-Teller効果では説明できない.Mn3+とFe3+の両方が6配位席中に存在するCz-Ps-Pm系の場合,Mn3+のKDはFe3+よりも小さい可能性がある.a-, c-軸と格子体積Vは特にM1,M3サイト中のMn3+占有率の影響を受ける.a-軸はp = 1付近まで減少し,p>1で増加する傾向を示す.c-軸は,0 < p < 0.75ではほとんど変化せず,p>0.75で増加傾向を示す.a-,c-軸pとの関係はそれぞれa (Å) = 0.037p2 - 0.062p + 8.879,c (Å) = 0.021p3 - 0.008p2 - 0.022p + 10.155と表される.またb- 軸は,p値の増加とともに増加し,b (Å) = 0.005p2 + 0.085p + 5.585と表される.Vは,0<p<0.75で緩やかに増加し,p>0.75 で急激に増加し,V (Å3) = 3.707p2 + 3.297p + 454.00と表される.紅簾石中のMn3+含有量の増加に伴い,平均M3-O,M1-O原子間距離が増加するが,M1-O1原子間距離と∠O5-Si3-O6結合角の変化は直線的ではない.p値の増加に伴うa-,c-軸の非直線的な変化はそれぞれM1-O1 (M1-O1(Å) = 0.115p2 - 0.081p + 1.930)と∠O5-Si3-O6 (∠ O5-Si3-O6 (°) = 111.322p2 - 10.165p + 100.200),の変化によるものである.Alに対するMn3+の置換に伴うM3サイトの歪みは,M3-O1, M3-O2の変化によって,M1サイトのひずみはM1-O1の変化によって引き起こされる.
  • 田原 岳史, 保倉 明子, 中井 泉, 宮脇 律郎, 松原 聰
    セッションID: K3-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    【序】
     木村石-(Y) [kimuraite-(Y)], CaY2(CO3)4・6H2Oとロッカ石-(Y) [lokkaite-(Y)], CaY4(CO3)7・9H2Oは希土類元素とカルシウムの含水炭酸塩鉱物である。これらの鉱物はいずれも斜方晶系に属し、その格子定数からテンゲル石-(Y) [tengerite-(Y)], Y2(CO3)3・2~3H2Oと結晶構造に関連があると考えられている。木村石-(Y) [a = 9.2545(8), b = 23.976(4), c = 6.0433(7) Å]のcおよび,a軸、ロッカ石-(Y) [a = 39.35(2), b = 6.104(4), c = 9.26(1) Å]のbおよびc軸は、それぞれとテンゲル石-(Y) [a = 6.078, b = 9.157, c = 15.114 Å)のaおよびb軸にほぼ等しく、さらに木村石-(Y)のb軸、ロッカ石-(Y)のa軸、テンゲル石-(Y)のc軸の比率が概ね3:5:2とそれぞれの化学式の陽イオン数[CaY2, CaY4, Y2]に合致することから、テンゲル石を構成する希土類元素と炭酸イオンの波板状の層構造の間にCaと水分子の層があると予想されている。しかしこれまで両鉱物とも良質な単結晶が得られず、合成例もないことから結晶構造は未だ明らかになっていない。近年、木村石-(Y)の原産地周辺地域で弘三石-(Nd) [kozoite-(Nd)], NdCO3OHが発見され、新たに木村石-(Y)やロッカ石-(Y)の標本も採集された。一方、CCD二次元検出器のX線単結晶回折計への搭載により、解析用単結晶試料に求められる条件がかなり緩和されるに至っている。そこで本研究では、CCD回折計を用い、新たに採集した試料について強度データを収集し、単結晶構造解析を試みた。
    【実験】
     光学顕微鏡下で選んだ単結晶をBRUKER社製単結晶構造解析装置Smart APEXにマウントし回折データを収集した。強度データはSADABSにより吸収補正を施し、Shelx-97により構造解析を行った。
    【結果と考察】
     木村石-(Y)の解析では希土類元素を全てYで固定し、その結果R因子が5.79%まで収束した。今回空間群をIba2に決定することができ、格子定数はa = 24.015(2), b = 6.0425(6), c = 9.2596(9) Åであった。結晶構造は、b軸方向にテンゲル石-(Y)と同様な波板型の層状構造と、Caと水分子から成る層が交互に積層する構造をとっており、既報の推定モデルと一致した。層の両側がCa層に接しており、波板状層構造はテンゲル石-(Y)のものと同様の対称性を保っている。ロッカ石-(Y)については既報の分析値を参考に、ランタニドをGdで代表させ、Y:Gd=1:1で固定して構造解析を行った。その結果R因子が8.47%まで収束した。空間群はAmm2ではなくAbm2であると判明した、格子定数はa = 6.1044(8), b = 39.176(5), c = 9.2193(12) Åであった。結晶構造は、テンゲル石型波板層が二層に対してCa層が一層入る構造をとっており、こちらも推定モデルと一致した。ロッカ石-(Y)の希土類元素と炭酸イオンの波板状層ではCa層に接する部分がゆがみ、層内の対称性が低下している。両鉱物とも解析結果にはCaサイトに乱れがあり、水分子の数を含め今後さらに解析を進める予定である。また両鉱物ともYを多く含んでおりMoKα線に対しの異常分散の影響が著しく大きいため解析精度に悪影響が出る懸念があるため、CuKα線を使った2次元検出器での測定を現在検討中である。
  • 三浦 裕行
    セッションID: K3-07
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    Paar et al.,(2002)はアルゼンチンのTuminico鉱山からCu2HgSe2組成の新鉱物を発見し、Brodtkorbiteと命名しIMAから承認された。彼らは粉末X線回折実験とプリセッション写真をとり粉末データと空間群を明らかにしたが結晶構造は不明のままであった。この粉末X線回折データに最近開発したモンテカルロ法とR因子法による結晶構造解析プログラム、(Structure Model-Assembly Program:SMAP)を用いたたところ結晶構造を解くことができた。
     Paar et al. により与えられたデータは組成式Cu2HgSe2、Z数=2、格子定数a=7.492, b=4.177, c=7.239Å,β=114.2°、空間群P21/n、および粉末X線回折データである。与えられた格子は結晶軸がcell choice 2 で設定されているので、構造解析に当たってはcell choice 1 に変換し空間群をP21/cとした。格子定数はa=7.239, b=4.177, c=8.004Å,β=121.4°となった。単位格子内にCu原子とSe原子はそれぞれ4個含まれるので両原子は一般等価位置の4eに置くことにした。Hg原子は単位格子内に2個含まれるので多重度2の位置に置くことが可能である。多重度2のwyckoff位置は2a、2b、2c、2dの4種あるが、どれに置いても原点がずれるだけで同価なので2aに置くこととした。Cu、Hg、Seのイオン半径をそれぞれ0.70、1.10、1.88Åとし、原子間距離がイオン半径の和の90%より小さい場合はそのモデルを棄却するようにした。予備的な計算を行ったところb軸で180度回転した関係にある2組のモデルが得られたので、片方だけ計算するようにCu原子を置ける範囲を非対称単位のさらに半分に制限した。乱数でモデルを生成し、このうちR因子の良い上位300個のモデルを常に残し、悪いものは棄却した。温度因子は等方性温度因子とし、各原子1で固定した。以上の条件でプログラムSMAPを走らせたところ約20分で上位300個のモデルは1つに収束し正しい構造モデルを見つけだした。Cu原子は4つのSe原子に配位される。CuSe4四面体は隣の3個のCuSe4と稜を共有して結合し層状構造をつくる。この層間にHg原子が存在し両側の層中のそれぞれ3個のSe原子と結合しHgSe6八面体を形成する。このHgSe6八面体によりCuSe4四面体層が結合され3次元構造をつくっている。HgSe6八面体同士は稜を共有して層状構造を形成しているので、CuSe4四面体層とHgSe6八面体層とが交互に積み重なっていると考えることもできる。
  • Abduriyim Ahmadjan, 志田 淳子, 北脇 裕士
    セッションID: K3-08
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    高彩度を呈すオレンジ色、ピンク色そして黄色のサファイアが二年前から国内の市場において広く見られるようになった。これらは従来の天然サファイアに比較すると一見鮮やかで均一な色調を呈するが、結晶外縁部にはオレンジ色の層が分布し、中心部はほとんどピンク色を示す。また、同じようにカット形状に沿って外縁部に黄色あるいはオレンジ色が分布する、バイオレッド、グリーン、ブルーなどのサファイア、そしてルビーも出現している。このような特異な色分布から、当初これらのコランダムは“表面拡散”処理が疑われたが、その後の調査分析の結果から、外部添加物であるクリソベリルを構成する主元素のBe(ベリリウム)を拡散させる、それまで知られていなかった全く新しい処理技法であることが判明した。ただし、その着色のメカニズムについては今までいくつかの説が発表されているが、必ずしもすべてが解明されていない。また、このような拡散因子である軽元素Beの検出は一般的な分析手法では不可能であり、SIMSなどのより高度な分析装置を用いることが必要で、その看破の難しさが問題となっている。
     本研究では、レーザー・アブレーション・システムを用いた誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)を使用してベリリウム(Be)を含めた不純物元素の測定を行い、新技法コランダムの看破の可能性とその着色メカニズムを追求した。
     各手法による合成コランダムと天然各色コランダムを用いて、クリソベリル粉と混合した後に、1800℃の高温電気炉で分別に22時間と10時間の加熱実験を行った。その結果、未加熱および従来の加熱法と新技法のコランダムの間にはベリリウム濃度に明らかな差異が認められ、この分析手法の有効性が確認できた。しかし、同条件で加熱されたコランダムの内、色に変化したものと変化しないものがあり、軽元素であるBeは遷移金属元素のような直接着色因子ではない事を判明した。 結晶内部の不完全性によりBeが結晶内部に分布する空孔または点欠陥と結びつくことによってカラー・センターを形成し、着色を引き起こす可能性とBeと結晶内に含有する他の不純物との相互作用を検討した。
  • 工藤 康弘, 栗林 貴弘, 溝端 裕樹, 大谷 栄治, 佐々木 聡, 田中 雅彦
    セッションID: K3-09
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    用いた試料はマルチアンビル高圧装置を用いてOhtani and Mizobata (1998)により1680度C, 22 GPaの温度圧力条件で合成された含水リングウダイト単結晶である.E.P.M.A.による分析の結果は:42.83wt% SiO2, 56.42 wt% MgO, で total wt% は99.25 (H2O を除く), Mg/Si比 は1.97である. H2O 含有量は SIMSによる測定の結果0.2(0.004) wt %である. 化学式は Mg1.97SiH0.03O4となる. 35x35x24ミクロンの大きさの単結晶を用いて,高エネルギー加速器研究機構,放射光実験施設,BL-10Aの放射光とダイヤモンドアンビル高圧装置を用いてX線回折強度を3.2, 5.0, 6.2 7.9 GPaの各圧力下で測定した.用いたX線の波長の較正はルビー標準単結晶の格子定数を測定することにより行った.圧力媒体はメタノール:エタノールの4:1混液,ガスケットはSUS301ステンレススチールを用いた.結晶構造パラメーターの精密化には計算プログラムSHELEX-93を用いた.7.9 GPaのデーターでは,測定した1077個の反射のうち,独立なものは125個,このうち標準偏差の3倍以上の強度の有意反射 55個に対してR=4.8%を得た.7.9 GPaでは平均T-O距離は常圧の値に比べ0.25%の減少であるが,平均M-O距離は1.8%減少している.単位胞の結晶軸の圧縮が7.9 GPaで1.3%であるから,構造の圧縮はMO6八面体の圧縮に支配されていることがわかる.
  • 山中 高光, 永井 隆哉, 福田 智男, 橘高 弘一
    セッションID: K3-10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    酸化物Mn2O3のうち多くの物質はコランダム型構造R c(M:Al,Ti,Cr,Fe等)であり,酸素と金属のイオン半径比がr(M)/r(O)>0.87の物質は希土類A型 P m (M:ランタニド), 0.60< r(M)/r(O)<0.87では希土類B型(M:Sm),希土類C型Ia (M:Mn, Pu, Sc, In)の構造をとる.(Mn,Fe)2O3 (bixbyte) は立方晶(Ia3 , Z=16)であり,純粋なMn2O3は少し歪んだ斜方晶(Pbca, Z=16)構造を示す.Mn3+のd電子軌道(high spin状態)からJahn-Teller 効果により,単純なイオンのサイズ効果から想像されるコランダム構造と異なる.高圧状態での格子系の圧力変化は興味がもたれて来た. Prewitt et at., (1969) は Mn2O3 はC型構造から高圧下でコランダム構造に転移することを提案した.またShono et al., (1997)は20GPa以上でコランダム構造と異なる未知の高圧相の存在を報告した.
    高圧単結晶構造解析実験
     本実験ではbixbyite(USA Uta)(Mn0.4035Fe0.5485Ti0.0175Al0.0305)2O3についてダイヤモンドアンビル(DAC)を用いて0.0001, 4.7, 7.0GPaでは研究室のRIGAKU AFC-5を使用し,5.47,8.82,9.64, 11.0GPaは Spring-8(BL02B2), PF(BL-10A)で放射光を用いた高圧単結晶構造解析を行い,構造変化について調べた.等方性温度因子で最小二乗法の解析結果は総べてR=0.05以内に収束した.立方晶のbixbyiteには六配位の2つの陽イオンサイトM1( (8a))とM2(.2. (24d))がある.M1-Oの原子間距離は全て等しい.一方M2サイトはMn2-O(1), Mn2-O(2)とMn2-O(3)各2本ずつありM2-O(1)が著しく伸長している.M1は一様に圧力に対して体積収縮し,M2は著しく8面体の歪みを解消する方向に圧縮される.M2八面体の方が対称性の高いM1八面体より圧縮率が高い Mn3+による顕著なJahn-Teller効果は両サイトにおいて見いだせなかった.
    SR粉末回折による高圧構造相転移と体積弾性率
     PF(BL-18C)で加熱装置を設置したレバー式DACを用いて40GPaまでの加熱高圧粉末回折実験を行った.20GPa以上では希土類C型構造と異なる高圧相が確認された.降圧するとC型構造に戻ることからこの転移は可逆的であり,高圧相は常圧では維持できないことが明らかになった.32GPaまでC型構造の回折線が確認されたがDACの非静水圧性か転移の運動論かは判明しない.格子体積のP-V-TカーブからBirch-Murnagham のEOS式を用いて得られた体積弾性率はKo=176.5(4.8) GPa and Ko=7.56(0.67) でありAl2O3, V2O3 , Cr2O3, Fe2O3 と比較してほぼ同等であった.
    高圧相の解析
     新しく見い出された高圧相はPrewitt et at., (1969)が提唱したコランダム構造やM2O3から想像されるイルメナイト,LiNbO3型構造などの菱面体晶ではない単斜晶系の結晶である.現在電荷移動(2Mn3+=Mn2++ Mn4+)について解析中である.高圧下でのスピンモーメントを測定中である.
  • 鍵 裕之, Parise John, Loveday John, 栗林 貴弘, 工藤 康弘
    セッションID: K3-11
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    [はじめに]
     我々は、含水鉱物の地球内部における高圧下での相転移や構造変化を考察するための基礎データを収集する目的で、水素を構造中に含む水素原子周辺の局所構造を含めた結晶構造を系統的に調べている。これまでに金属水酸化物、金属重炭酸塩、高密度含水マグネシウムケイ酸塩(DHMS)の一つであるPhase A (Mg7Si2O8(OH)6)について、英国ラザフォードアップルトン研究所のパルス中性子源を利用した高圧下粉末中性子回折の測定を行い、構造最適化によって水素原子の位置まで含めた高圧下での結晶構造を解析した。その結果、ある種の化合物では水素原子周辺の構造変化が圧力誘起相転移の引き金になりうることなどを報告した(Parise et al., 1999, PRL; Kagi et al., 2003, Am Min)。また、Phase Aの構造中には非等価な水素原子が2個、結晶構造中に存在し、それぞれの水素原子が同一の酸素原子に対して水素結合を形成しており、水素結合の圧力応答が2本の水素結合でそれぞれ異なる挙動を示すことがわかった(Kagi et al., 2000, PCM)。しかし、Kagi et al. (2000)では、高圧発生の際に用いる圧力媒体としてフロリナートを使用したため、3GPa以上の圧力では圧力媒体の固化により静水圧条件が失われ、回折パターンがブロード化し、構造解析が不可能であった。Marshal and Francis (2002)によって報告されたアルコール圧力媒体を封入可能なTi/Zrガスケットを利用し、昨年秋に再度Phase Aの高圧下粉末中性子回折の測定を行ったのでその結果について報告する。
    [実験方法]
     試料はKagi et al. (2000)で用いたものと同一である。重水素化されたPhase Aの合成はフォルステライトと重水素化したブルーサイトの化学量論的な混合物を出発物質として、Kawai-type高圧発生装置を用い、10GPa、1000℃で約3時間かけて行った。中性子回折の測定は英国ラザフォードアップルトン研究所ISIS、POLARISビームラインにおいて行った。高圧発生にはParis-Edinburghセルを用い、焼結ダイヤモンドアンビルを使用した。Ti/Zrガスケットには試料と重水素化したメタノール・エタノール4:1混合溶液を封入して圧力をかけた。粉末パターンの解析にはGSASプログラムを使用した。
    また、OH伸縮振動の圧力依存性を調べるため、ダイヤモンドアンビルを用いて高圧下でのラマンスペクトルの測定も行った。
    [結果]
     今回の測定で、約9GPaまで回折パターンはブロード化することなく測定することができた。また、Kagi et al. (2000)においては粉末パターンの構造最適化の際にSi-O距離にsoft constraintをかけていたが、今回の実験結果はconstraintを一切かけずに化学的にリーズナブルな解析結果を得ることができた。
     結合距離からみた圧力に対する水素結合の応答であるが、D(2)-O(3)の方が、D(1)-O(3)よりも有意に圧縮しやすいことがわかった。言い換えれば、加圧によってやや弱い水素結合の方がより水素結合が強まるということである。また、ラマンスペクトルから測定したOH振動数の圧力依存性にはこの傾向がより顕著に見られた。O(4)-H(2)伸縮振動、O(2)-H(1)伸縮振動の圧力依存性はそれぞれ-6.3 cm-1/GPa、-1.9 cm-1/GPaであった。
  • 白井 恭子, 田原 岳史, 保倉 明子, 中井 泉, 寺田 靖子, 加藤 泰浩
    セッションID: K3-12
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    【序】
     ガーネットは、その結晶構造中にさまざまな元素を取り込むことが知られており、微量成分元素の種類と分布は鉱物生成の履歴を示す情報として注目されている。そこで、2001年に、岡山県山宝鉱山産のガーネットに着目し、SPring-8 (BL08W)で放射光蛍光X線二次元イメージング行った。その結果、微量重元素としてSn、Wおよび希土類元素が含まれ、結晶の外形に平行なゾーニングを起こしていることが明らかになった。また、ゾーニングの位置は結晶の内部から表面にかけて元素ごとに異なっていた。このように特徴的なゾーニングを起こす微量元素が結晶構造中にどのような状態で存在するかはわかっていない。そこで,本研究ではまず山宝鉱山産ガーネットの単結晶構造解析を行い、微量重元素に関しては単結晶構造解析では情報が得られないため、構成原子のサイトの大きさを求め、イオン半径から微量重元素の占有サイトについて考察を行った。さらに直接的情報を得るため着目する微量元素についても局所構造のわかるXAFS法を適用し、微量元素が実際にガーネットの結晶構造中で占める位置の解明を試みた。
    【実験】
     結晶構造解析は、BRUKER-axs社製単結晶X線解析装置を用いて結晶データを収集し、解析ソフトShelx-97で解析を行った。また、Snに着目し、SPring-8 BL01B1において19素子Ge-SSDを検出器として用いる蛍光法でSn K吸収端(29.194 keV)についてXAFS測定を行った。解析は解析ソフトREX2000(理学電機)を用いて行った。
    【結果および考察】
     単結晶構造解析の結果、岡山県山宝鉱山産ガーネットは一般のガーネットと同じく立方晶系でIa-3dの空間群に属し、格子定数はa=12.0065(6)Åとなった。また、組成式はCa3(Fe0.71Al0.29)2(SiO4)3であることがわかった。SnのXAFS解析により、XANESスペクトルからはSnの状態は+4価、またEXAFS解析によりSnは最近接原子の酸素によりSn-O結合距離2.06Åで6個配位されているという結果を得た。これは単結晶構造解析で得られた八面体サイトにおける金属-酸素結合距離2.00Åとよく一致しており、ガーネット中のSnは+4価で八面体サイトを置換していることが明らかになった。XAFS測定ができなかったSn以外の微量重元素に関しては,そのイオン半径をもとに結晶化学的に考察した。独立した相を形成し得ない微量元素は、鉱物中の主成分元素を置換していると考えられ、結晶構造の安定性から考えて各サイトの大きさに近いイオン半径をもつ元素がそのサイトに置換し易い。そこで、ガーネット中の各サイトの大きさと微量重元素のイオン半径を比較した。まず構造解析で得られた金属-酸素結合距離から酸素イオンのイオン半径を1.40Åとして陽イオンが占める3種類のサイトの大きさを求めた。十二面体サイトの大きさは1.00Å、八面体サイトでは0.60Å、四面体サイトでは0.25Åとなった。各サイトの大きさとShannon and Prewitt(1969、1970)による各元素のイオン半径を比較検討したところ、W(+4価)はSnと同様に八面体サイトを置換し、1.06から1.22Å(+3価)のイオン半径をもつ希土類元素は十二面体サイトを置換していることがわかった。
     さらに各微量重元素のゾーニング位置の変化について検討を行った。特に希土類元素では、原子番号の増加に伴いゾーニングの位置が元素ごとに結晶の内部から表面へと変化していることがわかった。化学的性質が類似している希土類元素はランタニド収縮を示すことが知られているが、ゾーニングの位置の変化とイオン半径の変化が対応していることから結晶成長の過程でイオン半径の効果により、ゾーニング現象が引き起こされている可能性が示唆された。
  • 沼子 千弥, 小藤 吉郎
    セッションID: K3-13
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    ギブサイト(Al(OH)3)が加熱脱水によりコランダム(a-Al2O3)に変化するその過程には様々な結晶構造を有した中間相が多数出現することが知られている。特に中間相の中でも400℃から600℃付近にかけて安定に存在するγアルミナは触媒活性を有することでも知られ、その物性と結晶構造の関連に興味が持たれていたが、γアルミナの結晶性が低くX線回折ピークがブロードであることから粉末X線回折法並びにリートベルト法での結晶構造解析が困難であった。これに対し発表者らは単結晶のギブサイトを用いた加熱脱水実験により単結晶のγアルミナを得ることに成功し、これまでγアルミナと言われてきた相が結晶子のサイズの異なる2成分の混合相である可能性、またギブサイト単結晶からγアルミナ、コランダムに至るまで、酸素の最密充填面を中心とした方位関係が保たれていること等を発見した。
     また電気炉で加熱脱水反応を進ませた粉末試料のギブサイトに対して粉末X線回折により中間相の出現の様子を調べたところ、200℃から300℃付近で、これまで記載されていなかった新しい相(X相)が出現すること、そしてその出現量は出発試料の粒径により異なることも順次鉱物学会で報告を行ってきた。次いで本研究では、X相の出現する温度領域付近で単結晶試料を用いたX線回折測定を行うことで、このX相のキャラクタリゼーションをより詳細に行うと同時に、X相と他の中間相、特にγアルミナとの結晶学的関連性について考察することを目的に、単結晶ギブサイトと昇温ステージを用いたin- situ 単色ラウエ実験を行うことを試みた。
      実験はKEK PF BL4B-1に既設の微小結晶X線回折測定システムを用いて行った。昇温ステージに固定したギブサイト単結晶に対してSi(111)二結晶モノクロメータにより1.0Åに単色化されたSR光を照射し、試料を通過した回折X線をイメージングプレートにより記録することにより単色ラウエ測定を行った。測定の所要時間と同期して室温から600度まで一定間隔で昇温・保持を繰り返すことで、単結晶ギブサイトの加熱・脱水プロセスを常圧・空気雰囲気にてin-situでモニターした。
      実験により、粉末試料で発見されたX相は単結晶ギブサイトに対する加熱・脱水過程に於いても存在を確認されることが明らかとなった。X相はγアルミナと同様に回折点が比較的広がっており脱水初期から残存するギブサイトやベーマイトと回折点を区別することが比較的容易であった。また回折点の広がりから結晶子の大きさがγアルミナと同様に小さいことが推察され、このX相がγアルミナへの直接の前駆体である可能性も示唆された。しかしその対称性はスピネルまたは岩塩型の対称性を持つγアルミナとは異なっており、結晶学的な関連についてはさらに詳細な検討が必要であると考えられた。また、実験で観測されたX相の反射のなかには共存相と重なってしまうものも多く、これも今後の検討事項となった。
  • 三宅 亮
    セッションID: K3-14
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに:
     コーディエライト Mg2Al4Si5O18の低熱膨張性について、特にc軸方向には負の熱膨張を示すこと、は古くから知られている。そこで、本研究では完全に秩序化した低温型コーディエライトの熱膨張機構を分子動力学シミュレーションにより調べた。さらに、この低熱膨張性へのM, T1, T2サイトそれぞれに含まれる陽イオンのサイズ効果を調べた。
    分子動力学(MD)シミュレーション:
     シミュレーションは分子動力学計算プログラム, MXDTRICL (Kawamura 1996, JCPE #077), を用いて行った。クーロン項の計算にはエワルド法を用い、3712粒子系で三次元周期境界条件を課し、2fs/stepにて運動方程式を解いた。温度は300-1800Kの範囲で行った。原子間相互作用モデルは、クーロン、近接反発、ファン・デル・ワールスおよびモース項からなる2体中心力形式を用い、パラメーターはMiyake (1998)による値を基本として用いた。M, T1, T2サイトそれぞれに含まれる陽イオンサイズの熱膨張への影響も調べるため、それぞれに含まれる陽イオンの原子半径(パラメーター"a"の値)を0.8から1.2倍に変化させた変化させたMDシミュレーションを行った。
    結果:
     各サイト中のイオンサイズの熱膨張への寄与を調べた結果、Mサイトを占める陽イオン半径が大きくなるとc軸の熱膨張率は、負の熱膨張が正の熱膨張に変わり、T1サイトを占める陽イオンの大きさを変えても熱膨張率には全く寄与しておらず、T2サイトを占める陽イオンでは半径を大きくすると負の熱膨張がより大きくなり、Mサイトを占める陽イオンとは逆の効果があることが分かった。
  • 加賀 篤史, 栗林 貴弘, 長瀬 敏郎, 工藤 康弘
    セッションID: K3-15
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
     近年マントルを構成する無水ケイ酸塩の結晶構造中に無視できない量の水が存在していることが、高温高圧実験や天然試料のスペクトル観察から明らかになってきた(例えばBai and Kohlstedt, 1992)。上部マントルを構成するオリビン(α相)とその高圧鉱物のウォズレアイト(β)とリングウッダイト(γ)は、それぞれ最大0.7wt%、3.3wt%、2.8wt%までの水が結晶中に含まれ得ると報告されている(例えばChen et al,2002)。ウォズレアイトに関してはX線結晶構造解析の結果から構造中の水素位置が解明されており(Kudoh et al,1996 ; Smyth et al,1997)、構造中の水の量と最大含水量の関係が解明されている。オリビン中の水も構造中に入ると予想されている。しかし、オリビンについては偏光赤外吸収スペクトルの解析により、OH双極子の配向性をもとにMサイトやTサイトの空孔を想定したモデルなどが報告されているが(Beran et al.,1983, Libowitzkyet al.,1995)、水が構造中のどこに存在するか未だはっきりと解明されておらず重要な問題として残されている。本研究ではロシア産のオリビン試料を偏光顕微赤外分光法により観察し、OH双極子の配向結果と、水素位置が既知の鉱物の赤外吸収スペクトルとそのパターンを比較することでオリビンの構造中のHについて考察する。
    実験
     本研究に用いた試料は、キンバライト中から産出するロシア・ミール鉱山産の最大1cmの単結晶である。波長分散型のEPMAを用いて決定した平均化学組成はMg1.86Fe0.13Ni0.01SiO4である。偏光赤外吸収スペクトルの観察にはフーリエ変換赤外分光計(FT-IR)を用いた。赤外吸収スペクトル観察用の試料はX線プリセッションカメラを用いて方位を決定し、{100}、{010}、{001}に平行に切り出して測定に使用した。
    結果と考察
     赤外吸収スペクトル観察により3300, 3368, 3458,3480, 3495, 3572, 3596, 3613, 3690cm-1の位置にOH伸縮振動に起因するピークが観察された。OH波数領域におけるすべてのピークは、電気ベクトルが a 軸とほぼ平行に向いている時、吸光度が最大となった。このOH双極子の配向が揃っていることを考慮すると、オリビンの高圧鉱物であるウォズレアイト同様、水素はオリビン構造中のある決まった酸素に配位していると考えられる。得られたオリビンの赤外吸収スペクトルを水素位置が既知の鉱物や含水鉱物の赤外吸収スペクトルのパターンと比較した結果、特に、clinohumiteの赤外吸収スペクトルと類似していた。Fujino and Takeuchi(1978)によるとclinohumiteのOH伸縮振動の方向はほぼa 軸に向いており、この事はオリビンの偏光赤外吸収スペクトルの観察結果と調和的である。これらの結果は、オリビン構造中に含まれるHの配位環境とclinohumite構造中に含まれるHの配位環境が類似していることを示唆している。
  • 星野 美保子, 木股 三善, 西田 憲正, 興野 純
    セッションID: K3-16
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    [はじめに]
    褐レン石は、(Ce,Th,Ca)(Fe2+,Fe3+)Al2(Si2O7)(SiO4)O(OH)を一般的な化学組成式として、数種の希土類元素やU、Thなどの放射性元素を含む代表的な希土類ケイ酸塩鉱物の一つである。褐レン石は、主に花崗岩類に産出し、溶結凝灰岩、安山岩、流紋岩などの火山岩中にも産出するが、火山岩中の褐レン石の結晶化学は不明である。 本研究の目的は、火山岩に産出する褐レン石のEPMAによる化学分析と単結晶X線構造解析から、その結晶構造を解明し、結晶化学的および地球化学的特性を明らかにすることである。
    [実験方法]
    研究に用いたインドネシアToba産溶結凝灰岩中の褐レン石は、JOELの波長分散型EPMAによって化学組成を測定した。定量分析における測定条件は、加速電圧25kV、電流5.0X10-8Aで行った。また、褐レン石中のOHの存在は、JASCOの顕微赤外線分光分析装置によって、確認した。さらに、単結晶構造解析において強度データをRigaku RAXIS RAPIDで測定し、結晶構造解析は、Shelxl97を使って精密化した。
    [結果]
    EPMAの定量分析の結果、Toba産褐レン石は、希土類元素の中でCeに最も富む褐レン石-(Ce)と同定された。顕微赤外線分光分析の結果、2つの吸収ピークを示す少量のOHの存在が確認された。結晶構造解析によると特殊な配位環境を形成する二つのA席は、A1席がCa、A2席は、多種多様の希土類元素とTh、微量のCa、Mn、Fe2+により占有されていた。さらに、八面体的な配位数をとる三つのM席は、Fe2+、Fe3+、Al、Mn、Mgによって占められる。その結果、R因子は3.81%にまで精密化された。
    [考察と結論]
    生成場の異なる褐レン石の、Al、Fe3+、ΣREE量に着目し、これらを三角ダイアグラムにプロットした結果、Toba産褐レン石は、島弧の性質を示した。 顕微赤外線分光分析により、花崗岩類に産出する褐レン石のOHの吸収帯と比較した結果、明らかにToba溶結凝灰岩に産出する褐レン石の方が吸収が小さく、OHの量が少ないことが判明した。花崗岩に比べ、火山岩を生成したH2O成分の少ないマグマが、M2++H+→M3+の複合イオン置換した褐レン石を結晶化させたと考えられる。また、結晶構造の精密化の結果、空間群と結晶構造は、花崗岩類中に産出する褐レン石のものと同一であったが、格子定数は、明らかに異なっていた。これは、配位多面体の歪みに起因するとの予察から、各歪みが計算された。緑レン石族でAとM席の歪みを比較したところ、Toba産褐レン石は、最も下部にプロットされ、その相関図は、負の相関を示した。この歪みの違いは、A2とM3を占有する元素種の違いに起因すると考えられる。AとMの歪みの相関図に、新にToba産褐レン石をプロットすると、緑レン石族の配位多面体の歪みに対する構造的な許容範囲がREEを含有することで広がることを示唆した。
  • 上田 智子, 小松 一生, 栗林 貴弘, 長瀬 敏郎, 工藤 康弘
    セッションID: K3-17
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1.はじめに
     Humite group(nMg2SiO4 ・Mg(OH,F)2, n=1:norbergite, n=2:chondrodite, n=3:humite, n=4:clinohumite)の構造はolivine layerとbrucite layerの構造モジュールの(001)での周期的な積層によって説明されている。2種のlayerの積層の周期を変えることによって、無数のhumite groupの構造を考えることは理論的には可能であるが、天然に発見されているのは4つの相のみである。本研究では、天然のHumite族鉱物について、Humite族鉱物を構成する個々の鉱物と全体の化学組成との関係、個々のHumite族鉱物相互の結晶学的関係について調べる.
    2.実験方法
     試料はSri-lankaのスカルン中に産するヒューマイト族鉱物である。単結晶X線振動写真はRigaku.R-axis++(回転対陰極,MoKα線,50kV, 80mA)を使用した。高分解能電子顕微鏡(HRTEM)像及び制限視野電子線回折の観察は日本電子社製の透過型電子顕微鏡(JEM-2010)を使用した。
    3.結果と考察
     Humite中に見られるchondroditeのラメラ:
     HRTEM像からHumite中に見られるchondroditeのラメラの幅は、最もラメラが多く、比較的均一に分布していた試料1では、常に単位格子の3の倍数(特に3層が多い)となっていたが、試料6では1,3,4,16,17層など、様々な個数のラメラが見られた。また、chondrodite のラメラは、(001)を双晶面とする双晶関係にあるような2方位のものが考えられ、試料1では、humiteを挟んだラメラ間で、chondroditeの方位が異なる(chondroditeのラメラに挟まれるhumiteが単位格子の整数+1/2個分であるとき、両側のchondroditeの方位が異なる)場合も何度か観察されたが、同一である場合の方が多く、試料6ではほとんどの場合、同一である。
     試料3の偏光顕微鏡による観察では、humite中の2方位のchondroditeのラメラの分布は混じりにくく、ラメラの量比は一方の方位の方が多い。試料1のX線振動写真も、一方の方位のchondroditeが卓越することを示している。
     humite +chondroditeを単位格子として繰り返すような超構造の存在:
     試料6の一部では、振動写真の結果、humiteの強い反射以外に、humite +chondroditeを単位格子として繰り返すような超構造の存在を示していると考えられる弱い反射が見られた。
     Humiteに含まれるラメラの特徴には試料によってこのような差が見られたが、humiteとchondroditeという構造を単位として説明される構造のみを含む点は共通である。(ただし、humiteは単位格子の半分の構造を単位とする場合もある。)
     同様に、humiteに包有されるchondrodite結晶中に見られたラメラも、humite構造を単位としており、humite半層、chondrodite一層、humite半層と続く構造をもつラメラと、humite一層のラメラが特に多く見られた。
     一方、clinohumiteでは、humiteやn=5などを含む複雑なラメラが一部観察された。humiteやn=5が半層入ることによりclinohumiteの双晶が数層単位で繰り返す様子も見られた。また、n=6一層のラメラもしばしば観察された。
  • 君山 誠, 杉山 和正
    セッションID: K3-18
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    本研究グループは、ゼオライト骨格構造を有する新しい遷移元素リン酸塩化合物の合成を目指し、系統的な水熱合成実験を行ってきた。この一連の研究成果の中で、有機アミンを添加したMn-P-O系で、100μmを超えるhureauliteの結晶合成に成功した。hureauliteは、マンガンの含水燐酸塩鉱物の一つで、天然ではリン酸ペグマタイトに各種のリン酸塩鉱物に伴って産出する。結晶構造は5つの(Mn,Fe)O6八面体が稜を共有した"octahedral pentamer"が基本となり、さらにPO4四面体の4つの酸素およびPO3(OH)四面体の3つの酸素は(Mn,Fe)O6八面体と頂点共有の関係にある。天然のhureauliteではMn2+と置換するFe2+の限界が約40%とされていたが1)、近年ではFe含有量のかなり多いhureauliteの合成も報告されている。2)。また、hureauliteには、PO3(OH)の水酸原子が位置するゼオライト類似の空隙構造があり、一部のH+がNa+またはCa2+などによって交換可能であると考えられている。
     溶媒(水またはトリエチレングリコール)に、(CH3COO)2Mn・4H2Oおよび有機アミンを溶解し、攪拌しながら正リン酸(85%)を入れる。得られたゲル状物質をテフロン容器にいれ、ステンレス容器で密封し、180℃で3日間熱処理した。有機アミンには、これまでの研究を参考にmorpholline(MOR)またはimidazole(IM)を選択した。得られた結晶試料は、走査電子顕微鏡(SEM-EDS)及び粉末回折法(XRD)によって相の同定を行い、その後必要に応じて、単結晶構造解析を行った。(RAXIS-RAPID、MoKα線)。既報の結晶構造解析の結果を参考に初期モデルを立案し、最小二乗法ソフトSHELX-97で精密化した。また、Fe-P-O系含水リン酸塩結晶を合成する場合は、FeSO4・7H2Oを用いた。
     本研究では、Mn-P-O系では溶媒H2Oの条件で、100μmを超えるサイズのhureaulite(C2/c,a=17.59Å,b=9.09Å,c=9.40Å,β=96.7o)およびMn7(PO3(OH))4(PO4)2単結晶を合成することができた。得られた結晶は単斜晶系に特有な平行六面体であり、綺麗なピンク色を呈する。一方、Fe系ではH2O+IMを用いた場合でFe2+から構成される化合物Fe3(PO4)2H2OおよびNH4Fe4(PO4)3を得ることができたが、Feタイプのhureaulite単相の合成には至っていない。現在、前述のCa2+置換の可能性およびFe含有量の限界値の観点から、出発物質の組成や保持温度を調整した各種組成のhureauliteの合成を目指している。
     1) P.B.Moore & T.Araki (1973), American Mineral.,58, 302-307.
     2) L.F.Moreira et al.(1994) J.Magn.Magn.Mater,132,191-196
  • 中塚 晃彦, 飯石 一明, 幾田 擁明, 吉朝 朗
    セッションID: K3-19
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    ガーネット型構造(X3Y2Z3O12)は多種多様な化学種の組合せで構成され,一般に珪酸塩ガーネットや希土類系ガーネットが広く知られている。珪酸塩ガーネットとして代表的なパイロープやメージャライトなどは地球深部の主要構成物質として重要であり,また,YIGやYAGなどの希土類系ガーネットは興味深い磁気的・光学的性質を示すことから実用材料として広く用いられている。このようにガーネット型化合物は地球科学的・材料科学的に重要であり,その物性や安定性を理解するために,その結晶化学を十分に理解する必要がある。ガーネット型化合物の中でも,palenzonaite Ca2NaMn2V3O12に代表されるバナジン酸塩ガーネットは,8配位のX席にサイズと電荷が異なるCa2+とNa+が,6配位のY席に多種多様な2価の陽イオンが,4配位のZ席に5価のVが占有し,よく知られた珪酸塩ガーネットや希土類系ガーネットと電荷分布が異なっている。この電荷分布の差異がガーネット構造にどのような影響を及ぼしているかを検討することは,ガーネットの構造的安定性の一般的理解に対して重要である。本研究では,4種類のバナジン酸塩ガーネットCa2NaM2V3O12(M = Mg,Mn,Cu,Zn)の単結晶を育成し,単結晶X線構造解析から,6配位席のイオン種の変化に伴う構造変化を中心に議論する。
      出発試料にNa2CO3,CaCO3,MgO,MnCO3,CuO,ZnO,V2O5を用い,それぞれのガーネット組成に対して化学量論比に従って秤量した。出発物質を焼成・焼結した後,赤外加熱炉でFZ法により単結晶を育成した。育成した単結晶の化学組成はEPMAにより確認した。直径0.20mmの球形に整形した単結晶試料を用い,4軸回折計により,X線回折強度を測定した。構造精密化の結果,それぞれのガーネット試料に対して,R値1.6-2.5%およびwR値1.6-2.3%を得た。
      今回合成したいずれのバナジン酸塩ガーネットも,12面体間の共有稜が非共有稜よりも長いという特異な構造的特徴を示した。バナジン酸塩ガーネットがもつ特異な電価分布と陽イオン間距離を考慮すると,8配位のX席を占める陽イオン間の斥力は,珪酸塩ガーネットや希土類系ガーネットのものよりもかなり弱いと考えられる。このため、大きなサイズをもつX席の陽イオン(Ca, Na)のサイズ効果によって12面体間の共有稜が異常に引き伸ばされても,構造を不安定化するほど大きな陽イオン間斥力の増大を招かないと考えられる。
  • 越後 拓也, 木股 三善, 興野 純
    セッションID: K3-20
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     whewelliteは、シュウ酸カルシウム(Ca(COO)2・H2O)の結晶であり、その結晶構造に関する研究はHoffman(1960)が格子定数と空間群(P21/n)を決定したことに始まる。その後、Cocco(1961)が原子座標を決定したものの、空間群はHoffman(1960)と異なり、P21/cとなった。しかし、Cocco(1961)の結果を検討したLeavens(1968)の報告では、やはりP21/nが妥当とされている。さらにその後、Tazzoli(1980)が結晶構造の精密化を行った際には、空間群としてP21/cを採用している。しかし、同様に構造精密化を行ったDeganello (1981)はそれまでどおりP21/nを空間群として採用している。そして現在ではTazzoli(1980)の報告が一般に認められている(Gaines, et. al., 1997他)。それぞれの研究で分析された試料に注目すると、Tazzoli(1980)はヒト尿結石を、Deganello(1981)は溶液合成された結晶を、Hoffman(1960)・Cocco(1961)は天然に産する結晶をそれぞれ用いている。つまり、一連の研究における違いは生成環境の異なる結晶に依存している可能性がある。そこで今回Czech, Bilina産天然whewelliteの結晶構造の精密化を行い、以上のような違いの原因を考察した。
    実験
     構造解析に用いた試料はCzech, Bilina産whewelliteである。試料中から0.4x0.4x0.3mmの単結晶を選び出し、測定を行った後、同じ回折データを用いて2通りの格子定数・空間群で構造解析を行った。一つはHoffman(1960)に近い、a=6.2894(3)Å, b=14.553(1) Å, c=9.9710(6) Å, β=107.1109(2)°,P21/nであり、もう一つはTazzoli(1981)に近い、a=6.2894(3) Å, b=14.553(1) Å, c=10.1137(7) Å, β=109.480(2)°, P21/cである。
    結果
     Hoffman(1960)に近い格子定数ではR=3.7%, Tazzoli(1981)に近い方ではR=4.6%にそれぞれ収束した。差フーリエマップは前者がMax0.78(e/ Å3)・Min-0.88(e/ Å3)、後者がMax1.33(e/ Å3)・Min-0.81(e/ Å3)となった。
    考察と結論
     R因子の収束状態、差フーリエマップの高低差から、今回調べたBilina産whewelliteの場合、格子定数・空間群はHoffman(1960)のP21/nがTazzoli(1980)の空間群よりも適当である。しかし、Tazzoli(1980)と同じ格子定数・空間群をとってもその基本的な構造に変化はなかったことから、Leavens(1968)の報告のとおり、構造の違いは単位格子の取り方に起因していると考えられる。ここで温度因子に注目すると、水素原子が結合している、もしくは水素結合に関わっているとみられる酸素原子の値に異常が認められる。このことはTazzoli(1980) ・Deganello (1981)の結果と同様であるが、彼らはこの異常について言及していない。これは該当する酸素原子の熱振動の異常性を示すものである。しかし他の理由、例えば結晶構造中の水分子数が不定比である、もしくは酸素原子位置の無秩序化なども考えられる。
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