国語科教育
Online ISSN : 2189-9533
Print ISSN : 0287-0479
86 巻
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
Ⅰ シンポジウム(要旨)
春期大会 第136回 茨城大会
Ⅱ 研究論文
  • 伊木 洋
    2019 年 86 巻 p. 17-25
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/11/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、大村はま話しことば学習指導実践史研究の一環として、1970年代前期の大村はま話しことば学習指導の特徴を明らかにするものである。そのために、二つの「ことばの意味と使い方」の学習指導を取り上げ、指導資料「聞くこと・話すことの指導はこのように」と「質問のしおり」を比較し、質疑力指導の形成過程に着目して検討を行った。

    その結果、1970年代前期の大村はま話しことば学習指導の特徴として、討議力の育成とともに、質疑力の育成が図られており、さらに、質疑力指導の形成過程において、自ら疑問を見出していく量的な指導が重視される段階から、何が問題かを問う質的な指導が重視される段階へと移行していったことが明らかになった。

  • 古賀 洋一, 池田 匡史
    2019 年 86 巻 p. 26-34
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/11/01
    ジャーナル フリー

    教育哲学者リチャード・ポールによると、人間社会で生じる問題は「多元論理の問題」と呼ばれている。学校教育を通して、生徒が多元論理の問題を解決できるようになるためには、複数の主張から統合的理解を形成していくような批判的思考力の育成が欠かせない。本稿では、中学校国語科、とりわけ説明的文章の批判的読みの実験授業の分析を通して、生徒が協同的に統合的理解を形成していく過程を分析した。本実験授業では、同じ問題に対して異なる主張を述べた複数の教材を用いた。生徒は自分が賛同できる教材を選び取り、筆者同士の対話形式で学習を進めていった。

    分析の結果、統合的理解の形成過程は、次のような段階的過程であることが明らかになった。まず、自分が選んだ筆者の主張を代弁していくなかで、「(a)互いの筆者の論証が理解される段階」である。次に、相手からの反論への応答を迫られ、反証が作り出されることで、「(b)互いの主張の適用範囲が自覚される段階」である。最後に、「(c)複数の状況に対応して統合的理解が形成される段階」である。

    多元論理の問題に対応した批判的思考力を育てるためにも、説明的文章の批判的読みの指導は、現実社会の状況に対する主張の適用範囲を吟味することを含んだものへと、拡張されなければならないだろう。

  • 長岡 由記
    2019 年 86 巻 p. 35-43
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/11/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、田中久直氏の漢字教育論を取り上げ、漢字の学習方略を促す指導内容について検討を行った。

    田中氏の漢字教育論における「漢字力」は、漢字の読字・書字の能力と、漢字の自己学習力を意味する。そして、これらの「漢字力」を育成するための漢字教育論は、「入門期」から「主体的習得期」へと続く「能力発達の段階に即した系統」と「語い指導の系統に関連した系統」から構成されていた。

    この系統的な漢字教育の内容について検討を行った結果、「読みの指導」、「読みに伴う書きの指導」、「書きの習得のための書きの指導」を通して、漢字の意味や音訓、構成、漢字の機能の理解と適用に関する学習方略の獲得を促す指導内容が位置づけられていることが明らかとなった。

Ⅲ 実践論文
  • 一ノ瀬 里紗
    2019 年 86 巻 p. 44-52
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/11/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、小学校中学年段階を対象に目的に応じた話し合いの進め方を身につけさせるための年間指導のあり方を考察した。年間指導で配慮した点は、(1)話し合いを対象化すること、(2)話し合いにおける役割を理解することの2点である。4年生における五つの実践をもとに、目的に応じた話し合いの進め方を児童がどのように学んでいったのか、児童の具体的な発話のありようやふり返りコメントの内容から考察した。その結果、「話し合いを対象化すること」と「話し合いにおける役割を理解すること」の二つは互いに独立したものではないことが明らかになった。話し合いを対象化することで役割について学び、役割について学ぶことで課題意識をもった話し合いの対象化ができるというように両者が相互に作用し合っていた。さらに、書記の機能を学習したことにより児童の聴く力が高まり、観察メモによる即時的な話し合いの対象化と自他の分離の促進につながった。

Ⅳ 資料
  • 丹生 裕一
    2019 年 86 巻 p. 53-61
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/11/01
    ジャーナル フリー

    OfSTEDから“inspirational”であると評価されていたBernadette Woodはイングランドランカシャー県の地方教育当局から最も優れた国語科の教師として紹介された。この研究は彼女の手法や実践的知識を明らかにするために、2016年にWoodによって実施された物語を書く4時間の授業について検討する。

    まず第1に、彼女は育てるべき要素的能力とそこに用いるための方略を知っている。これらの方略は、同時に、子供たちが自身の学びを自己評価するための規準を理解することを可能にする。しかしながら、子供たちは最初の作品を書くことができなければ、この形成的評価を行うことができないことになる。そこで、Woodは、フリーズフレームやスケッチ等の創作活動を、子供たちが最初の作品を書くことを直接に支援するために導入した。これらの実践的知識は学習者の学びの所有者としての自覚を喚起(inspire)する、授業編成のための実践的知識である。

    第2に、授業の中のそれぞれのエピソードにおいて子供たちの学習を効果的に鼓舞する術を知っている。例えば、示唆的な話題や、方略を練習するための創作活動である。これらは、これらはそれぞれのエピソードにおける学習者の発想や意欲を喚起する、授業活性のための実践的知識である。

Ⅴ 書評
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