国語科教育
Online ISSN : 2189-9533
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92 巻
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Ⅰ シンポジウム(要旨)
春期大会(第142回 東京大会(オンライン))
Ⅱ 研究論文
  • 冨安 慎吾
    2022 年 92 巻 p. 14-22
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、漢字に関する学習内容のうち、特に「漢字に関する知識」を整理するための具体的な分類表の作成を行うことを目的とした。

    まず、分類表の枠組みを作るために、先行研究において漢字に関する学習内容を整理する枠組みとして用いられているタキソノミーについての検討を行った。対象にしたのは、Andersonら(2001)による「改訂版タキソノミー」と、Marzanoら(2007)による「新分類体系」である。この検討の結果、Marzanoらのタキソノミーを枠組みとした上で、分類表の作成を行うこととした。

    次に、Marzanoらのタキソノミーにおける「知識の領域」をもとに、小学校国語教科書の漢字に関する単元に含まれる学習内容を抽出し、整理を行った。この整理の結果、漢字に関する知識を「情報」と「心的手続き」とに分類し、それぞれの詳細な分類表を作成することができた。

    最後に、作成した分類表により、小学校国語教科書についての分析の試行を行った。結果、試行の対象とした一般概念のひとつ「音符」について、教科書会社により、その取り扱いに大きな差が見られることが明らかとなった。このことから、本研究において作成した分類表は、漢字学習のカリキュラムを「漢字に関する知識」の側面から見直すことに資するものであると考えられた。

Ⅲ 実践論文
  • 井上 陽童
    2022 年 92 巻 p. 23-31
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    先行研究では、協同推敲指導に音読を取り入れることで、学習者にどのような効果があるのかについて十分に示されていない。そのため、本研究では新たに音読による協同推敲を開発した。その上で、協同推敲に音読を取り入れたことによる学習者への影響を明らかにするために、小学5年生を対象にグループ・カンファレンスと比較しながら調査を実施し結果を分析した。

    その結果、協同推敲指導に音読を取り入れることで、書き手が自身の下書きの改善点や良い点を発見しやすくなる効果があることが明らかになった。具体的には、書き手は自分の声や他の学習者の声を材料として、修正の必要がある箇所を特定したり改善した箇所の適否を確かめたりしている姿が導出された。今後の課題は分析対象を拡大した上で、推敲指導の長期的な実証研究を通して、学習者の変容を明らかにすることである。

  • 大村 幸子
    2022 年 92 巻 p. 32-40
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、小学校入門期の話し合いにおける学習者のメタ認知的知識について、合意型の話し合いを取り上げて、分析及び考察を行うことを目的とする。まず、先行研究の分析により、メタ認知的知識の分類を措定した。次に、その分類を分析の視点として、3つの調査を行った。対象は、筆者が担任する都内A国立小学校1年生34名である。その結果、2つのことが明らかとなった。1つは、この時期の学習者が話し合いにおいてメタ認知的知識を更新しているということである。2つは、メタ認知的知識の獲得更新を学習者自らが進めているということである。入門期の学習者は、合意型の話し合いにおける葛藤の中で、経験を通して、また自らの気付きによって、新たなメタ認知的知識を獲得したり既有のメタ認知的知識を更新したりしているのである。

  • 中野 登志美
    2022 年 92 巻 p. 41-49
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    多くの小学校では、学習者がごんに同化した読み方をしたままで『ごんぎつね』の授業を終えるところに根本的な課題がある。その根本的な課題を追究すると、『ごんぎつね』の語りの構造と最終場面における視点の転換を正しく捉えていないことに原因があることが判明した。

    そこで本実践では、冒頭部分の一文に着目する授業を展開し、『ごんぎつね』が伝承物語であること、『ごんぎつね』の語りの構造をわかりやすく視覚化したスライドを提示すること、『ごんぎつね』はごんだけではなく兵十も変容すること、最終場面においてごんと兵十が限定的であっても通じ合って悲劇で終わる物語ではないこと、『ごんぎつね』の特性を生かして、「その後の兵十の物語」の創作活動をするなどを構想して授業を行った。その結果、児童達は対象化して『ごんぎつね』を読めており、本実践によって『ごんぎつね』の授業の課題を解決する有用性を見いだすことができた。

    さらに学習者の事例を分析して、学習者が『ごんぎつね』の語りの構造を理解する際に「中山様」と「加助」が鍵を握ることを指摘した。

  • 萩中 奈穂美
    2022 年 92 巻 p. 50-58
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、中学校第3学年を対象にした作文における語彙の指導実践をもとに、その有効性について考察した。用いた方略は2つある。1つ目は、作文中に感情を表す適語を使おうとする機能的な語彙学習の場面に、感情語彙を探究しながら語彙の多様性や捉え方を学ぶ体系的な語彙学習を挿入すること、2つ目は、その体系的な語彙学習の前に、自分の語彙や語彙使用に関する省察活動を位置付けることである。これらの方略に基づいた学習指導過程がどう作用し、学習者には語彙学習に必要な力としてどのような認識が高まったのか、各段階における振り返りの記述をもとに考察した。その結果、学習者は語彙と感情との関係性や、感情の認識を促す語彙の機能的価値に気付き得ること、また、語彙や語彙使用に関して態度面も含めた自覚を高め得ることが窺えた。また、語彙学習力の育成においては、適語を探そうとする課題意識が重要であることが確認できた。ただし、これらの成果は、一実践における成果であることから、作文の文種や題材、扱う語彙の種類、探究方法等、様々な要素との関係に留意しながら、実践研究の蓄積を通して検討を加える必要がある。

Ⅳ 資料
  • 池田 匡史, 黒川 麻実
    2022 年 92 巻 p. 59-67
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    本稿では、朝鮮・満洲・南洋群島で使用された植民地教科書に共通して採録された民話「水中の玉」の教材群に焦点を当て、採録状況を整理し、本文や挿絵の比較を行った。その結果、①「水中の玉」教材群は、朝鮮で使用されたものが発端となり各植民地で使用されていったこと、②相対的に、満洲では五族協和を想起させる「五色」という表現や「神様」の設定の強調や、「家」という概念の描かれ方の希薄化などがなされていたこと、③相対的に、南洋群島では登場人物の暮らしの貧困さの強い強調、自然・人の心の美しさの強調、そして兄弟愛の強調がなされていたことを指摘した。また挿絵については、朝鮮や満洲では韓服を着用した兄弟が描かれているが、南洋群島では日本の着物とおぼしきものを着ていることから、南洋群島においては、日本への同化の意図が強く窺えた。

    これらのように、「水中の玉」教材群は、各植民地での状況や、日本の植民地に対する姿勢などを踏まえ、細やかに本文が改変され、教材となったものであることが示唆された。

  • 増永 雄一郎
    2022 年 92 巻 p. 68-76
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    学習者は、多様な動画の視聴を通して、世の中のことを知ったり自身の価値観を形成したりしている。本稿は、動画を学習材として教室に持ち込むべきであるという立場から、動画テクストを用いた学習の指導法を示すことを目的としている。そこで、動画テクストを用いた教材開発からカリキュラム提言まで幅広く行っている英国映画研究所が初等教育向けに刊行した指導書であるLOOK AGAIN!を資料として取りあげた。

    本論の要点は、(1)動画テクストに込められた意図を追求することを可能とする基本教授テクニック、(2)動画テクストを読解するうえで最も基本となる観点、(3)動画テクストを用いた学習を開発する際の4つのポイント、(4)学習者の思考を刺激する動画テクストを用いた学習活動例、以上の4点である。

Ⅴ 書評
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