国語科教育
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Ⅰ シンポジウム(要旨)
春季大会(第148回 三重大会)
Ⅱ 研究論文
  • 浅井 哲司, 長田 友紀
    2025 年98 巻 p. 18-26
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿は、話し合いを振り返るための教材の媒体が異なると、その振り返りがどう変容するのかを調査したものである。まず同じ話し合いの場面をもとに3種類の振り返りのための教材を作成した。動画でその場面を視聴する「映像教材」、映像はなくその場面の音声とその字幕だけの「音声・文字教材」、映像や音声はなく文字起こししただけの「文字教材」である。これらを実際の授業の中で活用し次の分析を行った。RQ1として、教材の媒体による振り返りの時間(量的側面)を分析した結果、媒体による違いはみられなかった。RQ2として、振り返りの内容(質的側面)を分析した結果、「映像教材」では話し合いを深めたり、まとめたりする行為に注目する傾向がみられた。一方、「音声・文字教材」では話し合いをつなげたり、ひろげたりする行為に注目する傾向がみられた。

  • 岩下 嘉邦, 北川 雅浩
    2025 年98 巻 p. 27-35
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究は、合意形成を目指す中学生の議論において、論証の相互検討と調整がどのように行われるかを実証的に明らかにすることを目的とした。対象は、議論の学習を積み重ねてきた中学2年生による議論活動である。論証の相互検討と調整に関する発話をコーディングし、「納得度」の高低に着目して分析を行った。その結果、いずれのグループにおいても、三角ロジックに基づく論証の活用や、それに対する反証、他者の発話に基づく協同的な調整が確認された。特に「納得度」が高いグループでは、会議の目的を意識して導出される「想定される他者」に配慮した理由づけや、具体的な経験の共有が「論理的共感」を生み出していた。また、異なる意見を併置したり、共通点を見出したりすることで、議論を対立から協調へと導く調整が行われていた。さらに、意見の変容や判断の迷いを言語化する発話も、合意形成に向けた集団の協同性を高める重要な働きを果たしていた。これらの結果から、参加者間の「納得度」が高い合意形成を促す議論の要件として、①議論の目的と「想定される他者」の存在を意識化させること②協同的な論証の検討と調整を希求する態度面の育成という2点を指摘することができる。

  • 宇賀神 一
    2025 年98 巻 p. 36-44
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿は、大正末期から昭和初期にかけて北海道で刊行された『国語と人生』を分析して、当代・当地における国語教育の実態を解明することを目的としている。併せて、従来の国語教育に関する歴史的研究で扱われてこなかった地域で編纂された国語教育雑誌の資料的価値を明らかにすることを副次的なねらいとしている。本稿をとおして、『国語と人生』が画一的な教育を批判し、生活と乖離した教育の克服を目指しており、そのために、中央の先進的な教育思潮や国語教育に関する教育情報を掲載したことが明らかになった。雑誌の内容は、国語・国語教育に関する理論的な内容から、読者の要望に応えて実践的な内容にまで射程を広げていった。雑誌創刊当初から目指された郷土に根差した国語教育に関しては十分提言できなかったものの、同誌は地域の一般的な教員層を読者として取り込み、大正新教育の思想圏において彼らを成長させ、教育研究の担い手・教育情報の発信者に成長させる一助を担った。

  • 後藤 志緒莉
    2025 年98 巻 p. 45-53
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究では、香川県での研究授業と竹台高等学校との合同研究に関する資料の分析を通じて、増淵恒吉の現代文読解指導の特質を明らかにした。

    本研究で明らかにしたことは、以下の2点である。第一に、「課題学習」がどのように展開されていたのかを明らかにした。増淵が実践した「課題学習」では、学習者に事前に提示する設問や教師がその場で提示する発問の解決が学習の中心に据えられていた。また、設問や発問に対する解答をグループで話し合い、発表するという形式で授業が展開されていた。第二に、設問の提示の仕方や配列の特徴を明らかにした。増淵が学習者に提示した設問は、作品の具体的な叙述に即しており、文章の展開に沿って配列されていた。更に、作品の細部を分析的に読解した後に、主題を考えさせることが意図されていた。このような特徴をもつ設問を設定した背景には、文章表現に即した学習指導を重視する増淵の立場があった。「現代国語」が新設された当時の高等学校国語科の教師は、現代文の学習指導に当惑し、指導法を求めていた。そのような教師たちにとって、増淵が提案・実践した「課題学習」は、現代文読解指導の一つの指標となったと考えられる。

  • 田中 佑
    2025 年98 巻 p. 54-62
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,メタ言語能力を育成する引用指導構築の一環として,引用指導における情報資源を提示する「ように」の有用性を示すことにある。具体的には,情報資源を提示する「ように」の学術論文における使用実態調査とその分析を行った上で,国語科における指導事項・教材((i)引用と意見の書き分け,(ii)事実と意見の区別,(iii)譲歩の構造)との接続を試みた。本稿で提案した活動を通して成長が期待される力は以下のとおりである。

    (i)「引用だからかぎでくくる」という手順的な理解を越えた,引用と意見を自覚的に書き分ける力

    (ii)事実と意見が分かち難い場合や重なる場合があるということへの理解と,その理解に基づく自覚的な言語運用力

    (iii)文章をメタ的に捉える力,ならびに,引用を自分の意見に対して相対的に位置付ける思考力

Ⅲ 実践論文
  • 石田 喜美
    2025 年98 巻 p. 63-71
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究では、多言語化が進む教室における課題に対応するため、国語(科)教師教育における言語・言語教育ビリーフの位置づけを提案することを目的としている。本研究では、Lucas & Villegas(2011)の「言語的感覚に優れた教師(linguistically responsive teachers)」の枠組みを援用し、2020年から2022年にかけて、教員養成課程初年次生と留学生を対象とした共同ワークショップをデザインし実施した。具体的には、「やさしい日本語」と非言語コミュニケーションに重点を置いたプログラムを実施した。本実践後に行われたアンケート調査の結果、教員養成課程初年次生が抱く言語・言語教育ビリーフのうち、「日本語を正しく話せないと、コミュニケーションに支障をきたす」「子どもとやりとりする際、その子の母語がわからないとコミュニケーションができない」という項目について有意な変化が見られることが明らかとなった。一方この結果を他の結果と併せて分析した結果、共同ワークショップの経験を通じて、「母語」を過小評価するようになる傾向も浮き彫りになった。これらの結果は、コミュニケーションの成功可能性を高めることと、社会言語学的意識を持つことの間に緊張関係があることを示唆するものである。以上の結果を踏まえ、今後の国語(科)教師教育の短期的展望と中・長期的展望を示した。

  • 高松 美紀
    2025 年98 巻 p. 72-80
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿は、高校生を対象に「文学はどのように戦争を表象するのか」をテーマとした授業実践を検討したものである。共感の偏重や予定調和を回避し、主体的かつメタ的、多角的な視点を得ること、文学独自の表象を分析するスキルを獲得し、表象自体を批判的に考えることを目標とした。実践では、虚構による表象可能性の議論、ティム・オブライエン「待ち伏せ」「私が殺した男」の比較分析とガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って』の読解、最終課題として比較分析小論文の執筆を行った。成果として、生徒は文学テクストの表象に対する分析スキルを習得し、その過程で共感と対象化を同時に体験することによる深い理解と多角的な現実認識を示した。また、戦争の表象自体に対する批判的な視点を獲得した。生徒は「表象不可能性」という視点を得、文学テクストを他者と議論することを通して、複雑な現実世界と表象との関係に対する理解を深めた。さらに、生徒自身で論点とテクストを設定して比較分析をしたことで独自の視点を獲得し、戦争の表象に対する思考の深化が見られた。

Ⅳ 資  料
  • 古賀 洋一
    2025 年98 巻 p. 81-89
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿では、説明的文章の言語理解に困難のある日本の学習者を対象としたアセスメント開発への示唆を得るために、米国における学問的言語能力のアセスメントを分析した。本稿で取り上げたアセスメントは、AELP、CALS-I、ELPA21、WIDA-ACCESSの4つである。

    これらのアセスメントの構成概念、評価問題、開発過程、授業への活用例を分析した結果、次のような示唆が得られた。まず、開発過程では、①心理学で扱われていない説明的文章の言語的特徴を構成概念に取り入れること、②学習者にとって既知の周辺語彙や身近な内容を用いて評価問題を作成すること、③解読と言語理解に関する先行のアセスメントも独立変数に加え、新たに開発したアセスメントが長文の読解力へ与える影響を検証することである。次に、アセスメントの結果を授業へ活かすためには、④説明的文章の言語的特徴を構成概念で明示すること、⑤明示した言語的特徴と対応した知識と読み取り方を個別に評価する問題構成を備えていることが必要である。

Ⅴ 書  評
Ⅵ 学会事業報告
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