大学図書館は,大きな変革の時を迎えている。これを引き起こしているのは,教育/学習方法および研究方法といった図書館利用者のニーズの変化である。しかし,多くの大学図書館は,これに対して,十分に適応できているとは言い難い。本稿では,このために,早稲田大学図書館で実現をした,早慶図書館共同化プロジェクトおよび図書館の改修によるエビデンス・ベースのラーニング・コモンズの実現について述べる。
大学図書館や公共図書館における電子書籍の導入・利用が進む中,ICT活用教育の流れに合わせて,学校図書館における電子書籍利用への期待が高まっている。本稿では,大学図書館・公共図書館における電子書籍の導入と電子書籍市場の背景を踏まえ,学校図書館における電子書籍利用の現状について述べる。
本稿では,米国の大学図書館で実施されている学習支援に関わる取り組みについて報告する。単なる支援にとどまらず,教科書にかかる費用削減を行う取り組みや,図書館員としての資質向上や,そこで支援を行う学生の活動に焦点を充てた報告を行う。
1998年の学習指導要領改定以降,学校図書館がすすめてきたさまざまな取り組みのなかから,情報リテラシー教育の一環としての図書館利用教育と,学びの「場」としての学校図書館づくりに焦点を合わせて論じる。筆者自身の中学校図書館における実践と,国内外の学校図書館・公共図書館の動向から,学校図書館員による図書館利用教育の推進と,主体的・対話的に学べる「場」づくりは,学校教育のなかで「言語活動や探究活動の場」として図書館を活用していくために必要な要素であることを示した。また,教員と学校図書館員の協力や,図書館側の情報発信を今後の課題として指摘した。
中学生や高校生においては,読書習慣がある生徒とそうでない生徒との差が大きい。あらゆる生徒に読書習慣を定着させるためには,生徒がスキマ時間に片手で操作できるスマートフォンでの利用を想定した電子図書館の充実が有効であることを明らかにしたい。そのために聖徳学園中学高等学校で利用している電子図書館サービスであるLibrariEとSchool e-Libraryに関する生徒の利用実態を調査した。その結果スマートフォンの有用性は推測されたが,同時に3点の課題が見つかった。それは電子図書館へのアクセスの利便性,魅力的なコンテンツの充実,コスト・パフォーマンスの改善である。これらの実現のために電子図書館サービス提供事業者とより強固な連携をとるのが学校図書館司書の役割となるだろう。
本学に配置された実習工場ではものづくりを通した教育を実施しているが,職員一人あたりの業務量の増加により学生に対する技術指導や教育支援の質の維持が難しくなってきている。職員が常時工場内の巡視を行うことは難しく,自身の業務に取り組みつつも支援を必要とする学生を把握できるシステムの開発が望まれた。この問題を解決するために,本論文では学生が支援を求める瞬間を自動的に検出し,その情報を職員のスマートウォッチに通知するシステムを開発している。職員がアドバイスを提供する瞬間はニューラルネットワークによって検出され,工作機械の電力データから判定される機械操作の習熟度に基づいて決定される。実施した実験においてニューラルネットワークによって機械操作の習熟度が低いと判定された場面は学生に対する支援・指導の必要な状況であり,本システムによって支援を必要とするタイミングを適切に検出できることが示された。
数学オンラインテストの問題コンテンツを異種システム間で相互利用する際,非互換性が障壁となる。この問題を解決するために,我々は,これまでに問題生成や解答判定の流れをシステムに依存しない統一的な標準仕様で記述する方針を採択した。本方針における標準仕様をMeLQSとして策定し,仕様書の作成を支援するツールを開発してきたが,本論文では新たに,仕様書から数学オンラインテストシステムの一つであるSTACKの問題への変換までを行なうことが可能な環境を構築し,線形代数の問題を題材としてMeLQSの実用性を確認することができた。
著者らは4年間にわたり,様々な国籍の外国人留学生に対して,従来の異文化コミュニケーション教材の問題をクリアしながらeラーニング教材を開発および提供してきた。同時に,学習後には異文化コミュニケーション能力測定を実施,導入教材の学習効果を検証してきた。4年間にわたり履修者や教育機関から寄せられた感想を総括すると,従来の異文化コミュニケーション教材の問題はクリアされ,また教材履修前後の各測定結果の比較からは学習効果が示された。本研究は,日本で就職を目指す外国人留学生に向けた,異文化コミュニケーション教育における導入教材の開発と評価である。直接的には,日本のビジネスマナーを学ぶ教材であるが,その学習の結果,異文化コミュニケーションを学ぶことに繋がっている。
小学校教員養成課程の大学生を対象に,IoTセンサー教材(以後:IoT教材)を活用した小学校6年理科の授業を体験させ,映像教材を視聴させる授業との比較を通じて,小学校プログラミング授業への動機付けや授業目標を大学生がどのように理解したかを検証した。アンケート調査を分析した結果,動機付けモデルの4要因全てで,IoT教材の活用がプログラミングへの動機付けに有効であり,プログラミング教育の目標理解を深化させることにつながる可能性が明らかになった。また,センサーを用いた身の回りの機器等に関する記述式回答を分析した結果,IoT教材を用いたプログラミング体験によって,機器等の動作や制御をイメージしやすく,順序立てて説明しやすい結果がみられた。
社会を地域から支える人材の育成を目指して,高等学校が自治体や高等教育機関,産業界等と協働しながら,地域の抱える社会課題に対応した探究的な学びを実現しようとする動きが進展している。このような取り組みは学校教員への負担の大きさなどのさまざまな実施上の制約があり,学校の状況に合わせて学習効果の高い教育カリキュラムを開発,評価することが大きな課題となる。本研究では,そうした課題に対応して,高校の総合的な学習の時間を対象に,ゲーミフィケーションの要素を取り入れたプロジェクト学習形式の授業を開発し,試行的に行った実践結果について考察を行なった。
水産高校には乗船実習等の長期の校外実習があり,その中では授業も行われる。この実習期間中,生徒は自習により学力を維持することになるが,容易なことではない。そこで我々は自習を支援するツールとして映像授業に着目し,水産専門科目の映像授業を開発した。この映像授業の学習効果を測るために,水産高校の分野の異なる2つのコースの生徒を対象に介入実験を行なった。各コースの生徒をくじにより映像授業を受ける群(映像授業群)と教師から直接講義を受ける群(講義授業群)に分け,授業後に記述式のテストを実施した。その結果にt検定を行ったところ,映像授業は講義授業と同等以上の学習効果があることが示された。これにより,開発した映像授業は生徒の自習を支援し,学習効果が高いことが分かった。
本研究では,小学校理科においてプログラミングによるアイデアの具現化を取り入れた防災教育の授業を開発して実践した。プログラミングツールには,各種センサーを利用できるマイコンボードを活用した。実践の結果,児童は開発した授業を概ね好意的に評価した。また,「防災・減災について自分にもできることがある」,「プログラミングは防災・減災に役立つ」と考える意識の高まりが確認された。
従来の暗記型の教育では,小学生がプログラミング的思考を習得することは困難であると指摘されている。本研究では,日常の活動を題材として試行錯誤しながらプログラミング的思考を学ぶツールを開発し,その効果の検証を行った。本ツールでは小学生で学ぶプログラミングの処理のうち「順序処理」,「繰り返し処理」,「条件分岐処理」およびその組み合わせを学習できる。本ツールの効果を検証するために,小学生を対象にワークショップ型の評価実験を行った。実験の結果,ワークショップの実施後に,プログラミング的思考を測るテストの平均得点が有意に向上した。特に,「条件分岐処理」の課題の平均点が高かったことから,本ツールを用いてプログラミング的思考のうち特に「条件分岐処理」を効果的に学習できる可能性が示された。
近年,情報機器の普及に伴い,学校現場で情報モラル教育が実施される機会が増加している。この情報モラル教育では,単に危険性を学習者に伝えるだけではなく,自分もトラブルの当事者になりうるという当事者意識を持たせることが重要である。そこで,本研究では,映像教材を視聴する講義型授業とカード教材を使用したワークショップ型授業の2つの教育方法を比較し,学習者のインターネットトラブルへの当事者意識へどのような効果があったかを比較することを目的とした。その結果,カード型教材によるワークショップ型授業では,映像視聴による講義型授業と比較し,コミュニケーショントラブルに関する当事者意識への効果が大きいことが明らかとなった。
本研究では,高校生に対して,知的財産が著しく侵害されるインターネット上の海賊版サイト問題に関する知的財産学習モデルを活用した情報科の授業を実践した。授業は,知財創造教育を基にした知的財産学習モデルを用い,コンピュータを利用して知的財産のデータベースを調査し,海賊版サイトに対抗する新規コンテンツ産業のビジネスモデルを考えさせることを通して,生徒自らが創造性を育み,知的財産に対する正しい知識や見方・考え方を持つことをねらいとした。授業受講者67名を調査対象とし,授業実践直後に,教材の評価および知的財産についての教育効果に関する項目について質問紙調査を実施した。その結果,教材の評価の全項目,新規創造の志向を除く知的財産の教育効果の全ての項目において,肯定的な回答が多数を占めた。これらのことから,知財創造教育を基にした知的財産学習モデルを用いた本研究で提案する授業や教材が実施可能性に加え,知財創造教育としての教育効果を有する可能性が示唆された。
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