本記事では,日本国内を中心に昆虫の分類に関する情報公開の現状と,生物多様性と情報技術との関係を紹介し,これらの活動を通じ本特集のテーマである生物多様性条約第10回締約国会議(以下COP10)へ分類学者がどのように貢献出来るのかを議論した,分類学的情報は生物多様性に関するさまざまな活動に不可欠なものであり,COP10においても,多様性の変化の評価や「ポスト2010目標」の策定などで大きな役割を果たすと考えられる.情報技術の進歩を背景に,昆虫の分類に関してもさまざまなデータベースが公開されているが,情報の扱い方や,電子化の遅れなどの問題がある.このうち情報の扱い方に関する問題は,生物多様性情報学分野において情報技術を利用した解決策が提案されている.実際,分類や生態情報の一部の情報は世界的な共有が始まっているほか,日本においては地球規模生物多様性情報機構(GBIF)日本ナショナルノードが国内の多様性情報を共有するための基盤構築を,GEO BON,AP-BON,J-BON,ESABIIなどと連携して行っている.国内の分類学からの積極的な情報発信は一部の関係者がおこなっているに過ぎず,分類学全体の動きにはなっていない.データベースの構築と情報公開を研究者の業績として評価できる枠組みの構築や,生物多様性分野における人材の育成やキャリアパスの構築などを通じて,分野として電子化の取り組みを促進する必要があるだろう.
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