茨城県かすみがうら市の森林総合研究所千代田苗畑において,2007年から2016年まで,固定した3,100 mのルートに沿って歩行し出現したチョウの種と個体数を記録するトランセクト調査を行った.10年間で合計67種16,622個体のチョウが記録された.各年の4~11月までの16回の調査で記録された総種数は41~52種で,このうち森林性種は27~34種,草原性種は14~18種であった.同様に各年の総個体数は1,321~1,950個体で,このうち森林性種は363~765個体,草原性種は834~1,308個体であった.種数と個体数には,ともに年を追って増加する傾向があり,調査前半の5年間(2007~2011年)と後半の5年間(2012~2016年)の平均値には有意差があった.季節別では,5月,6月,7月および8月の個体数が,前半より後半で有意に増加した.
2007~2012年はヤマトシジミが最優占種だったが,2013年以降はヤマトシジミ以外にヒメウラナミジャノメまたはジャノメチョウが最優占種となることが多くなった.これら以外にはモンキチョウとベニシジミは常に個体数の上位5位までに,キタキチョウとキマダラヒカゲ類は常に10位までに入っていた.
調査期間中に個体数が有意に増加したと考えられる種は12種(ヒメウラナミジャノメ,ベニシジミ,ジャノメチョウ,キタキチョウ,キマダラヒカゲ類,ツマグロヒョウモン,ツバメシジミ,オオチャバネセセリ,キタテハ,コミスジ,ダイミョウセセリ,ウラギンヒョウモン)で,逆に有意に減少したと考えられる種は3種(ヤマトシジミ,スジグロシロチョウ,ヒメアカタテハ)であった.多様度指数(H′と1−λ)はそれぞれ3.283~4.146と0.776~0.920,均衡度指数J′は0.594~0.726で,これらの値は前半よりも後半で有意に高くなった.
調査地における人為的管理の観点から,種数・個体数の増加や優占種の交代の理由を考察した.
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