昆蟲.ニューシリーズ
Online ISSN : 2432-0269
Print ISSN : 1343-8794
20 巻, 4 号
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原著論文
  • 井上 大成
    2017 年 20 巻 4 号 p. 149-166
    発行日: 2017/10/05
    公開日: 2019/10/05
    ジャーナル フリー

    茨城県かすみがうら市の森林総合研究所千代田苗畑において,2007年から2016年まで,固定した3,100 mのルートに沿って歩行し出現したチョウの種と個体数を記録するトランセクト調査を行った.10年間で合計67種16,622個体のチョウが記録された.各年の4~11月までの16回の調査で記録された総種数は41~52種で,このうち森林性種は27~34種,草原性種は14~18種であった.同様に各年の総個体数は1,321~1,950個体で,このうち森林性種は363~765個体,草原性種は834~1,308個体であった.種数と個体数には,ともに年を追って増加する傾向があり,調査前半の5年間(2007~2011年)と後半の5年間(2012~2016年)の平均値には有意差があった.季節別では,5月,6月,7月および8月の個体数が,前半より後半で有意に増加した.

    2007~2012年はヤマトシジミが最優占種だったが,2013年以降はヤマトシジミ以外にヒメウラナミジャノメまたはジャノメチョウが最優占種となることが多くなった.これら以外にはモンキチョウとベニシジミは常に個体数の上位5位までに,キタキチョウとキマダラヒカゲ類は常に10位までに入っていた.

    調査期間中に個体数が有意に増加したと考えられる種は12種(ヒメウラナミジャノメ,ベニシジミ,ジャノメチョウ,キタキチョウ,キマダラヒカゲ類,ツマグロヒョウモン,ツバメシジミ,オオチャバネセセリ,キタテハ,コミスジ,ダイミョウセセリ,ウラギンヒョウモン)で,逆に有意に減少したと考えられる種は3種(ヤマトシジミ,スジグロシロチョウ,ヒメアカタテハ)であった.多様度指数(H′と1−λ)はそれぞれ3.283~4.146と0.776~0.920,均衡度指数J′は0.594~0.726で,これらの値は前半よりも後半で有意に高くなった.

    調査地における人為的管理の観点から,種数・個体数の増加や優占種の交代の理由を考察した.

  • 渋谷 園実, 桐谷 圭治, 森廣 信子, 福田 健二
    2017 年 20 巻 4 号 p. 167-182
    発行日: 2017/10/05
    公開日: 2019/10/05
    ジャーナル フリー

    オサムシ科の飛翔する種として,空中トラップ(マレーズトラップと衝突板トラップ)で捕獲したケウスゴモクムシとオオズケゴモクムシ,コゴモクムシの生態的形質を比較した.本研究は,空中トラップとピットフォールトラップを用いて個体数の季節消長や前翅長・体長に対する相対後翅長を調査した.さらに,生殖器官や飛翔筋の季節毎の状態および食性を解剖により明らかにした.

    ゴモクムシ属3種はともに初夏から出現し,9月中旬以降に性成熟する秋繁殖の種で大卵少産型だと推定された.コゴモクムシはケウスゴモクムシやオオズケゴモクムシと異なり,空中トラップでの捕獲数はわずかで,逆に,ピットフォールトラップでは多く,その飛翔性は低いと推定された.後翅は3種とも長翅型だったが,前翅および体長に対する相対後翅長はともにケウスゴモクムシで最大で,次いでオオズケゴモクムシで高く,コゴモクムシでは両方とも低かった.これらは実際の飛翔性と同様の結果だったことより,相対後翅長が飛翔性の重要なパラメーターとなり得ることを示している.飛翔筋の保持率は,飛翔性と同様にケウスゴモクムシとオオズケゴモクムシで高く,コゴモクムシでは低かった.コゴモクムシには飛翔しない個体,すなわち生活史全期間において飛翔筋を持たない個体が存在する可能性がある.3種ともに,飛翔筋多型性で,性成熟後は飛翔筋保持率が低下したことから,生活史の前半に保持していた飛翔筋を後半は溶解させて繁殖に投資するものと考えられる.

    3種ともに,主な餌は種子であるが節足動物も一部捕食していることが解剖によりわかった.ただし,肉食への依存性はコゴモクムシが他の2種に比べて高かった.存在の不確実性という点で,偏在する草本植物の種子の確保には飛翔探索の必要があり,3種は飛翔能力の差はあるものの飛翔することから,飛翔能力と食性の関係が示唆された.本研究では,ゴモクムシ属3種の飛翔筋多型,さらに,飛翔性と食性,繁殖様式との関係の糸口を提示した.オサムシ科は,個体群内あるいは個体群間での多型の維持機構や移動分散の進化の解明など,多くの進化生態学に関する研究材料の宝庫といえよう.

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